正解はなし(平成29年民法改正前の規定によれば4)。
民法改正附則10条にかかわらず、以下では、平成29年改正後の規定が適用されるものとして解説します。
平成29年改正後民法においては、債権の時効消滅は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年(民法166条1項1号)、権利を行使する時ができる時から10年間(同条1項2号)行使しないときに、時効によって消滅するとされています。
この事例で問題となっている債権は、売買契約に基づく売買代金債権であるため消滅時効の期間は5年とされるのが通常と考えられ、訴え提起等までの間に時効が完成していると考えられるものがありますが、以下では、(改正前と同様に)10年の期間として解説をします。
ア:消滅時効が完成していない
売買代金の支払いを求める訴えの提起は、「裁判上の請求」(民法147条1項1号)にあたるため、この事由が終了するまでの間は、時効は完成しません(同項柱書)。もっとも、「確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から6箇月を経過する」までの間、時効の完成猶予が認められるにとどまります(同項柱書かっこ書き)。この事例では、訴えを取り下げたのが平成26年3月1日ですので、この時点から6箇月を経過していない平成26年7月6日の時点でAのBに対する売買代金債権について消滅時効が完成していません。
よって、消滅時効は完成していません。
イ:民法158条1項は、時効の期間の満了前六箇月以内の間に…成年被後見人に法定代理人がないときは、その…成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その…成年被後見人に対して、時効は、完成しない」と定めています。もっとも、この事例では新たな後見人が選任されてから6箇月を経過している平成26年7月6日時点では時効が完成しています。
よって、消滅時効は完成しています。
ウ:消滅時効が完成していない
民事調停法による調停は、時効の完成猶予の事由とされています(民法147条1項3号・柱書)。もっとも、「確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から6箇月を経過する」までの間、時効の完成猶予が認められるにとどまります(同項柱書かっこ書き)。
この事例では、調停が不成立によって終了していますが、当該売買代金の支払を求める訴えを提起していますので、「裁判上の請求」(民法147条1項1号)にあたりますので、この事由が終了するまでの間は時効の完成猶予が認められます(同項柱書)。
よって、消滅時効は完成していません。
エ:消滅時効は完成していない
民法147条2項は、「裁判上の請求」(民法147条1項1号)を行い、「確定判決…によって権利を確定したときは、同項各号[引用者:147条1項各号]が終了した時から新たにその進行を始める」と定めています。平成29年改正後民法の時効の更新です。そして、「確定判決…によって確定した権利については、10年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は10年とする」(民法169条1項)とされています。
この事例では、平成21年7月1日に、請求を認容する判決が確定していますので、この時から新たに時効の進行を開始し、この時効期間は10年とされますので、平成26年7月6日の時点で時効は完成していません。
よって、消滅時効は完成していません。
オ:消滅時効は完成している
催告があったときは、その時から6カ月を経過するまでの間は、時効は完成しません(民法150条1項)。そこで、平成25年9月15日にした催告がBに到達した時から6カ月が経過するまで時効の完成猶予が認められます。この期間中である同年11月1日にも催告がされていますが、こちらについては時効の完成猶予の効力は認められません(同条2項)。以上より、10年の時効期間を超えて、時効の完成が猶予されます。もっとも、Aが、Bに対し売買代金の支払を求める訴えを提起したのは、平成26年4月1日であり、この時点では既に時効の完成猶予の期間も経過してしまっていますので、消滅時効が完成しています。
よって、消滅時効が完成しています。