問題
教授:Aが運転する自動車とBが運転する自動車とが衝突した事故によって、Aが負傷し、Bの自動車が破損したとします。この事故(以下「本件事故1」という。)の発生について、Bに過失があった場合には、AはBに対して不法行為による損害賠償請求をすることができますが、Bは、その損害賠償債権を受働債権とする相殺をAに対抗することができますか。
学生:ア 本件事故1によってBがAに対して取得した損害賠償債権を自働債権として相殺をするのであれば、BはAに対して相殺を対抗することができます。
教授:本件事故1において、Aは首を負傷しましたが、Aは平均的体格に比べて首が長く、Aには頸椎の不安定症という身体的特徴があったとします。この身体的特徴は疾患と評価することができるようなものではなかった場合に、裁判所は、このようなAの身体的特徴を考慮して、損害賠償の額を減額することはできるでしょうか。
学生:イ この場合には、損害賠償の額を減額することはできません。
教授:さて、本件事故1においては、Aが運転する自動車に同乗していたAの妻Cも負傷していたとします。この場合において、CがBに対して不法行為による損害賠償請求をしたときに、裁判所は、本件事故1の発生についてAに過失があったことを理由として過失相殺をすることはできるでしょうか。
学生:ウ 被害者であるC自身に過失がない場合には、過失相殺をすることはできません。
教授:事例を変えて、Dが自動車の運転中に脇見をしていたところ、折悪しく左右を確認せずに歩行者Eが飛び出してきたため、Eをひいてしまい、死亡したEの遺族であるFがDに対してEの死亡について不法行為による損害賠償請求をするという事例について考えてみましょう。この事故(以下「本件事故2」という。)において、Eを被保険者とする生命保険金をFが受け取っていたとします。FがDに対してEの死亡について不法行為による損害賠償請求をした場合に、Fが受け取った生命保険金の額を損害賠償の額から控除することができるでしょうか。
学生:エ Fが生命保険金を受け取っていたとしても、その生命保険金の額を損害賠償の額から控除することはできません。
教授: 本件事故2において、Eは小学生であり、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能はないものの、事理を弁識するに足りる知能は有していたとします。裁判所は、Eに左右を確認していないという過失があったことを理由として過失相殺をすることができるでしょうか。
学生:オ Eには自己の行為の責任を弁識するに足りる知能がありませんので、過失相殺をすることができません。