ア × 本肢は「債務者の受戻権が終局的に失われるのはいつですか?」と試験委員から問われています。
答えは以下の3つの時点です
1.譲渡担保権者が目的不動産を第三者に売却した時
2.譲渡担保権者が債務者に清算金が無いことを通知した時
3.譲渡担保権者が債務者に清算金の支払いをした時
以上の3つのどれかの事由が生じたときに、債務者は目的不動産を受戻すことができなくなります。そして、被担保債権が消滅します。
よって、譲渡担保権者が債務者に対して目的不動産を確定的に自己の所有に帰属させる旨の意思表示をしただけでは、終局的な所有権の移転はしません。
イ × 被担保債権の弁済期到来後に、譲渡担保権者が第三者へ譲渡担保権の目的物を譲渡したときは、当該第三者が背信的悪意者であっても、当該譲渡は有効です。
なぜなら、権利関係が確定しない状態が続くことは望ましくないからです。
それに、債権者は譲受人が背信的悪意者に当たるかどうかを知る由もありません。
もし債権者からの譲受人が背信的悪意者なら債務者が受け戻し権を行使できるとすると、債権者に不測の損害を被らせる恐れがあるからです。
(譲受人から債権者に対して、「受戻されてしまったじゃないか。損害賠償しろよ!」と請求されてしまいます。)
ウ × 譲渡担保権設定者は、譲渡担保権者が清算金の支払または提供をせず、清算金がない旨の通知もしない間に譲渡担保の目的物の受戻権を放棄しても、譲渡担保権者に清算金の支払いを請求することはできないと解すべきとされています(民法最判平8・11・22)。
なぜなら、債務者が清算金支払い請求できるとすると、債務を弁済できなかった債務者が譲渡担保権者に「清算金を払え~」と言えるということは厚かましく感じませんか?
弁済期に弁済をしなかった債務者にはイニシアティブはありません。
つまり、約束を破った債務者なんだから清算金支払い請求をして譲渡担保契約を終了するような権限を与える必要はないんです。
逆に譲渡担保権者は弁済期に弁済をしてもらえなかったかわいそうな立場だから弁済期後は譲渡担保契約を終了させる行為(自分の物にしたり、第三者に売ったり)をしてもかまわないというわけです。
エ 〇 譲渡担保権者は、特段の事情がない限り、譲渡担保権者たる地位に基づいて、第三者異議の訴えにより、目的物に対し譲渡担保設定者の一般債権者がした強制執行の排除を求めることができます。(最判昭和58.2.24)
つまり、譲渡担保権者は「ちょっと待った!これは俺が先に唾をつけてるんだから、強制執行止めて!」と主張できるということです。
本肢は動産だから登記簿上公示されていないのですが、譲渡担保権者がこのような強力な主張ができるのです。
オ 〇 不動産を目的とする譲渡担保において、被担保債権の弁済期後に譲渡担保権者の債権者が目的不動産を差し押さえ、その旨の登記がされたときは、譲渡担保権設定者は、差押登記後に債務の全額を弁済しても、第三者異議の訴えにより強制執行の不許を求めることはできません(最判平18・10・20)。
本肢は「弁済期後」という部分がミソです。
弁済期後だと、譲渡担保権設定者は譲渡担保権者によって目的物が処分されてもしょうがない立場です。(弁済期後に弁済をしなかった債務者が一番悪い)
つまり、譲渡担保権者の債権者による差押えは、債権者から第三者に目的物が移転したのと同視できます。