ア × 本肢は、建物明渡猶予制度について問われています。
抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって、競売手続の開始前から使用又は収益をする者は、その建物の競売における買受人の買受けの時から6ヶ月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しません(民法395条1項1号)。
よって本肢は、直ちに引き渡さなけらばならないとする点が誤っています。
ちなみに、土地明渡猶予制度はありません。明渡猶予できるのは建物だけです。
イ × 本肢の解説の前に第三者異議の訴えとは何かを説明いたします。
第三者異議の訴えとは、
強制執行の対象となる物が,債務者の所有物ではない場合(所有権が移転した),第三者が自分の所有物に対して誤った強制執行がなされていることの是正を求める訴えです。
もっとかみ砕いて説明すると「この物は債務者の物ではなく俺の物だから強制執行しないでください。」ということです。
以上をふまえて解説に入ります。
一般債権者が債務者所有の不動産につき強制執行の申し立てをした場合、当該不動産上の抵当権者は、第三者異議の訴えを提起して強制執行を排除することはできません。
よって本肢は、一般債権者が抵当不動産を差し押さえたときは、抵当権者は、第三者異議の訴えにより、その強制執行の不許を求めることができるとする点が誤っています。
ウ × 本肢は債務不履行後の果実と債務不履行前の果実との区別ができているのかが問われています。
抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及び、債務不履行前においては、抵当権の効力は果実には及ばない。(民法371)
よって、抵当権の被担保債権について債務不履行がない場合には、抵当不動産の法定果実である賃料請求権には抵当権の効力が及ばないので物上代位権の行使をすることはできない。
エ 〇 被担保債権の弁済により既に消滅した先順位抵当権者は、物権的請求権に基づいて先順位抵当権者に対し、その消滅した抵当権の設定登記の抹消を請求することができる(大判大8.10.8)。
理由を一言でまとめると、後順位抵当権者にとって先順位抵当権は邪魔だから一刻も早く消えて欲しいのです。
オ 〇 抵当権者が物上代位の目的債権から優先弁済を受けるためには、その払い渡し又は引渡しの前に差し押さえをしなければならない。(民法304)
上記の「払い渡し又は引き渡し」には債権譲渡は含まれません。
よって、抵当権者は物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができます。