問題
ア Aは、満員電車の車内で、目の前に立っているBのズボンの尻ポケットから現金がのぞいているのに目をつけ、それをすり取ろうとして尻ポケットに右手を差し伸べ尻ポケットの外側に触れた。この時点において、Aには窃盗罪の実行の着手が認められ、窃盗未遂罪が成立する。
イ Aは、Bを殺害しようと考え、コンビニエンスストアに行き、致死性の毒物を混入した砂糖を梱包した小包を宅配便でB方に発送するための手続をし、店員にその小包を手渡した。この時点において、Aには殺人罪の実行の着手が認められ、殺人未遂罪が成立する。
ウ Aは、B方に電話をかけ、Bに対し、「Bの孫がトラブルに巻き込まれており、その解決のために至急100万円が必要となるので、これからB方を訪ねる者に100万円を渡してほしい。」旨うそを言った。Bは、詐欺ではないかと疑い、警察に通報したところ、警察官から捜査協力を依頼され、そのままだまされたふりをし、B方を訪ねてくる者を待った。Bが警察官からの協力依頼を引き受けた後、Aは、Cに対し、B方に行ってBから現金を受け取ってくれば報酬を支払う旨申し向け、Cは、詐欺の被害金を受け取る役割を担う認識でB方に赴いたところ、周囲で警戒していた警察官に発見された。この場合において、Cには、詐欺未遂罪の共同正犯は成立しない。
エ Aは、Bに対する強制性交を企て、深夜、B方に侵入し、就寝中のBに馬乗りになった上、目を覚ましたBに対し、持っていたナイフを示し、「騒いだら殺すぞ。」などと申し向けて脅迫し、その反抗を抑圧した状態で、Bの陰部に指を挿入したところ、手が血に染まったので驚愕し、強制性交を中止してB方から立ち去った。この場合において、Aには、強制性交等未遂罪の中止未遂が成立する。
オ Aは、Bの住居に放火するため、その外壁付近に枯れ木を積み上げて着火したところ、想像以上の火勢となったため驚愕し、Bの住居の隣家であるC方の庭先に居合わせたCと目が合い、Cに対し、「放火したのであとは頼む。」旨伝えてその場から逃走した。その後、Cは、Bの住居に火が燃え移る前に火を消し止めた。この場合において、Aには、現住建造物等放火未遂罪の中止未遂は成立しない。