司法書士の過去問
令和2年度
午前の部 問24

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問題

令和2年度 司法書士試験 午前の部 問24 (訂正依頼・報告はこちら)

責任に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものの組合せは、どれか。

ア  刑法第39条第1項の「心神喪失」とは、精神の障害により事物の理非善悪を弁識する能力と、この弁識に従って行動する能力のいずれもがない状態をいい、同条第2項の「心神耗弱」とは、これらの能力のうち、一方がない状態をいう。
イ  満14歳以上の者であっても、実際の知的能力が14歳未満である場合には、刑法第41条が適用され、責任無能力者として不処罰となる。
ウ  刑法上の「公務員」に該当する非常勤の公務員について、当該公務員に対する贈賄罪は成立しないものと合理的な根拠なく独自に解釈をして、当該公務員に対して賄賂を供与したときは、自己の行為が犯罪に当たる認識がないが、故意は阻却されず、贈賄罪が成立する。
エ  過失犯における注意義務の内容をなす予見可能性は、結果の発生について、行為者自身が予見できなかった場合には、当該行為者と同じ立場にある通常人が予見できるときであっても、否定される。
オ  いわゆる結果的加重犯である強制わいせつ致死傷罪の成立には、基本犯(強制わいせつ)と結果(致死傷)との間に因果関係が認められれば足り、結果の発生について予見可能性がない場合であっても、強制わいせつ致死傷罪は成立する。
  • アウ
  • アエ
  • イエ
  • イオ
  • ウオ

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この過去問の解説 (3件)

01

正解は5です。

ア…誤りです。「心身喪失」とは、精神障害により事物の理非弁別能力(是非弁別能力とも)がない者、または、その理非弁別能力にしたがって行動する能力がない者のことを言い、「心神耗弱」とは、これらの能力が著しく低い者のことを言います(判例等)。

イ…誤りです。刑法上、14歳に満たない者は、一律に責任無能力者とされています(刑法41条、刑事未成年者)。これは煩雑な個別的判断を避けるための条項であり、14歳以上の者については適用されません。14歳以上の者については、その知的能力が低い場合、上述の心神喪失者または心神耗弱者にあたるかどうかの判断が必要になります。

ウ…正しいです。故意に関する判例で、「進駐軍の物資を、法律上許された行為であるという誤った認識をもって運搬所持した事実があっても、その物資が進駐軍のものであることを認識していた以上、犯意(故意)が成立する(最判昭25・11・28)」とされたように、「故意」であると判断されるためには、犯罪の構成要件である事実の認識および認容が必要とされており、違法性の認識までは必要とされていません。

エ…誤りです。重過失致死罪に関する判例で、犯人が憤激の余り材料置場の材木に放火し、その後、意図せず火が燃え移った家屋に居住する人間を死なせた事件について、「被告人は少し注意すれば、放火による延焼と身の危険については、容易に予見できたのに拘らず、燃えているものに蒲団などをかけて火勢の拡大を防いだり、居住者を外に避難させるなどの行動をとらなかった。被告人の注意義務は、一般通常人の注意を払うことにより、よく罪となるべき事実を認識しうべき程度の注意義務と解すべきであり、またその注意義務を果たすことが期待不可能であったとは認められないため、被告人が注意を怠り、居住者を死に至らしめた過失犯といえる(最判昭37・3・1)」とされたように、一般的な予見可能性(=過失を犯した者ではなく、通常人が、犯罪が起こりうることを予想できたかどうか)と、それに対する注意義務の懈怠が言えれば、過失犯が成立するといえます。

オ…正しいです。傷害致死罪に関する判例で、「傷害致死罪の成立には、傷害と死亡との因果関係の存在を必要とするにとどまり、致死の結果についての予見は必要としない(最判昭26・9・20)」とされているように、基本となる犯罪と結果との間に因果関係が言えれば、予見可能性がなくても、結果的加重犯として責任を問えるものと考えられます。

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02

正解 5

ア 誤り
「心神喪失」とは、精神の障害により、行為の違法性を弁識する能力(弁識能力)、または、弁識に従って行動する能力(行動制御能力)がない状態のことをいいます。
これに対し、「心神耗弱」とは、この能力のいずれかが著しく減退している状態のことをいいます。

イ 誤り
刑法41条は、年齢によって画一的な取扱いをする趣旨の規定であるため、実際の知的能力が14歳未満であるからといって、その一事をもって責任能力を否定することはできないと考えられています。

ウ 正しい
公務員であるとの認識はあり、それが刑法上の贈賄罪は成立しないと誤解していただけであり、あてはめの錯誤となることから、法律の錯誤ということになります。
法律の錯誤の場合、故意は阻却されないため、本肢では贈賄罪が成立します。

エ 誤り
過失犯の注意義務について、判例は、抽象的な一般人の注意能力を標準とする客観説を採用しています(最判昭和27年6月24日)。

オ 正しい
判例(最判昭和26年9月20日)は、本肢と類似する事案において、「傷害致死罪の成立には傷害と死亡、との間の因果関係の存在を必要とするにとどまり、致死の結果についての予見は必要としない。」としています。

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03

正解:5

<解説>

ア:誤りです。 

刑法第39条第1項の「心神喪失」とは、①精神の障害により事物の理非善悪を弁識する能力、又は、②その弁識に従って行動する能力のない状態をいい、同条第2項の「心神耗弱」とは、精神の障害がまだこのような能力を欠如する程度には達してないが、その能力が著しく減退した状態をいいます(大判昭和6・12・3刑集10・682)。

したがって、心神喪失は①又は②のいずれかがない状態をいい、心神耗弱は①又は②が著しく減退した状態をいうので、本肢は誤りです。

イ:誤りです。

14歳未満である者の行為は罰しないとする刑法第41条の規定は、実際の知的能力に関係なく適用されるものです。

実際の知的能力が14歳未満である場合にも、行為の是非を弁別し、それに従って行為することができれば、責任能力は認められます。

したがって、本肢は誤りです。

ウ:正しいです。

公務員は非常勤であっても刑法の適用について公務員として扱われます。

それゆえ、当該公務員に賄賂を供与し、又はその申し込みもしくは約束をした場合には贈賄罪が成立します(刑法198条)。

このことを知らずに、贈賄罪は成立しないものと合理的な根拠なく独自に解釈して賄賂を供与した場合、法律を知らなかったことを理由に罪を犯す意思がなかったとして故意を阻却することはできません(刑法38条③)。

また、判例は、法律を知らなくても犯罪事実を認識している場合は、故意犯の成立を認めるとしています(最判昭32・3・13)。

したがって、本肢は正しいです。

エ:誤りです。

過失犯における注意義務の内容をなす予見可能性の判断基準については、結果の発生について、当該行為者と同じ立場にある通常人が予見できるときに認められることが前提とされています。

したがって、この場合の予見可能性は否定されず、本肢は誤りです。

オ:正しいです。

判例は、結果的加重犯について、過失不要説を一貫して採っており、結果の発生について予見可能性があることは不要であって、基本犯と結果との間に因果関係が認められれば足ります (最判昭32・2・26刑集11・2・906)。

よって、強制わいせつ致死傷罪(刑法181条)は成立します。

したがって、本肢は正しいです。

以上により、正しいものは肢ウ・オであり、正解は5となります。

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