行政書士の過去問
平成30年度
法令等 問5

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問題

行政書士試験 平成30年度 法令等 問5 (訂正依頼・報告はこちら)

生存権に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当なものはどれか。
  • 憲法が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を営む権利のうち、「最低限度の生活」はある程度明確に確定できるが、「健康で文化的な生活」は抽象度の高い概念であり、その具体化に当たっては立法府・行政府の広い裁量が認められる。
  • 行政府が、現実の生活条件を無視して著しく低い基準を設定する等、憲法および生活保護法の趣旨・目的に反し、法律によって与えられた裁量権の限界を越えた場合または裁量権を濫用した場合には、違法な行為として司法審査の対象となり得る。
  • 憲法25条2項は、社会的立法および社会的施設の創造拡充により個々の国民の生活権を充実すべき国の一般的責務を、同条1項は、国が個々の国民に対しそうした生活権を実現すべき具体的義務を負っていることを、それぞれ定めたものと解される。
  • 現になされている生活保護の減額措置を行う場合には、生存権の自由権的側面の侵害が問題となるから、減額措置の妥当性や手続の適正さについて、裁判所は通常の自由権の制約と同様の厳格な審査を行うべきである。
  • 生活保護の支給額が、「最低限度の生活」を下回ることが明らかであるような場合には、特別な救済措置として、裁判所に対する直接的な金銭の給付の請求が許容される余地があると解するべきである。

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この過去問の解説 (4件)

01

生存権については、憲法第25条1項において
「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」
と規定しています。

ただ、憲法第25条1項は、
「国民の生存を確保すべき政治的・道義的義務を国に課した」のみで、
国民に国に対する具体的作為請求権を認めたものではないとする
プログラム規定説が判例・通説の立場です。

1
妥当でない。

いわゆる朝日訴訟判決(最大判昭和42年5月24日)で
判例は何が「健康で文化的な最低限度の生活」かは
厚生大臣の裁量に任されている事柄としました。

「健康で文化的」の概念と「最低限度」の概念を
区別した立場を、最高裁は取っていません。

2
妥当である。

前述の朝日訴訟における最高裁判決は、
「現実の生活条件を無視して著しく低い水準を
設定する等憲法および生活保護法の趣旨・目的に反し、
法律によって与えられた裁量権の限界をこえた場合
または裁量権を乱用した場合には
違法な行為として司法審査の対象となることを
まぬかれない。」
とも判示し、
憲法第25条1項の裁判規範性を肯定しています。

3
妥当でない。

憲法第25条1項の定めは、
国が国民に具体的義務を負ったものではなく、
憲法第25条1項を具体化した法律が制定されて、
国は国民に対して具体的な義務を負うと考えられます。
憲法第25条2項は、同条1項の趣旨に即し、
生存権の内容を具体的に立法することを促す
努力義務を課していると考えられています。

4
妥当でない。

老齢加算廃止違憲訴訟判決(最判平成24年2月28日)
において、最高裁は、
生活保護の減額措置を行う場合にも、
保護額が減額された事実は、
あくまで裁量権の逸脱・乱用を総合考慮するための
一要素にすぎないと判示しました。

5
妥当でない。

国民に国への金銭給付を司法府に要求し得るとする
判例はありません。

以上より、本問は肢2が正解となります。

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02

正解は2
生存権に関する判例の知識を問う設問です。

1× 朝日訴訟(最大判S42.5.24)では、以下のように判事されました。「もとより、厚生大臣の定める保護基準は、法八条二項所定の事項を遵守したものであることを要し、結局には憲法の定める健康で文化的な最低限度の生活を維持するにたりるものでなければならない。しかし、健康で文化的な最低限度の生活なるものは、抽象的な相対的概念であり、その具体的内容は、文化の発達、国民経済の進展に伴つて向上するのはもとより、多数の不確定的要素を綜合考量してはじめて決定できるものである。したがつて、何が健康で文化的な最低限度の生活であるかの認定判断は、いちおう、厚生大臣の合目的的な裁量に委されており、その判断は、当不当の問題として政府の政治責任が問われることはあつても、直ちに違法の問題を生ずることはない。」

2〇 肢1の開設に引用した朝日訴訟判決は、以下のように続きます。「ただ、現実の生活条件を無視して著しく低い基準を設定する等憲法および生活保護法の趣旨・目的に反し、法律によつて与えられた裁量権の限界をこえた場合または裁量権を濫用した場合には、違法な行為として司法審査の対象となることをまぬかれない。」

3× 堀木訴訟(最大判S57.7.7)では、「同条二項は『国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。』と規定しているが、この規定が、同じく福祉国家の理念に基づき、社会的立法及び社会的施設の創造拡充に努力すべきことを国の責務として宣言したものであること、そして、同条一項は、国が個々の国民に対して具体的・現実的に右のような義務を有することを規定したものではなく、同条二項によつて国の責務であるとされている社会的立法及び社会的施設の創造拡充により個々の国民の具体的・現実的な生活権が設定充実されてゆくものである」とされました。なお、ここでいう同条とは、憲法25条を指します。

4× 70歳以上の者を対象とする生活扶助の加算が段階的に減額されて廃止されたことの違憲性を争った老齢加算廃止訴訟(最判H24.2.28)では、「保護基準中の老齢加算に係る部分を改定するに際し,最低限度の生活を維持する上で老齢であることに起因する特別な需要が存在するといえるか否か及び高齢者に係る改定後の生活扶助基準の内容が健康で文化的な生活水準を維持することができるものであるか否かを判断するに当たっては,厚生労働大臣に上記のような専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権が認められるものというべきである」とされました。

5× 朝日訴訟(最大判S42.5.24)では、以下のように判事されました。「憲法二五条一項は、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と規定している。この規定は、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり、直接個々の国民に対して具体的権利を賦与したものではない。」

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03

憲法25条第1項は、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定めています。また、同2項では、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」としています。

これは、「国民の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」のために国に道義的・政治的責任を求めるものにすぎず、個別具体的な法的責任を求めるものではないと解釈されています(プログラム規定説)。

いわゆる朝日訴訟では、憲法25条が定める生存権の法的性格が争点なりましたが、最高裁は、憲法25条1項の規定は健康で文化的な最低限度の生活を営むための国政運営を国の責務として宣言したに過ぎず、個々の国民に対して個別具体的な権利を付与したものではないとしました(≒プログラム規定説)。
そして、「健康で文化的な最低限度の生活」の判断基準については抽象的で、確定させることは困難であるため、その施策はある程度、国に裁量を委任しているとしました。
もっとも、その裁量権の濫用が認められる場合には、司法判断の対象となると判断しています。

①「『最低限度の生活』はある程度明確に規定できる」が誤りです。判例は、「最低限度の生活」を抽象的なものだとしています。

②朝日訴訟の判旨に合致しており、正解です。

③1項についての記述が誤りです。健康で文化的な最低限度の生活のための基盤整備を国に求めてはいるものの、その具体的な施策等については国に裁量が認められ、個々の国民に対しての具体的な法的義務を負っているわけではありません。

④学説上、有力説ではありますが、判例は、裁量権の濫用・逸脱を判断する要素に過ぎないとしています。

⑤判例は、直接的な金銭の給付を認めていません。

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04

1 ×
判例:堀木訴訟によると、「健康で文化的な最低限度の生活」は極めて抽象的・相対的な概念であって~とあるので「最低限度の生活」はある程度明確に確定できる、という部分が誤りです。

2 〇
正しい記述です。(判例:朝日訴訟参照)

3 ×
憲法25条1項は、国民の権利について定めたもので、国の具体的義務についての記載はありません。

4 ×
判例は、「保護基準中の老齢加算に係る部分を改定するに際し、最低限度の生活を維持する上で老齢であることに起因する特別な需要が存在するといえるか否か及び高齢者に係る改定後の生活扶助基準の内容が健康で文化的な生活水準を維持することができるものであるか否かを判断するに当たっては、厚生労働大臣に専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権が認められるものというべきである」とし、裁判所は通常の自由権の制約と同様の厳格な審査を行うべきではないとしています。

5 ×
最低限度の生活を下回る場合であっても救済措置として、裁判所に対する直接的な金銭の給付の請求はできません。

よって正解は②です。

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