問題
「45歳の女性。ピアノの講師。最近、右手掌と指先にしびれと痛みがあり、夜間に目が覚める。ファレンテスト陽性、フロマン徴候陰性。祈祷師の手(祝祷指位)はみられない。」
ファレンテスト陽性の場合、手根管症候群が疑われます。手根管症候群では、正中神経が手根管部で障害され母指球筋の萎縮が生じます。女性に多く、妊娠・出産期と更年期の2つのピークがあるとされています。
特徴的な臨床所見であるファレンテスト陽性であり、ピアノ講師という職業柄、発症要因の1つである手の過度使用も考えられます。なので、これが正解であると考えられます。
肘関節部で尺骨神経が絞扼されると肘部管症候群が生じ、フロマン徴候が陽性になります。
正中神経が肘関節部で絞扼されると回内筋症候群が生じます。
手関節部で尺骨神経が絞扼されるとギヨン管症候群が生じ、フロマン徴候が陽性になります。
これら選択肢に挙げられている絞扼性神経障害は、末梢神経が骨、筋、筋膜、腱膜、腱鞘などに接するところ、あるいはこれらによってできたトンネル内を走る神経に、なんらかの原因で慢性の異常刺激が加わった場合に起こるものです。
ファレンテストとは、両側手関節を屈曲し、正中神経の支配領域にしびれを誘発する、手根管症候群の為のテスト法です。
ファレンテストの他にも、打腱器で手関節部の正中神経を叩打し、疼痛が誘発されるかをみる、ティネル様サインというテスト法もあります。
フロマン徴候とは、尺骨神経麻痺の為のテスト法で、両側の母指と示指で紙をつまんだ状態で、紙を引っ張られた際に、母指DIP関節が屈曲するかどうかをみるテストです。
また、祈祷師の手とは、正中神経麻痺における高位麻痺、肘関節で本幹から分岐する前骨間神経障害によるもので、
拳を握ろうとした際に、小指と環指しか握れず、祈祷師の手のようになる症状の事で、祈祷肢位、祈祷手とも呼ばれています。
この祈祷肢位の他にも、ティアドロップサインという、
母指と示指で作るOKサインの円が崩れて、涙のしずくのような形になる症状もあります。
症例の女性は、
右手掌と指先に痺れと痛みがあり、
夜間に目覚めると訴えています。
ファレンテストは、
手根管症候群を判別するテストです。
フロマン徴候は、
尺骨神経麻痺の際に見られる徴候です。
また、祈祷師の手(祝祷指位)は、
正中神経の分枝にあたる前骨間神経の障害により、
拳を握ろうとすると、
第4・5指しか屈曲しない状態です。
手根管症候群は、正中神経の本幹が、
手根管内で圧迫されることにより生じます。
症例の女性の主訴や
ファレンテストが陽性であることから、
これが正解であると考えられます。
肘部管症候群は、肘の内側にある肘部管の内部で、
尺骨神経が圧迫、牽引されることにより生じます。
フロマン徴候が陰性とのことですので、
肘部管症候群の可能性は低いと考えられます。
円回内筋症候群は、円回内筋の過緊張などにより、
正中神経が圧迫されて生じます。
夜間や明け方には症状がないことなどが特徴です。
また、前骨間神経の障害があると、
祈祷師の手がみられることがあります。
ギヨン管症候群は、尺骨神経が、
手関節付近のギヨン管内で圧迫されて生じ、
手掌側第4〜5指にしびれが生じます。
手背や手首にはしびれが生じないことが特徴です。
神経の障害部位により、痛みや痺れが生じる部位も異なってきます。
設問に関連した解剖について確認しておきましょう。