行政書士の過去問
平成30年度
法令等 問20
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問題
行政書士試験 平成30年度 法令等 問20 (訂正依頼・報告はこちら)
国家賠償法1条に関する次のア〜オの記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当なものの組合せはどれか。
ア:建築主事は、建築主の申請に係る建築物の計画について建築確認をするに当たり、建築主である個人の財産権を保護すべき職務上の法的義務を負うものではないから、仮に当該建築主の委託した建築士が行った構造計算書の偽装を見逃したとしても、そもそもその点について職務上の法的義務違反も認められないことから、当該建築確認は国家賠償法1条1項の適用上違法にはならない。
イ:警察官が交通法規等に違反して車両で逃走する者をパトカーで追跡する職務の執行中に、逃走車両の走行により第三者が損害を被った場合において、当該追跡行為が国家賠償法1条1項の適用上違法であるか否かについては、当該追跡の必要性、相当性に加え、当該第三者が被った損害の内容および性質ならびにその態様および程度などの諸要素を総合的に勘案して決せられるべきである。
ウ:法令に基づく水俣病患者認定申請をした者が、相当期間内に応答処分されることにより焦燥、不安の気持ちを抱かされないという利益は、内心の静穏な感情を害されない利益として、不法行為法上の保護の対象になるが、当該認定申請に対する不作為の違法を確認する判決が確定していたとしても、そのことから当然に、国家賠償法1条1項に係る不法行為の成立が認められるわけではない。
エ:所得金額を過大に認定して行われた所得税の更正は、直ちに国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けることとなるが、税務署長が資料を収集し、これに基づき課税要件事実を認定、判断する上において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更正をしたと認め得るような事情がある場合に限り、過失があるとの評価を受けることとなる。
オ:公立学校における教師の教育活動も国家賠償法1条1項にいう「公権力の行使」に該当するから、学校事故において、例えば体育の授業において危険を伴う技術を指導する場合については、担当教師の指導において、事故の発生を防止するために十分な措置を講じるべき注意義務が尽くされたかどうかが問題となる。
ア:建築主事は、建築主の申請に係る建築物の計画について建築確認をするに当たり、建築主である個人の財産権を保護すべき職務上の法的義務を負うものではないから、仮に当該建築主の委託した建築士が行った構造計算書の偽装を見逃したとしても、そもそもその点について職務上の法的義務違反も認められないことから、当該建築確認は国家賠償法1条1項の適用上違法にはならない。
イ:警察官が交通法規等に違反して車両で逃走する者をパトカーで追跡する職務の執行中に、逃走車両の走行により第三者が損害を被った場合において、当該追跡行為が国家賠償法1条1項の適用上違法であるか否かについては、当該追跡の必要性、相当性に加え、当該第三者が被った損害の内容および性質ならびにその態様および程度などの諸要素を総合的に勘案して決せられるべきである。
ウ:法令に基づく水俣病患者認定申請をした者が、相当期間内に応答処分されることにより焦燥、不安の気持ちを抱かされないという利益は、内心の静穏な感情を害されない利益として、不法行為法上の保護の対象になるが、当該認定申請に対する不作為の違法を確認する判決が確定していたとしても、そのことから当然に、国家賠償法1条1項に係る不法行為の成立が認められるわけではない。
エ:所得金額を過大に認定して行われた所得税の更正は、直ちに国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けることとなるが、税務署長が資料を収集し、これに基づき課税要件事実を認定、判断する上において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更正をしたと認め得るような事情がある場合に限り、過失があるとの評価を受けることとなる。
オ:公立学校における教師の教育活動も国家賠償法1条1項にいう「公権力の行使」に該当するから、学校事故において、例えば体育の授業において危険を伴う技術を指導する場合については、担当教師の指導において、事故の発生を防止するために十分な措置を講じるべき注意義務が尽くされたかどうかが問題となる。
- ア・イ
- ア・ウ
- イ・オ
- ウ・エ
- ウ・オ
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この過去問の解説 (4件)
01
「国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が、
その職務を行うについて、
故意または過失によって違法に
他人に損害を加えた時は、
国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」
国賠法の憲法上の根拠は、憲法第17条の
「何人も、公務員の不法行為により、
損害を受けたときは、法律の定めるところにより、
国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。」
にあります。
この規定の意義は、戦前判例通説の採っていた
主権無答責の原則を正面から否定したことにあります。
ア
妥当でない。
判例(最高裁判例平成25年3月26日判決)は、
「建築主事は・・(中略)・・違法な建築物の出現を防止すべく
一定の職務上の法的義務を負うものと解するのが
相当である・・(中略)・・建築主事が職務上通常払うべき注意をもって
申請書類の記載を確認していれば
その記載から当該計画の建築基準関係規定への
不適合を発見することができたにも拘らず
その注意を怠って漫然とその不適合を看過した
当該計画につき建築確認を行ったと認められる
場合に、国家賠償法1条1項の適用上違法となる」
と判示しています。
国賠法1条にいう違法性については2説あり、
国家行為の客観的違法と公務員の故意・過失を
区別して二元的審査を行う
「公権力発動要件欠如説」と、
行為の違法と当該公務員に課せられた職務上の注意義務の懈怠をも違法性に加え、
違法性審査を一元的に行う
「職務行為基準説」とがあります。
判例の立場は、国賠法1条の適用範囲が広いため、
両者を使い分けるスタンスを取っています。
建築主事による違法な建築確認をめぐっては、
「職務行為基準説」を取っています。
イ
妥当でない。
パトカーの追跡の結果第三者に生じた事故につき
最高裁判例昭和61年2月27日判決は、
「追跡行為が違法であるというためには、
当該追跡が不必要であるか、
又は逃走車両の態様及び道路交通状況等から
予測される被害発生の具体的危険性の有無及び
内容に照らし、
追跡の開始・継続若しくは追跡の方法が
不相当であることを要する」と判示しています。
問題文中の
「当該第三者が被った損害の内容及び性質」
の要素は考慮されていないために、
本肢は妥当でないと判断できます。
ウ
妥当である。
本肢の素材になった水俣病認定遅延慰謝料請求事件
(最高裁判例平成3年4月26日判決)は、
「認定申請者としての、早期の処分により
水俣病にかかっている疑いのままの不安定な
地位から早期に解放されたいという期待、
その期待の背後にある申請者の焦燥、不安の気持ち
を抱かされないという利益は、
内心の静穏な感情を害されない利益として、
これが不法行為法上の保護の対象になり得るもの
と解するのが相当」と判示し、
水俣病認定遅延による精神的苦痛という
結果回避の条理上の作為義務が生ずることも認め
ましたが、
直ちに国賠法1条1項にいう不法行為の成立を認めませんでした。
なお、本件は福岡高裁に差し戻されました。
エ
妥当でない。
本肢の素材になった最高裁判例平成5年3月26日判決
(行政判例百選Ⅱ・219事件)は、
「税務署長のする所得税の更正は、
所得金額を過大に認定していたとしても、
そのことから直ちに国家賠償法1条1項にいう
違法があったとの評価を受けるものではなく、
税務署長が資料を収集し、
これに基づき課税要件事実を認定、判断する上に
おいて、
職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく
漫然と更正したと認め得るような事情がある場合に限り、
右の評価を受けるものと解する」と判示しています。
つまり、
客観的違法だけでは国賠法1条上の違法には当たらず
「職務上通常尽くすべき注意義務」不尽と相まって
国賠法1条上の違法が認定されるとしており、
「職務行為基準説」を取っています。
オ
妥当である。
本肢の素材になった最高裁判例昭和62年2月6日判決
(行政判例百選Ⅱ・215事件)において、
「国家賠償法1条1項にいう『公権力の行使』には、
公立学校における教師の教育活動も含まれるものと
解するのが相当」としたうえで、
「学校の教師は、学校における教育活動により
生ずる恐れのある危険から生徒を保護する義務を
負っており、危険を伴う技術を指導する場合には、
事故の発生を防止するために十分な措置を
講じるべき注意義務がある」とし、
当該体育教師は、
「注意義務違反があった」と判示しました。
判例は、学校事故事件については、
一貫して「職務行為基準説」を取っています。
以上より、肢ウ・肢オを妥当とする5が正解です。
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02
国家賠償法1条を引用します。
「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
2 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。」
ア× 最高裁は、「建築士の設計に係る建築物の計画についての建築主事による建築確認は,当該計画の内容が建築基準関係規定に明示的に定められた要件に適合しないものであるときに,申請書類の記載事項における誤りが明らかで,当該事項の審査を担当する者として他の記載内容や資料と符合するか否かを当然に照合すべきであったにもかかわらずその照合がされなかったなど,建築主事が職務上通常払うべき注意をもって申請書類の記載を確認していればその記載から当該計画の建築基準関係規定への不適合を発見することができたにもかかわらずその注意を怠って漫然とその不適合を看過した結果当該確認を行ったと認められる場合に,国家賠償法1条1項の適用上違法となる」(最判H25.3.26)としていますので、法的義務違反を認めず、国家賠償法1条1項の適用上合法とするアは誤りです。
イ× 最高裁は、「 警察官のパトカーによる追跡を受けて車両で逃走する者が惹起した事故により第三者が損害を被つた場合において、右追跡行為が国家賠償法一条一項の適用上違法であるというためには、追跡が現行犯逮捕、職務質問等の職務の目的を遂行するうえで不必要であるか、又は逃走車両の走行の態様及び道路交通状況等から予測される被害発生の具体的危険性の有無・内容に照らして追跡の開始、継続若しくは方法が不相当であることを要する。」(最判S61.2.27)と追跡の必要性・相当性から判断すべきとしています。第三者の被った損害等を総合的に勘案して決せられるべきとするイは誤りです。
ウ〇 ウの通りです。最判H3.4.26の判決要旨を引用します。
「 一 公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法三条一項又は公害健康被害補償法(昭和六二年法律第九七号による改正前のもの)四条二項に基づき水俣病患者認定申請をした者が相当期間内に応答処分されることにより焦燥、不安の気持ちを抱かされないという利益は、内心の静穏な感情を害されない利益として、不法行為法上の保護の対象になる。
二 右認定申請を受けた処分庁には、不当に長期間にわたちないうちに応答処分をすべき条理上の作為義務があり、右の作為義務に違反したというためには、客観的に処分庁がその処分のために手続上必要と考えられる期間内に処分ができなかったことだけでは足りず、その期間に比して更に長期間にわたり遅延が続き、かつ、その間、処分庁として通常期待される努力によって遅延を解消できたのに、これを回避するための努力を尽くさなかったことが必要である。」
エ× 最高裁は、 「収入金額を確定申告の額より増額しながら必要経費の額を確定申告の額のままとしたため所得金額を過大に認定した所得税の更正は国家賠償法上違法でない」としました(最判H5.3.11)。「職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更正をしたと認められるような事情がある場合に限り、右評価を受けるものと解するのが相当」としていますので、直ちに国家賠償法1条1項の適用上違法とするエは誤りです。
オ〇 オの通りです。最高裁は、「 国家賠償法一条一項にいう「公権力の行使」には、公立学校における教師の教育活動も含まれる。」(最判S62.2.6)としています。
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03
ア:妥当でない
判例は、建築主事が職務上通常払うべき注意をもって申請書類の記載を確認していれば、その不適合を発見することができたにもかかわらずその注意を怠って漫然とその不適合を看過した結果当該確認を行ったと認められる場合に、国家賠償法1条1項の適用上違法となるとしましたが、本件では、そのような不注意は認められないため、国家賠償法1条1項の適用上違法となるとはいえないとしています。
イ:妥当でない
判例では、国家賠償法1条違反とするためには、追跡の開始・継続若しくは追跡の方法が不相当であることを要するとしています。
ウ:妥当
エ:妥当でない
判例では、税務署長のする所得税の更正は、所得金額を過大に認定していたとしても、そのことから直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではないとし、税務署長が資料を収集し、これに基づき課税要件事実を認定、判断する上において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更正をしたと認め得るような事情がある場合に限り、違法となるとしています。
オ:妥当
判例では、「公権力の行使」には、公立学校における教師の教育活動も含まれるとしています。
したがって、教師の指導においては十分な指導・監督義務があり、事故の発生を防止するために十分な措置を講じるべき注意義務が尽くされたかどうかが問題となります。
したがって、ウ・オが正しい記述で、⑤が正解となります。
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04
建築主事が職務上通常支払うべき注意をもって申請書類の記載を確認していればその記載から~国家賠償法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当です。(最判平25.3.26)
イ.妥当でない
第三者が被った損害の内容および性質ならびにその態様および程度などの諸要素が違法性の考慮要素になるとはしていません。(最判昭61.2.27)
ウ.妥当である
これが直ちに認定申請者の右の法的利益に向けた作為義務を認定し、その利益侵害という意味での不作為の違法性を確認するものではないと解すべきであるとしています。(最判平3.4.26)
エ.妥当でない
税務署長のする所得税の更正は、所得金額を過大に認定していたとしても、そのことから直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではないとしています。(最判平5.3.11)
ォ.妥当である
判決文そのままです。(最判昭62.2.6)
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