本判例は地裁の判例なので、知らない人も多いと思います。
正直、難問です。
選択肢1. 法律の留保に関するさまざまな説のうち、いわゆる「侵害留保説」が前提とされている。
侵害留保説とは、行政が市民の権利、義務に関与する場合、法律の根拠を要するというものです。
例えば、市役所に行って「エレベーターはどこにありますか」と職員に聞いた場合、教えてくれますよね。
わざわざ法律に「市民にエレベーターの場所を聞かれたら答えないといけない」なんて書いてありません。
じゃあ、なぜ法律の規定にないのに教えてもいいのかというと、権利、義務に関与しないから、つまり、権利義務に関与しない以上、行政が市民に迷惑をかけるおそれがないからであります。
この見解を侵害留保説といいます。
しかし、本判例は「直接これを定めた法律の規定が存在しないのは原告の指摘するとおりである。しかし、行政機関が私人に関する事実を公表したとしても、それは直接その私人の権利を制限しあるいはその私人に義務を課すものではないから、行政行為には当たらず、いわゆる非権力的事実行為に該当」としています。
行政行為に当たらないつまり、権利義務に関与するものではないとしているのです。
よって、本記述は本判例に反するものではありません。
余談ですが、行政法の論文式問題では「公表は、○○に対する制裁として科しており、これにより公表された者は、社会的信用が低下するという不利益を被る。よって、権利義務を形成し、又はその範囲を確定するものに当たる」や、「○○をしない場合、公表される旨が処分基準に定められている。公表がされると、社会的信用が低下するという不利益を負う為、それを防ぐために○○をせざるを得なくなる為、権利義務を形成し、又は、その範囲を確定するものに当たる」という感じで処分性を認めていく場合もあります。
しかし、本判例は異なることを言っているし、行政書士試験には論文式試験はないので、「あー、そうなんだ」くらいに頭の片隅においておいてください。
逆に、そういう事を書きなれている司法試験、予備試験受験生は、本記述を見て少し混乱したのではないかと思います。
選択肢2. 行政庁がその所掌事務からまったく逸脱した事項について公表を行った場合、当該公表は違法性を帯びることがありうるとの立場がとられている。
本判例は「もちろん、その所管する事務とまったくかけ離れた事項について公表した場合には、それだけで違法の問題が生じることも考えられる」としています。
よって、本記述は本判例に反するものではありません。
選択肢3. 義務違反に対する制裁を目的としない情報提供型の「公表」は、非権力的事実行為に当たるとの立場がとられている。
本判例は「いわゆる非権力的事実行為に該当し、その直接の根拠となる法律上の規定が存在しないからといって、それだけで直ちに違法の問題が生じることはないというべきである。」としています。
よって、本記述は本判例に反するものではありません。
余談ですが、行政法の論文式問題では「公表は、○○に対する制裁として科しており、これにより公表された者は、社会的信用が低下するという不利益を被る。よって、権利義務を形成し、又はその範囲を確定するものに当たる」や、「○○をしない場合、公表される旨が処分基準に定められている。公表がされると、社会的信用が低下するという不利益を負う為、それを防ぐために○○をせざるを得なくなる為、権利義務を形成し、又は、その範囲を確定するものに当たる」という感じで処分性を認めていく場合もあります。
しかし、本判例は異なることを言っているし、行政書士試験には論文式試験はないので、「あー、そうなんだ」くらいに頭の片隅においておいてください。
選択肢4. 集団下痢症の原因を究明する本件各報告の公表には、食品衛生法の直接の根拠が存在しないとの立場がとられている。
本判例は「食品衛生法は、「飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、公衆衛生の向上及び増進に寄与すること」を目的としている(法1条)のであるから、本件集団下痢症の原因を究明する本件各報告の作成・公表は、厚生省及び厚生大臣の所管する事務の範囲内に含まれることは明らかである」としています。
よって、本記述は本判例に反する訳ではありません。
選択肢5. 本件公表は、国民の権利を制限し、義務を課すことを直接の目的とするものではないが、現実には特定の国民に重大な不利益をもたらす事実上の効果を有するものであることから、法律上の直接の根拠が必要であるとの立場がとられている。
本判例は「国民の権利を制限し、義務を課すことを目的としてなされたものではなく、またそのような効果も存しない」としています。
よって、本記述は本判例に明らかに反しています。
ちなみに、本記述における見解について、行政法の論文では「公表は、○○に対する制裁として科しており、これにより公表された者は、社会的信用が低下するという不利益を被る。よって、権利義務を形成し、又はその範囲を確定するものに当たる」や、「○○をしない場合、公表される旨が処分基準に定められている。公表がされると、社会的信用が低下するという不利益を負う為、それを防ぐために○○をせざるを得なくなる為、権利義務を形成し、又は、その範囲を確定するものに当たる」という感じで処分性を認めていく場合もあります。
しかし、本判例は異なることを言っているし、行政書士試験には論文式試験はないので、「あー、そうなんだ」くらいに頭の片隅においておいてください。
まとめ
本問は地裁の判例を元にした問題なので、分からなくても仕方ないでしょう。
憲法で名誉権について学習された方なら、「公表されれば名誉権を侵害される、だから、行政行為でしょう」と考えた方もいると思います。
その考え方は、判例とは反しますが、何一つ考え方としては間違っていないのです。
正直、この問題は正解できなくても仕方ないと思います。