行政書士の過去問
令和2年度
法令等 問8
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問題
行政書士試験 令和2年度 法令等 問8 (訂正依頼・報告はこちら)
次の文章は、食中毒事故の原因食材を厚生大臣(当時)が公表したこと(以下「本件公表」という。)について、その国家賠償責任が問われた訴訟の判決文である。この判決の内容に明らかに反しているものはどれか。
食中毒事故が起こった場合、その発生原因を特定して公表することに関して、直接これを定めた法律の規定が存在しないのは原告の指摘するとおりである。しかし、行政機関が私人に関する事実を公表したとしても、それは直接その私人の権利を制限しあるいはその私人に義務を課すものではないから、行政行為には当たらず、いわゆる非権力的事実行為に該当し、その直接の根拠となる法律上の規定が存在しないからといって、それだけで直ちに違法の問題が生じることはないというべきである。もちろん、その所管する事務とまったくかけ離れた事項について公表した場合には、それだけで違法の問題が生じることも考えられるが、本件各報告の公表はそのような場合ではない。すなわち、厚生省は、公衆衛生行政・食品衛生行政を担い、その所管する食品衛生法は、「飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、公衆衛生の向上及び増進に寄与すること」を目的としている(法1条)のであるから、本件集団下痢症の原因を究明する本件各報告の作成・公表は、厚生省及び厚生大臣の所管する事務の範囲内に含まれることは明らかである。このように、厚生大臣がその所管する事務の範囲内において行い、かつ、国民の権利を制限し、義務を課すことを目的としてなされたものではなく、またそのような効果も存しない本件各報告の公表について、これを許容する法律上の直接の根拠がないからといって、それだけで直ちに法治主義違反の違法の問題が生じるとはいえない。
(大阪地裁平成14年3月15日判決・判例時報1783号97頁)
食中毒事故が起こった場合、その発生原因を特定して公表することに関して、直接これを定めた法律の規定が存在しないのは原告の指摘するとおりである。しかし、行政機関が私人に関する事実を公表したとしても、それは直接その私人の権利を制限しあるいはその私人に義務を課すものではないから、行政行為には当たらず、いわゆる非権力的事実行為に該当し、その直接の根拠となる法律上の規定が存在しないからといって、それだけで直ちに違法の問題が生じることはないというべきである。もちろん、その所管する事務とまったくかけ離れた事項について公表した場合には、それだけで違法の問題が生じることも考えられるが、本件各報告の公表はそのような場合ではない。すなわち、厚生省は、公衆衛生行政・食品衛生行政を担い、その所管する食品衛生法は、「飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、公衆衛生の向上及び増進に寄与すること」を目的としている(法1条)のであるから、本件集団下痢症の原因を究明する本件各報告の作成・公表は、厚生省及び厚生大臣の所管する事務の範囲内に含まれることは明らかである。このように、厚生大臣がその所管する事務の範囲内において行い、かつ、国民の権利を制限し、義務を課すことを目的としてなされたものではなく、またそのような効果も存しない本件各報告の公表について、これを許容する法律上の直接の根拠がないからといって、それだけで直ちに法治主義違反の違法の問題が生じるとはいえない。
(大阪地裁平成14年3月15日判決・判例時報1783号97頁)
- 法律の留保に関するさまざまな説のうち、いわゆる「侵害留保説」が前提とされている。
- 行政庁がその所掌事務からまったく逸脱した事項について公表を行った場合、当該公表は違法性を帯びることがありうるとの立場がとられている。
- 義務違反に対する制裁を目的としない情報提供型の「公表」は、非権力的事実行為に当たるとの立場がとられている。
- 集団下痢症の原因を究明する本件各報告の公表には、食品衛生法の直接の根拠が存在しないとの立場がとられている。
- 本件公表は、国民の権利を制限し、義務を課すことを直接の目的とするものではないが、現実には特定の国民に重大な不利益をもたらす事実上の効果を有するものであることから、法律上の直接の根拠が必要であるとの立場がとられている。
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この過去問の解説 (3件)
01
判決文は、
「行政機関が私人に関する事実を公表したとしても、それは直接その私人の権利を制限しあるいはその私人に義務を課すものではないから、行政行為には当たらず、いわゆる非権力的事実行為に該当し、その直接の根拠となる法律上の規定が存在しないからといって、それだけで直ちに違法の問題が生じることはない」としています。
侵害留保説は、(個人の権利を制約し或いは義務を課す)侵害行政にのみ、法律の根拠を要します。
したがって、判決文は侵害留保説を前提としていると言えます。
【法律の留保※】
・侵害留保説(判例・実務)…国民の自由や財産を侵害する行政活動には、法律の根拠が必要だとする。
・権力留保説…権力的行政活動には法律の根拠が必要だとする。
・全部留保説…すべての行政活動に法律の根拠が必要だとする。
※法律の留保…(一定の)行政活動には、根拠となる法律が必要だとする原則のこと
2…〇(判決の内容に反していない)
問題文に、
「その所管する事務とまったくかけ離れた事項について公表した場合には、それだけで違法の問題が生じることも考えられる」とあります。
3…〇(判決の内容に反していない)
問題文に、「いわゆる非権力的事実行為に該当し」とあります。
4…〇(判決の内容に反していない)
問題文に
「公表について、これを許容する法律上の直接の根拠がないからといって、それだけで直ちに法治主義違反の違法の問題が生じるとはいえない。」
とあります。
5…×(明らかに反している)
問題文の最後に、
「国民の権利を制限し、義務を課すことを目的としてなされたものではなく、またそのような効果も存しない本件各報告の公表について、これを許容する法律上の直接の根拠がないからといって、それだけで直ちに法治主義違反の違法の問題が生じるとはいえない。」とあります。
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02
正解.5
1.反していない
侵害留保説は、国民の権利の制限や、義務を課す場合は法律の根拠が必要であるというもの。
判決文3行目に「直接その私人の権利を制限しあるいはその私人に義務を課すものではないから ~ それだけで直ちに違法の問題が生じることはないというべきである。」とあります。
つまりこの判決文は侵害留保説を前提に、本件公表においては直ちに違法になるわけではない、という立場をとる本肢は、判決内容に反していません。
2.反していない
判決文7行目に、「もちろん、その所管する事務とまったくかけ離れた事項について公表した場合には、それだけで違法の問題が生じることも考えられるが」とあるため、まったく逸脱した事項について公表を行った場合には、当該公表は違法性を帯びることがありうるとの立場をとる本肢は、判決内容に反していません。
3.反していない
判決文3行目「公表したとしても~、行政行為には当たらず、非権力的事実行為に該当し」とあるので、本件公表は非権力的事実行為にあたるとの立場をとるとする本肢は、判決内容に反していません。
4.反していない
判決文冒頭に「発生原因を特定することに関して、直接これを定めた法律の規定が存在しないのは原告の指摘するとおりである。」とあるため、本件公表には、食品衛生法の直接の根拠が存在しないとの立場をとる本肢は、判決内容に反していません。
5.明らかに反している
判決文には、本肢のような文言はどこにも書いておらず、法律上の直接の根拠も必要ではないため、判決内容に明らかに反しているといえます。
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03
本判例は地裁の判例なので、知らない人も多いと思います。
正直、難問です。
侵害留保説とは、行政が市民の権利、義務に関与する場合、法律の根拠を要するというものです。
例えば、市役所に行って「エレベーターはどこにありますか」と職員に聞いた場合、教えてくれますよね。
わざわざ法律に「市民にエレベーターの場所を聞かれたら答えないといけない」なんて書いてありません。
じゃあ、なぜ法律の規定にないのに教えてもいいのかというと、権利、義務に関与しないから、つまり、権利義務に関与しない以上、行政が市民に迷惑をかけるおそれがないからであります。
この見解を侵害留保説といいます。
しかし、本判例は「直接これを定めた法律の規定が存在しないのは原告の指摘するとおりである。しかし、行政機関が私人に関する事実を公表したとしても、それは直接その私人の権利を制限しあるいはその私人に義務を課すものではないから、行政行為には当たらず、いわゆる非権力的事実行為に該当」としています。
行政行為に当たらないつまり、権利義務に関与するものではないとしているのです。
よって、本記述は本判例に反するものではありません。
余談ですが、行政法の論文式問題では「公表は、○○に対する制裁として科しており、これにより公表された者は、社会的信用が低下するという不利益を被る。よって、権利義務を形成し、又はその範囲を確定するものに当たる」や、「○○をしない場合、公表される旨が処分基準に定められている。公表がされると、社会的信用が低下するという不利益を負う為、それを防ぐために○○をせざるを得なくなる為、権利義務を形成し、又は、その範囲を確定するものに当たる」という感じで処分性を認めていく場合もあります。
しかし、本判例は異なることを言っているし、行政書士試験には論文式試験はないので、「あー、そうなんだ」くらいに頭の片隅においておいてください。
逆に、そういう事を書きなれている司法試験、予備試験受験生は、本記述を見て少し混乱したのではないかと思います。
本判例は「もちろん、その所管する事務とまったくかけ離れた事項について公表した場合には、それだけで違法の問題が生じることも考えられる」としています。
よって、本記述は本判例に反するものではありません。
本判例は「いわゆる非権力的事実行為に該当し、その直接の根拠となる法律上の規定が存在しないからといって、それだけで直ちに違法の問題が生じることはないというべきである。」としています。
よって、本記述は本判例に反するものではありません。
余談ですが、行政法の論文式問題では「公表は、○○に対する制裁として科しており、これにより公表された者は、社会的信用が低下するという不利益を被る。よって、権利義務を形成し、又はその範囲を確定するものに当たる」や、「○○をしない場合、公表される旨が処分基準に定められている。公表がされると、社会的信用が低下するという不利益を負う為、それを防ぐために○○をせざるを得なくなる為、権利義務を形成し、又は、その範囲を確定するものに当たる」という感じで処分性を認めていく場合もあります。
しかし、本判例は異なることを言っているし、行政書士試験には論文式試験はないので、「あー、そうなんだ」くらいに頭の片隅においておいてください。
本判例は「食品衛生法は、「飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、公衆衛生の向上及び増進に寄与すること」を目的としている(法1条)のであるから、本件集団下痢症の原因を究明する本件各報告の作成・公表は、厚生省及び厚生大臣の所管する事務の範囲内に含まれることは明らかである」としています。
よって、本記述は本判例に反する訳ではありません。
本判例は「国民の権利を制限し、義務を課すことを目的としてなされたものではなく、またそのような効果も存しない」としています。
よって、本記述は本判例に明らかに反しています。
ちなみに、本記述における見解について、行政法の論文では「公表は、○○に対する制裁として科しており、これにより公表された者は、社会的信用が低下するという不利益を被る。よって、権利義務を形成し、又はその範囲を確定するものに当たる」や、「○○をしない場合、公表される旨が処分基準に定められている。公表がされると、社会的信用が低下するという不利益を負う為、それを防ぐために○○をせざるを得なくなる為、権利義務を形成し、又は、その範囲を確定するものに当たる」という感じで処分性を認めていく場合もあります。
しかし、本判例は異なることを言っているし、行政書士試験には論文式試験はないので、「あー、そうなんだ」くらいに頭の片隅においておいてください。
本問は地裁の判例を元にした問題なので、分からなくても仕方ないでしょう。
憲法で名誉権について学習された方なら、「公表されれば名誉権を侵害される、だから、行政行為でしょう」と考えた方もいると思います。
その考え方は、判例とは反しますが、何一つ考え方としては間違っていないのです。
正直、この問題は正解できなくても仕方ないと思います。
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