行政書士の過去問
令和3年度
法令等 問3
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問題
行政書士試験 令和3年度 法令等 問3 (訂正依頼・報告はこちら)
インフルエンザウイルス感染症まん延防止のため、政府の行政指導により集団的な予防接種が実施されたところ、それに伴う重篤な副反応により死亡したXの遺族が、国を相手取り損害賠償もしくは損失補償を請求する訴訟を提起した(予防接種と副反応の因果関係は確認済み)場合に、これまで裁判例や学説において主張された憲法解釈論の例として、妥当でないものはどれか。
- 予防接種に伴う特別な犠牲については、財産権の特別犠牲に比べて不利に扱う理由はなく、後者の法理を類推適用すべきである。
- 予防接種自体は、結果として違法だったとしても無過失である場合には、いわゆる谷間の問題であり、立法による解決が必要である。
- 予防接種に伴い、公共の利益のために、生命・身体に対する特別な犠牲を被った者は、人格的自律権の一環として、損失補償を請求できる。
- 予防接種による違法な結果について、過失を認定することは原理的に不可能なため、損害賠償を請求する余地はないというべきである。
- 財産権の侵害に対して損失補償が出され得る以上、予防接種がひき起こした生命・身体への侵害についても同様に扱うのは当然である。
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この過去問の解説 (3件)
01
1.妥当である。
判例において、財産上の特別な犠牲と生命・身体に対する特別な犠牲とを比べて、後者の方が不利に扱われる合理的理由は全くないとして、憲法29条3項が類推適用されるという立場をとっています。
2.妥当である。
予防接種事故における「谷間の問題」(下記にて解説)は法律構成の問題であるため、立法によっての解決が必要です。
3.妥当である。
憲法13条を根拠に、予防接種事故による健康被害は基本的に救済されるべきであるとされています。
4.妥当でない
選択肢2の「谷間の問題」と関連して、予防接種事故による特別な犠牲に対しては、なんらかの形で過失の存在を推定又は認定した上で、国家賠償請求によって救済しているのが判例の立場です。
5.妥当である
勿論解釈による立場です。
財産上の特別な犠牲に対して損失補償が出され得る以上、予防接種がひき起こした生命・身体の特別な犠牲についても同様とするのが勿論であるとする立場をとっています。
「谷間の問題」
公務員の過失の存在を要件としている国家賠償制度と違法行為であることを要件としている国家補償制度では、違法であり無過失な行為である場合どちらの制度の要件も満たされず制度の谷間が生まれてしまっている問題。
本設問で挙げられている予防接種事故がその最たる例です。
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02
問題文では、「裁判例」とあるので、「判例」とは異なり、高等裁判所や地方裁判所などの判決が対象となり、また、学説も問われているので、実は結構厄介な問題です。なかなか裁判例や学説までを押さえておくことは非常に難しいと思いますので、本番でこの手の問題が出た場合は、論理的におかしい肢をあぶりだすしかありません。
妥当です。
東京地裁の昭和59年5月18日判決(地裁なので裁判例)によると、「『財産上特別の犠牲が課せられた場合』と『生命、身体に対し特別の犠牲が課せられた場合』とで、後者の方を不利に扱うことが許されるとする合理的理由は全くない。」とあります。
妥当です。
学説の「谷間の問題」という用語を知っていれば早いのですが、国家賠償(故意または過失ありの違法行為)と損失補償(適法な公権力の行使)のいずれの要件にも当てはまらないから、谷間の問題と論じていると理解できれば、違和感ないと考えられます。
妥当です。
これも学説のとおりなのですが、おかしな点がないように見受けられると思います。
間違いです。
「余地はない」と一切例外を認めないような強い結びとなっているところを疑うべきです。
妥当です。
大阪地裁昭和62年9月30日によると、「憲法 29 条 3 項は、財産権について公共のための特別な犠牲がある場合には、これにつき損失補償を認めた規定がなくても、直接同条項を根拠として補償請求をすることができるものと解されているところ、この解釈が、生命、身体について前記特別な犠牲がある場合においても妥当することは勿論である」としています。
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03
この問題のポイントは、予防接種に関わる地方裁の判例と国家補償に関する知識です。
まず、予防接種に関する地方裁の判例は2つあります。
1つ目は東京地裁昭和59年5月18日です。
この判例の要旨は財産上特別の犠牲が課せられた場合と生命、身体に対し、特別の犠牲が課せられた場合で、後者の方を不利に扱うことが許されるとする合理的理由は全くないとかかれています。
また、結論は生命、身体に対し、特別の犠牲が課せられた場合においても憲法29条3項を類推適用し、かかる犠牲を強いられた者は、直接憲法29条3項に基づき、被告国に対して、正当な補償を請求することができると解するのが相当とかかれています。
2つ目は、大阪地裁昭和62年9月30日です。
ここでは、憲法29条3項は、財産権について公共のために特別な犠牲がある場合は、これにつき損失補償を認めた規定がなくとも、憲法29条3項を直接根拠として、補償請求することができると解されるので、その解釈が生命、身体について特別な犠牲がある場合にもあてはまるのは勿論であるとされています。
最後に国家補償についてです。
国家補償は国家賠償と損失補償の2つがあります。
国家賠償は、公権力の行使を行った公務員の故意又は過失による違法行為が対象です。
損失補償は、適法な公権力の行使による損害が対象です。
以上の点をおさえて、解説をみていきましょう。
解説の冒頭より、財産上特別の犠牲が課せられた場合と生命、身体に対し、特別の犠牲が課せられた場合で、後者の方を不利に扱うことが許されるとする合理的理由は全くなく、生命、身体に対し、特別の犠牲が課せられた場合においても憲法29条3項を類推適用し、かかる犠牲を強いられた者は、直接憲法29条3項に基づき、被告国に対して、正当な補償を請求することができるとされています。
よって、予防接種に伴う特別な犠牲については、財産権の特別犠牲に比べて不利に扱う理由はなく、後者の法理を類推適用すべきであるとなります。
解説の冒頭より、国家賠償は公権力の行使を行った公務員の故意又は過失による違法行為が対象で、損失補償は適法な公権力の行使による損害が対象です。
よって、予防接種が違法だったとしても無過失は国家賠償と損失補償のどちらにもあてはまりません。
この場合は、立法による解決が必要という学説があります。
よって、予防接種自体は、結果として違法だったとしても無過失である場合には、いわゆる谷間の問題であり、立法による解決が必要であるとなります。
憲法13条の学説で、予防接種に伴い、公共の利益のために、生命・身体に対する特別な犠牲を被った者は、人格的自律権の一環として、損失補償を請求できるとなっています。
よって、予防接種に伴い、公共の利益のために、生命・身体に対する特別な犠牲を被った者は、人格的自律権の一環として、損失補償を請求できるとなります。
判例や学説に予防接種による違法な結果について、過失を認定することは原理的に不可能なため、損害賠償を請求する余地はないというべきであるというものはないです。
解説の冒頭より、財産権について公共のために特別な犠牲がある場合は、これにつき損失補償を認めた規定がなくとも、憲法29条3項を直接根拠として、補償請求することができると解されるので、その解釈が生命、身体について特別な犠牲がある場合にもあてはまるのは勿論であるとされています。
よって、財産権の侵害に対して損失補償が出され得る以上、予防接種がひき起こした生命・身体への侵害についても同様に扱うのは当然であるとなります。
この問題のように、行政書士試験の憲法の問題では、憲法の条文に関連した判例や学説などが出題されるので、過去問で出てくる判例や学説は必ず理解するよう、学習していきましょう。
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