行政書士の過去問
令和3年度
法令等 問29

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問題

行政書士試験 令和3年度 法令等 問29 (訂正依頼・報告はこちら)

物権的請求権に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものはどれか。
  • A所有の甲土地上に権原なくB所有の登記済みの乙建物が存在し、Bが乙建物をCに譲渡した後も建物登記をB名義のままとしていた場合において、その登記がBの意思に基づいてされていたときは、Bは、Aに対して乙建物の収去および甲土地の明渡しの義務を免れない。
  • D所有の丙土地上に権原なくE所有の未登記の丁建物が存在し、Eが丁建物を未登記のままFに譲渡した場合、Eは、Dに対して丁建物の収去および丙土地の明渡しの義務を負わない。
  • 工場抵当法により工場に属する建物とともに抵当権の目的とされた動産が、抵当権者に無断で同建物から搬出された場合には、第三者が即時取得しない限り、抵当権者は、目的動産をもとの備付場所である工場に戻すことを請求することができる。
  • 抵当権設定登記後に設定者が抵当不動産を他人に賃貸した場合において、その賃借権の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ、賃借人の占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、賃借人に対して、抵当権に基づく妨害排除請求をすることができる。
  • 動産売買につき売買代金を担保するために所有権留保がされた場合において、当該動産が第三者の土地上に存在してその土地所有権を侵害しているときは、留保所有権者は、被担保債権の弁済期到来の前後を問わず、所有者として当該動産を撤去する義務を免れない。

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この過去問の解説 (3件)

01

1.妥当である。

  甲所有地上の建物所有者乙がこれを丙に譲渡した後もなお登記名義を保有する場合における建物収去・土地明渡義務者の判例( 平成6年2月8日)において、「土地所有権に基づく物上請求権を行使して建物収去・土地明渡しを請求する には、現実に建物を所有することによってその土地を占拠し、土地所有権を侵害し ている者を相手方とすべきである。」としつつ、「もっとも、人の土地上の建物の所有権を取得した者が自らの意思に基づい て所有権取得の登記を経由した場合には、たとい建物を他に譲渡したとしても、引 き続き右登記名義を保有する限り、土地所有者に対し、右譲渡による建物所有権の 喪失を主張して建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできないものと解する のが相当である。」としています。

つまり自らの意志で所有権登記を残しているのであれば、BはAに対して乙建物の収去および甲土地の明渡しの義務を免れないということになります。

2.妥当である。

 同上の判例より、「土地所有権に基づく物上請求権を行使して建物収去・土地明渡しを請求する には、現実に建物を所有することによってその土地を占拠し、土地所有権を侵害し ている者を相手方とすべきである。」としています。

加えて未登記建物の所有者が未登記のま まこれを第三者に譲渡した場合には、これにより確定的に所有権を失うことになる から、その後、その意思に基づかずに譲渡人名義に所有権取得の登記がされても、 右譲渡人は、土地所有者による建物収去・土地明渡しの請求につき、建物の所有権 の喪失により土地を占有していないことを主張することができるものというべき」とされています。

よってこの選択肢の場合の明渡しの義務を負うものはFであり、Eはその義務を免れます。

3.妥当である。 

 工場抵当法二条の規定により工場に属する土地又は建物とともに抵当権の目的とされた動産が備え付けられた工場から抵当権者の同意を得ないで搬出された場合と抵当権者の原状回復請求権の判例( 昭和57年3月12日)において、「工場に属する土地又は建物とともに抵当権の目的と された動産が、抵当権者の同意を得ないで、備え付けられた工場から搬出された場 合には、第三者において即時取得をしない限りは、抵当権者は搬出された目的動産 をもとの備付場所である工場に戻すことを求めることができるものと解するのが相 当である。」としています。

第三者が即時取得しない限りは当該動産に及ぶ抵当権が有効であるため、原状回復を請求することができます。

4.妥当である。

 所有者から占有権原の設定を受けて抵当不動産を占有する者に対して抵当権に基づく妨害排除請求をすることができる場合の判例(最判平成17年3月10日)において、「抵当権設定登記後に抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者についても,その占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ,その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは,抵当権者は, 当該占有者に対し,抵当権に基づく妨害排除請求として,上記状態の排除を求める ことができるものというべきである。」としています。

5.妥当でない。

 車両撤去土地明渡等請求事件の判例(平成21年3月10日)において、「所有権を留保した者は、第三者の土地上に存在してその土地所有権の行使を妨害している当該動産について、上記弁済期が到来するまでは、特段の事情がない限り、撤去義務や不法行為責任を負うことはないが、上記弁済期が経過した後は、留保された所有権が担保権の性質を有するからといって撤去義務や不法行為責任を免れることはない」としています。

選択肢は弁済期到来の前後を問わず、としているため誤りです。

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02

1.妥当である。判例では、「登記を保有する限り、土地の所有者に対し、実質的な建物の所有権の喪失を主張することにより、建物の収去および甲土地の明渡しの義務を免れない。」とされています。(最判平6.2.8)

2.妥当である。判例では、「妨害排除請求を行う場合のその相手方は、その不動産の実質的保有者である。」とされています。

そのため、丁建物の収去および丙土地の明渡しはFに対して行うべきとされます。

3.妥当である。判例では、「抵当権設定当時に抵当目的物の従物であった物には、抵当権の効力が及ぶ」(大判大8.3.15)とされているため、目的動産をもとの備付場所である工場に戻すことを請求することができる、と考えられます。

4.妥当である。判例では、「抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ、抵当権者の優先弁済権の行使が困難な場合、抵当権に基づく妨害排除請求を求めることも許される」(最判平11.11.24)とし、抵当権者は、賃借人に対して、抵当権に基づく妨害排除請求をすることができるとされます。

5.妥当でない。所有権が留保されている間は、所有権者とはならず、動産を占有するにすぎないため、所有者として動産を撤回する義務はありません。

よって、正解は5。

参考になった数1

03

この問題のポイントは最判昭35.6.17、最判昭57.3.12、最判平6.2.8、最判平17.3.10、最判平21.3.10の理解です。

最判昭35.6.17は土地の所有権にもとづく物上請求権の訴訟においては、現実に家屋 を所有することによつて現実にその土地を占拠して土地の所有権を侵害しているも のを被告としなければならないという判例です。

最判昭57.3.12は工場抵当法二条の規定により工場に属する土地又は建物とともに抵当権の目的とされた動産が、備え付けられた工場から抵当権者の同意を得ないで搬出された場合には、第三者において即時取得をしない限りは、抵当権者は、搬出された目的動産をもとの備付場所である工場に戻すことを請求することができるという判例です。

最判平6.2.8は甲所有地上の建物を取得し、自らの意思に基づいてその旨の登記を経由した乙は、たとい右建物を丙に譲渡したとしても、引き続き右登記名義を保有する限り、甲に対し、建物所有権の喪失を主張して建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできないという判例です。

最判平17.3.10は抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者であっても,抵当権設定登記後に占有権原の設定を受けたものであり,その設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ,その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは,抵当権者は,当該占有者に対し,抵当権に基づく妨害排除請求として,上記状態の排除を求めることができるという判例です。

最後に最判平21.3.10は動産の購入代金を立替払した者が,立替金債務の担保として当該動産の所有権を留保する場合において,買主との契約上,期限の利益喪失による残債務全額の弁済期の到来前は当該動産を占有,使用する権原を有せず,その経過後は買主から当該動産の引渡しを受け,これを売却してその代金を残債務の弁済に充当することができるとされているときは,所有権を留保した者は,第三者の土地上に存在してその土地所有権の行使を妨害している当該動産について,上記弁済期が到来するまでは,特段の事情がない限り,撤去義務や不法行為責任を負うことはないが,上記弁済期が経過した後は,留保された所有権が担保権の性質を有するからといって撤去義務や不法行為責任を免れることはないという判例があります。

 

以上の点をおさえて、解説をみていきましょう。

選択肢1. A所有の甲土地上に権原なくB所有の登記済みの乙建物が存在し、Bが乙建物をCに譲渡した後も建物登記をB名義のままとしていた場合において、その登記がBの意思に基づいてされていたときは、Bは、Aに対して乙建物の収去および甲土地の明渡しの義務を免れない。

解説の冒頭より、甲所有地上の建物を取得し、自らの意思に基づいてその旨の登記を経由した乙は、たとい右建物を丙に譲渡したとしても、引き続き右登記名義を保有する限り、甲に対し、建物所有権の喪失を主張して建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできないという判例があります。

よって、A所有の甲土地上に権原なくB所有の登記済みの乙建物が存在し、Bが乙建物をCに譲渡した後も建物登記をB名義のままとしていた場合において、その登記がBの意思に基づいてされていたときは、Bは、Aに対して乙建物の収去および甲土地の明渡しの義務を免れないとなります。

選択肢2. D所有の丙土地上に権原なくE所有の未登記の丁建物が存在し、Eが丁建物を未登記のままFに譲渡した場合、Eは、Dに対して丁建物の収去および丙土地の明渡しの義務を負わない。

解説の冒頭より、土地の所有権にもとづく物上請求権の訴訟においては、現実に家屋 を所有することによつて現実にその土地を占拠して土地の所有権を侵害しているも のを被告としなければならないという判例があります。

よって、D所有の丙土地上に権原なくE所有の未登記の丁建物が存在し、Eが丁建物を未登記のままFに譲渡した場合、Eは、Dに対して丁建物の収去および丙土地の明渡しの義務を負わないとなります。

選択肢3. 工場抵当法により工場に属する建物とともに抵当権の目的とされた動産が、抵当権者に無断で同建物から搬出された場合には、第三者が即時取得しない限り、抵当権者は、目的動産をもとの備付場所である工場に戻すことを請求することができる。

解説の冒頭より、工場抵当法二条の規定により工場に属する土地又は建物とともに抵当権の目的とされた動産が、備え付けられた工場から抵当権者の同意を得ないで搬出された場合には、第三者において即時取得をしない限りは、抵当権者は、搬出された目的動産をもとの備付場所である工場に戻すことを請求することができるという判例があります。

よって、工場抵当法により工場に属する建物とともに抵当権の目的とされた動産が、抵当権者に無断で同建物から搬出された場合には、第三者が即時取得しない限り、抵当権者は、目的動産をもとの備付場所である工場に戻すことを請求することができるとなります。

選択肢4. 抵当権設定登記後に設定者が抵当不動産を他人に賃貸した場合において、その賃借権の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ、賃借人の占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、賃借人に対して、抵当権に基づく妨害排除請求をすることができる。

解説の冒頭より、抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者であっても,抵当権設定登記後に占有権原の設定を受けたものであり,その設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ,その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは,抵当権者は,当該占有者に対し,抵当権に基づく妨害排除請求として,上記状態の排除を求めることができるという判例です。

よって、抵当権設定登記後に設定者が抵当不動産を他人に賃貸した場合において、その賃借権の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ、賃借人の占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、賃借人に対して、抵当権に基づく妨害排除請求をすることができるとなります。

選択肢5. 動産売買につき売買代金を担保するために所有権留保がされた場合において、当該動産が第三者の土地上に存在してその土地所有権を侵害しているときは、留保所有権者は、被担保債権の弁済期到来の前後を問わず、所有者として当該動産を撤去する義務を免れない。

解説の冒頭より、動産の購入代金を立替払した者が,立替金債務の担保として当該動産の所有権を留保する場合において,買主との契約上,期限の利益喪失による残債務全額の弁済期の到来前は当該動産を占有,使用する権原を有せず,その経過後は買主から当該動産の引渡しを受け,これを売却してその代金を残債務の弁済に充当することができるとされているときは,所有権を留保した者は,第三者の土地上に存在してその土地所有権の行使を妨害している当該動産について,上記弁済期が到来するまでは,特段の事情がない限り,撤去義務や不法行為責任を負うことはないが,上記弁済期が経過した後は,留保された所有権が担保権の性質を有するからといって撤去義務や不法行為責任を免れることはないという判例があります

よって、動産売買につき売買代金を担保するために所有権留保がされた場合において、当該動産が第三者の土地上に存在してその土地所有権を侵害しているときは、留保所有権者は、被担保債権の弁済期到来後は、所有者として当該動産を撤去する義務を免れないとなります。

まとめ

この問題で出てきた判例は度々行政書士試験に出てくるので、もう一度見直した方が良いでしょう。

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