行政書士の過去問
令和3年度
法令等 問30

このページは閲覧用ページです。
履歴を残すには、 「新しく出題する(ここをクリック)」 をご利用ください。

問題

行政書士試験 令和3年度 法令等 問30 (訂正依頼・報告はこちら)

留置権に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
  • 留置権者は、善良な管理者の注意をもって留置物を占有すべきであるが、善良な管理者の注意とは、自己の財産に対するのと同一の注意より軽減されたものである。
  • 留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物について使用・賃貸・担保供与をなすことができず、留置権者が債務者の承諾を得ずに留置物を使用した場合、留置権は直ちに消滅する。
  • 建物賃借人が賃料不払いにより賃貸借契約を解除された後に当該建物につき有益費を支出した場合、賃貸人による建物明渡請求に対して、賃借人は、有益費償還請求権を被担保債権として当該建物を留置することはできない。
  • Aが自己所有建物をBに売却し登記をB名義にしたものの代金未払のためAが占有を継続していたところ、Bは、同建物をCに転売し、登記は、C名義となった。Cが所有権に基づき同建物の明渡しを求めた場合、Aは、Bに対する売買代金債権を被担保債権として当該建物を留置することはできない。
  • Dが自己所有建物をEに売却し引渡した後、Fにも同建物を売却しFが所有権移転登記を得た。FがEに対して当該建物の明渡しを求めた場合、Eは、Dに対する履行不能を理由とする損害賠償請求権を被担保債権として当該建物を留置することができる。

次の問題へ

正解!素晴らしいです

残念...

この過去問の解説 (3件)

01

1.妥当でない。

 民法第298条1項において「留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない。」とされています。この善良な管理者の注意善管注意義務)とは、「善良な管理者の注意」>「自己の財産と同一の注意義務」とされています。

2.妥当でない。

 民法第298条2項「留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。」及び同条3項「留置権者が前二項の規定に違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができる。」より、留置権者が債務者の承諾を得ずに留置物を使用した場合、債務者が留置権の消滅を請求することはできますが、直ちに消滅するわけではありません

3.妥当である。

 民法第295条1項「他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。」及び同条2項「占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない」より、本選択肢の場合は賃貸借契約が解除された後に当該建物を占有すべき権原のないことを知りながら不法にこれを占有しているため、有益費の償還請求権に基づく留置権を主張することはできません。

4.妥当でない。

 民法第295条1項「他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。」より、Aは、Bに対する売買代金債権を被担保債権として当該建物を留置することができます。

5.妥当でない。

  不動産の二重売買の場合の履行不能を理由とする損害賠償債権をもつてする留置権の主張の許否の判例において、(昭和43年11月21日)、「 不動産の二重売買において、第二の買主のため所有権移転登記がされた場合、第一の買主は、第二の買主の右不動産の所有権に基づく明渡請求に対し、売買契約不履行に基づく損害賠償債権をもつて、留置権を主張することは許されない。」としています。 

参考になった数10

02

1.妥当でない。前半は正しいですが、善良な管理者の注意とは、自己の財産に対するのと同一の注意よりも厳しいものです。

2.妥当でない。「2 留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。 留置権者が前二項の規定に違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができる。」(民法298条2項、3項)とされ、留置権の消滅を請求することができるだけにとどまり、当然に消滅するわけではありません。

3.妥当である。「他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。 前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。」(民法295条1項、2項)とされ、条文の通りです。

4.妥当でない。 「他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。」(民法295条)とされ、留置権を主張することができます。

5.妥当でない。判例では、「占有権原を失い、占有が不法占有に転じた場合、留置権を主張することはできない」とされ、この場合は当該建物を留置することはできません。

よって、正解は3。

参考になった数3

03

この問題のポイントは民法298条と最判昭43.11.21、最判昭46.7.16、最判昭47.11.16の理解です。

まず民法298条は留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない。

 留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。

 留置権者が前二項の規定に違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができる。

とされています。

最判昭43.11.21は不動産の二重売買において、第二の買主のため所有権移転登記がされた場合、第一の買主は、第二の買主の右不動産の所有権に基づく明渡請求に対し、売買契約不履行に基づく損害賠償債権をもつて、留置権を主張することは許されないとされてます。

最判昭46.7.16は建物の賃借人が、債務不履行により賃貸借契約を解除されたのち、権原のないことを知りながら右建物を不法に占有する間に有益費を支出しても、その者は、民法二九五条二項の類推適用により、右費用の償還請求権に基づいて右建物に留置権を行使することはできないとされてます。

最判昭47.11.16は甲所有の物を買受けた乙が、売買代金を支払わないままこれを丙に譲渡した場合には、甲は、丙からの物の引渡請求に対して、未払代金債権を被担保債権とする留置権の抗弁権を主張することができるとされてます。

 

以上の点をおさえて、解説をみていきましょう。

選択肢1. 留置権者は、善良な管理者の注意をもって留置物を占有すべきであるが、善良な管理者の注意とは、自己の財産に対するのと同一の注意より軽減されたものである。

解説の冒頭より、留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならないとされています。

また善良な管理者の注意とは自己の財産に対するのと同一の注意より重い注意です。

よって、留置権者は、善良な管理者の注意をもって留置物を占有すべきであるが、善良な管理者の注意とは、自己の財産に対するのと同一の注意より加重されたものであるとなります。

選択肢2. 留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物について使用・賃貸・担保供与をなすことができず、留置権者が債務者の承諾を得ずに留置物を使用した場合、留置権は直ちに消滅する。

解説の冒頭より、留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができなく、違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができるとされています。

よって、留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物について使用・賃貸・担保供与をなすことができず、留置権者が債務者の承諾を得ずに留置物を使用した場合、留置権の消滅を請求できるとなります。

選択肢3. 建物賃借人が賃料不払いにより賃貸借契約を解除された後に当該建物につき有益費を支出した場合、賃貸人による建物明渡請求に対して、賃借人は、有益費償還請求権を被担保債権として当該建物を留置することはできない。

解説の冒頭より、建物の賃借人が、債務不履行により賃貸借契約を解除されたのち、権原のないことを知りながら右建物を不法に占有する間に有益費を支出しても、その者は、民法二九五条二項の類推適用により、右費用の償還請求権に基づいて右建物に留置権を行使することはできないとされています。

よって、建物賃借人が賃料不払いにより賃貸借契約を解除された後に当該建物につき有益費を支出した場合、賃貸人による建物明渡請求に対して、賃借人は、有益費償還請求権を被担保債権として当該建物を留置することはできないとなります。

選択肢4. Aが自己所有建物をBに売却し登記をB名義にしたものの代金未払のためAが占有を継続していたところ、Bは、同建物をCに転売し、登記は、C名義となった。Cが所有権に基づき同建物の明渡しを求めた場合、Aは、Bに対する売買代金債権を被担保債権として当該建物を留置することはできない。

解説の冒頭より、甲所有の物を買受けた乙が、売買代金を支払わないままこれを丙に譲渡した場合には、甲は、丙からの物の引渡請求に対して、未払代金債権を被担保債権とする留置権の抗弁権を主張することができるとされています。

よって、Aが自己所有建物をBに売却し登記をB名義にしたものの代金未払のためAが占有を継続していたところ、Bは、同建物をCに転売し、登記は、C名義となった。Cが所有権に基づき同建物の明渡しを求めた場合、Aは、Bに対する売買代金債権を被担保債権として当該建物を留置することはできるとなります。

選択肢5. Dが自己所有建物をEに売却し引渡した後、Fにも同建物を売却しFが所有権移転登記を得た。FがEに対して当該建物の明渡しを求めた場合、Eは、Dに対する履行不能を理由とする損害賠償請求権を被担保債権として当該建物を留置することができる。

解説の冒頭より、不動産の二重売買において、第二の買主のため所有権移転登記がされた場合、第一の買主は、第二の買主の右不動産の所有権に基づく明渡請求に対し、売買契約不履行に基づく損害賠償債権をもつて、留置権を主張することは許されないとされています。

よって、Dが自己所有建物をEに売却し引渡した後、Fにも同建物を売却しFが所有権移転登記を得た。FがEに対して当該建物の明渡しを求めた場合、Eは、Dに対する履行不能を理由とする損害賠償請求権を被担保債権として当該建物を留置することができないとなります。

まとめ

この問題のように条文知識や判例知識をとう問題は必ず出てくるので、条文素読もやった方が良いでしょう。

また、最判昭46.7.16は初出題なので、一度確認した方が良いでしょう。

参考になった数0