行政書士の過去問
令和4年度
法令等 問3
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問題
行政書士試験 令和4年度 法令等 問3 (訂正依頼・報告はこちら)
表現の自由に関する次の判断基準が想定している事例として、妥当なものはどれか。
公共の利害に関する事項について自由に批判、論評を行うことは、もとより表現の自由の行使として尊重されるべきものであり、その対象が公務員の地位における行動である場合には、右批判等により当該公務員の社会的評価が低下することがあっても、その目的が専ら公益を図るものであり、かつ、その前提としている事実が主要な点において真実であることの証明があったときは、人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したものでない限り、名誉侵害の不法行為の違法性を欠くものというべきである。
(最一小判平成元年12月21日民集43巻12号2252頁)
公共の利害に関する事項について自由に批判、論評を行うことは、もとより表現の自由の行使として尊重されるべきものであり、その対象が公務員の地位における行動である場合には、右批判等により当該公務員の社会的評価が低下することがあっても、その目的が専ら公益を図るものであり、かつ、その前提としている事実が主要な点において真実であることの証明があったときは、人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したものでない限り、名誉侵害の不法行為の違法性を欠くものというべきである。
(最一小判平成元年12月21日民集43巻12号2252頁)
- XはA駅の構内で、駅員の許諾を受けず、また退去要求を無視して、乗降客や通行人に対してB市の施策を批判する演説を行ったところ、不退去などを理由に起訴された。
- Yは雑誌上で、宗教法人X1の会長X2に関する事実を批判的に報道したところ、X1・X2の名誉を毀損したとして訴訟になった。
- 作家Yは自らが執筆した小説にXをモデルとした人物を登場させ、この際にXが不特定多数への公開を望まない私生活上の事実を描いたため、Xが出版差止めを求めて出訴した。
- 新聞記者Xは取材の過程で公務員Aに接近して親密になり、外交交渉に関する国の機密情報を聞き出したところ、機密漏洩をそそのかしたとして起訴された。
- A市の公立小学校で成績の評価方法をめぐる対立が生じ、市民Yが教員Xを厳しく批判するビラを配布したところ、XがYに対して損害賠償と謝罪広告を求めて出訴した。
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この過去問の解説 (3件)
01
憲法:表現の自由に関する問題で、出題内容の判断基準に沿った事例か否かを判断します。
出題より
公務員の地位における行動→①表現が公務員の行動が対象であること。
名誉侵害の不法行為の違法性を欠くもの→②人身攻撃に及ぶ又は論評の域を逸脱している、名誉侵害の違法性を欠く
各事例が、上記の①②の基準を満たしているかを確認していきます。
(吉祥寺駅構内ビラ配布事件)
①XはB市の施策批判を行っているので満たしています。
②Xは不退去により起訴されている為、名誉棄損等ではなく②は満たしていません。
よって、この事例は妥当ではありません。
(月刊ペン事件)
①宗教法人X1の会長X2は、公務員ではないので満たしていません。
②判例は、会長X2について、公私を問わずその言動が信徒に重大な影響を立場であることから、刑法230条の「公共の利害に関する事実」にあたるとしている為、満たしています。
よって、この事例は妥当ではありません。
(石に泳ぐ魚事件)
①YはモデルXの私生活上の事実を描いているので、公務員の行動ではなく満たしていません。
②同小説によりXはプライバシー及び名誉棄損を侵害され、回復困難な損害を被らせるおそれがあるとして出版差止めを認めていますので、満たしています。
よって、この事例は妥当ではありません。
(外務省機密漏洩事件)
①Aをそそのかして聞き出していることから、A個人人格尊厳に関するものですので満たしていません。
②機密漏洩に関する起訴であり、名誉棄損ではなく②は満たしていません。
よって、この事例は妥当ではありません。
(損害賠償等)
①公立小学校教員Xの公務員の地位における行動を批判している為、満たしています。
②教員Xは市民Yへ名誉棄損である損害賠償と謝罪広告を求めましたが、公立小学校で通知表を交付しないことの混乱に対する批判や意見表明であり、市民Yの行動は論評の域を逸脱したものではないとし名誉侵害の違法性を欠くとされ棄却となり、満たしています。
よって、こちらが妥当です。
過去の判例を例題に、基準となる点などを読み解く読解力を身につけていきましょう。
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02
本判例は長崎教師批判ビラ事件です。
あまり聞いたことがない判例かと思いますが、公務員を批判する内容の表現行為に係る表現の自由と名誉権の調整に関する判例です。
類似判例 北方ジャーナル事件(最判昭和61年6月11日民集第40巻4号872頁)
本判例は吉祥寺駅構内ビラ配布事件(最判昭和59年12月18日刑集第38巻12号3026頁)です。
この判例は私鉄駅構内において駅員の許諾を受けず、また退去要求を無視して乗降客や通行人に対してB市の施策を批判する演説を行った行為が不退去罪(刑法130条)にあたるとするものです。
表現の自由と名誉権の調整についての判例ではありません。
よって、本記述は妥当ではありません。
本判例は月間ペン事件(最判昭和56年4月16日刑集第35巻3号84頁)です。
確かに、本判例は名誉権と表現の自由との調整に関する判例ですので、本問における判例基準が想定している事例として妥当かのように思えます。
しかし、月間ペン事件は雑誌の編集長という私人の表現の自由と私人の名誉権に関する判例であるのに対し、本問における判例は公務員の名誉を棄損する内容の表現行為に係る表現の自由と名誉権との関係についての判例であります。
よって、本記述は妥当ではありません。
本判例は石に泳ぐ魚事件(最判平成14年9月24日民集第207号243頁)です。
これは、小説の内容が原告のプライバシー権又は名誉権を侵害するかが争われた判例です。
そして、本問における判例は公務員の名誉権と表現の自由の調整に関する判例であります。
よって、本記述は妥当ではありません。
本判例は外務省秘密電文漏洩事件(最判昭和53年5月31日刑集32巻3号457頁)であります。
この判例は公務員の名誉権と表現の自由の調整ではなく、その名の通り機密情報の漏洩に関する判例です。
よって、本記述は妥当ではありません。
本判例はA市の公務員である教員Xを批判する内容の表現行為をYが行ったことに対する判例であり、公務員たるXの名誉権と市民Yの表現の自由の調整に関する判例であります。
よって、本記述は妥当であります。
本問はどの判例がだいたいどんな感じのものだったかをなんとなく覚えていれば解ける判例であります。
確かに冒頭の判例(長崎教師批判ビラ事件)は知らない人も多いと思いますが、北方ジャーナル事件等類似判例もあるので、長崎教師批判ビラ事件がだいたいどういったことを言った判例か理解できると思います。
判例に関する復習をしっかりしておくようにしましょう。
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03
表現の自由に関する出題です。
日本国憲法21条1項により、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」とされ、最高裁判所判決昭和59年12月18日の吉祥寺駅構内ビラ配布事件で、判事事項により、「①鉄道営業法35条及び刑法130条後段を適用しても憲法21条1項に違反しないとされた事例、➁鉄道営業法35条にいう鉄道地の意義、③刑法130条にいう人ノ看守スル建造物の意義、④鉄道営業法35条にいう鉄道地及び刑法130条にいう人ノ看守スル建造物にあたるとされた事例。」とされ、裁判要旨により、「①駅係員の許諾を受けないで駅構内において乗降客らに対しビラ多数を配布して演説等を繰り返したうえ、駅管理者からの退去要求を無視して約20分間にわたり駅構内に滞留した被告人らの所為につき、鉄道営業法35条及び刑法130条後段の各規定を適用してこれを処罰しても憲法21条1項に違反しない、➁鉄道営業法35条にいう鉄道地とは、鉄道の営業主体が所有又は管理する用地、地域のうち、直接鉄道運送業務に使用されるもの及びこれと密接不可分の利用関係にあるものをいう、③刑法130条にいう人ノ看守スル建造物とは、人が事実上管理、支配する建造物をいう、④構造上駅舎の一部で鉄道利用客のための通路として使用されており、また、駅の財産管理権を有する駅長が現に駅構内への出入りを制限し又は禁止する権限を行使している本件駅出入口階段付近は、鉄道営業法35条にいう鉄道地にあたるとともに、刑法130条にいう人ノ看守スル建造物にあたる。」とされます。
つまり、「XはA駅の構内で、駅員の許諾を受けず、また退去要求を無視して、乗降客や通行人に対してB市の施策を批判する演説を行ったところ、不退去などを理由に起訴された。」ということは、妥当ではありません。
日本国憲法21条1項により、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」とされ、最高裁判所判決昭和56年4月16日の月刊ペン事件で、判事事項により、「 ①私人の私生活上の行状と刑法230条の2第1項にいう公共ノ利害ニ関スル事実、➁刑法230条の2第1項にいう公共ノ利害ニ関スル事実にあたるとされた事例、③刑法230条の2第1項にいう公共ノ利害ニ関スル事実にあたるか否かの判断方法。」とされ、裁判要旨により、「 ①私人の私生活上の行状であつても、そのたずさわる社会的活動の性質及びこれを通じて社会に及ぼす影響力の程度などのいかんによつては、その社会的活動に対する批判ないし評価の一資料として、刑法230条の2第1項にいう公共ノ利害ニ関スル事実にあたる場合がある、➁多数の信徒を擁するわが国有数の宗教団体の教義ないしあり方を批判しその誤りを指摘するにあたり、その例証として摘示した右宗教団体の会長(当時)の女性関係が乱脈をきわめており、同会長と関係のあつた女性2名が同会長によつて国会に送り込まれていることなどの事実は、同会長が、右宗教団体において、その教義を身をもつて実践すべき信仰上のほぼ絶対的な指導者であつて、公私を問わずその言動が信徒の精神生活等に重大な影響を与える立場にあつたなど判示の事実関係のもとにおいては、刑法230条の2第1項にいう公共ノ利害ニ関スル事実にあたる、③刑法230条の2第1項にいう公共ノ利害ニ関スル事実にあたるか否かは、摘示された事実自体の内容・性質に照らして客観的に判断されるべきであり、これを摘示する際の表現方法や事実調査の程度などは、同条にいわゆる公益目的の有無の認定等に関して考慮されるべきことがらであつて、摘示された事実が公共ノ利害ニ関スル事実にあたるか否かの判断を左右するものではない。」とされます。
つまり、「Yは雑誌上で、宗教法人X1の会長X2に関する事実を批判的に報道したところ、X1・X2の名誉を毀損したとして訴訟になった。」ということは、妥当ではありません。
日本国憲法21条1項により、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」とされ、最高裁判所判決平成14年9月24日の石に泳ぐ魚事件で、事案により、「モデル小説において、名誉及びプライバシーを侵害された場合に出版の差止を認めることができるかが争われた。」とされ、判旨により、「モデル小説は、事実をもとにしながらそれに創作を加えているため、事実と虚構との区別がつかなくなり、虚構の部分すら実際にあったものとの誤解を与える。小説中の登場人物のモデルとされた者は、その者を知る周囲の者にとっては容易に同定可能であり、小説の公表により名誉、プライバシーが侵害され、重大で回復困難な損害を被らせるおそれがある。よって、本件における出版の差止は認められる。」とされます。
つまり、「作家Yは自らが執筆した小説にXをモデルとした人物を登場させ、この際にXが不特定多数への公開を望まない私生活上の事実を描いたため、Xが出版差止めを求めて出訴した。」ということは、妥当ではありません。
日本国憲法21条1項により、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」とされ、最高裁判所決定昭和53年5月31日の外務省秘密漏洩事件で、事件により、「沖縄返還に関する秘密文書について、新聞記者が外務省女性事務官と情を通じてその入手をそそのかした。」とされ、争点により、「報道機関が公務員に秘密の漏示をそそのかす行為は、正当な取材行為として違法性が阻却されるか。」とされ、判旨により、「報道機関が公務員に秘密の漏示をそそのかす行為は、それが真に報道の目的からでたものであり、その手段、方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものであれば、正当な業務行為というべき。しかし、取材対象者の人格の尊厳を著しく蹂躙する等、社会観念上是認できない態様のものである場合には、正当な取材活動の範囲を逸脱する違法なものである。」とされます。
つまり、「新聞記者Xは取材の過程で公務員Aに接近して親密になり、外交交渉に関する国の機密情報を聞き出したところ、機密漏洩をそそのかしたとして起訴された。」ということは、妥当ではありません。
日本国憲法21条1項により、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」とされ、最高裁判所判決平成元年12月21日の長崎教師ビラ事件で、判事事項により、「公立小学校における通知表の交付をめぐる混乱についての批判、論評を主題とするビラの配布行為が名誉侵害としての違法性を欠くとされた事例。」とされ、裁判要旨により、「公立小学校教師の氏名・住所・電話番号等を記載し、かつ、有害無能な教職員等の表現を用いた大量のビラを繁華街等で配布した場合において、右ビラの内容が、一般市民の間でも大きな関心事になつていた通知表の交付をめぐる混乱についての批判、論評を主題とする意見表明であつて、専ら公益を図る目的に出たものに当たらないとはいえず、その前提としている客観的事実の主要な点につき真実の証明があり、論評としての域を逸脱したものでないなど判示の事実関係の下においては、右配布行為は、名誉侵害としての違法性を欠く。」とされるので、妥当です。
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