行政書士の過去問
令和4年度
法令等 問36

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問題

行政書士試験 令和4年度 法令等 問36 (訂正依頼・報告はこちら)

営業譲渡に関する次の記述のうち、商法の規定に照らし、正しいものはどれか。なお、営業を譲渡した商人を甲、営業を譲り受けた商人を乙とし、甲および乙は小商人ではないものとする。
  • 甲が営業とともにその商号を乙に譲渡する場合には、乙が商号の登記をしなければその効力は生じない。
  • 乙が甲の商号を引き続き使用する場合には、乙は、甲の営業によって生じた債務を弁済する責任を負う。ただし、営業譲渡後、遅滞なく、乙が第三者である丙に対して、甲の債務を弁済する責任を負わない旨の通知をした場合には、乙は、丙に対して弁済責任を負わない。
  • 乙が甲の商号を引き続き使用する場合に、甲の営業によって生じた債権について、債務者である丙が乙に対して行った弁済は、丙の過失の有無を問わず、丙が善意であるときに、その効力を有する。
  • 乙が甲の商号を引き続き使用しない場合において、乙が甲の営業によって生じた債務を引き受ける旨の広告をしたときは、甲の弁済責任が消滅するため、甲の債権者である丙は、乙に対して弁済の請求をしなければならない。
  • 甲および乙が、乙に承継されない債務の債権者(残存債権者)である丙を害することを知りながら、無償で営業を譲渡した場合には、丙は、乙に対して、甲から承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。

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この過去問の解説 (3件)

01

商法でいう「営業譲渡」は、一体としての商売全体を買い取るイメージです。営業譲渡があった場合には、商法で債権の引き渡し・債務の引き受けに関するルールが定められています。

選択肢1. 甲が営業とともにその商号を乙に譲渡する場合には、乙が商号の登記をしなければその効力は生じない。

誤りです

商人の商号は、営業とともにする場合又は営業を廃止する場合に限り、譲渡することができます(商法15条1項)。前項の規定による商号の譲渡は、登記をしなければ、第三者に対抗することができません(商法15条2項)

登記が必要なのは、第三者に対抗する場合なので、当事者間では登記をしなくても営業の譲渡は有効です。

選択肢2. 乙が甲の商号を引き続き使用する場合には、乙は、甲の営業によって生じた債務を弁済する責任を負う。ただし、営業譲渡後、遅滞なく、乙が第三者である丙に対して、甲の債務を弁済する責任を負わない旨の通知をした場合には、乙は、丙に対して弁済責任を負わない。

誤りです

営業を譲り受けた商人が譲渡人の商号を引き続き使用する場合には、その譲受人も、譲渡人の営業によって生じた債務を弁済する責任を負います(商法17条1項)。

よって、前半部分の記載は正しいです。

ただし、このルールはが適用されない場合が商法17条2項で定められています。

営業を譲渡した後、遅滞なく、譲受人が譲渡人の債務を弁済する責任を負わない旨を登記した場合には、適用されません。営業を譲渡した後、遅滞なく、譲受人及び譲渡人から第三者に対しその旨の通知をした場合において、その通知を受けた第三者についても、同様とします(商法17条2項)。

まず、譲受人の乙は甲の債務を弁済する責任を負わない旨の登記はしていません。また、通知に関しては譲渡人の甲と譲受人の乙の両方が通知をしなければなりませんが、問題文では「乙が第三者である丙に対して」とありますので、この要件を満たしていません。そのため、乙は原則通り責任を負うことになります。

選択肢3. 乙が甲の商号を引き続き使用する場合に、甲の営業によって生じた債権について、債務者である丙が乙に対して行った弁済は、丙の過失の有無を問わず、丙が善意であるときに、その効力を有する。

誤りです

譲渡人(営業を譲り受けた商人)の営業によって生じた債権について、その譲受人にした弁済は、弁済者が善意でかつ重大な過失がないときは、その効力を有します(商法17条4項)。

つまり、弁済者の丙は「善意」で「重過失がない」ことが必要になります。問題文は「丙の過失の有無を問わず」となっているため誤りです。

選択肢4. 乙が甲の商号を引き続き使用しない場合において、乙が甲の営業によって生じた債務を引き受ける旨の広告をしたときは、甲の弁済責任が消滅するため、甲の債権者である丙は、乙に対して弁済の請求をしなければならない。

誤りです

譲受人が譲渡人の商号を引き続き使用しない場合においても、譲渡人の営業によって生じた債務を引き受ける旨の広告をしたときは、譲渡人の債権者は、その譲受人に対して弁済の請求をすることができます(商法18条1項)。

問題文の場合、乙が引き受ける旨の広告をした場合に「甲の弁済責任が消滅する」となっていますが、これが誤りです。この場合、丙は甲と乙のどちらにも請求が可能です。

なお、譲受人が前項の規定により譲渡人の債務を弁済する責任を負う場合には、譲渡人の責任は、同項の広告があった日後二年以内に請求又は請求の予告をしない債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅します(商法18条2項)。

つまり、乙が債務を引き受ける旨の広告をしてから2年以内に丙が請求しない場合には、甲の弁済責任が消滅します。

選択肢5. 甲および乙が、乙に承継されない債務の債権者(残存債権者)である丙を害することを知りながら、無償で営業を譲渡した場合には、丙は、乙に対して、甲から承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。

正しいです

譲渡人が譲受人に承継されない債務の債権者(残存債務者)を害することを知って営業を譲渡した場合には、残存債権者は、その譲受人に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。ただし、その譲受人が営業の譲渡の効力が生じた時において残存債権者を害することを知らなかったときは、この限りではありません商法18条の2第1項)。

問題文では「甲および乙」の両方が柄を害することを知っているため、丙は乙に対して履行を請求することができます。

まとめ

商法の問題は毎年1問しか出題されませんが、基礎的な問題になります。条文に記載されている事項はしっかりと押さえておきましょう。

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02

営業譲渡は会社全体ではなく事業の資産や負債のみを売買するM&A方式です。有形固定資産や流動資産、無形資産などが含まれます。

会社法では、同じ意味合いで事業譲渡と呼称されています。

選択肢1. 甲が営業とともにその商号を乙に譲渡する場合には、乙が商号の登記をしなければその効力は生じない。

誤り。

譲渡は、当事者間においての意思表示によって成立します。登記が必要なのは第三者対抗に対してです。

選択肢2. 乙が甲の商号を引き続き使用する場合には、乙は、甲の営業によって生じた債務を弁済する責任を負う。ただし、営業譲渡後、遅滞なく、乙が第三者である丙に対して、甲の債務を弁済する責任を負わない旨の通知をした場合には、乙は、丙に対して弁済責任を負わない。

誤り。

甲の債務を弁済する責任を負わない旨の通知は、甲乙の両方から丙へ通知しなければなりません。

選択肢3. 乙が甲の商号を引き続き使用する場合に、甲の営業によって生じた債権について、債務者である丙が乙に対して行った弁済は、丙の過失の有無を問わず、丙が善意であるときに、その効力を有する。

誤り。

丙が善意無過失である場合は効力を有します。

選択肢4. 乙が甲の商号を引き続き使用しない場合において、乙が甲の営業によって生じた債務を引き受ける旨の広告をしたときは、甲の弁済責任が消滅するため、甲の債権者である丙は、乙に対して弁済の請求をしなければならない。

誤り。

広告をして2年以内は甲にも請求できます。(商法18条2項)

選択肢5. 甲および乙が、乙に承継されない債務の債権者(残存債権者)である丙を害することを知りながら、無償で営業を譲渡した場合には、丙は、乙に対して、甲から承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。

正しい。

損害を与えることを知りながら営業譲渡した場合は、その継承財産を上限として債務履行請求ができます。

まとめ

商法は行政書士試験において出題が1問です。難易度はそれほど高くないですが、条文数と得点の効果を見れば優先順位は低いかもしれません。

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03

この問題のポイントは、商法15条2項、17条2項と4項、18条1項、18条の2第1項の理解です。

まず商法15条2項は商号の譲渡は、登記をしなければ、第三者に対抗することができないとされています。

商法17条2項は譲渡人の営業によって生じた債務を弁済する責任を負う規定は営業を譲渡した後、遅滞なく、譲受人が譲渡人の債務を弁済する責任を負わない旨を登記した場合には、適用しない。営業を譲渡した後、遅滞なく、譲受人及び譲渡人から第三者に対しその旨の通知をした場合において、その通知を受けた第三者についても、同様とするとされております。

そして、その4項は譲渡人の営業によって生じた債権について、その譲受人にした弁済は、弁済者が善意でかつ重大な過失がないときは、その効力を有するとされています。

商法18条1項は譲受人が譲渡人の商号を引き続き使用しない場合においても、譲渡人の営業によって生じた債務を引き受ける旨の広告をしたときは、譲渡人の債権者は、その譲受人に対して弁済の請求をすることができるとされています。

最後に商法18条の2第1項は譲渡人が譲受人に承継されない債務の債権者(以下この条において「残存債権者」という。)を害することを知って営業を譲渡した場合には、残存債権者は、その譲受人に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。ただし、その譲受人が営業の譲渡の効力が生じた時において残存債権者を害することを知らなかったときは、この限りでないとされています。

 

以上の点をおさえて、解説をみていきましょう。

選択肢1. 甲が営業とともにその商号を乙に譲渡する場合には、乙が商号の登記をしなければその効力は生じない。

解説の冒頭より、商号の譲渡は、登記をしなければ、第三者に対抗することができないとされています。

よって、甲が営業とともにその商号を乙に譲渡する場合には、乙が商号の登記をしなくてもその効力は生じるとなります。

選択肢2. 乙が甲の商号を引き続き使用する場合には、乙は、甲の営業によって生じた債務を弁済する責任を負う。ただし、営業譲渡後、遅滞なく、乙が第三者である丙に対して、甲の債務を弁済する責任を負わない旨の通知をした場合には、乙は、丙に対して弁済責任を負わない。

解説の冒頭より、譲渡人の営業によって生じた債務を弁済する責任を負う規定は営業を譲渡した後、遅滞なく、譲受人が譲渡人の債務を弁済する責任を負わない旨を登記した場合には、適用しない。営業を譲渡した後、遅滞なく、譲受人及び譲渡人から第三者に対しその旨の通知をした場合において、その通知を受けた第三者についても、同様とするとされております。

よって、乙が甲の商号を引き続き使用する場合には、乙は、甲の営業によって生じた債務を弁済する責任を負う。ただし、営業譲渡後、遅滞なく、乙及び甲が第三者である丙に対して、甲の債務を弁済する責任を負わない旨の通知をした場合には、乙は、丙に対して弁済責任を負わないとなります。

選択肢3. 乙が甲の商号を引き続き使用する場合に、甲の営業によって生じた債権について、債務者である丙が乙に対して行った弁済は、丙の過失の有無を問わず、丙が善意であるときに、その効力を有する。

解説の冒頭より、譲渡人の営業によって生じた債権について、その譲受人にした弁済は、弁済者が善意でかつ重大な過失がないときは、その効力を有するとされています。

よって、乙が甲の商号を引き続き使用する場合に、甲の営業によって生じた債権について、債務者である丙が乙に対して行った弁済は、丙の重過失がなく、丙が善意であるときに、その効力を有するとなります。

選択肢4. 乙が甲の商号を引き続き使用しない場合において、乙が甲の営業によって生じた債務を引き受ける旨の広告をしたときは、甲の弁済責任が消滅するため、甲の債権者である丙は、乙に対して弁済の請求をしなければならない。

解説の冒頭より、譲受人が譲渡人の商号を引き続き使用しない場合においても、譲渡人の営業によって生じた債務を引き受ける旨の広告をしたときは、譲渡人の債権者は、その譲受人に対して弁済の請求をすることができるとされています。

よって、乙が甲の商号を引き続き使用しない場合において、乙が甲の営業によって生じた債務を引き受ける旨の広告をしたときは、甲の弁済責任が消滅しないため、甲の債権者である丙は、乙に対して弁済の請求をすることができるとなります。

選択肢5. 甲および乙が、乙に承継されない債務の債権者(残存債権者)である丙を害することを知りながら、無償で営業を譲渡した場合には、丙は、乙に対して、甲から承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。

解説の冒頭より、譲渡人が譲受人に承継されない債務の債権者(以下この条において「残存債権者」という。)を害することを知って営業を譲渡した場合には、残存債権者は、その譲受人に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができるとされています。

よって、甲および乙が、乙に承継されない債務の債権者(残存債権者)である丙を害することを知りながら、無償で営業を譲渡した場合には、丙は、乙に対して、甲から承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができるとなります。

まとめ

この問題のように、条文知識を問う問題は必ず出てくるので、条文素読もやった方が良いでしょう。

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