行政書士の過去問
令和5年度
法令等 問3

このページは閲覧用ページです。
履歴を残すには、 「新しく出題する(ここをクリック)」 をご利用ください。

問題

行政書士試験 令和5年度 法令等 問3 (訂正依頼・報告はこちら)

基本的人権の間接的、付随的な制約についての最高裁判所の判決に関する次のア〜エの記述のうち、妥当なものの組合せはどれか。

ア  選挙における戸別訪問の禁止が、意見表明そのものの制約ではなく、意見表明の手段方法のもたらす弊害の防止をねらいとして行われる場合、それは戸別訪問以外の手段方法による意見表明の自由を制約するものではなく、単に手段方法の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎない。
イ  芸術的価値のある文学作品について、そこに含まれる性描写が通常人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反することを理由に、その頒布が処罰される場合、そこでの芸術的表現の自由への制約は、わいせつ物の規制に伴う間接的、付随的な制約にすぎない。
ウ  裁判官が「積極的に政治運動をすること」の禁止が、意見表明そのものの制約ではなく、その行動のもたらす弊害の防止をねらいとして行われる場合、そこでの意見表明の自由の制約は、単に行動の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎない。
エ  刑事施設の被収容者に対する新聞閲読の自由の制限が、被収容者の知ることのできる思想内容そのものの制約ではなく、施設内の規律・秩序の維持をねらいとして行われる場合、そこでの制約は、施設管理上必要な措置に伴う間接的、付随的な制約にすぎない。
  • ア・イ
  • ア・ウ
  • ア・エ
  • イ・ウ
  • イ・エ

次の問題へ

正解!素晴らしいです

残念...

この過去問の解説 (3件)

01

この問題の最判昭56.6.15と最大決平10.12.1の判決文を読み込んでいるかどうかです。

以下にこれらの判決文のポイントをまとめます。

・最判昭56.6.15

この判例の争点は、個別訪問を禁止する公職選挙法第138条1項の規定は、憲法21条に違反しているかどうかです。

判決結果は、個別訪問を一律に禁止する公職選挙法第138条1項の規定は合理的でやむを得ない限度を超えるものではないとなりました。

また、公職選挙法第138条1項の規定の理由が合憲であることの論拠として補足的、付随的なものであり、むしろ他の点に重要な理由があると考えられ、このルールについて国会の立法の裁量の余地は広いという趣旨を含んでいるとされています。

・最大判平10.12.1

この判例の争点は、裁判官が裁判官の立場を明らかにして、法案反対運動に参加はしないが、法案反対の立場の発言をすることは裁判所法52条1項に違反しているかどうかです。

判決結果は裁判所法五二条一号にいう「積極的に政治運動をすること」とは、組織的、計画的又は継続的な政治上の活動を能動的に行う行為であって裁判官の独立及び中立・公正を害するおそれがあるものをいい、具体的行為の該当性を判断するに当たっては、行為の内容、行為の行われるに至った経緯、行われた場所等の客観的な事情のほか、行為をした裁判官の意図等の主観的な事情をも総合的に考慮して決するのが相当であり、裁判官が積極的に政治運動をすることを禁止する裁判所法五二条一号の規定は、憲法二一条一項に違反しないとされ、当該裁判官が戒告することが相当であるとされました。

また、裁判官が積極的に政治運動をすることを、これに内包される 意見表明そのものの制約をねらいとしてではなく、その行動のもたらす弊害の防止 をねらいとして禁止するときは、同時にそれにより意見表明の自由が制約されるこ とにはなるが、それは単に行動の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎ ず、かつ、積極的に政治運動をすること以外の行為により意見を表明する自由までをも制約するものではないとされました。

 

以上の点をおさえて、解説をみていきましょう。

選択肢1. ア・イ

解説の冒頭より、個別訪問を禁止する公職選挙法第138条1項の規定は、その理由が合憲であることの論拠として補足的、付随的なものであり、むしろ他の点に重要な理由があると考えられ、このルールについて国会の立法の裁量の余地は広いという趣旨を含んでいるとされています。

よって、アは選挙における戸別訪問の禁止が、意見表明そのものの制約ではなく、意見表明の手段方法のもたらす弊害の防止をねらいとして行われる場合、それは戸別訪問以外の手段方法による意見表明の自由を制約するものではなく、単に手段方法の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎないとなります。

 

また、イの文章を読むと芸術的価値のある文学作品について、そこに含まれる性描写が通常人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反することを理由に、その頒布が処罰される場合、そこでの芸術的表現の自由への制約は、わいせつ物の規制に伴う間接的、付随的な制約にすぎないとされる判例は存在しません。

選択肢2. ア・ウ

解説の冒頭より、裁判官が積極的に政治運動をすることを、これに内包される 意見表明そのものの制約をねらいとしてではなく、その行動のもたらす弊害の防止 をねらいとして禁止するときは、同時にそれにより意見表明の自由が制約されるこ とにはなるが、それは単に行動の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎ ず、かつ、積極的に政治運動をすること以外の行為により意見を表明する自由までをも制約するものではないとされています。

よって、ウの文章は裁判官が「積極的に政治運動をすること」の禁止が、意見表明そのものの制約ではなく、その行動のもたらす弊害の防止をねらいとして行われる場合、そこでの意見表明の自由の制約は、単に行動の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎないとなります。

選択肢3. ア・エ

エの文章より、刑事施設の被収容者に対する新聞閲読の自由の制限が、被収容者の知ることのできる思想内容そのものの制約ではなく、施設内の規律・秩序の維持をねらいとして行われる場合、そこでの制約は、施設管理上必要な措置に伴う間接的、付随的な制約にすぎないとされる判例はありません。

まとめ

この問題で出てくる最判昭56.6.15と最大判平10.12.1は、行政書士試験に度々でてくるので復習しておきましょう。

参考になった数26

02

妥当であるのは、「ア・ウ」です。

判例について正しく把握していることがポイントとなります。


各選択肢の元である判例は下記の通りです。選択肢別に妥当であるかを解説いたします。

【ア 最判昭56.6.15】

「戸別訪問の禁止によって失われる利益は、それにより戸別訪問という手段方法による意見表明の自由が制約されることではあるが、それは、もとより戸別訪問以外の手段方法による意見表明の自由を制約するものではなく、単に手段方法の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎない反面、禁止により得られる利益は、戸別訪問という手段方法のもたらす弊害を防止することによる選挙の自由と公正の確保であるから、得られる利益は失われる利益に比してはるかに大きいということができる」

 

【イ 大判昭和32.3.13(チャタレー事件)

「芸術性と猥褻性(わいせつせい)とは別異の次元に属する概念であり、両立し得ないものではない」

 

【ウ 最大決平成10.12.1】

「裁判官が積極的に政治運動をすることを、これに内包される意見表明そのものの制約をねらいとしてではなく、その行動のもたらす弊害の防止をねらいとして禁止するときは、同時にそれにより意見表明の自由が制約されることにはなるが、それは単に行動の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎず、かつ、積極的に政治運動をすること以外の行為により意見を表明する自由までをも制約するものではない」

 

【エ 最大判昭和58.6.22(よど号ハイジャック新聞記事抹消事件)】

「監獄は、多数の被拘禁者を外部から隔離して収容する施設であり、右施設内でこれらの者を集団として管理するにあたっては、内部における規律及び秩序を維持し、その正常な状態を保持する必要があるから、この目的のために必要がある場合には、未決勾留によって拘禁された者についても、この面からその者の身体的自由及びその他の行為の自由に一定の制限が加えられることは、やむをえないところというべきである。そして、この場合において、これらの自由に対する制限が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかは、右の目的のために制限が必要とされる程度と、制限される自由の内容及び性質、これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を較量して決せられるべきものである」

選択肢1. ア・イ

ア:妥当です。

判示の通りです。

 

イ:妥当ではありません。

「芸術性と猥褻性(わいせつせい)とは別異の次元に属する概念…」とあることから、

芸術的表現の自由への制約は、わいせつ物の規制(わいせつ物の頒布販売の制約)に伴う間接的、付随的な制約とは言えません。

選択肢2. ア・ウ

ア:妥当です。

判示の通りです。

 

ウ:妥当です。

判示の通りです。

選択肢3. ア・エ

ア:妥当です。

判示の通りです。

 

エ:妥当ではありません。

冒頭エ判例・下線部分から、問題文「施設内の規律・秩序の維持をねらいとして行われる場合、そこでの制約は、施設管理上必要な措置に伴う間接的、付随的な制約にすぎない。」が妥当ではありません。

選択肢4. イ・ウ

イ:妥当ではありません。

「芸術性と猥褻性(わいせつせい)とは別異の次元に属する概念…」とあることから、

芸術的表現の自由への制約は、わいせつ物の規制(わいせつ物の頒布販売の制約)に伴う間接的、付随的な制約とは言えません。

 

ウ:妥当です。

判示の通りです。

選択肢5. イ・エ

イ:妥当ではありません。

「芸術性と猥褻性(わいせつせい)とは別異の次元に属する概念…」とあることから、

芸術的表現の自由への制約は、わいせつ物の規制(わいせつ物の頒布販売の制約)に伴う間接的、付随的な制約とは言えません。

 

エ:妥当ではありません。

冒頭エ判例・下線部分から、問題文「施設内の規律・秩序の維持をねらいとして行われる場合、そこでの制約は、施設管理上必要な措置に伴う間接的、付随的な制約にすぎない。」が妥当ではありません。

まとめ

いずれの判例も出題率の高いものです。

出題される部分が変わっていても答えられるよう、復習しておきましょう。

参考になった数3

03

 基本的人権の間接的、付随的な制約についての最高裁判所の判決に関する出題です。

選択肢2. ア・ウ

 前提として、日本国憲法12条により、「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。」とされ、日本国憲法13条により、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」とされ、日本国憲法19条により、「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。」とされ、日本国憲法21条1項により、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」とされ、日本国憲法21条2項により、「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。」とされ、日本国憲法23条により、「学問の自由は、これを保障する。」とされ、日本国憲法76条3項により、「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。」とされ、日本国憲法82条1項により、「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。」とされ、国家賠償法1条1項により、「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」とされます。

 

 

 選挙における戸別訪問の禁止が、意見表明そのものの制約ではなく、意見表明の手段方法のもたらす弊害の防止をねらいとして行われる場合、それは戸別訪問以外の手段方法による意見表明の自由を制約するものではなく、単に手段方法の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎない。

 

 最高裁判所判決昭和56年6月15日判決で、問題点として、「公職選挙法138条は戸別訪問を一律に禁止しているが、憲法21条が保障する選挙運動の自由を侵害し違憲ではないか。」とされ、判旨として、「戸別訪問一律禁止規定は、買収等の弊害を防止し、選挙の自由と公正を確保するという正当な目的を有し、当該目的と一律禁止との間には合理的関連性があり、またこの付随的制約によって失われる利益よりも選挙の公正という得られる利益ははるかに大きいため、この規定は合理的で必要やむを得ない限度を超えておらず違憲ではない。」とされるので、妥当です。

 

 

 芸術的価値のある文学作品について、そこに含まれる性描写が通常人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反することを理由に、その頒布が処罰される場合、そこでの芸術的表現の自由への制約は、わいせつ物の規制に伴う間接的、付随的な制約にすぎない。

 

 最高裁判所大法廷判決昭和32年3月13日のチャタレイ事件で、判旨として、「わいせつとは、いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、普通人との正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう。わいせつ文書に当たるかの判断基準は、一般社会において行われている良識すなわち社会通念であり、社会通念がどのようなものであるかの判断は、現制度の下においては裁判官にゆだねられている。」とされ、裁判所判決大法廷判決昭和44年10月15日の悪徳の栄え事件で、判旨として、「文書がもつ芸術性、思想性が、文書の内容である性的描写による性的刺激を減少、緩和させて、刑法が処罰の対象とする程度以下にわいせつ性が解消されない限り、芸術的、思想的価値のある文書であっても、わいせつの文書としての取扱いを免れることはできない。文書の個々の章句の部分は、全体としての文書の一部として意味をもつものであるから、その章句の部分のわいせつ性の有無は、文書全体との関連において判断されなければならない。芸術的、思想的価値のある文書についても、それがわいせつ性をもつものである場合には、性生活に関する秩序および健全な風俗を維持するため、これを処罰の対象とすることが国民生活全体の利益に合致するものと認められるから、憲法21条及び23条に反しない。」とされます。

 つまり、「わいせつ物の規制に伴う間接的、付随的な制約にすぎない」という部分が、妥当ではありません。

 

 

 裁判官が「積極的に政治運動をすること」の禁止が、意見表明そのものの制約ではなく、その行動のもたらす弊害の防止をねらいとして行われる場合、そこでの意見表明の自由の制約は、単に行動の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎない。

 

 最高裁判所大法廷決定平成10年12月1日の寺西判事補事件で、事案により、「裁判官Xは、ある法案に反対する政治集会に出席し、身分を明かして発言したところ、Y高等裁判所は、Xの発言が裁判所法52条1号の禁止する積極的に政治運動をすることにあたることを理由として、Xを懲戒処分としたため、これを争った。」とされ、決旨により、「三権分立主義のもとでは、司法権を担う裁判官には、中立性、公正性が要請される。また、積極的な政治運動の禁止をその行動のもたらす弊害の防止をねらいとして禁止するときは、同時にそれにより意見表明の自由が制約されることになるが、それは行動の禁止に伴う限度での間接的、付随的なせいやくにすぎず、かつ、積極的に政治運動すること以外の行為により意見表明の自由までをも制約するものではない。したがって、裁判官について積極的な政治運動を禁止しても、憲法21条に反しない。」とされるので、妥当です。

 

 

 刑事施設の被収容者に対する新聞閲読の自由の制限が、被収容者の知ることのできる思想内容そのものの制約ではなく、施設内の規律・秩序の維持をねらいとして行われる場合、そこでの制約は、施設管理上必要な措置に伴う間接的、付随的な制約にすぎない。

 

 最高裁判所大法廷判決昭和58年6月22日のよど号ハイジャック記事抹消事件で、事件により、「拘留中の被疑者が新聞を定期購読していたところ、よど号事件に関する新聞記事を拘置所長が全面的に抹消した。」とされ、争点により、「未決勾留者が私費で定期購読する新聞記事を抹消する拘置所長の処分は知る権利の侵害として憲法21条違反ではないか。」とされ、判旨により、「未決拘禁者の新聞紙、図書等の閲読の制限が許されるのは、その閲読を許すことにより監獄内の規律、秩序の維持上、放置できない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があると認められることが必要であり、かつ、そのばあいにおいても、当該障害発生の防止のために必要かつ合理的な範囲にとどまるべきものと解するのが相当である。本件では、拘置所長の判断には合理的根拠があり、かつ、必要とされる制限の内容及び程度についての同所長の判断に裁量権の逸脱又は濫用の違法があったとすることもできないから、本件処分は憲法21条に違反しない。」とされます。

 つまり、「施設管理上必要な措置に伴う間接的、付随的な制約にすぎない」という部分が、妥当ではありません。

参考になった数2