行政書士 過去問
令和5年度
問31 (法令等 問31)
問題文
相殺に関する次の記述のうち、民法の規定に照らし、誤っているものはどれか。
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問題
行政書士試験 令和5年度 問31(法令等 問31) (訂正依頼・報告はこちら)
相殺に関する次の記述のうち、民法の規定に照らし、誤っているものはどれか。
- 差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであれば、その第三債務者が、差押え後に他人の債権を取得したときでなければ、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる。
- 時効によって消滅した債権が、その消滅以前に相殺適状にあった場合には、その債権者は、当該債権を自働債権として相殺することができる。
- 相殺禁止特約のついた債権を譲り受けた者が当該特約について悪意又は重過失である場合には、当該譲渡債権の債務者は、当該特約を譲受人に対抗することができる。
- 債務者に対する貸金債権の回収が困難なため、債権者がその腹いせに悪意で債務者の物を破損した場合には、債権者は、当該行為による損害賠償債務を受働債権として自己が有する貸金債権と相殺することはできない。
- 過失によって人の生命又は身体に損害を与えた場合、その加害者は、その被害者に対して有する貸金債権を自働債権として、被害者に対する損害賠償債務と相殺することができる。
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この過去問の解説 (3件)
01
この問題のポイントは、民法第505条第2項、第508条、第509条、第511条2項の理解です。
まず、民法第505条第2項は当事者が相殺を禁止し、又は制限する旨の意思表示をした場合には、その意思表示は、第三者がこれを知り、又は重大な過失によって知らなかったときに限り、その第三者に対抗することができるとされます。
民法第508条は時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には、その債権者は、相殺をすることができるとされています。
民法第509条は次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。ただし、その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、この限りでない。
一 悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務
二 人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務(前号に掲げるものを除く。)
とされています。
最後に民法第511条2項は差押え後に取得した債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであるときは、その第三債務者は、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる。ただし、第三債務者が差押え後に他人の債権を取得したときは、この限りでないとされています。
以上の点をおさえて、解説をみていきましょう。
解説の冒頭より、差押え後に取得した債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであるときは、その第三債務者は、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる。ただし、第三債務者が差押え後に他人の債権を取得したときは、この限りでないとされています。
よって、差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであれば、その第三債務者が、差押え後に他人の債権を取得したときでなければ、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができるとされています。
解説の冒頭より、時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には、その債権者は、相殺をすることができるとされています。
よって、時効によって消滅した債権が、その消滅以前に相殺適状にあった場合には、その債権者は、当該債権を自働債権として相殺することができるとされています。
解説の冒頭より、当事者が相殺を禁止し、又は制限する旨の意思表示をした場合には、その意思表示は、第三者がこれを知り、又は重大な過失によって知らなかったときに限り、その第三者に対抗することができるとされます。
よって、相殺禁止特約のついた債権を譲り受けた者が当該特約について悪意又は重過失である場合には、当該譲渡債権の債務者は、当該特約を譲受人に対抗することができるとなります。
解説の冒頭より、悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務の債務者は相殺をもって債権者に対抗することができないとされています。
よって、債務者に対する貸金債権の回収が困難なため、債権者がその腹いせに悪意で債務者の物を破損した場合には、債権者は、当該行為による損害賠償債務を受働債権として自己が有する貸金債権と相殺することはできないとされています。
解説の冒頭より、人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務の債務者は相殺をもって債権者に対抗することができないとされています。
よって、過失によって人の生命又は身体に損害を与えた場合、その加害者は、その被害者に対して有する貸金債権を自働債権として、被害者に対する損害賠償債務と相殺することができないとされています。
この問題のように、条文知識を問う問題は必ずでるので、条文素読もやった方が良いでしょう。
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02
民法の相殺に関する問題です。
正しいです。
差押え後に取得した債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであるときは、その第三債務者は、原則、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができます(民法511条1項)。ただし、第三債務者が差押え後に他人の債権を取得したときは、相殺をもって差押債権者に対抗することができません(民法511条2項)。本肢は、原則の内容なので、正しいです。
正しいです。
時効によって消滅した債権が、その消滅以前に相殺適状になっていた場合には、その債権者は、相殺をすることができます(民法508条)。よって、正しいです。
正しいです。
当事者が相殺を禁止し、又は制限する旨の意思表示をした場合には、その意思表示は、第三者がこれを知り(悪意)、又は重大な過失によって知らなかったとき(重過失)に限り、その第三者に対抗することができます(民法505条2項)。よって、本肢は正しいです。
正しいです。
悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務者は、相殺をもって債権者(被害者)に対抗することができません(民法509条1号)。
誤りです。
人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができません(民法509条2号)。そして、過失であったとしても、人の生命又は身体に損害を与えてしまったのであれば、加害者(人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務者)は、被害者に対して、「加害者の有する貸金債権」を自働債権として、損害賠償債務と相殺することはできません。よって、誤りです。
出題率の高い分野ですのでしっかり押さえておきましょう。
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03
本問は、相殺の可否についての基本的な条文知識を問う問題です。
相殺とは、
「債権者及び債務者が互いに同種の債権債務を有する場合に、どちらかの『一方的な』意思表示によって当該債権債務を対"当"額(対等ではありません)において消滅させること」
を言います。
「同種」「一方的」「意思表示」「対当額」というキーワードは憶えておきましょう。
このとき、相殺の意思表示をする債権者の債権を「自"働"債権」(自"動"ではありません)、相殺される債務者の有する反対債権を「受"働"債権」(受"動"ではありません)と言います。
債権法分野は、2017年に大改正のあったところであり、元々重要な点であるから改正されたわけですから、出題頻度の高い領域だと言えます。
正しいです。
差押えを受けた債権を受働債権とし、当該債権の第三債務者(=差押えを受けた債権の債務者)が差押え「前」の原因によって差押え「後」に取得した債権を自働債権として相殺をすることができます(第三債務者が取得した債権が他人の債権である場合を除く)。
民法第511条「差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできないが、差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗することができる。
2 前項の規定にかかわらず、差押え後に取得した債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであるときは、その第三債務者は、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる。ただし、第三債務者が差押え後に他人の債権を取得したときは、この限りでない。」
ちょっと条文が解り難いですが、噛み砕いてみます。
債権者A→債務者Bである債権Xがあります。
債権者C→債務者Aである債権Yがあります。
債権Yの債権者Cが強制執行のために債務者Aが債権者になっている債権Xを差押えました。
差押えをしたのはCですから、差押債権者はCです。
差押えを受けたのはAですから、差押債務者はAです。
そして差押債権Xの債務者であるBは第三債務者と呼びます。
ここで第三債務者BはAを債務者とする債権Zを有している、つまり、差押えを受けた債権の反対債権を有しています。
という状況です。
まず、第三債務者Bがその反対債権Zを取得したのがCによる差押えの「後」であれば相殺はできません(同条第1項前段)。
差押え時点で相殺適状になければ相殺はできないのが原則だということです。
一方、Bがその反対債権Zを取得したのがCによる差押えよりも「前」であれば相殺ができます(同項後段)。
差押え時点で反対債権Zの弁済期が未到来で相殺適状になかったとしても、既に反対債権Zを取得していたならばその時点で将来の相殺に対する期待(相殺によって自己の債権Zを回収し、又は自己の債務Xを弁済する期待)が生じるのでそれを保護すべきということです。
また、Bがその反対債権Zを取得したのがCによる差押えの「後」であるとしても、その債権の発生原因がCによる差押えの「前」に存在していればやはり相殺ができます(同条第2項本文)。これも、差押え時点で相殺適状になくても、差押え前に既に発生が見込まれる債権Zは、その時点で将来の相殺に対する期待も生じるのでそれを保護すべきということです。
ただし、確かに反対債権Zの発生原因は差押えの前に存在していたが、それはBとは関係ない誰かとAとの間の話で、Bは差押え後に発生した反対債権Zをその誰かから債権譲渡で取得したなど、Bが当該債権Zを直接取得したのではない場合は相殺できません(同条同項ただし書)。相殺適状も相殺に対する期待も差押え前の時点ではまったく生じていないということです。
正しいです。
消滅時効完成前に既に相殺適状にあれば、消滅時効が完成した債権を自働債権として相殺をすることができます。
民法第508条「時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には、その債権者は、相殺をすることができる。」
これは自働債権が時効完成前にすでに相殺適状にあれば、その時点で、相殺によって自己の債権を回収できる(又は、債務を免れることができる)という期待が生じているのでそれを保護することが当事者の公平に資するという発想です。
ちなみに、条文は、消滅した債権の債権者と言っているので、時効消滅した債権を自働債権とする相殺の話です。
では逆に時効消滅した債権を受働債権とする相殺はどうかと言えば、受働債権が時効消滅していることを知っていたならば、実質は単に自働債権を放棄しただけです。
しかし、仮に受働債権の時効消滅を知らなかった場合、当該相殺の意思表示は(おそらく動機の)錯誤による意思表示となり取り消せる可能性があります。一方で、時効消滅した債務の承認であり、判例に従えば信義則上、時効消滅を主張できないとも言えそうです。
私見ですが、動機の錯誤であれば、相手方に対して「時効消滅していない」という認識を前提として伝えているはずですから、信義則違反にはならないのではないかと思いますが。
ちょっと皆さんも考えてみてください。こういう思考が法的思考力を養うのです。
正しいです。
相殺禁止特約は、第三者が当該特約の存在につき悪意又は重過失の場合に限り、第三者に対抗することができます。
民法第505条第2項「前項の規定にかかわらず、当事者が相殺を禁止し、又は制限する旨の意思表示をした場合には、その意思表示は、第三者がこれを知り、又は重大な過失によって知らなかったときに限り、その第三者に対抗することができる。」
当然ですが、債権の譲受人もまた「第三者」です。
ちなみに、この規定は比較的最近改正のあったところです。改正前後で内容的には重過失が追加になったくらいでほとんど同じですが、実務的には結構重要な変更がされています。
すなわち、改正前はただし書により「善意の第三者に対抗することができない」とされていたので、訴訟では特約につき善意であることを主張立証する責任は第三者にあったところ、改正後は、相殺を主張する側が、第三者が特約につき悪意又は重過失であることを主張立証する責任を負うことになりました。
一般論として、近時の考え方としては、債権譲渡の自由譲渡性を重視する傾向があり、改正にも、債権譲渡の障害となり得る特約の効力はあまり認めたくないという思想が見え隠れしています。
証明責任はあくまでも訴訟法上の問題で、実体法上の要件論に異同がなければ実体法上の効力には直接には影響しないのですが、訴訟法理論的には、訴訟の帰趨を決することもあり、非常に重要な意味があります。
正しいです。
悪意による不法行為に基づく損害賠償を内容とする債権を受働債権とする相殺はできません。
民法第509条「次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。……。
一 悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務
……
」
本肢のような状況で相殺を認めると、どうせ弁済を受けられない無価値な債権を犠牲にして実質的に無問責で不法行為を行うことができてしまいます。それでは不法行為を誘発することにもつながりかねません。よって、このような相殺は法秩序維持の面から禁止されています。
誤りです。よってこの肢が正解です。
人の生命又は身体の侵害による不法行為に基づく損害賠償を内容とする債権を受働債権とする相殺はできません。
民法第509条「次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。……。
……
二 人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務(前号に掲げるものを除く。)
」
特に人の生命又は身体に対する侵害を理由とする損害賠償は、実際に支弁されなければ被害者救済にならないという理由です。
不法行為に基づく損害賠償債権を受働債権とする相殺は、改正前にはすべて禁止でした。しかし、一口に不法行為と言っても様々なものがあります。そこで、改正により、不法行為に基づく損害賠償債権を受働債権とする相殺は、これを禁止する趣旨、つまり、不法行為の誘発防止と被害者保護に必要な限度に限定しました。
改正前には、例えば物損交通事故で当事者双方が物的損害を受けているだけの場合に、各人が相手方に対して負う損害賠償債務は同一の事件から生じた不法行為債権であり、相殺を認めても不法行為を誘発することにはならず、現実の支弁をする必要がなければ相殺を認めて構わないのではないかという議論がありました。
現行規定はそのような問題に対する回答というわけです。
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