行政書士の過去問
令和5年度
法令等 問32

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問題

行政書士試験 令和5年度 法令等 問32 (訂正依頼・報告はこちら)

AとBとの間でA所有の美術品甲(以下「甲」という。)をBに売却する旨の本件売買契約が締結された。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定に照らし、妥当なものはどれか。
  • Aは、Bが予め甲の受領を明確に拒んでいる場合であっても、甲につき弁済期に現実の提供をしなければ、履行遅滞の責任を免れない。
  • Aは、Bが代金の支払を明確に拒んでいる場合であっても、相当期間を定めて支払の催告をしなければ、本件売買契約を解除することができない。
  • Aが弁済期に甲を持参したところ、Bが甲を管理するための準備が整っていないことを理由に受領を拒んだため、Aは甲を持ち帰ったが、隣人の過失によって生じた火災により甲が損傷した。このような場合であっても、Bは、Aに対して甲の修補を請求することができる。
  • Aが弁済期に甲を持参したところ、Bが甲を管理するための準備が整っていないことを理由に受領を拒んだため、Aは甲を持ち帰ったが、隣人の過失によって生じた火災により甲が滅失した。このような場合であっても、Bは、代金の支払を拒むことはできない。
  • Aが弁済期に甲を持参したところ、Bが甲を管理するための準備が整っていないことを理由に受領を拒んだため、Aは甲を持ち帰ったが、隣人の過失によって生じた火災により甲が滅失した。このような場合であっても、Bは、本件売買契約を解除することができる。

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この過去問の解説 (2件)

01

民法の契約不適合責任に関する問題です。

選択肢1. Aは、Bが予め甲の受領を明確に拒んでいる場合であっても、甲につき弁済期に現実の提供をしなければ、履行遅滞の責任を免れない。

誤りです。

債務者は、弁済の提供の時から、債務を履行しないことによって生ずべき責任を免れます(民法492条)。分かりやすくいうと、弁済の提供をすれば、債務不履行責任から免れるというこです。そして、「弁済の提供の方法」には、「現実の提供」と「口頭の提供」があります。原則、「現実の提供」が必要ですが、債権者が受領を明確に拒んでいる場合には、「現実の提供」だけでなく口頭の提供も不要と判示しています(最大判昭32.6.5)。よって、甲の引渡債権の債権者であるBが、予め甲の受領を明確に拒んでいる場合、Aは、現実の提供をしなくても履行遅滞の責任を免れます。よって、本肢は妥当ではありません。

選択肢2. Aは、Bが代金の支払を明確に拒んでいる場合であっても、相当期間を定めて支払の催告をしなければ、本件売買契約を解除することができない。

誤りです。

債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したときは、債権者は、催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができます(民法542条1項2号)。よって、代金債権の債務者であるBが代金の支払いを明確に拒んでいる場合、債権者Aは支払いの催告をすることなく直ちに売買契約を解除できます。

選択肢3. Aが弁済期に甲を持参したところ、Bが甲を管理するための準備が整っていないことを理由に受領を拒んだため、Aは甲を持ち帰ったが、隣人の過失によって生じた火災により甲が損傷した。このような場合であっても、Bは、Aに対して甲の修補を請求することができる。

誤りです。

売主が契約の内容に適合する目的物を使って、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主がその履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合、その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失し、又は損傷したその滅失又は損傷したとしても、買主は、契約不適合責任を追及できなくなります(民法567条2項)。よって、売主Aが契約の内容に適合する目的物(甲)を使って、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主Bが受領を拒み、隣人の過失によって生じた火災により甲が損傷した場合、Aに責任はないので、買主Bは、Aに対して甲の修補を請求することはできません。

選択肢4. Aが弁済期に甲を持参したところ、Bが甲を管理するための準備が整っていないことを理由に受領を拒んだため、Aは甲を持ち帰ったが、隣人の過失によって生じた火災により甲が滅失した。このような場合であっても、Bは、代金の支払を拒むことはできない。

妥当です。

選択肢3の「民法567条2項」のルールを使います。すると、売主Aが契約の内容に適合する目的物(甲)を使って、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主Bが受領を拒み、隣人の過失によって生じた火災により甲が滅失した場合、買主Bは、代金の支払いを拒むことはできません。

選択肢5. Aが弁済期に甲を持参したところ、Bが甲を管理するための準備が整っていないことを理由に受領を拒んだため、Aは甲を持ち帰ったが、隣人の過失によって生じた火災により甲が滅失した。このような場合であっても、Bは、本件売買契約を解除することができる。

誤りです。

選択肢3の「民法567条2項」のルールを使います。すると、売主Aが契約の内容に適合する目的物(甲)を使って、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主Bが受領を拒み、隣人の過失によって生じた火災により甲が滅失した場合、Bは、売買契約を解除することができません。

まとめ

出題率の高い分野ですのでしっかり押さえておきましょう。

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02

この問題のポイントは、民法第413条の2第2項、第493条、第536条2項、第542条1項2号、第543条、第567条2項の理解です。

民法第413条の2第2項は債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなすとされています。

民法第493条は弁済の提供は、債務の本旨に従って現実にしなければならない。ただし、債権者があらかじめその受領を拒み、又は債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をすれば足りるとされています。

民法第536条2項は債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならないとされています。

民法第542条1項2号は債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したときは債権者は催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができるとされています。

民法第第543条は債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができないとされています。

最後に、民法第567条2項は売主が契約の内容に適合する目的物をもって、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主がその履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失し、又は損傷したときも、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において、買主は、代金の支払を拒むことができないとされています。

 

以上の点をおさえて、解説をみていきましょう。

選択肢1. Aは、Bが予め甲の受領を明確に拒んでいる場合であっても、甲につき弁済期に現実の提供をしなければ、履行遅滞の責任を免れない。

解説の冒頭より、債権者があらかじめその受領を拒み、又は債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をすれば足りるとされています。

また、問題文より、この場合は、Aが債務者、Bが債権者となります。

よって、Aは、Bが予め甲の受領を明確に拒んでいる場合であっても、甲につき弁済期に現実の提供をしなくても、履行遅滞の責任を免れるとなります。

選択肢2. Aは、Bが代金の支払を明確に拒んでいる場合であっても、相当期間を定めて支払の催告をしなければ、本件売買契約を解除することができない。

解説の冒頭より、債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したときは債権者は催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができるとされています。

また、問題文より、この場合はAが債権者、Bが債務者となります。

よって、Aは、Bが代金の支払を明確に拒んでいる場合であっても、相当期間を定めて支払の催告をしなくても、本件売買契約を解除することができるとなります。

よって、Aは、Bが代金の支払を明確に拒んでいる場合、相当期間を定めて支払の催告をしなくても、本件売買契約を解除することができるとなります。

選択肢3. Aが弁済期に甲を持参したところ、Bが甲を管理するための準備が整っていないことを理由に受領を拒んだため、Aは甲を持ち帰ったが、隣人の過失によって生じた火災により甲が損傷した。このような場合であっても、Bは、Aに対して甲の修補を請求することができる。

解説の冒頭より、売主が契約の内容に適合する目的物をもって、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主がその履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失し、又は損傷したときも、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができないとされています。

よって、Aが弁済期に甲を持参したところ、Bが甲を管理するための準備が整っていないことを理由に受領を拒んだため、Aは甲を持ち帰ったが、隣人の過失によって生じた火災により甲が損傷した。このような場合であっても、Bは、Aに対して甲の修補を請求することができないとなります。

選択肢4. Aが弁済期に甲を持参したところ、Bが甲を管理するための準備が整っていないことを理由に受領を拒んだため、Aは甲を持ち帰ったが、隣人の過失によって生じた火災により甲が滅失した。このような場合であっても、Bは、代金の支払を拒むことはできない。

解説の冒頭より、債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなすとされており、債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができないとされています。

また問題文より、この場合の債務者はA、債権者はBとなります。

よって、Aが弁済期に甲を持参したところ、Bが甲を管理するための準備が整っていないことを理由に受領を拒んだため、Aは甲を持ち帰ったが、隣人の過失によって生じた火災により甲が滅失した。このような場合であっても、Bは、代金の支払を拒むことはできないとなります。

選択肢5. Aが弁済期に甲を持参したところ、Bが甲を管理するための準備が整っていないことを理由に受領を拒んだため、Aは甲を持ち帰ったが、隣人の過失によって生じた火災により甲が滅失した。このような場合であっても、Bは、本件売買契約を解除することができる。

解説の冒頭より、債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなすとされ、債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができないとされています。

よって、Aが弁済期に甲を持参したところ、Bが甲を管理するための準備が整っていないことを理由に受領を拒んだため、Aは甲を持ち帰ったが、隣人の過失によって生じた火災により甲が滅失した。このような場合であっても、Bは、本件売買契約を解除することができないとなります。

まとめ

この問題のように、条文知識を問う問題は必ず出るので、条文素読もやった方が良いでしょう。

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