行政書士の過去問 令和5年度 法令等 問34
この過去問の解説 (1件)
この問題のポイントは、最判昭39.9.25、最判昭53.10.20、最判平5.3.24、最判平20.6.10、最判平22.6.17の判例の理解です。
以下に判例のポイントをまとめます。
・最判昭39.9.25
この判例の争点は 不法行為による死亡に基づく損害賠償額から生命保険金を控除することができるかどうかです。
結果として、生命保険契約に基づいて給付される保険金は、すでに払い込んだ保険料の対価の 性質を有し、もともと不法行為の原因と関係なく支払わるべきものであるから、た またま本件事故のように不法行為により被保険者が死亡したためにその相続人たる 被上告人両名に保険金の給付がされたとしても、これを不法行為による損害賠償額 から控除すべきいわれはないと解するのが相当であるとされています。
・最判昭53.10.20
この判例の争点は、幼児が死亡した場合にその幼児の財産上の損害賠償額を計算する際にその幼児が将来得ることができた収入額から養育費を控除することができるかどうかです。
結果として、交通事故により死亡した幼児の財産上の損害賠償額の算定については、幼児の損害賠償債権を相続した者が一方で幼児の養育費の支出を必要としなくなつた場合においても、将来得べかりし収入額から養育費を控除すべきではないとされています。
・最判平5.3.24
この判例の争点は、地方公務員等共済組合法(昭和六〇年法律第一〇八号による改正前のもの)の規定に基づく退職年金の受給者が不法行為によつて死亡した場合にその相続人が被害者の死亡を原因として受給権を取得した同法の規定に基づく遺族年金の額を加害者の賠償額から控除することができるかどうかです。
結果として、地方公務員等共済組合法(昭和六〇年法律第一〇八号による改正前のもの)の規定に基づく退職年金の受給者が不法行為によつて死亡した場合に、その相続人が被害者の死亡を原因として同法の規定に基づく遺族年金の受給権を取得したときは、支給を受けることが確定した遺族年金の額の限度で、これを加害者の賠償すべき損害額から控除すべきであるとされています。
・最判平20.6.10
この判例の争点は、著しく高利の貸付けという形をとっていわゆるヤミ金融業者が元利金等の名目で借主から高額の金員を違法に取得し多大な利益を得る、という反倫理的行為に該当する不法行為の手段として金員を交付した場合に、この貸付けによって損害を被った借主が得た貸付金に相当する利益は、借主から貸主に対する不法行為に基づく損害賠償請求に際して損害賠償額から控除されるかどうかです。
その結果として、社会の倫理,道徳に反する醜悪な行為に該当する不法行為の被害者が,これによって損害を被るとともに,当該醜悪な行為に係る給付を受けて利益を得た場合には,同利益については,加害者からの不当利得返還請求が許されないだけでなく,被害者からの不法行為に基づく損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として被害者の損害額から控除することも,民法708条の趣旨に反するものとして許されないとされています。
・最判平22.6.17
この判例の争点は、新築の建物が安全性に関する重大な瑕疵があるために、社会通念上、社会経済的な価値を有しないと評価される場合であっても、建て替えまで買主がその建物に居住していた居住利益は、買主からの建て替え費用相当額の損害賠償請求に際して損害賠償額から控除されるかどうかです。
結論として、売買の目的物である新築建物に重大な瑕疵がありこれを建て替えざるを得ない場合において,当該瑕疵が構造耐力上の安全性にかかわるものであるため建物が倒壊する具体的なおそれがあるなど,社会通念上,建物自体が社会経済的な価値を有しないと評価すべきものであるときには,上記建物の買主がこれに居住していたという利益については,当該買主からの工事施工者等に対する不法行為に基づく建て替え費用相当額の損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として損害額から控除することはできないとされています。
以上の点をおさえて、解説をみていきましょう。
解説の冒頭より、死亡した幼児の財産上の損害賠償額の算定については、幼児の損害賠償債権を相続した者が一方で幼児の養育費の支出を必要としなくなつた場合においても、将来得べかりし収入額から養育費を控除すべきではないとされています。
よって、幼児が死亡した場合には、親は将来の養育費の支出を免れるが、幼児の逸失利益の算定に際して親の養育費は親に対する損害賠償額から控除されないとなります。
解説の冒頭より、生命保険契約に基づいて給付される保険金は、すでに払い込んだ保険料の対価の 性質を有し、もともと不法行為の原因と関係なく支払わるべきものであるから、た またま本件事故のように不法行為により被保険者が死亡したためにその相続人たる 被上告人両名に保険金の給付がされたとしても、これを不法行為による損害賠償額 から控除すべきいわれはないと解するのが相当であるとされています。
よって、被害者が死亡した場合に支払われる生命保険金は、同一の損害についての重複填補に当たらないので、被害者の逸失利益の算定に当たって支払われる生命保険金は損害賠償額から控除されないとなります。
解説の冒頭より、地方公務員等共済組合法(昭和六〇年法律第一〇八号による改正前のもの)の規定に基づく退職年金の受給者が不法行為によつて死亡した場合に、その相続人が被害者の死亡を原因として同法の規定に基づく遺族年金の受給権を取得したときは、支給を受けることが確定した遺族年金の額の限度で、これを加害者の賠償すべき損害額から控除すべきであるとされています。
よって、退職年金の受給者が死亡し遺族が遺族年金の受給権を得た場合には、遺族年金は遺族の生活水準の維持のために支給されるものなので、退職年金受給者の逸失利益の算定に際して、いまだ支給を受けることが確定していない遺族年金の額については損害賠償額から控除されないとなります。
解説の冒頭より、社会の倫理,道徳に反する醜悪な行為に該当する不法行為の被害者が,これによって損害を被るとともに,当該醜悪な行為に係る給付を受けて利益を得た場合には,同利益については,加害者からの不当利得返還請求が許されないだけでなく,被害者からの不法行為に基づく損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として被害者の損害額から控除することも,民法708条の趣旨に反するものとして許されないとされています。
よって、著しく高利の貸付けという形をとっていわゆるヤミ金融業者が元利金等の名目で借主から高額の金員を違法に取得し多大な利益を得る、という反倫理的行為に該当する不法行為の手段として金員を交付した場合、この貸付けによって損害を被った借主が得た貸付金に相当する利益は、借主から貸主に対する不法行為に基づく損害賠償請求に際して損害賠償額から控除されないとなります。
解説の冒頭より、売買の目的物である新築建物に重大な瑕疵がありこれを建て替えざるを得ない場合において,当該瑕疵が構造耐力上の安全性にかかわるものであるため建物が倒壊する具体的なおそれがあるなど,社会通念上,建物自体が社会経済的な価値を有しないと評価すべきものであるときには,上記建物の買主がこれに居住していたという利益については,当該買主からの工事施工者等に対する不法行為に基づく建て替え費用相当額の損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として損害額から控除することはできないとされています。
よって、新築の建物が安全性に関する重大な瑕疵があるために、社会通念上、社会経済的な価値を有しないと評価される場合、建て替えまで買主がその建物に居住していた居住利益は、買主からの建て替え費用相当額の損害賠償請求に際して損害賠償額から控除されないとなります。
この問題に出てきた判例は、初出題のものもあるので、今回出てきた判例を一度見直した方が良いでしょう。
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