行政書士 過去問
令和5年度
問35 (法令等 問35)

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問題

行政書士試験 令和5年度 問35(法令等 問35) (訂正依頼・報告はこちら)

遺言に関する次のア~オの記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものの組合せはどれか。

ア  重度の認知症により成年被後見人となった高齢者は、事理弁識能力を一時的に回復した場合であっても、後見開始の審判が取り消されない限り、遺言をすることができない。
イ  自筆証書遺言の作成に際し、カーボン紙を用いて複写の方法で作成が行われた場合であっても、自書の要件を満たし、当該遺言は有効である。
ウ  夫婦は、同一の証書によって遺言をすることはできない。
エ  遺言において受遺者として指定された者が、遺言者の死亡以前に死亡した場合には、受遺者の相続人が受遺者の地位を承継する。
オ  遺言は、遺言者が死亡して効力を生じるまでは、いつでも撤回することができるが、公正証書遺言を撤回するには公正証書遺言により、自筆証書遺言を撤回するには自筆証書遺言により行わなければならない。
  • ア・エ
  • ア・オ
  • イ・ウ
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この過去問の解説 (3件)

01

この問題のポイントは、民法第973条第1項、第975条、第994条、第1022条と最判平5.10.19の理解です。

まず民法第973条第1項は成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならないとされています。

民法第975条は遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができないとされています。

民法第994条は遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じないとされています。

民法第1022条は遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができるとされています。

 

最後に最判平5.10.19はカーボン紙を用いて複写の方法で作成された自筆の遺言は、民法九六八条一項にいう「自書」の要件に欠けるものではないとされています。

 

以上の点をおさえて、解説を見ていきましょう。

選択肢1. ア・エ

解説の冒頭より、成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならないとされています。

よって、アは重度の認知症により成年被後見人となった高齢者は、事理弁識能力を一時的に回復した場合は、医師二人以上の立会いがあれば、遺言をすることができるとなります。

また、解説の冒頭より、遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じないとされています。

よって、エは遺言において受遺者として指定された者が、遺言者の死亡以前に死亡した場合には、その遺贈は無効となるなります。

選択肢2. ア・オ

解説の冒頭より、遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができるとされています。

よって、オは遺言は、遺言者が死亡して効力を生じるまでは、いつでも撤回することができるが、公正証書遺言を撤回するには公正証書遺言により、自筆証書遺言を撤回するには自筆証書遺言により行う必要はないとなります。

選択肢3. イ・ウ

解説の冒頭より、カーボン紙を用いて複写の方法で作成された自筆の遺言は、民法九六八条一項にいう「自書」の要件に欠けるものではないとされています。

よって、イは自筆証書遺言の作成に際し、カーボン紙を用いて複写の方法で作成が行われた場合であっても、自書の要件を満たし、当該遺言は有効であるとなります。

解説の冒頭より、遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができないとされています。

よって、ウは夫婦は、同一の証書によって遺言をすることはできないとなります。

まとめ

この問題のように、条文知識を問う問題は必ず出てくるので、条文素読もやった方が良いでしょう。

また、今回出てきた判例は今後も出てくる可能性があるので、読み直した方が良いでしょう。

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02

民法の遺言に関する問題です。

 

イ・ウが妥当です。

 

ア・・・誤り

成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師2人以上の立会いがなければなりません(民法973条1項)。しかし、本肢のように「後見開始の審判が取り消されない限り、遺言をすることができない」という定めはありません。よって、妥当ではありません。

 

イ・・・妥当

自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印(ハンコ)を押さなければなりません(民法968条1項)。そして、カーボン複写の方法によって記載された自筆の遺言であっても「自書」の要件を満たします(最判平5.10.19)。

 

ウ・・・妥当

遺言について、2人以上の者が同一の証書ですることはできません(民法975条)。つまり、1つの証書(遺言書)に夫婦二人が遺言を記載することはできないということです。夫婦であっても、別々の証書に遺言しなければなりません。

 

エ・・・誤り

遺贈について、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、遺贈の効力は生じません(民法994条1項)。

 

オ・・・誤り

遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができます(民法1022条)。そして、「公正証書遺言を撤回するには公正証書遺言により、自筆証書遺言を撤回するには自筆証書遺言により行わなければならない」という規定はないので、妥当ではありません。遺言の方式に従ってさえいれば、後の遺言が優先し、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなします(民法1023条1項)。

 

 

 

選択肢1. ア・エ

全て誤りです。

選択肢2. ア・オ

全て誤りです。

選択肢3. イ・ウ

全て妥当です。

選択肢4. イ・エ

エが誤りです。

選択肢5. ウ・オ

オが誤りです。

まとめ

出題率の高い分野ですのでしっかり押さえておきましょう。

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03

本問は、遺言の有効性についての基礎的な知識を問う問題です。

遺言は、遺言能力のある者が遺言の方式に従ってすることが必要です。


遺言能力は、遺言をすることができる法律上の資格又は地位のことですが、遺言が身分行為であることから、行為能力の制限は適用されません


民法第951条「15歳に達した者は、遺言をすることができる。」
民法第952条「第5条、第9条、第13条及び第17条の規定は、遺言については、適用しない。」

 

註:第5条は未成年者、第9条は成年被後見人、第13条は被保佐人、第17条は被補助人の行為能力を制限する規定です。

 

なお、第5条の規定が適用されないということは、15歳未満の未成年者が法定代理人の同意を得て遺言をすることはできないと言うことでもあります。
また、成年被後見人の行為能力の制限が適用されないと言っても、成年被後見人はそもそも「事理を弁識する能力を欠く常況にある」(民法第7条)ために通常は遺言能力がありません。事理弁識能力を一時回復した場合に一定の要件に従って遺言をすることができるにとどまります(民法第973条)。

 

方式については、「普通の方式」(民法第967条~975条)と「特別の方式」(同法第976条~984条)があります。特に、「普通の方式」の3種類は必須知識として憶えておきましょう。
普通の方式の遺言は、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つがあります。

 

また、共同遺言は禁止されています。
共同遺言は、複数の遺言者の意思が関連しているために、遺言の撤回の自由が制限されるので禁止されます(民法第975条)。

 

 

アは妥当ではありません
遺言能力がなければ有効な遺言はできませんが、遺言能力の有無は成年被後見人であるかどうかという形式的な判断によるものではありません。少なくとも事理弁識能力を一時回復していれば、一定の要件の下で遺言をすることができます。逆に言えば、通常は遺言能力がないので遺言ができないということでもあります。

 

民法第973条第1項「成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならない。」

 

医師二人以上が立ち会うことで、一時的に能力を回復した成年被後見人も遺言をすることができます。

 


イは妥当です。
カーボン複写であっても、本人の自書として扱われます。

 

裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan

「カーボン紙を用いることも自書の方法として許されないものではないから、本件遺言書は、民法九六八条一項の自書の要件に欠けるところはない」

 

一方、コピーはだめです。
カーボン複写は本人が直接自書する複写であるのに対して、コピーは直接自書していない点が違うということでしょう。

 


ウは妥当です。
遺言は、一人一通で作成する必要があります。共同遺言は認められていません。

 

民法第975条「遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。」

 

共同遺言は複数の遺言者の意思が相互に関連しているせいで自由に撤回できないことが問題になります。

また、仮に一部の遺言者が死亡後に生存遺言者が当該遺言を撤回した場合に、死亡遺言者の意思に反する結果になることもあり得る話で、紛争の原因にもなりかねません。

 

なお、形式的に一通の遺言であっても、それぞれ個別の遺言として容易に分割できるものであれば共同遺言には当たりません。

 

裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan

「本件遺言書はB五判の罫紙四枚を合綴したもので、各葉ごとにDの印章による契印がされているが、その一枚目から三枚目までは、D名義の遺言書の形式のものであり、四枚目は被上告人B名義の遺言書の形式のものであって、両者は容易に切り離すことができる、というものである。右事実関係の下において、本件遺言は、民法975条によって禁止された共同遺言に当たらないとした原審の判断は、正当として是認することができる」

 

また、共同遺言において遺言者の一方について方式違反があって無効となるべき場合であっても、なお共同遺言であり、他の遺言者単独の遺言として有効にはなりません。

 

裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
「同一の証書に二人の遺言が記載されている場合は、そのうちの一方に氏名を自書しない方式の違背があるときでも、右遺言は、民法975条により禁止された共同遺言にあたる」

 


エは妥当ではありません
受遺者について代襲相続に相当する制度はありません。
遺言の効力が発生した時点(つまり、遺言者が死亡した時点)で受遺者が存在しなければ、当該遺言の遺贈にかかる部分は効力を生じません。

 

民法第994条第1項「遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。」

 

 

オは妥当ではありません

遺言の撤回の方法については、遺言の方式であること以上の定めは特にありません。
遺言の方式による優劣その他の区別はありません。つまり、自筆証書遺言であると公正証書遺言であると秘密証書遺言であると、有効な遺言である限り遺言であることに他ならず、有効な遺言である限り、形式によらず日付の新しい遺言が(有効であることを前提に)優先します。
したがって、公正証書遺言を自筆証書遺言で撤回することはもちろん、その逆も可能です。

 

民法第1022条「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。」

 

 

なお、ついでなので法定撤回の規定(民法第1023条及び1024条)と、「撤回の撤回」の効力は憶えておきましょう。

法定撤回とは、
①遺言者が前の遺言と抵触する遺言をした場合
②遺言の後に遺言者がした法律行為が遺言と抵触する場合
にはその抵触する限度で、前の遺言は撤回されたものとみなす(*)
③遺言書を遺言者自身が故意に破棄した場合
④遺言者が遺「贈」の目的物を破棄した場合
遺言は撤回されたとみなす。
であり、撤回された遺言の全部又は一部は効力を失います

 

民法第1023条「前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。」
同法第1024条「遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。」

 

(*)みなすとは。
「法律上の擬制」とも言います。
これは、法律上はそういうものとして扱い、たとえ反証があったとしても覆らないという意味です。法律上の擬制は、反証を認めない強力な効果なので、「みなす」と条文で規定しています。
時にプロの弁護士でも不用意に「みなす」を使う人がいますが、「みなす」は法律用語なので正確に使いましょう。
時々、道路交通法の話で「みなし公道」とか言う人がいますが、そんなものはありません。公道とみなす条文上の根拠がないからです。そもそも道路交通法には「公道」という言葉すら出てきませんからわざわざみなす意味自体がありません。
ちなみに、「みなす」と似た言葉で「推定する」があります。これは、法律上は一応そういうものとして扱うがそうでないという反証により覆すことができるという意味です。条文の根拠がある法律上の推定と条文の根拠がない事実上の推定があります。


「撤回の撤回」の効力は、
遺言の「撤回」により効力を失った遺言は、当該「撤回」を撤回しても復活しない
ただし、錯誤、詐欺又は強迫による「撤回」を撤回した場合は、当該「撤回」二より効力を失った遺言の効力が回復する
というものです。

 

民法第1025条「前三条の規定により撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。ただし、その行為が錯誤、詐欺又は強迫による場合は、この限りでない。」

 

この点について、遺言者の生前の意思を最大限尊重しようという趣旨から、錯誤、詐欺又は脅迫以外であっても、例えば1番目の遺言を2番目の遺言で撤回したが、更に3番目の遺言で2番目の遺言を撤回した場合に、当該「撤回(2番目の遺言)を撤回した遺言(3番目の遺言)」の内容から先の撤回前の遺言(1番目の遺言)の効力を復活させる遺言者の意思が明らかであれば、先の撤回前の遺言(1番目の遺言)の効力が復活することを認めた判例もあります。

 

裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
「遺言(以下「原遺言」という。)を遺言の方式に従って撤回した遺言者が、更に右撤回遺言を遺言の方式に従って撤回した場合において、遺言書の記載に照らし、遺言者の意思が原遺言の復活を希望するものであることが明らかなときは、民法一〇二五条ただし書の法意にかんがみ、遺言者の真意を尊重して原遺言の効力の復活を認めるのが相当」
「亡Dは、乙遺言をもって甲遺言を撤回し、更に丙遺言をもって乙遺言を撤回したものであり、丙遺言書の記載によれば、亡Dが原遺言である甲遺言を復活させることを希望していたことがあきらかであるから、本件においては、甲遺言をもって有効な遺言と認めるのが相当」

 


以上、妥当なものはイとウです。

選択肢1. ア・エ

ア、エともに妥当ではありません

よってこの肢は正解ではありません。

選択肢2. ア・オ

ア、オともに妥当ではありません

よってこの肢は正解ではありません。

選択肢3. イ・ウ

イ、ウともに妥当です。

よってこの肢が正解です。

選択肢4. イ・エ

イは妥当です。

エは妥当ではありません

よってこの肢は正解ではありません。

 

選択肢5. ウ・オ

ウは妥当です。

オは妥当ではありません

よってこの肢は正解ではありません。

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