行政書士 過去問
令和6年度
問5 (法令等 問5)

このページは閲覧用ページです。
履歴を残すには、 「新しく出題する(ここをクリック)」 をご利用ください。

問題

行政書士試験 令和6年度 問5(法令等 問5) (訂正依頼・報告はこちら)

教育に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当でないものはどれか。
  • 義務教育は無償とするとの憲法の規定は、授業料不徴収を意味しており、それ以外に、教科書、学用品その他教育に必要な一切の費用を無償としなければならないことまでも定めたものと解することはできない。
  • 教科書は執筆者の学術研究の結果の発表を目的とするものではなく、また、教科書検定は検定基準に違反する場合に教科書の形態での研究結果の発表を制限するにすぎないので、教科書検定は学問の自由を保障した憲法の規定には違反しない。
  • 公教育に関する国民全体の教育意思は、法律を通じて具体化されるべきものであるから、公教育の内容・方法は専ら法律により定められ、教育行政機関も、法律の授権に基づき、広くこれらについて決定権限を有する。
  • 国民の教育を受ける権利を定める憲法規定の背後には、みずから学習することのできない子どもは、その学習要求を充足するための教育を自己に施すことを大人一般に対して要求する権利を有するとの観念が存在している。
  • 普通教育では、児童生徒に十分な批判能力がなく、また、全国的に一定の教育水準を確保すべき強い要請があること等からすれば、教師に完全な教授の自由を認めることはとうてい許されない。

次の問題へ

正解!素晴らしいです

残念...

この過去問の解説 (2件)

01

教育

教育を受ける権利(憲法26条1項)、および教育を受けさせる義務(憲法27条2項)は憲法上の社会権として保障されています。

これをどう解釈するかの問題です。

選択肢1. 義務教育は無償とするとの憲法の規定は、授業料不徴収を意味しており、それ以外に、教科書、学用品その他教育に必要な一切の費用を無償としなければならないことまでも定めたものと解することはできない。

節問の通りです。

国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については、授業料を徴収しない」(教育基本法5条4項)

一切の費用を無償とするとはしていません。

選択肢2. 教科書は執筆者の学術研究の結果の発表を目的とするものではなく、また、教科書検定は検定基準に違反する場合に教科書の形態での研究結果の発表を制限するにすぎないので、教科書検定は学問の自由を保障した憲法の規定には違反しない。

「本件検定は、申請図書に記述された研究結果が、たとい執筆者が正当と信ずるものであったとしても、いまだ学界において支持を得ていなかったり、あるいは当該学校、当該教科、当該科目、当該学年の児童、生徒の教育として取り上げるにふさわしい内容と認められないときなど旧検定基準の各条件に違反する場合に、教科書の形態における研究結果の発表を制限するにすぎない。」

 

「本件検定が学問の自由を保障した憲法二三条の規定に違反しないことは、当裁判所の判例~の趣旨に徴して明らかである。」

(最判平5.3.16)

選択肢3. 公教育に関する国民全体の教育意思は、法律を通じて具体化されるべきものであるから、公教育の内容・方法は専ら法律により定められ、教育行政機関も、法律の授権に基づき、広くこれらについて決定権限を有する。

×

親の教育の自由は、主として家庭教育等学校外における教育や学校選択の自由にあらわれるものと考えられるし、また、私学教育における自由や前述した教師の教授の自由も、それぞれ限られた一定の範囲においてこれを肯定するのが相当である」

「教育内容に対する国の正当な理由に基づく合理的な決定権能を否定する理由となるものではない

(旭川学テ事件 最判昭51.5.21)

 

国が正当な理由に基づいて法律で公教育の内容を決定することができますが、国民(親・教師)も一定の範囲で決定する権限があります。

 

選択肢4. 国民の教育を受ける権利を定める憲法規定の背後には、みずから学習することのできない子どもは、その学習要求を充足するための教育を自己に施すことを大人一般に対して要求する権利を有するとの観念が存在している。

国は政策的責務、親は教育を受けさせる義務を憲法26条2項で負っています。

したがって国や親が教育を受けさせる義務を負う以上、子供は同1項の学習権は請求権と解することができます。

選択肢5. 普通教育では、児童生徒に十分な批判能力がなく、また、全国的に一定の教育水準を確保すべき強い要請があること等からすれば、教師に完全な教授の自由を認めることはとうてい許されない。

確かに教育内容・方法は義務教育をする教師の教授の自由に支えられています。

しかし、全国一定水準の教育の確保、憲法の採用する議会制民主主義の下においては、国民全体の意思の決定の唯一のルートである国会の法律制定を通じて決定すべきことから、国にも一定の範囲で教育権限が認められます。

 

まとめ

この問題は重要判例(旭川学テ事件 最判昭51.5.21)についての問題です。

判例を一読しておくことをお勧めします。

参考になった数5

02

本問は、

 

義務教育の「無償」の範囲を判じた最判昭和39年2月26日(裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan)
教育権の所在について、国家教育権説と国民教育権のいずれでもない折衷説を採ることを明らかにした最判昭和51年5月21日(「旭川学テ事件裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan)
教科書検定の合憲性を認めた最判平成5年3月16日(「教科書裁判第1次訴訟上告審裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan)

 

を題材とした問題です。
いずれも憲法の基本判例です。

選択肢1. 義務教育は無償とするとの憲法の規定は、授業料不徴収を意味しており、それ以外に、教科書、学用品その他教育に必要な一切の費用を無償としなければならないことまでも定めたものと解することはできない。

妥当です。

 

最判昭和39年2月26日「憲法26条2項後段の『義務教育は、これを無償とする。』……の無償とは授業料不徴収の意味と解するのが相当である。」
「憲法の義務教育は無償とするとの規定は、授業料のほかに、教科書、学用品その他教育に必要な一切の費用まで無償としなければならないことを定めたものと解することはできない。」
 

 

なお、「義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律」により、1963年(昭和38年)以降、義務教育の教科書は無償になっています。本件事案は、判決は昭和39年ですが、事案自体は無償化以前のものです。

選択肢2. 教科書は執筆者の学術研究の結果の発表を目的とするものではなく、また、教科書検定は検定基準に違反する場合に教科書の形態での研究結果の発表を制限するにすぎないので、教科書検定は学問の自由を保障した憲法の規定には違反しない。

妥当です。

 

教科書裁判第1次訴訟上告審判決「教科書は、……学術研究の結果の発表を目的とするものではなく、本件検定(=教科書検定。筆者註)は、……教科書の形態における研究結果の発表を制限するにすぎない。……学問の自由を保障した憲法二三条の規定に違反しない」

選択肢3. 公教育に関する国民全体の教育意思は、法律を通じて具体化されるべきものであるから、公教育の内容・方法は専ら法律により定められ、教育行政機関も、法律の授権に基づき、広くこれらについて決定権限を有する。

妥当ではありません。よってこの肢が正解です。

 

旭川学テ事件判決「一の見解は、……法律は、当然に、公教育における教育の内容及び方法についても包括的にこれを定めることができ、また、教育行政機関も、法律の授権に基づく限り、広くこれらの事項について決定権限を有する、と主張する(=国家教育権説。この肢の内容です。筆者註)。これに対し、他の見解は、……子どもの教育の内容及び方法については、国は原則として介入権能をもたず、教育は、その実施にあたる教師が、……その内容及び方法を決定、遂行すべきものであり、……憲法二三条における学問の自由の保障が、学問研究の自由ばかりでなく、教授の自由をも含み、教授の自由は、……普通教育……にも及ぶと解すべき……と主張する(=国民教育権説。筆者註)のである。」
「当裁判所は、右の二つの見解はいずれも極端かつ一方的であり、そのいずれをも全面的に採用することはできない」
 

 

最高裁判所の見解としては、


「国は、……憲法上は、……必要かつ相当と認められる範囲において、
教育内容についてもこれを決定する権能を有するものと解さざるをえず、これを否定すべき理由ないし根拠は、どこにもみいだせない」
「教育に……政治的影響が深く入り込む危険があることを考えるときは、教育内容に対する……国家的介入についてはできるだけ抑制的であることが要請される
「子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような国家的介入、例えば、誤つた知識や一方的な観念を子どもに植えつけるような内容の教育を施すことを強制するようなことは、憲法二六条、一三条の規定上からも許されないと解することができる」
「けれども、これらのことは、前述のような子どもの教育内容に対する国の正当な理由に基づく合理的な決定権能を否定する理由となるものではない
 

としています。

 

ごく簡単にまとめると、
「国には教育内容について正当な理由に基づく合理的決定権能があるが、それはできるだけ抑制的であるべきで、必要かつ相当な範囲に限られる」
ということです。理論又は講学上、国家教育権説国民教育権説に対して、折衷説と呼ばれます。

選択肢4. 国民の教育を受ける権利を定める憲法規定の背後には、みずから学習することのできない子どもは、その学習要求を充足するための教育を自己に施すことを大人一般に対して要求する権利を有するとの観念が存在している。

妥当です。

 

旭川学テ事件判決「憲法中教育そのものについて直接の定めをしている規定は憲法二六条であるが、……この規定の背後には、……みずから学習することのできない子どもは、その学習要求を充足するための教育を自己に施すことを大人一般に対して要求する権利を有するとの観念が存在している」

選択肢5. 普通教育では、児童生徒に十分な批判能力がなく、また、全国的に一定の教育水準を確保すべき強い要請があること等からすれば、教師に完全な教授の自由を認めることはとうてい許されない。

妥当です。

 

旭川学テ事件判決「普通教育においては、児童生徒にこのような能力(=教授内容を批判する能力。筆者註)がなく、……全国的に一定の水準を確保すべき強い要請があること等に思いをいたすときは、普通教育における教師に完全な教授の自由を認めることは、とうてい許されない

参考になった数1