行政書士 過去問
令和6年度
問6 (法令等 問6)

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問題

行政書士試験 令和6年度 問6(法令等 問6) (訂正依頼・報告はこちら)

選挙制度の形成に関する国会の裁量についての次の記述のうち、最高裁判所の判例の趣旨に照らし、妥当でないものはどれか。
  • 都道府県が歴史的にも政治的、経済的、社会的にも独自の意義と実体を有する単位である以上、参議院の選挙区選出議員に都道府県代表的な意義を付与し、その枠内で投票価値の平等の実現を図ることは、憲法上許容される。
  • 小選挙区制は、死票を多く生む可能性があることは否定し難いが、死票はいかなる制度でも生ずるものであり、結局のところ選挙を通じて国民の総意を議席に反映させる一つの合理的方法ということができる。
  • 同時に行われる二つの選挙に同一の候補者が重複して立候補することを認めるか否かは、国会が裁量により決定することができる事項であり、衆議院議員選挙で小選挙区選挙と比例代表選挙との重複立候補を認める制度は憲法に違反しない。
  • 政党を媒体として国民の政治意思を国政に反映させる名簿式比例代表制を採用することは国会の裁量に属し、名簿登載者個人には投票したいがその属する政党には投票したくないという意思を認めない非拘束名簿式比例代表制もまた同様である。
  • 参議院の比例代表選出議員について、政党が優先的に当選者となるべき候補者を定めることができる特定枠制度は、選挙人の総意によって当選人が決定される点で、選挙人が候補者個人を直接選択して投票する方式と異ならず、憲法に違反しない。

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この過去問の解説 (2件)

01

国会の選挙制度

国会の選挙については憲法41条以下の規定に基づき公職選挙法その他の法が規定する手続きに則って行います。

そして民意を国会に反映させるため様々な制度が制定されてきました。

 

選択肢1. 都道府県が歴史的にも政治的、経済的、社会的にも独自の意義と実体を有する単位である以上、参議院の選挙区選出議員に都道府県代表的な意義を付与し、その枠内で投票価値の平等の実現を図ることは、憲法上許容される。

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「議員の国民代表的性格とは、本来的には、両議院の議員は、その選出方法がどのようなものであるかにかかわらず特定の階級、党派、地域住民など一部の国民を代表するものではなく全国民を代表するものであつて、選挙人の指図に拘束されることなく独立して全国民のために行動すべき使命を有するものであるということを意味し・・・」

事実上都道府県代表的な意義ないし機能を有する要素を加味したからといつて、これによつて選出された議員が全国民の代表であるという性格と矛盾抵触することになるものということもできない。

 

参議院議員が都道府県代表だとするのは事実上の効果に過ぎず、参議院議員はあくまで全国民を代表するものです。

選択肢2. 小選挙区制は、死票を多く生む可能性があることは否定し難いが、死票はいかなる制度でも生ずるものであり、結局のところ選挙を通じて国民の総意を議席に反映させる一つの合理的方法ということができる。

小選挙区制は確かに死票を多く生みますが、政権を安定させ二大政党制を促進します

政権が安定し多党制にならないという点を考えれば合理的な選挙制度といえます。

選択肢3. 同時に行われる二つの選挙に同一の候補者が重複して立候補することを認めるか否かは、国会が裁量により決定することができる事項であり、衆議院議員選挙で小選挙区選挙と比例代表選挙との重複立候補を認める制度は憲法に違反しない。

小選挙区や選挙区選挙と比例代表制の重複立候補は公職選挙法(86条の2、86条の3)で定められています。

憲法で重複立候補について直接定めた規定はありません。

※なお、解禁されたのは平成6年の法改正です。

選択肢4. 政党を媒体として国民の政治意思を国政に反映させる名簿式比例代表制を採用することは国会の裁量に属し、名簿登載者個人には投票したいがその属する政党には投票したくないという意思を認めない非拘束名簿式比例代表制もまた同様である。

衆議院が拘束名簿式比例代表制を採るのも、参議院が非拘束名簿式比例代表制をとるのも全て国会が定めた公職選挙法によります。

(公職選挙法86条の2、86条の3)

選択肢5. 参議院の比例代表選出議員について、政党が優先的に当選者となるべき候補者を定めることができる特定枠制度は、選挙人の総意によって当選人が決定される点で、選挙人が候補者個人を直接選択して投票する方式と異ならず、憲法に違反しない。

判例は特定枠選出について合憲の判断を下しました。(最判令2.10.23)

 

まとめ

選挙制度と憲法に関する判例の中でも投票価値の平等(議員定数不均衡問題)は重要です。

原則として1票の重さが1:2以上になると一人に複数投票を認めているのと同じになるので憲法44条や14条に反し違憲状態となります。

しかし選挙自体は無効ではなく(事情判決の法理)、合理的期間内に是正されれば合憲となります。

違憲状態とは暫定的には憲法に違反している状態ですが、許容できる範囲で是正がなされれば最終的には合憲の結論が出せる状態で、違憲とは断じていない状態です。

 

なお、投票価値の平等について争う訴訟は行政事件訴訟法上の民衆訴訟にあたります。

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02

本問は、選挙制度に関する判例知識を問う問題です。
参議院と衆議院の違い、小選挙区制と比例代表制(拘束名簿式、非拘束名簿式)の意味、これらに関する判例については、基礎知識として憶えておきましょう。
「判例の趣旨に照らし」とある通り、判例の言い回しそのままではない可能性があります。その意味では、国語能力も試されています。

選択肢1. 都道府県が歴史的にも政治的、経済的、社会的にも独自の意義と実体を有する単位である以上、参議院の選挙区選出議員に都道府県代表的な意義を付与し、その枠内で投票価値の平等の実現を図ることは、憲法上許容される。

妥当ではありません。よってこの肢が正解です。

 

最大判昭和58年4月27日(裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan)には、

 

「都道府県が歴史的にも政治的、経済的、社会的にも独自の意義と実体を有し一つの政治的まとまりを有する単位としてとらえうることに照らし、これを構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味しようとしたものであると解することができる。」
「参議院地方選出議員の選挙の仕組みについて事実上都道府県代表的な意義ないし機能を有する要素を加味したからといつて、これによつて選出された議員が全国民の代表であるという性格と矛盾抵触することになるものということもできない」

 

とあり、以後の判例もこのこと自体を否定はしていません。

 

しかし、

 

最大判平成24年10月17日(裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan 及び 裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan)

「昭和58年大法廷判決は,参議院議員の選挙制度において都道府県を選挙区の単位として各選挙区の定数を定める仕組みにつき,都道府県が歴史的にも政治的,経済的,社会的にも独自の意義と実体を有し,政治的に一つのまとまりを有する単位として捉え得ることに照らし,都道府県を構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味しようとしたものと解することができると指摘している。都道府県が地方における一つのまとまりを有する行政等の単位であるという点は今日においても変わりはなく,この指摘もその限度においては相応の合理性を有していたといい得るが,これを参議院議員の選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請はなく,むしろ,都道府県を選挙区の単位として固定する結果,その間の人口較差に起因して投票価値の大きな不平等状態が長期にわたって継続していると認められる状況の下では,上記の仕組み自体を見直すことが必要になるものといわなければならない。」


すなわち、都道府県を選挙区の単位とすることに全く合理性がないというわけではないが、長期にわたる較差を正当化するには限界があると言っています。
都道府県代表的な意義を加味した枠組みのせいで投票価値の不平等が長期にわたって継続している状況では、枠組み自体を見直す必要もあるということであり、決してそのような枠組みを前提にして平等を図ればよいなどとは言っていないのです。

 

 

なお、同判決はさらに、

 

「同判決(昭和58年大法廷判決。筆者註)は,参議院についての憲法の定めからすれば,議員定数配分を衆議院より長期にわたって固定することも立法政策として許容されるとしていたが,この点も,ほぼ一貫して人口の都市部への集中が続いてきた状況の下で,数十年間にもわたり投票価値の大きな較差が継続することを正当化する理由としては十分なものとはいえなくなっている。」

「同判決(昭和58年大法廷判決。同上)は,参議院議員の選挙制度の仕組みの下では,選挙区間の較差の是正には一定の限度があるとしていたが,それも,短期的な改善の努力の限界を説明する根拠としては成り立ち得るとしても,数十年間の長期にわたり大きな較差が継続することが許容される根拠になるとはいい難い。」

 

とも述べており、①議員定数配分の固定の長期化、②選挙区間の格差是正の限界についても、一定限度までは正当化できるとしても、それも限度があるという認識を示しています。ついでに憶えておきましょう。

選択肢2. 小選挙区制は、死票を多く生む可能性があることは否定し難いが、死票はいかなる制度でも生ずるものであり、結局のところ選挙を通じて国民の総意を議席に反映させる一つの合理的方法ということができる。

妥当です。

 

小選挙区制の合憲性が問題となった最大判平成11年11月10日(事件番号: 平成11(行ツ)35 裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan)

「小選挙区制の下においては死票を多く生む可能性があることは否定し難いが、死票はいかなる制度でも生ずるものであり、……各選挙区における最高得票者をもって当選人とすることが選挙人の総意を示したものではないとはいえない…。……小選挙区制は、選挙を通じて国民の総意を議席に反映させる一つの合理的方法ということができる」

とあります。ほぼ判決文そのままの肢です。

 

なお、同日付の大法廷判決には、他にも区割りの合憲性(事件番号:平成11(行ツ)7)、重複立候補(及び参議院議員選挙比例代表制)の合憲性(事件番号:平成11(行ツ)8)が問題となった事案もあります。

選択肢3. 同時に行われる二つの選挙に同一の候補者が重複して立候補することを認めるか否かは、国会が裁量により決定することができる事項であり、衆議院議員選挙で小選挙区選挙と比例代表選挙との重複立候補を認める制度は憲法に違反しない。

妥当です。

 

重複立候補の合憲性が問題となった最大判平成11年11月10日(裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan)

「同時に行われる二つの選挙に同一の候補者が重複して立候補することを認めるか否かは、右(=選挙制度。)の仕組みの一つとして、国会が裁量により決定することができる事項であるといわざるを得ない」

重複立候補制を採用したこと自体が憲法……に違反するとはいえない。

 

 

なお、同日付の大法廷判決には、他にも区割りの合憲性(事件番号:平成11(行ツ)7)、小選挙区制(及び公選法規定)の合憲性(事件番号:平成11(行ツ)35)が問題となった事案もあります。

選択肢4. 政党を媒体として国民の政治意思を国政に反映させる名簿式比例代表制を採用することは国会の裁量に属し、名簿登載者個人には投票したいがその属する政党には投票したくないという意思を認めない非拘束名簿式比例代表制もまた同様である。

妥当です。

 

参議院議員選挙の非拘束名簿式比例代表制の合憲性が問題となった最大判平成16年1月14日(裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan)

 

「政党を媒体として国民の政治意思を国政に反映させる名簿式比例代表制を採用することは,その裁量の範囲に属することが明らかであるといわなければならない。そして,名簿式比例代表制は,政党の選択という意味を持たない投票を認めない制度であるから,本件非拘束名簿式比例代表制の下において,参議院名簿登載者個人には投票したいが,その者の所属する参議院名簿届出政党等には投票したくないという投票意思が認められないことをもって,国民の選挙権を侵害し,憲法15条に違反するものとまでいうことはできない。また,名簿式比例代表制の下においては,名簿登載者は,各政党に所属する者という立場で候補者となっているのであるから,改正公選法が参議院名簿登載者の氏名の記載のある投票を当該参議院名簿登載者の所属する参議院名簿届出政党等に対する投票としてその得票数を計算するものとしていることには,合理性が認められるのであって,これが国会の裁量権の限界を超えるものとは解されない。」

 

 

なお、同判例は、

「本件非拘束名簿式比例代表制の下においては,比例代表選出議員が辞職し又は離党しても,当該議員の得票数がその所属する参議院名簿届出政党等の得票数から控除されて当該参議院名簿届出政党等の当選人数が減じられることはない。しかしながら,……当選後において,比例代表選出議員の辞職又は離党の事態が生じたとしても,上記投票の効果が存続することが直ちに不合理であるとまではいえず,この点をもって国会の裁量権の限界を超えるものということはできない。」

とも述べています。つまり、比例代表選出議員の辞職、離党により選挙結果が変わらないことは違憲ではないとも言っています。ついでに憶えておきましょう。
 

選択肢5. 参議院の比例代表選出議員について、政党が優先的に当選者となるべき候補者を定めることができる特定枠制度は、選挙人の総意によって当選人が決定される点で、選挙人が候補者個人を直接選択して投票する方式と異ならず、憲法に違反しない。

妥当です。

 

参議院(比例代表選出)議員の選挙についていわゆる特定枠制度を定める公職選挙法の規定の合憲性が問題となった最判令和2年10月23日(裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan)

「本件改正後の参議院(比例代表選出)議員の選挙制度は,……投票の結果すなわち選挙人の総意により当選人が決定される点において,選挙人が候補者個人を直接選択して投票する方式と異なるところはない。そうすると,本件改正後の参議院(比例代表選出)議員の選挙に関する公職選挙法の規定は憲法43条1項等の憲法の規定に違反するものではない」

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