行政書士 過去問
令和6年度
問7 (法令等 問7)

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問題

行政書士試験 令和6年度 問7(法令等 問7) (訂正依頼・報告はこちら)

国会議員の地位・特権に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。
  • 両議院の議員には国庫から相当額の歳費を受ける権利が保障されており、議員全員を対象とした一律の措置としてであっても、議員の任期の途中に歳費の減額を行うことはできない。
  • 両議院の議員は、国会の会期中は、法律の定める場合を除いては逮捕されることがなく、また所属する議院の同意がなければ訴追されない。
  • 両議院の議員には、議院で行った演説、討論、表決について免責特権が認められているが、議場外の行為については、議員の職務として行ったものであっても、免責の対象とならない。
  • 参議院の緊急集会は、衆議院の解散中に開催されるものであるが、その際にも、議員に不逮捕特権や免責特権の保障が及ぶ。
  • 議院が所属議員に科した懲罰には、議院自律権の趣旨から司法審査は及ばないのが原則であるが、除名に関しては、手続の適正さについて審査が及ぶとするのが最高裁判所の判例である。

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この過去問の解説 (2件)

01

国会議員の地位・特権

憲法49条から51条及びその付属法規に定められています。

 

選択肢1. 両議院の議員には国庫から相当額の歳費を受ける権利が保障されており、議員全員を対象とした一律の措置としてであっても、議員の任期の途中に歳費の減額を行うことはできない。

×

「両議院の議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける。」(憲法49条)

しかし任期の途中に減額できないとはしていません。

※裁判官の報酬は任期中減額できない旨の規定があります。(憲法79条6項)

選択肢2. 両議院の議員は、国会の会期中は、法律の定める場合を除いては逮捕されることがなく、また所属する議院の同意がなければ訴追されない。

×

「両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない。」(憲法50条)

しかし例外的に

1.議員の許諾がある場合

2.院外での現行犯の場合

は会期中でも逮捕できます。(国会法33条)

選択肢3. 両議院の議員には、議院で行った演説、討論、表決について免責特権が認められているが、議場外の行為については、議員の職務として行ったものであっても、免責の対象とならない。

×

憲法51条の「議院で」とは「議事堂内」という限定を意味しません。

広く国会議員としての地位での演説、討論、表決を意味します。

※逆に議事堂内でも国会議員も兼務する国務大臣が内閣としての発言等をした場合は免責されません

選択肢4. 参議院の緊急集会は、衆議院の解散中に開催されるものであるが、その際にも、議員に不逮捕特権や免責特権の保障が及ぶ。

参議院の緊急集会の開催中も会期中と同じく不逮捕特権と免責特権が及びます。

選択肢5. 議院が所属議員に科した懲罰には、議院自律権の趣旨から司法審査は及ばないのが原則であるが、除名に関しては、手続の適正さについて審査が及ぶとするのが最高裁判所の判例である。

×

所属議員の除名は「議院」の権能です。(憲法58条2項)

そして両議院の権能には「各部門の自律権に関する事項」として司法審査は及びません。

※なお地方議会の議員の除名には司法審査が及ぶ余地があります。

→出席停止には司法審査は及びません。

まとめ

国会議員の特権については大体は出題パターンが限られています。

過去問をこなして覚えていきましょう。

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02

本問は、問題文に単に「妥当なもの」としか書いていないことから判る通り、国会議員の特権と議院の自律権について基本的な「条文及び判例・学説」の知識を問うものです。
行政書士試験では、条文又は判例の知識だけで解ける問題が多いのですが、特に憲法については条文の多くが概括的であり、判例も数がそれほど多いというわけでもないのでどうしても条文と判例の隙間を埋める解釈として学説の知識も必要になります。

選択肢1. 両議院の議員には国庫から相当額の歳費を受ける権利が保障されており、議員全員を対象とした一律の措置としてであっても、議員の任期の途中に歳費の減額を行うことはできない。

妥当ではありません

 

この肢は議員の3つの特権の第1、歳費請求権(受給権)(憲法第49条)の問題です。

 

まず、前段は正しいです。

 

憲法第49条「両議院の議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける。」

 

しかし、後段が誤りです。
議員の歳費については、裁判官の報酬と異なり、任期中に減額を禁止する規定がありません(裁判官の報酬の減額の禁止につき、憲法第79条第6項、第80条第2項及び裁判所法第48条)。よって、あくまでも「法律の定めるところにより」歳費の額は決まります。

そして裁判官の報酬についても、特定の裁判官を対象とするのではなく、全員に対する一律の減額は違憲ではないものとして、最高裁判所の裁判官会議も認めた上で、実際に減額を何度か行っています(理論的には批判はあります)。
憲法上、減額制限のある裁判官ですら一律減額が可能であるとするのならば、議員に認められない道理はありません。

 

なお、歳費の受領は権利であると同時に義務であるとも解されており、歳費を受領しないことは国に対する寄付として扱われます。
そのため原則として公職選挙法第199条の2に違反します。
国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律付則に一部の除外規定がありますが、原則論としては歳費の不受領又は返納はできません。

選択肢2. 両議院の議員は、国会の会期中は、法律の定める場合を除いては逮捕されることがなく、また所属する議院の同意がなければ訴追されない。

妥当ではありません

 

この肢は議員の3つの特権の第2、不逮捕特権(憲法第50条)の問題です。

 

まず、前段は正しいです。

 

憲法第50条「両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない。」

 

しかし、後段は誤りです。不訴追特権は、国務大臣に関する規定です。

 

憲法第75条「国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない。但し、これがため、訴追の権利は、害されない。」

選択肢3. 両議院の議員には、議院で行った演説、討論、表決について免責特権が認められているが、議場外の行為については、議員の職務として行ったものであっても、免責の対象とならない。

妥当ではありません

 

この肢は議員の3つの特権の第3、免責特権(憲法第51条)の問題です。

 

まず、前段は正しいです。


憲法第51条「両議院の議員は、議院で行つた演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない。」

 

しかし、後段は誤りです。
議場外であっても、議員としての活動であれば免責特権は認められます。
「議院で行つた」の意味するところは、物理的な「議事堂内」という意味ではなく、「議院の活動として職務上行った」という意味です。したがって、例えば地方公聴会なので行った活動であっても「議院で行つた」に該当します。

 

 

なお、この「演説、討論又は表決」については、例示列挙であり、これらに付随して行われる行為まで含むという広義説が通説です。過去には、限定列挙と解した裁判例もありますが、多くの裁判例においても、職務行為に付随する行為まで拡張しています。ただし、この付随して行われた行為が犯罪であった場合に刑事責任までも免れるものではないとされています。

選択肢4. 参議院の緊急集会は、衆議院の解散中に開催されるものであるが、その際にも、議員に不逮捕特権や免責特権の保障が及ぶ。

妥当です。よってこの肢が正解です。

 

これは憲法の知識と言うよりは、憲法を前提に制定された法令の知識です。

参議院の緊急集会中の不逮捕特権については、国会法に規定があります。


国会法第100条第1項「参議院の緊急集会中、参議院の議員は、院外における現行犯罪の場合を除いては、参議院の許諾がなければ逮捕されない。」

 

一方、免責特権については、国会法に規定はありません。
しかし、そもそも憲法第51条は、両院の議員としての活動について免責を認めています。ですから、緊急集会中であっても「参議院の議員としての」活動に変わりはありませんので、免責特権は憲法第51条を根拠に認められます。

 

緊急集会は国会閉会中の活動であるところ、不逮捕特権を定める憲法第50条の規定は「国会の会期中」(*)となっているため、「国会の会期中」ではない緊急集会中は不逮捕特権がないと解することも可能です。そこで、国会法100条の規定はその点を手当てした規定であり、憲法51条については憲法の条文で十分なのでその必要がないと解して良いでしょう。

 


(*)国会の会期中

国会には3つの会期があります。
常会(憲法第52条)=毎年1回必ず開かれる会期。
臨時会(憲法第53条)=必要に応じて内閣が召集する会期。
特別会(憲法第54条第1項、国会法第1条第3項)=衆議院の解散総選挙後に最初に召集される会期。
参議院の緊急集会は、その3つの会期とはまた別です。

 

なお、「衆議院の解散中」とありますが、衆議院が任期満了により国会が閉会となった場合は、条文の文言上含まれません。つまり、衆議院が任期満了により閉会となった場合には緊急集会は開催できません。この場合、任期満了になることはあらかじめ判っているので、事前に対策を立てておきなさいということです。

選択肢5. 議院が所属議員に科した懲罰には、議院自律権の趣旨から司法審査は及ばないのが原則であるが、除名に関しては、手続の適正さについて審査が及ぶとするのが最高裁判所の判例である。

妥当ではありません

 

議員の自律権に関する事項は司法審査の対象となりません
それは、除名も含めた議員の懲罰(憲法第58条第2項)に関する事項も含みます。また、議員資格争訟裁判(憲法第55条)の結果についても司法審査の対象とはなりません。


この点、地方議会議員とは明確に違います。地方議会議員のの懲罰については、少なくとも除名及び出席停止については、司法審査の対象となるとするのが判例です。
以前の判例は、出席停止は司法審査の対象外とし、傍論で除名のみを司法審査の対象と認めていました(最大判昭和35年10月19日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan)
近時、その判例を変更し、出席停止も司法審査の対象と認めました(最大判令和2年11月25日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan)

まとめ

議員の特権には、本問の①歳費請求権(受給権)(憲法第49条)②不逮捕特権(日本国憲法第50条)③免責特権(憲法第51条)の三つがあります。
この3つに加えて国務大臣の不訴追特権(憲法第75条)は、知っていて当然の知識です。
また、議員の自律権についても整理しておくと良いでしょう。

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