行政書士 過去問
令和6年度
問8 (法令等 問8)

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問題

行政書士試験 令和6年度 問8(法令等 問8) (訂正依頼・報告はこちら)

行政行為(処分)に関する次の記述のうち、法令の定めまたは最高裁判所の判例に照らし、妥当なものはどれか。
  • 処分に瑕疵があることを理由とする処分の取消しは、行政事件訴訟法上の取消訴訟における判決のほか、行政不服審査法上の不服申立てにおける裁決または決定によってのみすることができる。
  • 金銭納付義務を課す処分の違法を理由として国家賠償請求をするためには、事前に当該処分が取り消されていなければならない。
  • 処分取消訴訟の出訴期間が経過した後に当該処分の無効を争うための訴訟としては、行政事件訴訟法が法定する無効確認の訴えのみが許されている。
  • 処分Aの違法がこれに後続する処分Bに承継されることが認められる場合であっても、処分Aの取消訴訟の出訴期間が経過している場合には、処分Bの取消訴訟において処分Aの違法を主張することは許されない。
  • 瑕疵が重大であるとされた処分は、当該瑕疵の存在が明白なものであるとまでは認められなくても、無効とされる場合がある。

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この過去問の解説 (2件)

01

本問は、違法な処分の取消し又は無効について横断的な知識を問う問題です。

 

本問は、他の問題と重複している部分が割とある(肢同士でも重複してます)ので、重複部分は確実に解けるようにしておかないといけません。逆に言えばそれができれば、一つの知識で複数の問題が解けて有利になります。

 

取消又は無効を直接的に争うならば、行政不服審査又は処分取消訴訟もしくは無効確認訴訟ですが、間接的に争う方法がいくつかあります。
そこは必須知識でしょう。

選択肢1. 処分に瑕疵があることを理由とする処分の取消しは、行政事件訴訟法上の取消訴訟における判決のほか、行政不服審査法上の不服申立てにおける裁決または決定によってのみすることができる。

妥当ではありません

 

処分の取消しは、行政事件訴訟法の取消訴訟による取消判決、行政不服審査法の不服申立てに対する決定又は裁決及び職権による取消しの3種類があります。


前二者を争訟取消し、残りの一つを職権取消しと呼びます。

職権取消しは処分を行った行政庁自身が行います(なお、上級庁による取消しについては諸説あります)。

 

職権取消しの根拠は、違法状態を解消することが法律による行政の原則に従うという適法性の回復と、公益の上で違法状態を解消することは行政の目的そのものであるという合目的性の回復にあるので、法令上の根拠を要しません
ある意味、当然の話とも言えるので逆に忘れやすいところかもしれません。

 

 

なお、職権取消しは、適法性と合目的性の回復にあるので、本来ならば行政庁は当然にできるのですが、時に相手方に不測の不利益を与えることがあるので、特に受益的行政行為(一定の給付、資格、許認可等を「与える」行為など)については制限を受けることがあります。

 

最判昭和33年9月9日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
「特段の事情のない限り買収農地の売渡を受くべき上告人の利益を犠牲に供してもなおかつ買収令書の全部(農地に関する部分を含む)を取り消さなければならない公益上の必要があるとは解されないから、右特段の事情がない限り、本件取消処分は、違法の瑕疵を帯びる」

 

最判昭和43年11月7日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
「行政処分が違法または不当であれば、それが、たとえ、当然無効と認められず、また、すでに法定の不服申立期間の徒過により争訟手続によつてその効力を争い得なくなつたものであつても、処分をした行政庁その他正当な権限を有する行政庁においては、自らその違法または不当を認めて、処分の取消によつて生ずる不利益と、取消をしないことによつてかかる処分に基づきすでに生じた効果をそのまま維持することの不利益とを比較考量し、しかも該処分を放置することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当であると認められるときに限り、これを取り消すことができる」


侵害的行政行為(資格停止の不利益処分など)についても、原則的には相手の不利益はありませんが、第三者に不利益が生じることがありうるので、全く無制限というわけにはいきません。

選択肢2. 金銭納付義務を課す処分の違法を理由として国家賠償請求をするためには、事前に当該処分が取り消されていなければならない。

妥当ではありません

 

国家賠償請求訴訟の前提として、当該損害の原因となった違法な処分があらかじめ取り消されている必要はありません。

 

最判昭和36年4月21日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
行政処分が違法であることを理由として国家賠償の請求をするについては、あらかじめ右行政処分につき取消又は無効確認の判決を得なければならないものではない

 

少し補足説明をすると、この判例は、行政処分の無効確認と当該行政処分が無効であることを理由とする国家賠償請求訴訟の係属中に当該処分が取り消されると、無効確認の訴えの利益はどうなるのかという話です。
当該行政処分の無効は国家賠償請求の根拠なので訴えの利益はあるという主張に対して、国家賠償請求訴訟の前提として無効確認の判決等は不要なので、処分が取り消された以上はもはや訴えの利益はないとしたものです。

選択肢3. 処分取消訴訟の出訴期間が経過した後に当該処分の無効を争うための訴訟としては、行政事件訴訟法が法定する無効確認の訴えのみが許されている。

妥当ではありません

 

取消訴訟の法定の出訴期間を徒過し、取消訴訟で処分の取消しを争えなくなったとしても、当該処分の無効を前提とする別の請求にかかる訴訟は可能です。そして、その訴訟において当該処分の無効の主張はできます。よって、無効確認の訴訟以外の方法で処分の無効を主張することはできます。

 

まず、実務的にはあまり多くありませんが、当事者訴訟において、処分の無効を主張することができます。

 

また、民事訴訟、例えば他の肢に出てくる国家賠償請求訴訟の理由が違法な処分である場合に、当該処分について無効確認判決を得ていなくても、請求原因として処分の無効を主張できます。

 

最判昭和36年4月21日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
「行政処分が違法であることを理由として国家賠償の請求をするについては、あらかじめ右行政処分につき取消又は無効確認の判決を得なければならないものではない

 

更に処分が犯罪の成否にかかわる場合に、刑事訴訟手続きにおいて当該処分の無効を主張することもできます。

 

最判昭和53年6月16日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
「被告会社のトルコぶろ営業の規制を主たる動機、目的とする……本件認可処分は、行政権の濫用に相当する違法性があり、被告会社のトルコぶろ営業に対しこれを規制しうる効力を有しない……そうだとすれば、被告会社の本件トルコぶろ営業については、これを規制しうる児童福祉法七条に規定する児童福祉施設の存在についての証明を欠くことになり、被告会社に無罪の言渡をすべき」

 

この判決は、処分が無効であることを理由として犯罪の不成立を争ったものです。当該処分の取消訴訟は提起されておらず、直接刑事訴訟手続き内で処分の無効を主張し、かつ、その主張を裁判所が認めたものです。

 

 

もっとも、本肢の表現は「当該処分の無効を争うための訴訟としては」となっているので、処分の無効そのものを直接争うという趣旨と読めなくもありません。それは無効確認の訴え以外ではできません。あくまでも他の手続きにおいて「当該処分の無効を争点の一つとして主張し争うことができる」だけです。
表現が悪いですね。「当該処分の無効を訴訟で争う手段としては」とでも書くべきですね。緻密さを欠く表現です。

選択肢4. 処分Aの違法がこれに後続する処分Bに承継されることが認められる場合であっても、処分Aの取消訴訟の出訴期間が経過している場合には、処分Bの取消訴訟において処分Aの違法を主張することは許されない。

妥当ではありません

 

そもそも「違法性の承継」という概念は、出訴期間が過ぎても違法な処分を訴訟で争えるようにすることが最大の眼目です。ですから、認められるならば既に出訴期間が過ぎた処分の違法性を後行の処分の取消訴訟で主張できるのは理の当然です。そのための概念なのです。
言い換えれば、「後行処分の取消訴訟で先行行為の違法性を主張できる場合を違法性の承継があると言う」のです。

 

最判昭和25年9月15日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
「内容の違法な買収計画にもとずいて買収処分が行われたならばかかる買収処分が違法であることは言うまでもないところで当事者は買収計画に対する不服を申立てる権利を失つたとしても更に買収処分取消の訴においてその違法を攻撃し得るものといわなければならない」

 

最判平成21年12月17日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
「安全認定が行われた上で建築確認がされている場合,安全認定が取り消されていなくても,建築確認の取消訴訟において,安全認定が違法であるために本件条例4条1項所定の接道義務の違反があると主張することは許される」

 

行政処分においては、先行処分の瑕疵は後行処分に承継されないという「違法性の不承継」が原則です。同判例で上告人が主張した「先行処分である安全認定が取り消されていない場合,たとえこれが違法であるとしても,その違法は後続処分である建築確認に承継されないのが原則」というのがまさにそれです。
これは、元来、処分取消訴訟の出訴期間が制限されている趣旨が、処分に基づく法律関係の早期安定を図ることにあるところ、違法性の承継を認めるとその趣旨を没却するからです。
逆に言えば、出訴期間が過ぎてもなお争えるようにする必要性がある様な場合には、違法性の承継を認めるべきだということになります。

選択肢5. 瑕疵が重大であるとされた処分は、当該瑕疵の存在が明白なものであるとまでは認められなくても、無効とされる場合がある。

妥当です。よってこの肢が正解です。

 

まず、違法な処分は原則的には取り消しうるだけで、無効となるのは例外です。
その無効となる例外について、判例は原則として、当該処分の①違法が重大であること②その違法の存在が明白であることを要件としています。

 

最大判昭和31年7月18裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
「国家機関の公法的行為(行政処分)は……仮りにその処分に関し違法の点があつたとしても、その違法が重大且つ明白である場合の外は、これを法律上当然無効となすべきではない

 

最判昭和34年9月22裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
無効原因となる重大・明白な違法とは、処分要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大・明白な誤認があると認められる場合を指す」

 

最判昭和36年3月7裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
「瑕疵が明白であるというのは、処分成立の当初から、誤認であることが外形上、客観的に明白である場合を指すものと解すべきである。
……瑕疵が明白であるかどうかは、処分の外形上、客観的に、誤認が一見看取し得るものであるかどうかにより決すべきものであつて、……外形上、客観的に誤認が明白であると認められる場合には、明白な瑕疵があるというを妨げない。」

 

これは、理論的には「重大性明白説」の「外形上一見明白説」と呼ばれるものです。


しかし、明白性を要求していない判例もあります。

 

最判昭和48年4月26日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
「一般に、課税処分が課税庁と被課税者との間にのみ存するもので、処分の存在を信頼する第三者の保護を考慮する必要のないこと等を勘案すれば、当該処分における内容上の過誤が課税要件の根幹についてのそれであつて、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお、不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として被課税者に右処分による不利益を甘受させることが、著しく不当と認められるような例外的な事情のある場合には、前記の過誤による瑕疵は、当該処分を当然無効ならしめるものと解する」
「原判決が、上記に指摘した諸点を顧慮することなく、本件課税処分は課税要件のないところに課税したもので、その瑕疵は重大であるが、なお明白であるとはいいえないとして、これを無効でないと即断したのは、課税処分の無効に関する法の解釈適用を誤つたか、または審理不尽、理由不備の違法がある」

 

本判例は、課税処分が一般的に「処分の存在を信頼する第三者の保護を考慮する必要のないこと」を理由に、明白であることを要件としていません。

そもそも「明白性の要件」は、処分が無効になることで当該処分を信頼した第三者が不測の不利益を被らないようにすることを目的としたものです。
であれば、第三者が通常いない課税処分のようなものについては考慮の必要がないということです。

 

ただし、明白性の要件を必要としないからと言って、瑕疵が重大であればそれだけで無効と言っているわけではありません。

 

「原則として課税処分は有効」です。
その上で、瑕疵が重大であって更に「徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお、不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として被課税者に右処分による不利益を甘受させることが、著しく不当と認められるような例外的な事情」があれば、無効となると言っています。
瑕疵が重大であることは前提条件となっていますが、それでもなお、著しく不当と認められるだけの例外的事情がない限りは、有効なのです。

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02

行政行為の取消し・無効等について

行政行為の効力を争う争訟形態としては、

・抗告訴訟(行政事件訴訟法)

・審査請求(行政不服審査法)

が代表的ですが、他の救済手段としては国家賠償を求めたりすることも考えられます。

選択肢1. 処分に瑕疵があることを理由とする処分の取消しは、行政事件訴訟法上の取消訴訟における判決のほか、行政不服審査法上の不服申立てにおける裁決または決定によってのみすることができる。

×

処分に瑕疵がある場合の取消しは取消訴訟・審査請求のほか、処分庁が自ら職権で取り消すことができます。

 

選択肢2. 金銭納付義務を課す処分の違法を理由として国家賠償請求をするためには、事前に当該処分が取り消されていなければならない。

×

一度なされた処分は重大かつ明白な違法がない限り一応は有効となります。(公定力)

しかし、国家賠償を請求するために公定力を取消訴訟等で除去する必要はありません。

選択肢3. 処分取消訴訟の出訴期間が経過した後に当該処分の無効を争うための訴訟としては、行政事件訴訟法が法定する無効確認の訴えのみが許されている。

×

取消訴訟では出訴期間が経過した後には国民の側から「処分の取消し」を争うことはできません。(不可争力)

しかし、瑕疵が重大かつ明白であれば「無効」となりいつでも争うことができます。

そして無効等確認の訴えには補充性要件があり、「処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り、提起することができる」(行政事件訴訟法36条)とあります。

つまり当事者訴訟や民事訴訟を提起することができる場合には、そちらで処分の無効を争うことができます。

 

選択肢4. 処分Aの違法がこれに後続する処分Bに承継されることが認められる場合であっても、処分Aの取消訴訟の出訴期間が経過している場合には、処分Bの取消訴訟において処分Aの違法を主張することは許されない。

×

多重に処分がされる事が予定されている場合に前の処分の効力が後続の処分に影響するときは、後の処分に関する訴訟で前提処分の違法性を争うことができます。(違法性の承継 最判昭25.9.15)

選択肢5. 瑕疵が重大であるとされた処分は、当該瑕疵の存在が明白なものであるとまでは認められなくても、無効とされる場合がある。

判例(最判昭48.4.26)は課税処分の有効性が争われた事例において、「著しく不当と認められるような例外的な事情のある場合には、前記の過誤による瑕疵は、当該処分を当然無効ならしめるものと解するのが相当である。」として

「瑕疵は重大であるが、なお明白であるとはいいえないとして、これを無効でないと即断したのは、課税処分の無効に関する法の解釈適用を誤つたか、または審理不尽、理由不備の違法があるものというべく、論旨はけつきよく理由があり、原判決は破棄を免れない。」

として違法性が著しく重大な場合に明白性の要件なしに課税処分の無効を認めました。

まとめ

処分庁は自ら

・処分に原始的な瑕疵がある場合→職権取消し

・適法に成立した処分がその後の事情の変化や処分の相手方の義務違反により公益上効力を維持すべきでなくなった場合→行政行為の撤回(将来効)  

ができます。

効力を消滅させる手段が抗告訴訟や審査請求だけではない点に注意してください。

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