行政書士 過去問
令和6年度
問9 (法令等 問9)
問題文
行政立法に関する次の記述のうち、法令の定めまたは最高裁判所の判例に照らし、妥当なものはどれか。
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問題
行政書士試験 令和6年度 問9(法令等 問9) (訂正依頼・報告はこちら)
行政立法に関する次の記述のうち、法令の定めまたは最高裁判所の判例に照らし、妥当なものはどれか。
- 行政手続法が定める意見公募手続の対象となるのは、法規命令のみであり、行政規則はその対象とはされていない。
- 法律の規定を実施するために政令を定めるのは内閣の事務であるが、その法律による委任がある場合には、政令に罰則を設けることもできる。
- 法律による委任の範囲を逸脱して定められた委任命令は違法となるが、権限を有する機関が取り消すまでは有効なものとして取り扱われる。
- 通達の内容が、法令の解釈や取扱いに関するもので、国民の権利義務に重大なかかわりをもつようなものである場合には、当該通達に対して取消訴訟を提起することができる。
- 行政手続法が適用される不利益処分の処分基準において、過去に処分を受けたことを理由として後行の処分に係る量定が加重される旨の定めがある場合には、当該処分基準の定めに反する後行の処分は当然に無効となる。
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この過去問の解説 (2件)
01
行政立法
行政機関が規範を定立する行為についての問題です。
×
「命令等」とは内閣又は行政機関が定める
・法律に基づく命令(処分の要件を定める告示を含む)又は規則
・審査基準(申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準)
・処分基準(不利益処分をするかどうか又はどのような不利益処分とするかについてその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準)
・行政指導指針(同一の行政目的を実現するため一定の条件に該当する複数の者に対し行政指導をしようとするときにこれらの行政指導に共通してその内容となるべき事項)
をいいます。(行政手続法2条8号)
〇
法律による個別具体的な委任があれば政令に罰則を設けることができます。
×
委任命令を定める行為は処分ではないため公定力は働きません。
法律の委任の範囲を超えた委任命令は当然無効となります。
×
通達は行政内部の規範であって国民の権利義務、法律上の地位に直接具体的に影響を及ぼすものではありません。
したがって取消訴訟の対象ではありません。(最判昭43.12.24)
×
判例(最判平27.3.3)は、
「裁量権の行使における公正かつ平等な取扱いの要請や基準の内容に係る相手方の信頼の保護等の観点から,当該処分基準の定めと異なる取扱いをすることを相当と認めるべき特段の事情がない限り,そのような取扱いは裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たることとなるものと解され,この意味において,当該行政庁の後行の処分における裁量権は当該処分基準に従って行使されるべき」
したがって後行処分が当然無効になるとはしていません。
行政立法行為は原則は取消訴訟の対象にはなりません。(水道料金を改定する条例の制定行為 最判平18.7.14)
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02
本問は、行政立法の基礎知識を問う問題です。
行政立法とは、行政機関による規範定立を意味し、法律の委任により認められる権限です。
その効力の違いにより、①「法規命令」と②「行政規則」に分けられます。
ただし、行政規則は(少なくとも本来の意味では)行政立法ではないという見解もあります。
①「法規命令」とは、外部的効力すなわち国民に対して直接的効力を有する規範です。国民の権利義務に直接かかわる規範=「法規」である「命令」ということです。
「法規命令」はさらに、①-1「委任命令」と①-2「執行命令」に分けられます。①-1「委任命令」とは、法律の委任に基づいて、私人と行政機関との間の権利義務関係の内容を定めるものです。言い換えれば、「実体規範」です。
①-2「執行命令」とは、権利義務関係の内容を定めるのではなく、その実現のための手続きを定めるものです。つまり、「手続規範」です。
②「行政規則」とは、行政機関が定立する規範のうち、「法規」の効力を有しない、つまり、行政機関内部を規律するもので外部効果を有しない=(国民の権利義務に直接かかわらない)ものを言います。
妥当ではありません。
行政手続法の定める意見公募手続(いわゆるパブリックコメント)の対象は、法規命令だけでなく行政規則も含みます。
行政手続法第39条第1項「命令等制定機関は、命令等を定めようとする場合には、当該命令等の案(命令等で定めようとする内容を示すものをいう。以下同じ。)及びこれに関連する資料をあらかじめ公示し、意見(情報を含む。以下同じ。)の提出先及び意見の提出のための期間(以下「意見提出期間」という。)を定めて広く一般の意見を求めなければならない。」
行政手続法第2条第8号「命令等 内閣又は行政機関が定める次に掲げるものをいう。
イ 法律に基づく命令(処分の要件を定める告示を含む。次条第二項において単に「命令」という。)又は規則
ロ 審査基準(申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準をいう。以下同じ。)
ハ 処分基準(不利益処分をするかどうか又はどのような不利益処分とするかについてその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準をいう。以下同じ。)
ニ 行政指導指針(同一の行政目的を実現するため一定の条件に該当する複数の者に対し行政指導をしようとするときにこれらの行政指導に共通してその内容となるべき事項をいう。以下同じ。)」
妥当です。よってこの肢が正解です。
憲法の条文そのままに、法律の規定を実施するために政令を定めるのは内閣の事務であり、法律による委任があれば政令に罰則を設けることが可能です。
日本国憲法第73条第6号「この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。」
委任がなければ罰則を設けることができないのですから、反対解釈で、委任があれば罰則を設けることができるわけです。
妥当ではありません。
委任命令が法律による委任の範囲を逸脱した場合は取り消すことができるのではなく無効です。
最判平成14年1月31日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan「本件括弧書は法の委任の範囲を逸脱した違法な規定として無効」
最判平成3年7月9日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan「法50条は、……命令(法務省令)をもって、面会の立会、場所、時間、回数等、面会の態様についてのみ必要な制限をすることができる旨を定めている」
「規則120条が原則として被勾留者と幼年者との接見を許さないこととする一方で、規則124条がその例外として限られた場合に監獄の長の裁量によりこれを許すこととしていることが明らかである。しかし、これらの規定は、……それ自体、法律によらないで、被勾留者の接見の自由を著しく制限するものであって、法50条の委任の範囲を超えるものといわなければならない。
「規則120条(及び124条)は、……法の容認する接見の自由を制限するものとして、法50条の委任の範囲を超えた無効のもの」
処分の場合は、基本的に無効ではなく取り消すことができることと対比してください。処分の無効等確認訴訟は、取消訴訟の補完的制度です。
委任命令は、一般的な規則であり、基本的にすべての事例に適用されるものなので、無効にして爾後の適用を排除する必要があります。
一方で、処分は、個別具体的な事案に対するものであり、当該事案以外に直ちに影響しません。そして、具体的な処分を当然無効とすると、その処分を前提に積みあがった法律関係がすべてひっくり返るので、法的安定性の見地から直ちに無効とはせず、取消しを原則としています。
処分無効等確認の訴えは、あくまでも例外的な制度で、取消訴訟を補完するためのものです。
妥当ではありません。
現行の行政事件訴訟法において、取消訴訟の対象となっているのは、処分及び裁決です。通達は対象になっていません。
通達は、そもそも行政組織内部での命令に過ぎず、一般国民を直接拘束することはないので、国民に対して直接に一定の義務を課すものではないから、取消訴訟は認められないというのが判例です。
最判昭和43年12月24日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
「通達は、原則として、法規の性質をもつものではなく、……行政組織内部における命令にすぎないから、……一般の国民は直接これに拘束されるものではなく、……通達の内容が、……国民の権利義務に重大なかかわりをもつようなものである場合においても別段異なるところはない。」
「本件通達は従来とられていた法律の解釈や取扱いを変更するものではあるが、それはもつぱら知事以下の行政機関を拘束するにとどまるもので、これらの機関は右通達に反する行為をすることはできないにしても、国民は直接これに拘束されることはなく、従つて、右通達が直接に上告人の所論墓地経営権、管理権を侵害したり、新たに埋葬の受忍義務を課したりするものとはいいえない。」
「本件通達が発せられたからといつて直ちに上告人において刑罰を科せられるおそれがあるともいえず、……原審において上告人の主張するような損害、不利益は、原判示のように、直接本件通達によつて被つたものということもできない。」
「現行法上行政訴訟において取消の訴の対象となりうるものは、国民の権利義務、法律上の地位に直接具体的に法律上の影響を及ぼすような行政処分等でなければならないのであるから、本件通達中所論の趣旨部分の取消を求める本件訴は許されない」
妥当ではありません。
当然に無効とはなりません。
処分は基本的には「取消すことができる」だけです。無効は例外的です。
判例では処分を無効と判断する場合、当該処分の①違法が重大であること②その違法の存在が明白であることを要件としています。
最大判昭和31年7月18日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
「国家機関の公法的行為(行政処分)は……仮りにその処分に関し違法の点があつたとしても、その違法が重大且つ明白である場合の外は、これを法律上当然無効となすべきではない」
最判昭和34年9月22日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
「無効原因となる重大・明白な違法とは、処分要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大・明白な誤認があると認められる場合を指す」
最判昭和36年3月7日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
「瑕疵が明白であるというのは、処分成立の当初から、誤認であることが外形上、客観的に明白である場合を指すものと解すべきである。
……瑕疵が明白であるかどうかは、処分の外形上、客観的に、誤認が一見看取し得るものであるかどうかにより決すべきものであつて、……外形上、客観的に誤認が明白であると認められる場合には、明白な瑕疵があるというを妨げない。」
これは、理論的には「重大性明白説」の「外形上一見明白説」と呼ばれるものです。
ただし、「明白性」について基準を緩めた判例があります。
最判昭和48年4月26日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
「一般に、課税処分が課税庁と被課税者との間にのみ存するもので、処分の存在を信頼する第三者の保護を考慮する必要のないこと等を勘案すれば、当該処分における内容上の過誤が課税要件の根幹についてのそれであつて、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお、不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として被課税者に右処分による不利益を甘受させることが、著しく不当と認められるような例外的な事情のある場合には、前記の過誤による瑕疵は、当該処分を当然無効ならしめるものと解する」
そもそも「明白性の要件」は、処分が無効になることで当該処分を信頼した第三者が不測の不利益を被らないようにすることを目的としたもので、第三者が通常いない課税処分については考慮の必要がないということです。
これ以外は、基本的に「取消しうる」だけです。
さてこの肢は、
最判平成27年3月3日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
を元にしたものですが、当該判例は、無効どうかが争点になったものではありません。
後行の処分が先行の処分を理由に加重される不利益取扱いが規程に定められている場合に、営業停止の先行処分の営業停止期間が過ぎた後においてもなお「先行処分の」取消しの利益があるかどうかが問題になったものです。
無効などという話は全く問題になっていません。
確かに、
「行政庁が同項の規定により定めて公にしている処分基準において,先行の処分を受けたことを理由として後行の処分に係る量定を加重する旨の不利益な取扱いの定めがある場合に,当該行政庁が後行の処分につき当該処分基準の定めと異なる取扱いをするならば,裁量権の行使における公正かつ平等な取扱いの要請や基準の内容に係る相手方の信頼の保護等の観点から,当該処分基準の定めと異なる取扱いをすることを相当と認めるべき特段の事情がない限り,そのような取扱いは裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たることとなる」
とは言っていますが、その場合に、「逸脱又は濫用だから後行の処分が無効になるとか取消しうるとか」そんなことは一言も言っていません。この判例だけから、「後行処分が無効になるか取消しうるだけなのか」という問の結論は論理的に出てこないのです(なお、先行行為については、「取消しの利益」が問題になっているのですから、当然のごとく取消しの問題として扱っています)。
無効にならない理由はあくまでも、当該事案が別掲判例が示した無効の要件を満たさないからです。
そして、最高裁は、「先行処分の期間が経過したとしても、後行処分で加重される効果が残る期間内は先行処分の取消しの利益がある」と判断しました。
つまり、肢の内容の正誤とは何の関係もない判例であるということです。
この点お気を付けください。
控えめに言ってもこういうのは受験生をいたずらに勘違いさせるだけの悪問ですね。
そういうわけでこの肢の正誤は憶える価値がありません。本肢は、判例を知らなくても「取消しが原則で、無効はめったにない」ことを知っていれば判るからです。
どうせこの判例を憶えるならば、無効とか取り消しとかの話としてではなく、「公表されている処分基準の定めと異なる取扱いをすることは、特段の事情がない限り、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たる」(先の引用の要旨です)ということと、「後行処分が加重される限り、先行処分の取消しの利益はある」ということを憶えるべきです。これは出題可能性があると思います。
同判例「処分基準において,先行の処分を受けたことを理由として後行の処分に係る量定を加重する旨の不利益な取扱いの定めがある場合には,上記先行の処分に当たる処分を受けた者は,将来において上記後行の処分に当たる処分の対象となり得るときは,上記先行の処分に当たる処分の効果が期間の経過によりなくなった後においても,当該処分基準の定めにより上記の不利益な取扱いを受けるべき期間内はなお当該処分の取消しによって回復すべき法律上の利益を有する」
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