行政書士 過去問
令和6年度
問29 (法令等 問29)

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問題

行政書士試験 令和6年度 問29(法令等 問29) (訂正依頼・報告はこちら)

甲土地(以下「甲」という。)を所有するAが死亡して、その子であるBおよびCについて相続が開始した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものはどれか。
  • 遺産分割が終了していないにもかかわらず、甲につきBが虚偽の登記申請に基づいて単独所有名義で相続登記手続を行った上で、これをDに売却して所有権移転登記手続が行われた場合、Cは、Dに対して、Cの法定相続分に基づく持分権を登記なくして主張することができる。
  • 遺産分割により甲をCが単独で相続することとなったが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bが甲に関する自己の法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続を行った上で、これをEに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、Cは、Eに対して、Eの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。
  • Aが甲をCに遺贈していたが、Cが所有権移転登記手続をしないうちに、Bが甲に関する自己の法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続を行った上で、これをFに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、Cは、Fに対して、Fの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。
  • Bが相続を放棄したため、甲はCが単独で相続することとなったが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bの債権者であるGが甲に関するBの法定相続分に基づく持分権につき差押えを申し立てた場合、Cは、当該差押えの無効を主張することができない。
  • Aが「甲をCに相続させる」旨の特定財産承継遺言を行っていたが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bが甲に関するBの法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続を行った上で、これをHに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、民法の規定によれば、Cは、Hに対して、Hの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。

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この過去問の解説 (2件)

01

相続による所有権移転と第三者の優劣(民法899条の2)

相続により権利を取得した者が相続後に利害関係を有するに至った第三者に対してその権利を主張できるかという問題です。

利害関係を有するに至った時期および相続人間の関係で結論は変わります。

選択肢1. 遺産分割が終了していないにもかかわらず、甲につきBが虚偽の登記申請に基づいて単独所有名義で相続登記手続を行った上で、これをDに売却して所有権移転登記手続が行われた場合、Cは、Dに対して、Cの法定相続分に基づく持分権を登記なくして主張することができる。

法定相続分については登記なくても第三者に対抗することができます。(民法899条の2 第1項の反対解釈)

選択肢2. 遺産分割により甲をCが単独で相続することとなったが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bが甲に関する自己の法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続を行った上で、これをEに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、Cは、Eに対して、Eの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。

(法定)相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。」(民法899条の2 第1項)

 

 

選択肢3. Aが甲をCに遺贈していたが、Cが所有権移転登記手続をしないうちに、Bが甲に関する自己の法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続を行った上で、これをFに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、Cは、Fに対して、Fの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。

受遺者と相続人からの譲受人は民法177条の対抗関係に立ちます。(被相続人と相続人の地位は同一で二重譲渡類似の関係となります。)

先に登記を備えた方が優先されます。

※なお、被相続人が死亡前に第三者に遺贈の目的物を譲渡していた場合は、遺言の撤回が擬制(民法1023条2項)され受遺者は登記を経ても取得できません。

選択肢4. Bが相続を放棄したため、甲はCが単独で相続することとなったが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bの債権者であるGが甲に関するBの法定相続分に基づく持分権につき差押えを申し立てた場合、Cは、当該差押えの無効を主張することができない。

×

相続放棄がなされると相続放棄者は初めから相続人ではなかったことになります。(民法939条)

結果として相続財産について放棄者は何ら権利を有していないので、本肢のGは無権利者の差押債権者となります。

無権利者からの承継人や差押債権者は民法177条の「第三者」には該当せず、登記無くして対抗することができます。

選択肢5. Aが「甲をCに相続させる」旨の特定財産承継遺言を行っていたが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bが甲に関するBの法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続を行った上で、これをHに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、民法の規定によれば、Cは、Hに対して、Hの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。

「(法定)相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。」(民法899条の2 第1項)

Cは法定相続分である2分の1を超える持分については登記がなければ対抗することができません。

まとめ

相続不動産について相続後の譲渡等により第三者が利害関係を持つに至った場合にどう優劣がつけられるかという問題です。

まず、法定相続分については相続後に利害関係を有するに至った第三者に登記がなくても対抗できます。(民法899条の2 第1項の反対解釈)

遺産分割・相続分の指定・特定財産承継遺言(「相続させる旨の遺言」・・・遺産分割方法の指定と推定されます。)で法定相続分を超える持ち分を取得した者は、その法定相続分を超える部分については対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができません。(民法899条の2 第1項)

ただし相続放棄だけは一身専属権でありかつその効果は遡るので、相続放棄により権利を取得したものは対抗要件を具備しなくても第三者に対抗できます。

 

なお、被相続人が生前に譲渡していた場合はそもそも相続財産ではなく、相続人全員が被相続人の譲渡人の地位を引き継ぐので177条の対抗関係にはなりません。(譲受人は登記無くして相続人に対抗できます。)

→譲受人は譲渡人の相続人からさらに不動産を譲り受けた者に対して対抗するには登記が必要です。

 

受遺者と相続人からの譲受人は民法177条の対抗関係となります。

→しかし、遺言者が生前に第三者に処分していた場合は遺言の撤回が擬制されます。(受遺者は遺贈を受けることができません)

 

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02

本問は、相続と登記についての基本論点の理解を問う問題です。
数年前に改正があった点でもあり、従来の判例実務の取り扱いを変更しています。古い知識は更新しておきましょう。

選択肢1. 遺産分割が終了していないにもかかわらず、甲につきBが虚偽の登記申請に基づいて単独所有名義で相続登記手続を行った上で、これをDに売却して所有権移転登記手続が行われた場合、Cは、Dに対して、Cの法定相続分に基づく持分権を登記なくして主張することができる。

妥当です。

 

遺産分割終了前の相続財産は共同相続人全員の共有であり、B単独名義の登記は、Cの持分について虚偽の登記です。

登記には公信力がないので、これを信じた第三者Dは保護されません。
よって、Cの持分についてDは所有権を取得することができません。
したがって、CはDに対して登記なくして自己の持分権を主張することができます。

 

最判昭和38年2月22裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
「相続財産に属する不動産につき単独所有権移転の登記をした共同相続人中の乙ならびに乙から単独所有権移転の登記をうけた第三取得者丙に対し、他の共同相続人甲は自己の持分を登記なくして対抗しうるものと解すべきである。けだし乙の登記は甲の持分に関する限り無権利の登記であり、登記に公信力なき結果丙も甲の持分に関する限りその権利を取得するに由ない」

選択肢2. 遺産分割により甲をCが単独で相続することとなったが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bが甲に関する自己の法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続を行った上で、これをEに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、Cは、Eに対して、Eの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。

妥当です。

 

遺産分割又は遺言により法定相続分等を超える権利を取得した相続人は、当該超過部分については対抗要件を備えなければ第三者に対抗できません。

 

遺産分割により法定相続分を超える土地の持分を取得したCは、登記を備えていないので、超過分に相当するBの法定相続分相当分の譲受人Eに対して、当該持分が自己に帰属することを主張できません。

 

民法第899条の2第1項「相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。」

選択肢3. Aが甲をCに遺贈していたが、Cが所有権移転登記手続をしないうちに、Bが甲に関する自己の法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続を行った上で、これをFに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、Cは、Fに対して、Fの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。

妥当です。

 

遺贈は、意思表示による物権変動であるという点においては贈与と異なるところがないから受贈者と遺贈後の譲受人とは対抗関係に立つとするのが判例です。
したがって先に登記を備えたBの法定相続相当分の譲受人Fは持分の取得を主張できますから、受贈者Cは当該持分が自己に帰属することを主張できません。

 

最判昭和39年3月6日(裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan)
「不動産の所有者が右不動産を他人に贈与しても、その旨の登記手続を
しない間は完全に排他性ある権利変動を生ぜず、所有者は全くの無権利者とはならないと解すべきところ(……)、遺贈は遺言によつて受遺者に財産権を与える遺言者の意思表示にほかならず、遺言者の死亡を不確定期限とするものではあるが、意思表示によつて物権変動の効果を生ずる点においては贈与と異なるところはないのであるから、遺贈が効力を生じた場合においても、遺贈を原因とする所有権移転登記のなされない間は、完全に排他的な権利変動を生じないものと解すべきである。そして、民法177条が広く物権の得喪変更について登記をもつて対抗要件としているところから見れば、遺贈をもつてその例外とする理由はないから、遺贈の場合においても不動産の二重譲渡等における場合と同様、登記をもつて物権変動の対抗要件とするものと解すべきである。」

 


なお、遺贈は相続ではありませんので民法第899条の2は適用されません。

 

ところで余談ですが、本肢においてCは受贈者であると同時に相続人です。
この場合、遺言の書き方いかんによっては、「遺贈」なのか「相続分の指定」なのかが問題になることがあります。関連知識として学習しておきましょう。本問に関しては、「遺贈」という設定ですから何も問題はありません。

選択肢4. Bが相続を放棄したため、甲はCが単独で相続することとなったが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bの債権者であるGが甲に関するBの法定相続分に基づく持分権につき差押えを申し立てた場合、Cは、当該差押えの無効を主張することができない。

妥当ではありません。よってこの肢が正解です。

 

相続放棄によりBは初めから相続人でなかったことになります。
よって、甲土地についてBは無権利者です。
そこで、Bの債権者GがBの法定相続分相当の持分を差押えたとしても、その差押えは無効です。
したがって、Cは差押えの無効を主張できます。

 

相続放棄は、一定期間内での家庭裁判所への申述が必要(民法第915条第1項本文及び同法第938条)であり、その効力は絶対的とされています。

 

最判昭和42年1月20日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
「相続人は相続開始時に遡ぼつて相続開始がなかつたと同じ地位におかれることとなり、この効力は絶対的で、何人に対しても、登記等なくしてその効力を生ずる」

 

一方、遺産分割、遺言の場合は、第三者がその内容を知ることが困難であり、取引の安全を保護するため、民法第899条の2第1項で「対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない」と異なる扱いになります。


そもそも遺産分割等の場合は、法定相続分を「超える」権利を手に入れるのですが、相続放棄の場合は、法定相続分自体が「増える」のであって法定相続分を「超える」わけではありません。その「増える」ことも、誰かの意思により相続分を増やすわけではなく、相続放棄の法律上の効果として相続人が減ったことによる反射的効果でしかありません。その点が違うと考えられます。

 


なお、相続放棄は身分行為であり詐害行為取消権の目的にならないこともついでに憶えておきましょう。

最判昭和49年9月20日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
「相続の放棄のような身分行為については、民法424条の詐害行為取消権行使の対象とならないと解するのが相当」

選択肢5. Aが「甲をCに相続させる」旨の特定財産承継遺言を行っていたが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bが甲に関するBの法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続を行った上で、これをHに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、民法の規定によれば、Cは、Hに対して、Hの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。

妥当です。

 

遺産分割又は遺言により法定相続分等を超える権利を取得した相続人は、当該超過部分については対抗要件を備えなければ第三者に対抗できません。


特定財産承継遺言により法定相続分を超える土地の持分を取得したCは、登記を備えていないので、第三者であるHに対して、Bの法定相続分相当分について自己に帰属することを主張できません。

 

民法第899条の2第1項「相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。」

 

以前は判例で、不動産について遺言により相続分のない相続人は無権利者であるから、たとえ法定相続分に基づく登記をしていたとしても無権利者からの権利移転となり、登記に公信力がない以上、第三者は権利を取得しないとされていました。
しかし、遺言の内容は第三者には知ることができない話であり、取引の安全を保護するために法改正で同条が制定されました。

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