行政書士 過去問
令和6年度
問30 (法令等 問30)

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問題

行政書士試験 令和6年度 問30(法令等 問30) (訂正依頼・報告はこちら)

Aが所有する甲建物(以下「甲」という。)につき、Bのために抵当権が設定されて抵当権設定登記が行われた後、Cのために賃借権が設定され、Cは使用収益を開始した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
  • Bの抵当権設定登記後に設定されたCの賃借権はBに対して対抗することができないため、Bは、Cに対して、直ちに抵当権に基づく妨害排除請求として甲の明渡しを求めることができる。
  • Bの抵当権が実行された場合において、買受人Dは、Cに対して、直ちに所有権に基づく妨害排除請求として甲の明渡しを求めることができる。
  • AがCに対して有する賃料債権をEに譲渡し、その旨の債権譲渡通知が内容証明郵便によって行われた後、Bが抵当権に基づく物上代位権の行使として当該賃料債権に対して差押えを行った場合、当該賃料債権につきCがいまだEに弁済していないときは、Cは、Bの賃料支払請求を拒むことができない。
  • Cのための賃借権の設定においてBの抵当権の実行を妨害する目的が認められ、Cの占有により甲の交換価値の実現が妨げられてBの優先弁済権の行使が困難となるような状態がある場合、Aにおいて抵当権に対する侵害が生じないように甲を適切に維持管理することが期待できるときであっても、Bは、Cに対して、抵当権に基づく妨害排除請求として甲の直接自己への明渡しを求めることができる。
  • CがAの承諾を得て甲をFに転貸借した場合、Bは、特段の事情がない限り、CがFに対して有する転貸賃料債権につき、物上代位権を行使することができる。

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この過去問の解説 (2件)

01

抵当権者と賃借人の関係

やや細かく難易度も高い問題ですが、物上代位と債権譲渡の優先関係などは覚えて損はない知識なので押さえておきましょう。

選択肢1. Bの抵当権設定登記後に設定されたCの賃借権はBに対して対抗することができないため、Bは、Cに対して、直ちに抵当権に基づく妨害排除請求として甲の明渡しを求めることができる。

×

抵当権に対抗できない賃借権により競売開始手続前からその目的建物について

1.賃貸借契約を結んだ賃借人であり、

かつ

2.実際に使用収益する者

買受けの時から6か月間その明渡の猶予が認められます。(民法395条)

 

※建物賃借人のみ。(土地賃借人には適用されません。)

※賃借人は賃料相当額を不当利得として買受人に納めなければ明渡猶予は認められません。

※競売開始手続後に賃貸借契約を結んだ者や契約だけ行い現実に使用収益していない者は適用外となります。(ただし強制管理・担保不動産収益執行の管理人が競売開始手続後に賃貸借契約を結んだ場合はその賃借人に適用されます。)
 

選択肢2. Bの抵当権が実行された場合において、買受人Dは、Cに対して、直ちに所有権に基づく妨害排除請求として甲の明渡しを求めることができる。

×

抵当権に対抗できない賃借権により競売開始手続前からその目的建物について、

1.賃貸借契約を結んだ賃借人であり、

かつ

2.実際に使用収益する者は

買受けの時から6か月間その明渡の猶予が認められます。(民法395条)

猶予期間は買受けから6か月あり、直ちに明渡請求することはできません。

選択肢3. AがCに対して有する賃料債権をEに譲渡し、その旨の債権譲渡通知が内容証明郵便によって行われた後、Bが抵当権に基づく物上代位権の行使として当該賃料債権に対して差押えを行った場合、当該賃料債権につきCがいまだEに弁済していないときは、Cは、Bの賃料支払請求を拒むことができない。

抵当権者の賃料債権への物上代位による差押えと賃料債権の債権譲渡との優劣は抵当権の設定登記と第三者に対する債権譲渡の対抗要件の具備(債務者への確定日付ある証書による通知)の先後によります。(最判平10・1・30)

本肢ではBによる抵当権設定登記が先になされているのでBの物上代位が優先します。

※なお、賃借人が敷金を支払っている場合は敷金の充当による相殺が優先されます。

選択肢4. Cのための賃借権の設定においてBの抵当権の実行を妨害する目的が認められ、Cの占有により甲の交換価値の実現が妨げられてBの優先弁済権の行使が困難となるような状態がある場合、Aにおいて抵当権に対する侵害が生じないように甲を適切に維持管理することが期待できるときであっても、Bは、Cに対して、抵当権に基づく妨害排除請求として甲の直接自己への明渡しを求めることができる。

×

占有者が占有権原を有する場合であっても、占有者に競売妨害目的があり、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権の優先弁済権の行使が困難になるような事情がある場合には抵当権者は自己の抵当権に基づく妨害排除請求権を行使できます。

この場合に設定者(所有者)が適切に維持管理することを期待できない場合は、抵当不動産の直接自己への明渡しを請求できます。(最判平17・3・10)

本肢では「甲を適切に維持管理することが期待できるとき」とありますので上記のような事情が認められず、非占有型物件である抵当権に基づく直接の明渡請求は認められません。

選択肢5. CがAの承諾を得て甲をFに転貸借した場合、Bは、特段の事情がない限り、CがFに対して有する転貸賃料債権につき、物上代位権を行使することができる。

×

転貸賃料債権については、賃借人を所有者(賃貸人)と同視できるような特段の事情がない限り物上代位権を行使できません

まとめ

賃借権は登記が無ければ抵当権に対抗できないのが原則です。

賃借権は物権ではなく債権であるため、特約が無ければ登記請求権は認められません。

ただし借地権(建物所有を目的とする地上権または土地賃借権)については借地権者名義での借地上の建物の登記がされていれば対抗要件となります。(借地借家法10条1項)土地の登記は表示の登記で足ります。

また借家権(建物を借りる権利)については建物の引渡しが対抗要件になります。(借地借家法31条1項)

 

登記された賃借権については先順位抵当権者全員の同意があれば、同意の登記をすることで先順位抵当権者および競売の買受人に対抗できます。(民法387条)

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02

本問は、抵当権設定登記後に設定された賃借権(抵当権に遅れる賃借権)と抵当権との関係について、基本的な知識を問う問題です。

 

抵当権は非占有質であり、抵当不動産の所有者に占有は残ったままで、所有者は抵当不動産を通常の用法に従って使用収益できます。
抵当不動産に賃借権を設定することも、通常の用法である限り自由です。抵当権に遅れる(登記等の対抗要件の先後で決まります)用益権(地上権、賃借権、使用借権)は抵当権に対抗できません。
というのは、最低限の基礎知識です。

選択肢1. Bの抵当権設定登記後に設定されたCの賃借権はBに対して対抗することができないため、Bは、Cに対して、直ちに抵当権に基づく妨害排除請求として甲の明渡しを求めることができる。

妥当ではありません

 

まず、前段は妥当です。賃借人Cの賃借権は抵当権者Bの抵当権の設定登記よりも後なので、賃借人Cは抵当権者Bに対抗できません。

 

しかし、後段は妥当ではありません。
そもそも抵当権は非占有質であり、所有者の下に占有を残して使用収益を認めたままで債権の担保に供する担保物権です。ですから所有者Aには抵当不動産の占有権限と使用収益権があります。
賃貸借は通常の使用収益の方法であり、所有者の当然の権利です。それに基づく賃借権も正当です。
正当である限り抵当権侵害には当たらず、抵当権に基づく妨害排除請求は認められません。

 

最判平成17年3月10日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
「抵当権設定登記後に抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者についても,その占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ,その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは,抵当権者は,当該占有者に対し,抵当権に基づく妨害排除請求として,上記状態の排除を求めることができる」

 

あくまでも、抵当権侵害の意図と優先弁済権行使が困難になる可能性がなければ妨害排除請求は認められません。

 

 

なお、妨害排除請求ではなく、抵当権実行による抵当建物の買受人との関係においても、抵当権に遅れる賃借権は一定の保護を受けます。

 

民法第395条第1項「抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって次に掲げるもの(次項において「抵当建物使用者」という。)は、その建物の競売における買受人の買受けの時から六箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。
一 競売手続の開始前から使用又は収益をする者
二 強制管理又は担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後にした賃貸借により使用又は収益をする者

選択肢2. Bの抵当権が実行された場合において、買受人Dは、Cに対して、直ちに所有権に基づく妨害排除請求として甲の明渡しを求めることができる。

妥当ではありません

 

抵当権が実行された場合、抵当建物の買受人Dは、抵当権に遅れる賃借権に基づく賃借人Cに対して当該建物の明け渡しの請求ができますが、6か月の猶予期間があります。「直ちに」ではありません。

 

民法第395条第1項柱書「抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって次に掲げるもの(次項において「抵当建物使用者」という。)は、その建物の競売における買受人の買受けの時から6箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。」

 

常識で考えて、すぐに出ていけでは賃借人が困るでしょう。
そんなに急に立ち退きを迫られるような建物は、危なくて借り手がつきません。

選択肢3. AがCに対して有する賃料債権をEに譲渡し、その旨の債権譲渡通知が内容証明郵便によって行われた後、Bが抵当権に基づく物上代位権の行使として当該賃料債権に対して差押えを行った場合、当該賃料債権につきCがいまだEに弁済していないときは、Cは、Bの賃料支払請求を拒むことができない。

妥当です。よってこの肢が正解です。

 

抵当権者Bは、抵当権の目的物の売却等の対価として債務者(所有者Aであるとは限りません)が受けることになる金銭等に対しても行使することができます。これを物上代位と言います(担保となる「物」の「上」に存在する権利に基づいて債務者の地「位」になり「代」わるということですね)。


物上代位権の行使は、払渡し等の前に差押える必要があります。

そして、債権譲渡は払渡し等には当たらないとするのが判例なので、弁済前であれば差押えにより物上代位権を行使できます。

 

民法第372条「第二百九十六条、第三百四条及び第三百五十一条の規定は、抵当権について準用する。」

 

同法304条第1項「先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。」

 

最判平成10年1月30日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
「民法304条1項の趣旨目的に照らすと、同項の「払渡又ハ引渡」には債権譲渡は含まれず、抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる」

選択肢4. Cのための賃借権の設定においてBの抵当権の実行を妨害する目的が認められ、Cの占有により甲の交換価値の実現が妨げられてBの優先弁済権の行使が困難となるような状態がある場合、Aにおいて抵当権に対する侵害が生じないように甲を適切に維持管理することが期待できるときであっても、Bは、Cに対して、抵当権に基づく妨害排除請求として甲の直接自己への明渡しを求めることができる。

妥当ではありません


賃借権設定に抵当権侵害の意図があり、抵当権者Bの優先弁済権の行使に支障があるおそれがあれば、抵当権に基づく妨害排除請求が認められます。しかし、その内容として抵当不動産を抵当権者Bに引き渡すように求めることは、抵当不動産の所有者Aにおいて抵当不動産を適切に管理できない場合でなければ認められません。

 

そもそも抵当権は非占有質であり、抵当権設定者の元に抵当不動産の占有を残して使用収益を認めるものであり、抵当権設定者に占有を移すのは本来の姿ではありません。
抵当権設定者の適切な管理が期待できないならば「仕方がないから」抵当権設定者に管理させるということを正当化できるにしても、そうでない限り、本来的な専有権限を有する抵当権設定者から占有を奪うことはできません。

 

最判平成17年3月10裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
「抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり,抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には,抵当権者は,占有者に対し,直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができる」

 

あくまでも、所有者の適切な維持管理が期待できない場合に限った話です。

選択肢5. CがAの承諾を得て甲をFに転貸借した場合、Bは、特段の事情がない限り、CがFに対して有する転貸賃料債権につき、物上代位権を行使することができる。

妥当ではありません

 

抵当権者Bは、抵当権の目的物の売却等の対価として債務者が受けることになる金銭等に対しても行使することができます。これを物上代位と言います(担保となる「物」の「上」に存在する権利に基づいて債務者の地「位」に「代」わるということですね)。

 

ここで、抵当不動産の賃借人Cは、民法第372条が準用する同法第304条第1項の「債務者」には原則として含まれないとするのが判例です。
よって、賃借人C(=転貸人)が転借人Fから受け取る賃料に対して、抵当権者Bは物上代位することはできません。

 

民法第372条「第296条、第304条及び第351条の規定は、抵当権について準用する。」

 

同法第304条第1項本文「先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。」

 

最決平成12年4月14日(裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan)
「民法372条によって抵当権に準用される同法304条1項に規定する「債務者」には、原則として、抵当不動産の賃借人(転貸人)は含まれないものと解すべきである。けだし、所有者は被担保債権の履行について抵当不動産をもって物的責任を負担するものであるのに対し、抵当不動産の賃借人は、このような責任を負担するものではなく、自己に属する債権を被担保債権の弁済に供されるべき立場にはないからである。同項の文言に照らしても、これを「債務者」に含めることはできない。また、転貸賃料債権を物上代位の目的とすることができるとすると、正常な取引により成立した抵当不動産の転貸借関係における賃借人(転貸人)の利益を不当に害することにもなる。」
「抵当権者は、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合を除き、右賃借人が取得すべき転貸賃料債権について物上代位権を行使することができない

 

ざっくりまとめると、抵当権者に対して賃借人は被担保債権の履行について何ら責任を負わないし、文言上も無理があるし、賃借人(転貸人)の正当な利益は保護すべきだと言っているわけです。
要するに、賃借人(転貸人)にとって、抵当権者と抵当権設定者ないし債務者の間の話など本来関係がないということです。

 

なお、例外も気に留めておきましょう

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