行政書士 過去問
令和6年度
問28 (法令等 問28)

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問題

行政書士試験 令和6年度 問28(法令等 問28) (訂正依頼・報告はこちら)

無効および取消しに関する次の記述のうち、民法の規定に照らし、誤っているものはどれか。
  • 贈与契約が無効であるにもかかわらず、既に贈与者の履行が完了している場合、受贈者は受け取った目的物を贈与者に返還しなければならず、それが滅失して返還できないときは、贈与契約が無効であることを知らなかったとしても、その目的物の現存利益の返還では足りない。
  • 売買契約が無効であるにもかかわらず、既に当事者双方の債務の履行が完了している場合、売主は受け取った金銭を善意で費消していたとしても、その全額を返還しなければならない。
  • 秘密証書遺言は、法が定める方式に欠けるものであるときは無効であるが、それが自筆証書による遺言の方式を具備しているときは、自筆証書遺言としてその効力を有する。
  • 未成年者が親権者の同意を得ずに締結した契約について、未成年者本人が、制限行為能力を理由としてこれを取り消す場合、親権者の同意を得る必要はない。
  • 取り消すことができる契約につき、取消権を有する当事者が、追認をすることができる時以後に、異議をとどめずにその履行を請求した場合、これにより同人は取消権を失う。

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この過去問の解説 (2件)

01

無効及び取消し

無効・取消し及びそれに基づく原状回復請求に関する問題です。

誰にその権限があるか、あったとしてどの範囲の原状回復請求権が生じるのか条文を読んで学んでおきましょう。

選択肢1. 贈与契約が無効であるにもかかわらず、既に贈与者の履行が完了している場合、受贈者は受け取った目的物を贈与者に返還しなければならず、それが滅失して返還できないときは、贈与契約が無効であることを知らなかったとしても、その目的物の現存利益の返還では足りない。

×

無償行為無効または取り消された場合に、その無償行為により給付を受けた者がその行為当時無効または取り消しの原因があることについて善意であった場合は現存利益での返還で足ります。(民法121条の2 第2項)

選択肢2. 売買契約が無効であるにもかかわらず、既に当事者双方の債務の履行が完了している場合、売主は受け取った金銭を善意で費消していたとしても、その全額を返還しなければならない。

「無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。」(民法121条の2 第1項)

選択肢3. 秘密証書遺言は、法が定める方式に欠けるものであるときは無効であるが、それが自筆証書による遺言の方式を具備しているときは、自筆証書遺言としてその効力を有する。

「秘密証書による遺言は、前条に定める方式に欠けるものがあっても、第九百六十八条に定める方式(自筆証書遺言の方式)を具備しているときは、自筆証書による遺言としてその効力を有する。」(民法971条)

 

選択肢4. 未成年者が親権者の同意を得ずに締結した契約について、未成年者本人が、制限行為能力を理由としてこれを取り消す場合、親権者の同意を得る必要はない。

まず制限行為能力を理由とする取消しにおける取消権者は制限行為能力者本人・代理人・承継人・同意することができる者となり、制限行為能力者本人は取消権者に該当します。(民法120条1項)

取消しの効果は遡及的無効による原状回復であり、新たな法律関係を形成するものではありません。

したがって制限行為能力者が同意なく単独ですることができます。

選択肢5. 取り消すことができる契約につき、取消権を有する当事者が、追認をすることができる時以後に、異議をとどめずにその履行を請求した場合、これにより同人は取消権を失う。

追認をすることができるとき以後異議をとどめず法定追認事由の行為(履行の請求 民法125条2号)をしている以上、法定追認の要件を満たし以後取消しすることはできなくなります。(民法125条)

まとめ

取消しおよび無効

まず取消権者は限定列挙となります。(民法120条)

制限行為能力者による取消し・・・制限行為能力者本人(同意不要)・代理人・承継人・同意することができる者(1項)

錯誤・詐欺・脅迫による取消し・・・表意者およびその代理人・承継人(2項)

これに対し無効は誰からでも請求できます。

法定追認(125条)は重要事項なのでその要件はしっかり把握しておきましょう。

意思無能力者・制限行為能力者の原状回復義務は現存利益で足ります。(民法121条の2 第3項)(相手側の原状回復義務は軽減されません。)

無償行為も上記の通り、給付を受けた者が無効・取消しの原因について善意の場合は現存利益の返還で足ります。

 

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02

無効、取消しについての基礎知識を問う問題です。

問題文が「民法の規定に照らし」となっているので、条文知識だけで解ける問題です。

選択肢1. 贈与契約が無効であるにもかかわらず、既に贈与者の履行が完了している場合、受贈者は受け取った目的物を贈与者に返還しなければならず、それが滅失して返還できないときは、贈与契約が無効であることを知らなかったとしても、その目的物の現存利益の返還では足りない。

誤っています。よってこの肢が正解です。


民法第121条の2第1項「無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。」

同条第2項「前項の規定にかかわらず、無効な無償行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、給付を受けた当時その行為が無効であること(……)を知らなかったときは、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。」

 

本問は、贈与契約という無償契約であり、「無効であることを知らなかった」のですから、第121条第2項により、現存利益のみを返還するだけで足ります。

 

なお、意思無能力者、制限行為能力者についても、現存利益の返還だけで足りる(同条第3項)ことをついでに憶えておきましょう。

選択肢2. 売買契約が無効であるにもかかわらず、既に当事者双方の債務の履行が完了している場合、売主は受け取った金銭を善意で費消していたとしても、その全額を返還しなければならない。

正しいです。
 

売買契約は有償契約ですから、受益者の善意悪意という主観要件にかかわらず、民法第121条の2第2項の適用はありません。
よって、契約当事者双方に「原状回復義務」が生じ、現存利益だけでなく売買代金全額を返還する義務を負います。

 

民法第121条の2第1項「無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。」

選択肢3. 秘密証書遺言は、法が定める方式に欠けるものであるときは無効であるが、それが自筆証書による遺言の方式を具備しているときは、自筆証書遺言としてその効力を有する。

正しいです。


民法第971条「秘密証書による遺言は、前条に定める方式に欠けるものがあっても、第968条に定める方式を具備しているときは、自筆証書による遺言としてその効力を有する。」

選択肢4. 未成年者が親権者の同意を得ずに締結した契約について、未成年者本人が、制限行為能力を理由としてこれを取り消す場合、親権者の同意を得る必要はない。

正しいです。


民法第5条第2項「前項の規定(=未成年者の法律行為には法定代理人の同意を要する旨の規定)に反する法律行為は、取り消すことができる。」

 

取消しも意思表示なので、純理論的に言えば、親権者の同意を得ない未成年者の取消しの意思表示は取り消すことができることになりますが、そうすると法律関係の早期安定という面で不都合なので、未成年の取消しに親権者の同意は不要です。


未成年者を含む制限行為能力者本人の取消権を明文規定で認める民法第120条第1項は、取消権の行使は取り消し得る行為でないという趣旨と解されています。

 

民法第120条第1項「行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者(他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為にあっては、当該他の制限行為能力者を含む。)又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。」

 

なお、この問題では未成年者と親権者となっていますが、第120条条1項の規定から明らかなとおり、制限行為能力者一般について取消しに同意権者の同意は不要です。

選択肢5. 取り消すことができる契約につき、取消権を有する当事者が、追認をすることができる時以後に、異議をとどめずにその履行を請求した場合、これにより同人は取消権を失う。

正しいです。


民法第122条「取り消すことができる行為は、第120条に規定する者が追認したときは、以後、取り消すことができない。」

第124条第1項「取り消すことができる行為の追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権を有することを知った後にしなければ、その効力を生じない。」

 

第125条「追認をすることができる時以後に、取り消すことができる行為について次に掲げる事実があったときは、追認をしたものとみなす。ただし、異議をとどめたときは、この限りでない。
一 全部又は一部の履行
二 履行の請求
三 更改
四 担保の供与
五 取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡
六 強制執行

 

第124条第1項の「取消し原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権の存在を知った」という状態が、問題文の「追認をすることができる時」に該当します。
その状態で「異議をとどめずに履行を請求する」と第125条第2号に該当して追認擬制(「みなす」=擬制ですから、「いやあれは追認のつもりはなかった」と後で主張してどんな立証をしても覆ることはありません)が生じます。
その結果として第122条の「追認権者の追認があった」ことになり、取消権は消滅します。

まとめ

この問題の条文は比較的近時(と言っても5年以上前ですが)の改正によるものなので古い本には載っていませんので念のため。

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