行政書士 過去問
令和6年度
問27 (法令等 問27)
問題文
失踪の宣告に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
このページは閲覧用ページです。
履歴を残すには、 「新しく出題する(ここをクリック)」 をご利用ください。
問題
行政書士試験 令和6年度 問27(法令等 問27) (訂正依頼・報告はこちら)
失踪の宣告に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
- 不在者の生死が7年間明らかでない場合において、利害関係人の請求により家庭裁判所が失踪の宣告をしたときは、失踪の宣告を受けた者は、7年間の期間が満了した時に、死亡したものとみなされる。
- 失踪の宣告を受けた者が実際には生存しており、不法行為により身体的被害を受けていたとしても、失踪の宣告が取り消されなければ、損害賠償請求権は発生しない。
- 失踪の宣告の取消しは、必ず本人の請求によらなければならない。
- 失踪の宣告によって失踪者の財産を得た者は、失踪の宣告が取り消されたときは、その受けた利益の全部を返還しなければならない。
- 失踪の宣告によって失踪者の所有する甲土地を相続した者が、甲土地を第三者に売却した後に、失踪者の生存が判明し、この者の失踪の宣告が取り消された。この場合において、相続人が失踪者の生存について善意であったときは、第三者が悪意であっても、甲土地の売買契約による所有権移転の効果に影響しない。
正解!素晴らしいです
残念...
この過去問の解説 (2件)
01
失踪宣告
失踪宣告とは不在者の生死が明らかでなくなった場合に利害関係人の家庭裁判所への請求により、失踪者の死亡を擬制するものです。
失踪宣告には普通失踪と特別失踪があります。
失踪宣告がなされると死亡擬制効果により相続が開始し、婚姻関係は終了します。
〇
「前条第一項(普通失踪)の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に・・・死亡したものとみなす。」(民法31条1項)
本肢は正解です。
×
自然人の権利能力は出生により生じ(民法3条1項)、死亡により消滅するとされます。
しかし「死亡したものとみなす。」(民法31条1項)とは住所地以外の地でもし生存していた場合の権利能力を剝奪するものではないとされます。
本来の住所地以外の地で契約を結んだり、不法行為を受けた条合は損害賠償請求も可能です。
×
失踪宣告の取消しの請求権者は本人または利害関係人です。(民法32条1項)
必ずしも本人によらなければいけない訳ではありません。
×
失踪者の生存(または死亡擬制時期と異なる時期の死亡)について善意であれば現に利益を受けている限度(現存利益)の返還で足ります。
(民法32条2項)
※善意は条文上要求されていないので注意してください。悪意者には704条の不当利得の規定が適用されます。
×
失踪宣告後その取消前に当事者双方が善意でした行為の効力は、失踪宣告の取消しでは失われません。(民法32条1項)
本肢では甲土地の買主が悪意であるので失踪宣告の取消しにより失踪者の所有権が回復します。
失踪宣告及びその取消しについて整理しましょう。
請求権者・・・利害関係人(失踪宣告の取消しでは本人または利害関係人)
→不在者関連の請求と違い、検察官に請求権はありません。
要件となる失踪期間
普通失踪・・・最後に生存していたのが明らかな時から7年間
特別失踪・・・戦争、船舶の沈没、遭難その他の危難が去ったあと1年間
死亡が犠牲される時期
普通失踪・・・7年間の失踪期間満了時
特別失踪・・・危難が去った時
なお、失踪宣告による死亡は推定ではなく擬制なので反証を挙げても覆りません。その効果を消滅させたければ失踪宣告の取消しの審判が必要になります。
よって失踪宣告の取消しがなされない限り、失踪宣告で得た財産は返還しなくてもよいことになります。
参考になった数3
この解説の修正を提案する
02
失踪宣告について基本的知識を問う問題です。
「民法の規定および判例に照らし」とあるので、条文と判例の両方の知識が必要ですが、それほど複雑ではありません。
特に、
・普通失踪と特別失踪(危難失踪)の要件効果
・死亡と「みなされる」の意味。
・宣告の取消しの請求権者とその効果。
はしっかり押さえておきましょう。
妥当です。よってこの肢が正解です。
条文知識です。
民法第30条第1項「不在者の生死が七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。」
同第31条前段「前条第一項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、……死亡したものとみなす。」
①7年間生死不明
②利害関係人の請求による失踪宣告
が要件であり、
③7年の満了時に死亡したとみなす
が効果です。
以上が、普通失踪です。
一方、特別失踪(危難失踪)は、
同第30条第2項「……死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、……その他の危難が去った後一年間明らかでないときも、前項と同様とする。」
同31条後段「同条第二項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす。」
①危難に遭遇した場合、危難が「去った後」1年間生死不明
②利害関係人の請求による失踪宣告
が要件であり、
③危難が「去った時」に死亡したとみなす。
が効果です。
生死不明の期間と、死亡したとみなす時が微妙に違うので注意しましょう。
なお、この規定は民法の学習でおそらく最初に「みなす」という言葉が出てくるところです。
「みなす」とは、法律上の擬制を意味します。これは、法律上は、「そういうものとして扱い、かつ、反証を認めない」という意味です。「反証を認めない」というのがミソで、「実際は違うということをいくら証明しても無意味」ということです。極端な話、失踪宣告を受けた本人が生きて戻ってきても、失踪宣告の効果はそのままだということです。
失踪宣告の取消し以外には失踪宣告の効果を消滅させることはできません。
「みなす」が法律上の擬制であるというのは、法律学では基礎中の基礎なので、正しく使えるように気を付けましょう。法律論では安易になんでも「みなす」と言ってはいけません。
妥当ではありません。
失踪宣告の効果は、「失踪宣告により死亡したとみなされる時以前の法律関係の確定」だけです。死亡したとみなされる時より後に起きたことにかかる法律関係の処理は、通常の扱いになります。
法律上、死者には権利能力がありませんが、失踪宣告後にも現に生きている(た)失踪者について権利能力がなくなるわけではありません。生きている限り当然に法律上の権利義務の主体となることができます。
よって、失踪宣告後に、生きていた失踪者が不法行為を受ければ、要件を満たす限り当然に損害賠償請求権は発生しますし、逆に不法行為を行えば、同じく要件を満たす限り当然に損害賠償義務を負います。不法行為に限らず、契約に基づく権利義務関係なども、全く同じです。
妥当ではありません。
条文知識です。
失踪宣告の取消しについて定める民法第32条第1項に「本人又は利害関係人の請求により」と書いてあります。
妥当ではありません。
条文知識です。
民法第32条第2項に「失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失う。ただし、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う。」と書いてあります。
この「財産を得た者」とは、第1項の「行為」との対比で、特に「行為」(=法律行為)をせずに「財産を得た者」のことです。具体的には相続人(相続は意思表示を要素としないので法律要件としては法律行為ではなく「事件」です)などがあります。
なお、同項には善意又は悪意という受益者の主観要件の記載がありません。この点について通説は、一般不当利得と同様と解し、同項は善意の場合であり、悪意の場合には第704条が適用される、つまり悪意の受益者は利息の返還も要する(さらに損害賠償責任も負う)と解しています。
妥当ではありません。
条文と判例の知識です。
失踪宣告が取り消されると、取消しの遡及効により、失踪宣告に基づく法律関係の変動は初めからなかったことになります。しかし、それでは法的安定性の見地から不都合があるので、民法第32条第1項第後段は、善意でした行為には取消しの遡及効が及ばないとしています。
民法第32条第1項第後段「この場合(=失踪宣告を取り消した場合。筆者註)において、その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。」
では、誰が「善意」(=失踪者が生存している、又は、失踪宣告により死亡とみなされる時と異なる時に死亡したことを知らない)であればいいのでしょうか?
判例(大判昭和13年2月7日)は、「行為」の「当事者双方」と考えています。つまり、一方又は双方が悪意(=失踪者が存命であること、又は、失踪宣告による死亡の時と異なる時に死亡したことを知っている)であれば、取消しの遡及効の影響を受けることになります。
例えば、失踪宣告により発生した相続により取得した財産を相続人が第三者に売却した場合に一方又は双方の当事者が悪意ならば、その物の相続による取得が無効となるので相続人に所有権が帰属していなかったことになります。
すると理論的には他人の物を売却した、つまり、他人物売買になります。売買自体が無効になるわけではないことには注意してください。
よって、本問では当事者の一方である相続人は善意であるが、第三者が悪意のため、所有権移転の効果はなかったことになります。
補足です。
関連知識として、「認定死亡」という制度があります。
これは、例えば大地震などの災害で死亡しているのはほぼ確実だが、死体も出てこないので確認ができない場合に、戸籍法の手続きだけで死亡した扱い(死亡したと推定する)にする制度です。特別失踪とは異なり、「みなす」のでありません。単なる「推定」です。ですから、本人が生きて帰ってくれば当然に効力がなくなります。
参考になった数0
この解説の修正を提案する
前の問題(問26)へ
令和6年度 問題一覧
次の問題(問28)へ