行政書士 過去問
令和6年度
問32 (法令等 問32)
問題文
A所有の動産甲(以下「甲」という。)を、BがCに売却する契約(以下「本件契約」という。)に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
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問題
行政書士試験 令和6年度 問32(法令等 問32) (訂正依頼・報告はこちら)
A所有の動産甲(以下「甲」という。)を、BがCに売却する契約(以下「本件契約」という。)に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
- Bが、B自身を売主、Cを買主として本件契約を締結した場合であっても、契約は原則として有効であり、Bは、Aから甲の所有権を取得してCに移転する義務を負うが、本件契約成立の当初からAには甲を他に譲渡する意思のないことが明確であり、甲の所有権をCに移転することができない場合には、本件契約は実現不能な契約として無効である。
- Bが、B自身を売主、Cを買主として本件契約を締結した場合であっても、契約は原則として有効であり、Bは、Aから甲の所有権を取得してCに移転する義務を負うところ、本件契約後にBが死亡し、AがBを単独相続した場合においては、Cは当然に甲の所有権を取得する。
- Bが、B自身をAの代理人と偽って、Aを売主、Cを買主とする本件契約を締結し、Cに対して甲を現実に引き渡した場合、Cは即時取得により甲の所有権を取得する。
- Bが、B自身をAの代理人と偽って、Aを売主、Cを買主として本件契約を締結した場合、Bに本件契約の代理権がないことを知らなかったが、そのことについて過失があるCは、本件契約が無効となった場合であっても、Bに対して履行または損害賠償の請求をすることができない。
- Aが法人で、Bがその理事である場合、Aの定款に甲の売却に関しては理事会の承認が必要である旨の定めがあり、Bが、理事会の承認を得ないままにAを売主、Cを買主とする本件契約を締結したとき、Cが、その定款の定めを知っていたとしても、理事会の承認を得ていると過失なく信じていたときは、本件契約は有効である。
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この過去問の解説 (2件)
01
他人物売買の法的効果
売買契約の売主に売買の目的である権利がない場合でも売買契約は有効に成立します。(民法561条)
その法的効果に関する問題です。
×
「他人の権利(権利の一部が他人に属する場合におけるその権利の一部を含む。)を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。」(民法561条)
もし所有者に譲渡する意思がなく、原始的不能な場合であっても売買契約自体は有効に成立します。
この場合は履行不能にあたるので債務不履行になりますが、解除がなされない限り債権債務自体は存続します。(民法412条の2)
×
「信義則に反すると認められるような特別の事情のないかぎり、右売買契約上の売主としての履行義務を拒否することができるものと解するのが、相当である。」(最判昭49・9・4)
したがって相続人である所有者Aは履行を拒絶できます。
※なお売主である被相続人の債務不履行責任も相続により承継されているので、債務不履行による損害賠償責任は相続人が負うと解されます。
×
無権代理行為や無効・取り消しうる行為では即時取得は成立しません。
※なおこれらの相手方からさらに譲渡を受けた転得者には成立しうると解されます。
×
民法117条の無権代理人の責任追及の要件は
1.無権代理人が代理権を証明できない。
2.本人が追認しない。
3.同法115条による取消権を無権代理行為の相手方が行使していない。
4.無権代理人が行為能力を有する。
5.無権代理行為の相手方の善意無過失(無権代理人が自己に代理権がないことについて悪意の場合は、無権代理行為の相手方は善意であれば足りる)
です。
本肢では無権代理人がBがAの代理人と偽っているので、自己の代理権の不存在について悪意であると解されます。
したがって相手方Cは善意であれば足り、無権代理人の責任追及ができます。
〇
本件では定款で甲の売却について理事の代表権が制限されており、売却には理事会の承認が必要とされています。
理事の代表権が制限された当売却行為において理事会の承認のない利益相反行為は原則無効となります。
しかし、判例(最小判昭60・11・29)は理事の代表権の制限について善意無過失の第三者には売却行為の無効を対抗することはできないとしています。
代表権の制限について善意無過失とは、本売買契約について理事会の承認を受けなかった事について相手方が知らず、かつ知らないことについて過失がないことを指します。
定款の規定を知っていたとしても、承認がないことにつき善意無過失であれば法人はその者に対抗できないと解されます。
他人物売買で履行不能であったとしても直ちに無効なのではなく、履行不能となります。
解除しない限り債権債務は消滅しませんが、引渡し前の履行不能で買主に帰責事由がないのであれば反対給付の履行拒絶権を行使できます。(危険負担 民法536条)
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02
他人の物を売買契約の目的とした場合、他人物売買になるときと無権代理になるときがあります。
本問は、それぞれについて、基本的な条文と判例の知識を問う問題です。
妥当ではありません。
他人物売買の目的物の所有者が契約以前から目的物を譲渡する意思がないとしても他人物売買契約自体は有効です。
まず他人物売買は、物権変動の効力が生じないだけで、契約当事者間においては債権的に有効です。
民法第561条「他人の権利(権利の一部が他人に属する場合におけるその権利の一部を含む。)を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。」
なお、「他人の権利」とありますが、通常の売買契約でも目的物の「所有権」が売買の目的です。
そして、「他人」に権利を手放す意思が全くなかったとしても、それだけで「契約が原始的に不能であり無効」ということにはなりません。
最判昭和25年10月26日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
「一般に契約の履行がその契約締結の当初において客観的に不能であれば、その契約は不可能な事項を目的とするものとして無効」
「他人の物の売買にあつては、その目的物の所有者が売買成立当時からその物を他に譲渡する意思がなく、従つて売主においてこれを取得し買主に移転することができないような場合であつてもなおその売買契約は有効に成立する」
つまり、一般論として原始的不能の契約は無効であるが、こと他人物売買に関しては、契約成立時から実現しないものであったとしても、有効であると言っています。
そして、現在では法改正により、履行不能な債務について損害賠償請求権が発生することが一般論として認められています。
同法第412条の2第2項「契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第四百十五条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。」
したがって、そもそも「原始的不能であるから無効」という理屈自体が現行法では通用しません。
妥当ではありません。
他人物売買において、他人物の売り主Bが死亡して、当該他人物の所有者Aがその地位を相続したとしても、相手方Cは当然に所有権を取得することはありません。
また、所有者Aは所有者Aの立場で所有権の移転を拒否できます。
最判昭和49年9月4日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan)
「他人の権利の売主が死亡し、その権利者において売主を相続した場合
には、権利者は相続により売主の売買契約上の義務ないし地位を承継するが、そのために権利者自身が売買契約を締結したことになるものでないことはもちろん、これによつて売買の目的とされた権利が当然に買主に移転するものと解すべき根拠もない。」
「権利者は、……権利者としてその権利の移転につき諾否の自由を保有しているのであつて、それが相続による売主の義務の承継という偶然の事由によつて左右されるべき理由はなく、また権利者がその権利の移転を拒否したからといつて買主が不測の不利益を受けるというわけでもない。それゆえ、権利者は、相続によつて売主の義務ないし地位を承継しても、相続前と同様その権利の移転につき諾否の自由を保有し、信義則に反すると認められるような特別の事情のないかぎり、右売買契約上の売主としての履行義務を拒否することができる」
他人物売主Bが所有者Aの知らぬところで勝手に締結した売買契約に所有者Aが拘束されるのは筋違いというわけです。
なお、逆に所有者Aが死亡して他人物売主Bが所有者Aを相続した場合について、直接の判例はありませんが、無権代理の事案で、無権代理人が本人を単独で相続した場合、所有権は相手方に移転するという趣旨の判例があります。
最判昭和40年6月18日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
「無権代理人が本人を相続し本人と代理人との資格が同一人に帰するにいたつた場合においては、本人が自ら法律行為をしたのと同様な法律上の地位を生じたものと解するのが相当」
これは単独相続ですが、共同相続だとまた話が変わります。複雑なのでここでは割愛します。
妥当ではありません。
無権代理による動産取引については、即時取得の適用はありません。
民法第192条「取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。」
即時取得の「取引行為」とは、有効な取引であると考えられています。
そこで、無権代理の場合、相手方Cと本人Aとの間には追認がない限り効力が生じないので無効であり、即時取得は成立しません。
同法第113条「代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。」
妥当ではありません。
無権代理人Bが自己に代理権が存在しないことを知っていた場合、相手方Cが代理権が存在しないことを知らなかったことに過失があったとしても、相手方Cは無権代理人の民法第117条の責任を問うことができます。つまり、履行又は損害賠償の請求ができます。
「偽って」というのは「無いと知っていながらある振りをした」という意味です。
Bは無権代理人です。無権代理行為は、本人Aが追認しなければ、本人Aに効果が帰属しないという意味で無効になります。
民法第113条第1項「代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。」
無効になると言っても、無権代理人Bと相手方Cの間には、無権代理人の責任の問題が生じます。
この場合、相手方Cは民法第117条の無権代理人の責任を追及できることがあります。
このとき、相手方Cの認識(主観面と言います)によってその後の処理が変わります。
①まず、相手方CがBに代理権がないことを知らず(善意)、かつ、知らなかったことについて過失がない場合です(相手方が善意無過失)。
この場合は、問題なく117条責任を追及することができます。
同条第1項「他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。」
形式的にはこれが原則(*)です。
②次に、相手方Cが無権代理人Bに代理権がないことを知らなかった(善意)が、知らなかったことについて過失がある場合です(相手方が善意有過失)。
この場合には、相手方Cの主観面に加えて、無権代理人Bの主観面が問題になります。
無権代理人Bが自己に本人Aの代理権がないことを知っていた(悪意)の場合には、相手方Cは無権代理人に対して117条責任を問うことができます。
形式的には無権代理人Bが善意である場合、つまり、責任追及ができないのが原則(例外の内の原則)です。
同条第2項「前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
……
二 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない。」
③最後に、相手方CがBに代理権がないことを知っていた(相手方が悪意)場合です。
相手方Cが無権代理人Bに代理権がないことを知っていた場合、相手方Cは無権代理人Bの117条責任を問うことができません。
同条第2項第「前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。
……」
そもそも、無権代理であることを知っていたのですから、本人Aの追認が得られず契約が効力を生じないことは想定できる話です。追認が得られない可能性があることを覚悟した上での行為なのだから、文句を言えた義理ではなかろうということです。
結局、相手方Cが無権代理人Bに対して117条責任を問えるかどうかは、バランスの問題です。
①相手方Cに帰責性が一切ない(善意無過失)なら無権代理人Bに帰責性がなくても相手方Cを保護すべきだから、当然問える。
②相手方Cにも帰責性が多少なりにもある(有過失)なら相手方Cは保護しなくていいが、無権代理人Bの帰責性が大きい(悪意)場合には、相手方Cを保護する。
③相手方Cの帰責性が大きい(悪意)ならば、相手方Cを保護する必要はない。
ということです。
当事者の帰責性のバランスをとるのは、民法ではよくあると言いますか基本的な発想です。
(*)形式的には原則。
行政書士試験には全く関係がありませんが、条文の解釈から「原則」と「例外」を考えることは、訴訟における証明責任の問題につながります。
ざっくり言うと、
原則を主張して有利な側がまずその原則に該当する事実を主張立証しなければならない。これに対して例外を主張する側は、例外に該当する事実を主張立証しなければならない。
という話です。
参考まで。
妥当です。よってこの肢が正解です。
まず、代表理事は、一般社団法人の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有します。
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(一般法人法)第77条第4項「代表理事は、一般社団法人の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。」
この代表理事の「一切の行為をする」権限に加えた制限は、善意の第三者に対しては主張できません。
同条第5項「前項の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。」
逆に言えば、制限の存在を知っていた(悪意の)第三者は保護されません。
これが原則です。
しかし、制限の存在は知っていたが、対象となる具体的行為について、然るべき手続きを充足して適法な代表権限を得たものと誤信し、かつ、誤信したことにつき正当の理由がある時は、民法第110条(権限外の行為の表見代理)を類推適用するのが判例です。
最判昭和60年11月29日(裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan)「第三者が右にいう善意であるとはいえない場合であつても、第三者において、理事が当該具体的行為につき理事会の決議等を得て適法に漁業協同組合を代表する権限を有するものと信じ、かつ、このように信じるにつき正当の理由があるときには、民法110条を類推適用し、漁業協同組合は右行為につき責任を負うものと解するのが相当」
なお、本判例はこの前提として、「善意とは、理事の代表権に制限が加えられていることを知らないことをいう」としています(ですから、制限自体は知っていたがそれが適正に解除されていると勘違いした場合には、「類推」適用なのです)。
ただし、この制限が法令によるものの場合には善意であっても第三者は一般法人法第77条第5項では保護されません。法令は、当然に知っているものとして扱われます(法の不知はこれを許さず)。その場合、法人に対する責任追及は、一般法人法第78条の代表者の行為についての法人の不法行為責任や、民法第110条の規定による(つまり、本件判例と結論的には同じで、善意無過失が必要になります)ことになります。
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