行政書士 過去問
令和6年度
問35 (法令等 問35)
問題文
共同相続における遺産分割に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
このページは閲覧用ページです。
履歴を残すには、 「新しく出題する(ここをクリック)」 をご利用ください。
問題
行政書士試験 令和6年度 問35(法令等 問35) (訂正依頼・報告はこちら)
共同相続における遺産分割に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
- 共同相続人中の特定の1人に相続財産中の不動産の所有権を取得させる一方で当該相続人が老親介護を負担する義務を負う内容の遺産分割協議がなされた場合において、当該相続人が遺産分割協議に定められた介護を行わない場合には、他の共同相続人は債務不履行を理由として遺産分割協議自体を解除することができる。
- 被相続人が、相続財産中の特定の銀行預金を共同相続人中の特定の1人に相続させる旨の遺言をしていた場合、当該預金債権の価額が当該相続人の法定相続分の価額を超えるときには、当該預金債権の承継に関する債権譲渡の対抗要件を備えなければ、当該預金債権の承継を第三者に対抗できない。
- 共同相続人の1人が、相続開始後遺産分割の前に、被相続人が自宅に保管していた現金を自己のために費消した場合であっても、遺産分割の対象となる財産は、遺産分割時に現存する相続財産のみである。
- 共同相続人は、原則としていつでも協議によって遺産の全部または一部の分割をすることができ、協議が調わないときは、家庭裁判所に調停または審判の申立てをすることができるが、相続開始から10年以上放置されていた遺産の分割については、家庭裁判所に対して調停または審判の申立てを行うことができない。
- 相続財産中に銀行預金が含まれる場合、当該預金は遺産分割の対象となるから、相続開始後遺産分割の前に、当該預金口座から預金の一部を引き出すためには共同相続人の全員の同意が必要であり、目的、金額のいかんを問わず相続人の1人が単独で行うことは許されない。
正解!素晴らしいです
残念...
この過去問の解説 (2件)
01
遺産分割
現金や動産・不動産、預金債権は遺産分割の対象となり当然に分割的に共同相続人に承継されるわけではありません。
遺産分割協議もしくは被相続人の遺産分割の指定が必要となります。
なお単なる可分債権は遺産分割の対象とならず、相続分に応じて当然に分割的に承継されます。
よって遺産分割を経ずに直接相続分の範囲で権利行使が可能となります。
×
遺産分割協議で定めた義務を相続人の一人が履行しない場合でも、債務不履行解除はできません。(最判平元・2・9)
※なお遺産分割協議を合意解除することはできます。(最判平2・9・27)
〇
「相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分(法定相続分)を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。」(民法899条の2 第1項)
民法899条の2第1項は債権についても適用され、第三者に法定相続分を超える部分について対抗するには債務者に対する確定日付ある証書による通知・承諾が必要となります。
※なお、この通知は債権を承継した相続人からなされると他の相続人についても効力が及びます。(同2項)
通知は遺言の内容、遺産分割の内容を明らかにして行わなければなりません。
×
「遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。」(民法906条の2 第1項)
なお、相続財産を処分した当の共同相続人の同意は要しません。(同2項)
×
「いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。」(民法907条1項)
原則として遺産分割に期間制限はありません。
しかし遺言または共同相続人全員の合意による遺産分割の禁止があればその期間は遺産分割ができません。
×
「各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。」(民法909条の2 第1項)
預金額の3分の1に法定相続分を乗じた額について150万円(民法第九百九条の二に規定する法務省令で定める額を定める省令)を超えない限度で払渡しを求めることが可能となります。
遺産分割は期間制限もなく、部分的な分割も可能となります。
しかし相続人は他の共同相続人の利益を害する場合には一部分割を請求できません。
被相続人は遺言で5年以内の期間を定めて遺産分割を禁止することができます。(共同相続人全員の同意があっても遺産分割は禁止されます。)
共同相続人全員の合意がある場合も遺産分割を禁止できます。(その後、共同相続人全員の同意があれば改めて遺産分割可能)
※なお、遺産分割と異なり相続回復請求権は期間制限があります。(民法884条)
参考になった数3
この解説の修正を提案する
02
本問は、遺産分割の基礎知識を問う問題です。
判例変更と法改正を反映した内容になっているので、古い知識は更新しておく必要があります。
妥当ではありません。
遺産分割協議は、その内容である義務の不履行を理由として民法第541条に基づいて解除することはできません。
最判平成元年2月9日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
「共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の一人が他の相続人に対して右協議において負担した債務を履行しないときであつても、他の相続人は民法541条によつて右遺産分割協議を解除することができないと解するのが相当である。けだし、遺産分割はその性質上協議の成立とともに終了し、その後は右協議において右債務を負担した相続人とその債権を取得した相続人間の債権債務関係が残るだけと解すべきであり、しかも、このように解さなければ民法909条本文により遡及効を有する遺産の再分割を余儀なくされ、法的安定性が著しく害されることになるからである」
この判例はあくまでも、「債務不履行を理由にとする民法第541条に基づく解除ができない」と言っているだけです。
第541条ではなく、合意解除した上で遺産分割協議をやり直すことは可能です。
最判平成2年9月27日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
「共同相続人の全員が、既に成立している遺産分割協議の全部又は一部を合意により解除した上、改めて遺産分割協議をすることは、法律上、当然には妨げられるものではなく、上告人が主張する遺産分割協議の修正も、右のような共同相続人全員による遺産分割協議の合意解除と再分割協議を指すものと解されるから、原判決がこれを許されないものとして右主張自体を失当とした点は、法令の解釈を誤ったものといわざるを得ない。」
ちなみに、解除については、法定解除(民法第541条)、約定解除(合意と同時に定めた解除権。解除権留保特約とも言う。遺産分割協議では想定できない)、合意解除(解除の対象となる合意とは別の新たな解除契約)の三つがあることは常識にしておきましょう。
妥当です。よってこの肢が正解です。
本問は「遺言」による相続財産の指定ですが、遺言に限らず(条文では「遺産分割によるものかどうかにかかわらず」となっています)、法定相続分を超える財産の取得を第三者(概ね相続人以外のことだと思って構いません)に主張するには対抗要件が必要です。
本問では、預金債権なので債権譲渡の対抗要件が必要ということになります。
債権譲渡の対抗要件については、民法第467条を参照してください。
民法第899条の2第1項「相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。」
なお、遺産が債権の場合に関しては債権譲渡の通知に関する特則があります。
同条第2項「前項の権利が債権である場合において、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。」
以前の判例では、遺言により不動産を取得した相続人は、対抗要件なく第三者に所有権の取得を対抗できるとしていました(最判平成14年6月10日)。
しかし、遺言の内容などは第三者が知ることは難しく、取引の安全を害するので、改正により対抗要件を要するものとしたのです。
妥当ではありません。
遺産分割の前に遺産の一部又は全部が処分されたとしても、その処分された遺産を分割時に存在するものとして遺産を分割することができます。
民法第906条の2第1項「遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。」
この規定の前提として、遺産分割は、相続開始時の遺産ではなく、遺産分割時に存在する遺産を対象にしているということを理解しておく必要があります。
つまり、相続開始時から遺産分割時までの間に遺産の一部又は全部が存在しなくなった場合、原則としてその存在しなくなった財産は遺産分割の対象にはなりません。例えば、相続財産中の家屋が火災で焼失した場合、その家屋は遺産分割の対象にはならないのです(ただし、特に相続税の負担に影響するので、家屋の存在を仮定して遺産分割の内容に反映させることはできます)。
あるいは、遺産に賃貸家屋が存在したとして、相続開始後に生じた賃料は、元々「遺産」ではないので、原則としては遺産分割の対象にはなりません。賃料は共同相続人が法定相続割合で分割することになります(ただし、反対債権が賃借権で性質上不可分の債権ですから賃料請求権自体も不可分債権です)。
なお、この規定は「の2」とある通り改正で追加されたものですが、実務慣行を追認しただけなので、取扱いは以前と特に変わっていません。
妥当ではありません。
遺産分割協議、調停又は審判のいずれにも期間制限はありません。
民法第907条第1項「共同相続人は、次条第一項の規定により被相続人が遺言で禁じた場合又は同条第二項の規定により分割をしない旨の契約をした場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。」
「協議」について、原則として「いつでも」とあります。
そして、
同条第2項本文「遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。」
「いつでも」可能な協議がまとまらなければ、家庭裁判所での調停又は審判の申立てが可能です。
そして、家裁への請求の期間制限は何も書いてありませんから、必然的に、「いつでも」請求できることになります。
なお、一部について例外があります。
同条第2項ただし書「ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。」
妥当ではありません。
相続財産中に銀行預金が存在する場合、預金債権額の1/3相当額の法定相続割合分で、法務省令で定める額(令和7年3月時点で金融機関ごとに150万円)以下については、引き出すことができます。これを「遺産分割前の預貯金の払戻し制度」と言います。
民法第909条の2前段「各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。」
以前はこの規定がなく、最高裁判例の変更(最大決平成28年12月19日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan)の影響もあって預金債権者が死亡すると銀行が口座を凍結して相続人全員の同意がないと預金が一切引き出せなくなる恐れがあることが問題となっていました(実際のところ、最高裁判例の変更以前から実務では同様の取扱いをしている銀行もあり、特に被相続人の財産に生計を依存している相続人が資金繰りに困るという事例は珍しくありませんでした)。そこで平成30年の民法改正で本条が追加されました。
なお、「遺産分割前の預貯金の払戻し制度」は、他に家庭裁判所の仮処分によるものもあります(家事事件手続法第200条第3項)。
以下は余談ですが、時々、銀行預金の差押えにより銀行口座が使用できなくなると言う人がいますが誤りです。差押えの対象はあくまでも預金債権であり、口座ではありません。差押え実行時の差押え額分の預金債権が差し押さえられるだけです。ですから、差押えを受けても入金は当然できますし、差押え後に入金された預金はもちろん、差押え時に差押え額を超えた預金額についても、何ら問題なく出金できます。
そもそも実務の扱いとして、預金債権が差し押さえられると、銀行は差押え相当額を預金口座から差押え預金を管理する特別の勘定に移します。その移動の処理の時に口座自体が一時的に使用できなくなることはあるにしても、それが済めば、預金口座はそのまま従前通り使えます。
預金債権者の死亡又は犯罪などによる口座そのものの凍結とは違います。
参考になった数1
この解説の修正を提案する
前の問題(問33)へ
令和6年度 問題一覧
次の問題(問36)へ