行政書士の過去問
平成30年度
法令等 問9
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問題
行政書士試験 平成30年度 法令等 問9 (訂正依頼・報告はこちら)
行政上の法律関係に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当なものはどれか。
- 公営住宅の使用関係については、一般法である民法および借家法(当時)が、特別法である公営住宅法およびこれに基づく条例に優先して適用されることから、その契約関係を規律するについては、信頼関係の法理の適用があるものと解すべきである。
- 食品衛生法に基づく食肉販売の営業許可は、当該営業に関する一般的禁止を個別に解除する処分であり、同許可を受けない者は、売買契約の締結も含め、当該営業を行うことが禁止された状態にあるから、その者が行った食肉の買入契約は当然に無効である。
- 租税滞納処分は、国家が公権力を発動して財産所有者の意思いかんにかかわらず一方的に処分の効果を発生させる行為であるという点で、自作農創設特別措置法(当時)所定の農地買収処分に類似するものであるから、物権変動の対抗要件に関する民法の規定の適用はない。
- 建築基準法において、防火地域または準防火地域内にある建築物で外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができるとされているところ、この規定が適用される場合、建物を築造するには、境界線から一定以上の距離を保たなければならないとする民法の規定は適用されない。
- 公営住宅を使用する権利は、入居者本人にのみ認められた一身専属の権利であるが、住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で住宅を賃貸することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与するという公営住宅法の目的にかんがみ、入居者が死亡した場合、その同居の相続人がその使用権を当然に承継することが認められる。
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この過去問の解説 (4件)
01
特別法は一般法に優先します。
この場合、特別法である「公営住宅法およびこれに基づく条例」が、一般法である「民法および借家法」に優先して適用されます。
②誤り
食品衛生法の食肉販売許可の取得は、無許可で行った者への取締法規(ペナルティ)に過ぎず、私法上の取引自体は有効なものとされます。
したがって、「許可を受けない者は、売買契約の締結も含め、当該営業を行うことが禁止された状態にあるから、その者が行った食肉の買入契約は当然に無効」となるわけではありません。
③誤り
判例では、国の地位は、一般私法上の債権者より不利益に取り扱われる理由はないから、民法第177条の適用を受けるものとしています。
④正解
建築基準法65条は民法234条1項に優先して適用されるとしています。
⑤誤り
判例は、公営住宅法の趣旨を鑑みて、(趣旨の対象である)入居者が死亡した場合に相続人が当然にその権利を承継するものではないとしています。
したがって、④が正解です。
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02
以下5つの肢のうち4つまでは判例百選でカバーされています。
判例百選レベルのメジャーな判例は学習しておくべきでしょう。
1
妥当でない。
「特別法は一般法を破る」という原則があるため、
「一般法である民法及び借家法」が
「特別法である公営住宅法およびこれに基づく条例」
に優先するという記述は誤りです。
なお「信頼関係の法理」とは、
民法541条の債務不履行による契約解除権を、
賃貸借契約を賃貸人・賃借人相互の信頼関係に
立脚するものとし、
この信頼関係を破壊しない程度の債務不履行では
賃貸借契約の解除ができないとする、
賃借人保護のための判例法理です。
判例は公営住宅法においても、
この信頼関係の法理は適用されるとしています。
(最判昭和59年12月13日)
2
妥当でない。
本肢で取り上げている最判昭和35年3月18日は、
食品衛生法の食肉販売許可を受けていないくても、
本法は単なる取締法規にすぎないから、
食肉販売許可の有無が私法上の取引の効力に影響を与えない、
と判示しました。
私人間の取引を規制する法規が、
それに反する法律行為の効力に影響を与えるか、
という論点について、
判例・通説は行政上の禁止規定を取締規定と強行規定に区別して、
強行規定のみ民法第90条の公序良俗違反により
効力が否定されるとしています。
3
妥当でない。
本肢の素材となった最判昭和35年3月31日は、
滞納者の財産を差し押さえた国の地位は、
一般私法上の債権者より不利益に取り扱われる理由はないから、
民法第177条(物権は登記なく第三者に対抗できない)
が適用されると判示しました。
自作農創設特別措置法において、
不在地主から土地を買い受けた小作人が
登記をしていなかったために
登記簿に基づき農地の強制買い上げ処分を受けた事案では、
民法177条の適用がないものとしていますが、
これは同法が、
現実の土地耕作関係に依拠して買収処分をすべき、
という趣旨に立っている故であるとするもので、
占領下の特殊な事情の下の判決といえます。
4
妥当である。
建築基準法65条は、
(準)防火地域内の建築物で外壁が耐火構造のものは、
外壁を隣地境界線に接して設けられるとし、
民法234条1項は、
建物の築造には境界線から50cmの距離を保つべきと
定めています。
この両規定の矛盾をどう理解するかは大きな論点でしたが、
最判平成元年9月19日は、
建築基準法65条を民法234条1項の特則と解し、
建築基準法65条を優先させるべきとしました。
5
妥当でない。
賃借権は相続の対象となり、
相続人はこれを相続することができます。
他方、公営住宅法に基づく公営住宅の賃借権を
相続し得ると解することができるでしょうか。
本肢の素材となった最判平成2年10月18日によれば、
低額所得者に低廉な家賃で住宅を賃貸することで
国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与する、
とする公営住宅法の規定の趣旨からして、
入居人が死亡した場合、
相続人が公営住宅を使用する権利を当然に承継するとは解し得ない、
としました。
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03
行政法に関連する判例に関する設問です。
1× 「公営住宅の使用関係については、公営住宅法及びこれに基づく条例が特別法として民法及び借家法に優先して適用されるが、法及び条例に特別の定めがない限り、原則として一般法である民法及び借家法の適用があり、その契約関係を規律するについては、信頼関係の法理の適用があるものと解すべきである」(最判S59.12.13)とされました。
2× 「本件売買契約が食品衛生法による取締の対象に含まれるかどうかはともかくとして同法は単なる取締法規にすぎないものと解するのが相当であるから、上告人が食肉販売業の許可を受けていないとしても、右法律により本件取引の効力が否定される理由はない。それ故右許可の有無は本件取引の私法上の効力に消長を及ぼすものではないとした原審の判断は結局正当であり、所論は採るを得ない」(最判S35.3.18(同法とは食品衛生法))とされました。
3× 「国税滞納処分においては、国は、その有する租税債権につき、自ら執行機関として、強制執行の方法により、その満足を得ようとするものであつて、滞納者の財産を差し押えた国の地位は、あたかも、民事訴訟法上の強制執行における差押債権者の地位に類するものであり、租税債権がたまたま公法上のものであることは、この関係において、国が一般私法上の債権者より不利益の取扱を受ける理由となるものではない。それ故、滞納処分による差押の関係においても、民法一七七条の適用があるものと解するのが相当である」(最判S31.4.24)とされました。
4〇 「建築基準法六五条は、防火地域又は準防火地域内にある外壁が耐火構造の建築物について、その外壁を隣地境界線に接して設けることができる旨規定しているが、これは、同条所定の建築物に限り、その建築については民法二三四条一項の規定の適用が排除される旨を定めたものと解するのが相当である」(最判H1.9.19)とされました。
5× 「公営住宅法は、住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で住宅を賃貸することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とするものであって…(略)…以上のような公営住宅法の規定の趣旨にかんがみれば、入居者が死亡した場合には、その相続人が公営住宅を使用する権利を当然に承継すると解する余地はないというべきである」(最判H2.10.18)とされました。
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04
特別法である公営住宅法およびこれに基づく条例が、一般法である民法・借家法に優先して適用されますので誤りです。
契約関係の規律について信頼関係の法理の適用はあります。
2 ×
判例では、「食品衛生法は単なる取締法規にすぎず、食肉販売の営業許可を受けない者のした食肉の買入契約は、私法上は無効ではない」としており、買入契約は当然に無効という部分が誤りです。
3 ×
租税滞納処分における判例では、「滞納者の財産を差し押さえた国の地位は、一般私法上の債権者より不利益に取り扱われる理由はない」とし、民法第177条の適用があるため誤りです。
4 〇
正しい記述です。
5 ×
判例によると、「公営住宅法の規定の趣旨にかんがみれば、入居者が死亡した場合には、その相続人が公営住宅を使用する権利を当然に承継すると解する余地はない」とありますので、誤りです。
よって正解は④です。
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