行政書士の過去問
令和2年度
法令等 問34

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問題

行政書士試験 令和2年度 法令等 問34 (訂正依頼・報告はこちら)

医療契約に基づく医師の患者に対する義務に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
  • 過失の認定における医師の注意義務の基準は、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準であるとされるが、この臨床医学の実践における医療水準は、医療機関の特性等によって異なるべきではなく、全国一律に絶対的な基準として考えられる。
  • 医療水準は、過失の認定における医師の注意義務の基準となるものであるから、平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではなく、医師が医療慣行に従った医療行為を行ったからといって、医療水準に従った注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない。
  • 医師は、治療法について選択の機会を患者に与える必要があるとはいえ、医療水準として未確立の療法については、その実施状況や当該患者の状況にかかわらず、説明義務を負うものではない。
  • 医師は、医療水準にかなう検査および治療措置を自ら実施できない場合において、予後(今後の病状についての医学的な見通し)が一般に重篤で、予後の良否が早期治療に左右される何らかの重大で緊急性のある病気にかかっている可能性が高いことを認識できたときであっても、その病名を特定できない以上、患者を適切な医療機関に転送して適切な治療を受けさせるべき義務を負うものではない。
  • 精神科医は、向精神薬を治療に用いる場合において、その使用する薬の副作用については、その薬の最新の添付文書を確認しなくても、当該医師の置かれた状況の下で情報を収集すれば足りる。

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この過去問の解説 (3件)

01

正解 2


1.妥当でない
 判例は、診療行為に当たる医師の注意義務の基準となるべきものは、一般的には、診療当時の臨床医学の実践における医療水準であるとされるのであり、その医療水準は必ずしも全国一律の絶対的基準とされるものでなく、医師の専門分野、その属する診療機関の性格、所在地域の医療環境の特性等が考慮されるべき、としています(最判平8.1.23)。


2.妥当
 判例は、医療水準は医師の注意義務の規範となるものであるから、平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではなく、医師が医療慣行に従った医療行為を行ったからといって、医療水準に従った注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない、としています(最判平8.1.23)。

 ※医療慣行とは、医師がする一般的な診断のことです。


3.妥当でない
 判例は、医師は、治療法について選択の機会を患者に与える必要があるとはいえ、医療水準として未確立の療法については、患者に対して医師の知ってる範囲で、当該療法の内容、適応可能性やそれを受けた場合の利害得失、その療法を実施している医療機関の名称や所在などを説明すべき義務がある、としています(平成13.11.27)。


4.妥当でない
 判例は、重大で緊急性のある病気のうちには、その予後が一般的に重篤で極めて不良であって、予後の良否が早期治療に左右される急性脳症等が含まれること等を照らし合わせてかんがみると、病名が特定できなくとも、その病気に対しても適切に対処し得る医療機関に患者を転送し、適切な治療を受けさせるべき義務があったものというべき、としています(最判平15.11.11)。


5.妥当でない
 判例は、精神科医は、向精神薬を治療に用いる場合において、その使用する向精神薬の副作用については、その最新の添付文書を確認し、必要に応じて文献を参照するなど、当該医師の置かれた状況下で可能な限りの最新情報を収集する義務があるというべき、としています(最判平14.11.18)。

 ※向精神薬とは、うつ等の不安定な状態を和らげる効果のある薬のことです。

参考になった数10

02

この問題のポイントは医療契約に基づく医師の患者に対する義務に関する判例を理解しているかどうかです。

では、医療契約に基づく医師の患者に対する義務に関する判例は以下の通りです。

①最判平8.1.23

人の生命及び健康を管理すべき医業に従事する者は、危険防止のため実験上必要とされる最善の注意義務を要求されるとはいえ、診療に従事する個々の医師につき、その専門分野、医療環境の如何を問わず、常に世界最高水準の知見による診療を要求するのは実際的ではなく、診療行為にあたる医師の注意義務の基準となるものは、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準であるとされるので、その医療水準も必ずしも全国一律の絶対的基準とされるものではなく、当該医師の専門分野、その所属する診療機関の性格、所在地域の医療環境の特性等を考慮されるべきだとされています。

また、医療水準は、医師の注意義務の基準(規範)となるものであるから、平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではなく、医師が医療慣行に従った医療行為を行ったからといって、医療水準に従った注意義務を尽くしたということはできないとされています。

②最判平13.11.27

医師が医療慣行に従った医療行為を行ったからといって、医療水準に従った注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない

少なくとも、当該療法が少なからぬ医療機関で実施されており、相当数の実施例があり、これを実施した医師の間で積極的な評価をされているものは、患者が当該療法の適応可能性があり、かつ、患者が当該療法の自己への適応の有無、実施可能性について強い関心を有していることを医師が知った場合などにおいては、たとえ医師自身が当該療法に消極的な評価をしており、自らはそれを実施する意志を有していないときでもなお、患者に対して、医師の知っている範囲で、当該療法の内容、適応可能性やそれを受けた場合の利害得失、当該療法を実施している医療機関の名称や所在を説明する義務があるとされています。

③最判平15.11.11

この重大で緊急性のある病気のうちには、その予後が一般に重篤で極めて不良であって、予後の良否が早期治療に左右される急性脳症等が含まれること等にかんがみると、医師は本件診療中、点滴を開始したものの、患者の嘔吐が治まらず、患者に軽度の意識障害等を疑わせる言動があり、これに不安を覚えた患者の母親から診察を求められた時点で、直ちに患者を診察した上で、患者の重大で緊急性のある病気に対しても適切に対応できる可能性のある医療機関へ患者を転送し、適切な治療を受けさせる義務があるとされています。

④最判平14.11.8

精神科医は、向精神薬を治療に用いる場合、その使用する向精神薬の副作用について、常にこれを念頭に置いて治療にあたるべきで、向精神薬の副作用についての医療上の知見については、その最新の添付文書を確認し、必要に応じて文献を参照するなど、医師の置かれている状況の中で可能な限り最新情報を収集する義務があるとされています。

では、実際に解説を見ていきましょう。

選択肢1. 過失の認定における医師の注意義務の基準は、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準であるとされるが、この臨床医学の実践における医療水準は、医療機関の特性等によって異なるべきではなく、全国一律に絶対的な基準として考えられる。

最判平8.1.23より、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準であるとされるが、全国一律に絶対的基準とするのではなく、医療機関の特性等によって異なるべきと考えられるとされています。

選択肢2. 医療水準は、過失の認定における医師の注意義務の基準となるものであるから、平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではなく、医師が医療慣行に従った医療行為を行ったからといって、医療水準に従った注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない。

最判平8.1.23より、医師の注意義務の基準は平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではなく、医師が医療慣行に従った医療行為を行ったからといって、医療水準に従った注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできないとされています。

選択肢3. 医師は、治療法について選択の機会を患者に与える必要があるとはいえ、医療水準として未確立の療法については、その実施状況や当該患者の状況にかかわらず、説明義務を負うものではない。

最判平13.11.27より、医療水準として未確立の療法については、相当の実施例があれば、説明義務を負うものとされています。

選択肢4. 医師は、医療水準にかなう検査および治療措置を自ら実施できない場合において、予後(今後の病状についての医学的な見通し)が一般に重篤で、予後の良否が早期治療に左右される何らかの重大で緊急性のある病気にかかっている可能性が高いことを認識できたときであっても、その病名を特定できない以上、患者を適切な医療機関に転送して適切な治療を受けさせるべき義務を負うものではない。

最判平15.11.11より、予後(今後の病状についての医学的な見通し)が一般に重篤で、予後の良否が早期治療に左右される何らかの重大で緊急性のある病気にかかっている可能性が高いことを認識できたときであっても、その病名を特定できない以上、患者を適切な医療機関に転送して適切な治療を受けさせるべき義務を負うべきとされています。

選択肢5. 精神科医は、向精神薬を治療に用いる場合において、その使用する薬の副作用については、その薬の最新の添付文書を確認しなくても、当該医師の置かれた状況の下で情報を収集すれば足りる。

最判平14.11.8より、精神科医は、向精神薬を治療に用いる場合において、その使用する薬の副作用については、その薬の最新の添付文書を確認しなくても、当該医師の置かれた状況の下で可能な限り情報を収集する義務があるとされています。

まとめ

この問題で出てきた判例は、令和2年度の試験で初めて出てきたもので、今後も出題される可能性があるので、もう一度判例を振り返ってみましょう。

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03

これまでにあまり例のない医療契約に関する問題です。

民法の規定とありますが、本問はすべて判例による判断が必要となり、難しめの問題といえます。

選択肢1. 過失の認定における医師の注意義務の基準は、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準であるとされるが、この臨床医学の実践における医療水準は、医療機関の特性等によって異なるべきではなく、全国一律に絶対的な基準として考えられる。

間違いです。

判例(最判平8.1.23)によると、「人の生命及び健康を管理すべき業務(医業)に従事する者は、その業務の性質に照らし、危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を要求されるのであるが、具体的な個々の案件において、債務不履行又は不法行為をもって問われる医師の注意義務の基準となるべきものは、一般的には診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である。そして、この臨床医学の実践における医療水準は、全国一律に絶対的な基準として考えるべきものではなく、診療に当たった当該医師の専門分野、所属する診療機関の性格、その所在する地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮して決せられるべきものであるが、医療水準は、 医師の注意義務の基準(規範)となるものであるから、平均的医師が現に行ってい る医療慣行とは必ずしも一致するものではなく、医師が医療慣行に従った医療行為 を行ったからといって、医療水準に従った注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない。 」とあり、本肢の「全国一律に絶対的」という記述が誤りです。

選択肢2. 医療水準は、過失の認定における医師の注意義務の基準となるものであるから、平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではなく、医師が医療慣行に従った医療行為を行ったからといって、医療水準に従った注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない。

正しいです。

判例(最判平8.1.23)「医療水準は医師の注意義務の基準(規範)となるべきものであるから、平均的な医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではなく、医師が医療慣行に従った医療行為を行ったからといって医療水準に従った注意義務を尽くしたとただちに言うことはできない。」のとおりです。

選択肢3. 医師は、治療法について選択の機会を患者に与える必要があるとはいえ、医療水準として未確立の療法については、その実施状況や当該患者の状況にかかわらず、説明義務を負うものではない。

間違いです。判例(最高裁平成13年11月27日判決)「一般的にいうならば、実施予定の療法(術式)は医療水準として確立したものであるが、他の療法(術式)が医療水準として未確立のものである場合には、医師は後者について常に説明義務を負うと解することはできない。とはいえ、このような未確立の療法(術式)ではあっても、医師が説明義務を負うと解される場合があることも否定できない」とあり、本肢の「実施状況や当該患者の状況にかかわらず、説明義務を負うものではない」としている点が誤りです。

選択肢4. 医師は、医療水準にかなう検査および治療措置を自ら実施できない場合において、予後(今後の病状についての医学的な見通し)が一般に重篤で、予後の良否が早期治療に左右される何らかの重大で緊急性のある病気にかかっている可能性が高いことを認識できたときであっても、その病名を特定できない以上、患者を適切な医療機関に転送して適切な治療を受けさせるべき義務を負うものではない。

間違いです。

判例(最高裁判所第三小法廷 平成15年11月11日判決)によると、「被上告人は、上記の事実関係の下においては、本件診療中、点滴を開始したものの、上告人のおう吐の症状が治まらず、上告人に軽度の意識障害等を疑わせる言動があり、これに不安を覚えた母親から診察を求められた時点で、直ちに上告人を診断した上で、上告人の上記一連の症状からうかがわれる急性脳症等を含む重大で緊急性のある病気に対しても適切に対処し得る、高度な医療機器による精密検査及び入院加療等が可能な医療機関へ上告人を転送し、適切な治療を受けさせるべき義務があったものというべき」とあり、本肢の「適切な治療を受けさせるべき義務を負うものではない」という点が誤りです。

選択肢5. 精神科医は、向精神薬を治療に用いる場合において、その使用する薬の副作用については、その薬の最新の添付文書を確認しなくても、当該医師の置かれた状況の下で情報を収集すれば足りる。

間違いです。判例(平成14年11月8日最高裁判所第二小法廷判決)によると、「精神科医は、向精神薬を治療に用いる場合において、その使用する向精神薬の副作用については、常にこれを念頭において治療に当たるべきであり、向精神薬の副作用についての医療上の知見については、その最新の添付文書を確認し、必要に応じて文献を参照するなど、当該医師の置かれた状況の下で可能な限りの最新情報を収集する義務があるというべきである」とあり、本肢の記載に合致していません。

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