行政書士の過去問
令和4年度
法令等 問28

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問題

行政書士試験 令和4年度 法令等 問28 (訂正依頼・報告はこちら)

占有権に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものはどれか。
  • Aが所有する動産甲(以下「甲」という。)の保管をAから委ねられ占有しているBが、甲を自己の物と称してCに売却した場合、甲に対するCの即時取得の成立要件について、占有開始におけるCの平穏、公然、善意および無過失は推定される。
  • Aが所有する乙土地(以下「乙」という。)をBが20年以上にわたって占有し、所有権の取得時効の成否が問われる場合、Aが、Bによる乙の占有が他主占有権原に基づくものであることを証明しない限り、Bについての他主占有事情が証明されても、Bの所有の意思が認められる。
  • Aが所有する丙土地(以下「丙」という。)を無権利者であるBがCに売却し、Cが所有権を取得したものと信じて丙の占有を開始した場合、Aから本権の訴えがないときは、Cは、丙を耕作することによって得た収穫物を取得することができる。
  • Aが所有する動産丁(以下「丁」という。)を保管することをBに寄託し、これに基づいてBが丁を占有していたところ、丁をCに盗取された場合、Bは、占有回収の訴えにより、Cに対して丁の返還を請求することができる。
  • Aが所有する動産戊(以下「戊」という。)を保管することをBに寄託し、これをBに引き渡した後、Aは戊をCに譲渡した場合、Aが、Bに対して以後Cの所有物として戊を占有するよう指示し、Cが、これを承諾したときは、戊についてAからCへの引渡しが認められる。

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この過去問の解説 (3件)

01

この問題のポイントは、民法184条、186条1項、189条1項、200条1項と最判昭41.6.9、最判昭58.3.24の理解です。

まず民法184条は代理人によって占有をする場合において、本人がその代理人に対して以後第三者のためにその物を占有することを命じ、その第三者がこれを承諾したときは、その第三者は、占有権を取得するとされています。

民法186条1項は占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定するとされています。

民法189条1項は善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得するとされています。

民法200条1項は占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができるとされています。

最判昭41.6.9では過失がないことを占有者が立証する責任があるかどうかが争点で、結論として民法第一九二条により動産の上に行使する権利を取得したことを主張する占有者は、同条にいう「過失ナキ」ことを立証する責任を負わないとされ、理由は物の譲渡人である占有者が権利者 たる外観を有しているため、その譲受人が譲渡人にこの外観に対応する権利がある ものと誤信し、かつこのように信ずるについて過失のないことを意味するものであ るが、およそ占有者が占有物の上に行使する権利はこれを適法に有するものと推定 される以上(民法一八八条)、譲受人たる占有取得者が右のように信ずるについて は過失のないものと推定され、占有取得者自身において過失のないことを立証する ことを要しないものと解すべきであるからとされています。

最後に最判昭58.3.24とは民法186条1項がどの場合に覆されるかで、結論として民法一八六条一項の所有の意思の推定は、占有者がその性質上所有の意思のないものとされる権原に基づき占有を取得した事実が証明されるか、又は占有者が占有中、真の所有者であれば通常はとらない態度を示し、若しくは所有者であれば当然とるべき行動に出なかつたなど、外形的客観的にみて占有者が他人の所有権を排斥して占有する意思を有していなかつたものと解される事情が証明されるときは、覆されるとされています。

 

以上の点をおさえて、解説を見ていきましょう。

選択肢1. Aが所有する動産甲(以下「甲」という。)の保管をAから委ねられ占有しているBが、甲を自己の物と称してCに売却した場合、甲に対するCの即時取得の成立要件について、占有開始におけるCの平穏、公然、善意および無過失は推定される。

解説の冒頭より、占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定され、譲受人たる占有取得者が右のように信ずるについて は過失のないものと推定されるとされています

よって、Aが所有する動産甲(以下「甲」という。)の保管をAから委ねられ占有しているBが、甲を自己の物と称してCに売却した場合、甲に対するCの即時取得の成立要件について、占有開始におけるCの平穏、公然、善意および無過失は推定されるとなります。

選択肢2. Aが所有する乙土地(以下「乙」という。)をBが20年以上にわたって占有し、所有権の取得時効の成否が問われる場合、Aが、Bによる乙の占有が他主占有権原に基づくものであることを証明しない限り、Bについての他主占有事情が証明されても、Bの所有の意思が認められる。

解説の冒頭より、民法一八六条一項の所有の意思の推定は、占有者がその性質上所有の意思のないものとされる権原に基づき占有を取得した事実が証明されるか、又は占有者が占有中、真の所有者であれば通常はとらない態度を示し、若しくは所有者であれば当然とるべき行動に出なかつたなど、外形的客観的にみて占有者が他人の所有権を排斥して占有する意思を有していなかつたものと解される事情が証明されるときは、覆されるとされています。

よって、Aが所有する乙土地(以下「乙」という。)をBが20年以上にわたって占有し、所有権の取得時効の成否が問われる場合、Aが、Bによる乙の占有が他主占有権原に基づくものであることを証明しなくても、Bについての他主占有事情が証明されれば、Bの所有の意思が認められないとなります。

選択肢3. Aが所有する丙土地(以下「丙」という。)を無権利者であるBがCに売却し、Cが所有権を取得したものと信じて丙の占有を開始した場合、Aから本権の訴えがないときは、Cは、丙を耕作することによって得た収穫物を取得することができる。

解説の冒頭より、善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得するとされています。

よって、Aが所有する丙土地(以下「丙」という。)を無権利者であるBがCに売却し、Cが所有権を取得したものと信じて丙の占有を開始した場合、Aから本権の訴えがないときは、Cは、丙を耕作することによって得た収穫物を取得することができるとなります。

選択肢4. Aが所有する動産丁(以下「丁」という。)を保管することをBに寄託し、これに基づいてBが丁を占有していたところ、丁をCに盗取された場合、Bは、占有回収の訴えにより、Cに対して丁の返還を請求することができる。

解説の冒頭より、占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができるとされています。

よって、Aが所有する動産丁(以下「丁」という。)を保管することをBに寄託し、これに基づいてBが丁を占有していたところ、丁をCに盗取された場合、Bは、占有回収の訴えにより、Cに対して丁の返還を請求することができるとなります。

選択肢5. Aが所有する動産戊(以下「戊」という。)を保管することをBに寄託し、これをBに引き渡した後、Aは戊をCに譲渡した場合、Aが、Bに対して以後Cの所有物として戊を占有するよう指示し、Cが、これを承諾したときは、戊についてAからCへの引渡しが認められる。

解説の冒頭より、代理人によって占有をする場合において、本人がその代理人に対して以後第三者のためにその物を占有することを命じ、その第三者がこれを承諾したときは、その第三者は、占有権を取得するとされています。

よって、Aが所有する動産戊(以下「戊」という。)を保管することをBに寄託し、これをBに引き渡した後、Aは戊をCに譲渡した場合、Aが、Bに対して以後Cの所有物として戊を占有するよう指示し、Cが、これを承諾したときは、戊についてAからCへの引渡しが認められるとなります。

まとめ

この問題で出てくる選択肢は過去に行政書士試験にも出題実績があるので、解説や条文、判例と照らしながら、もう一度見直してみるのも良いかと考えられます。

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02

占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持すること(民法第180条)をいいます。

①物を所有する意思、②現実的に物を所持していることが必要です。

選択肢1. Aが所有する動産甲(以下「甲」という。)の保管をAから委ねられ占有しているBが、甲を自己の物と称してCに売却した場合、甲に対するCの即時取得の成立要件について、占有開始におけるCの平穏、公然、善意および無過失は推定される。

妥当です。

民法第186条1項には、占有者は所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ公然と占有するものと推定されるとあります。

民法第188条には、占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定するとあります。

選択肢2. Aが所有する乙土地(以下「乙」という。)をBが20年以上にわたって占有し、所有権の取得時効の成否が問われる場合、Aが、Bによる乙の占有が他主占有権原に基づくものであることを証明しない限り、Bについての他主占有事情が証明されても、Bの所有の意思が認められる。

妥当ではありません。

他占有事情が証明されると自主所有は否定されますので、Bの所有の意思は認められません。

選択肢3. Aが所有する丙土地(以下「丙」という。)を無権利者であるBがCに売却し、Cが所有権を取得したものと信じて丙の占有を開始した場合、Aから本権の訴えがないときは、Cは、丙を耕作することによって得た収穫物を取得することができる。

妥当です。

民法第189条1項により、善意の所有者は、占有物から生ずる果実を取得することができます。

選択肢4. Aが所有する動産丁(以下「丁」という。)を保管することをBに寄託し、これに基づいてBが丁を占有していたところ、丁をCに盗取された場合、Bは、占有回収の訴えにより、Cに対して丁の返還を請求することができる。

妥当です。

民法第197条により、占有者Bは占有回収の訴えを提起することができます

選択肢5. Aが所有する動産戊(以下「戊」という。)を保管することをBに寄託し、これをBに引き渡した後、Aは戊をCに譲渡した場合、Aが、Bに対して以後Cの所有物として戊を占有するよう指示し、Cが、これを承諾したときは、戊についてAからCへの引渡しが認められる。

妥当です。

民法第184条により、指図による占有移転が認められます。

まとめ

占有の効果として、本来の所有者からの返還請求や生じた果実の所有権、占有者の費用償還請求なども理解しておきましょう。

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03

占有権は、物を現実に支配している状態を法的に保護するための権利です。所有権などには関わらず、物の支配をしているものに認められる権利です。占有権の種類や定義、効果についての基本的な条文知識があれば解ける問題です。

選択肢1. Aが所有する動産甲(以下「甲」という。)の保管をAから委ねられ占有しているBが、甲を自己の物と称してCに売却した場合、甲に対するCの即時取得の成立要件について、占有開始におけるCの平穏、公然、善意および無過失は推定される。

妥当です

占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定します(民法186条)。また、占有者は、無過失であることも立証する義務を負わず、無過失の推定を受けるとする判例(最判昭41.6.9)もあります。

つまり、Cの平穏・公然・善意・無過失は、すべて推定されます

選択肢2. Aが所有する乙土地(以下「乙」という。)をBが20年以上にわたって占有し、所有権の取得時効の成否が問われる場合、Aが、Bによる乙の占有が他主占有権原に基づくものであることを証明しない限り、Bについての他主占有事情が証明されても、Bの所有の意思が認められる。

妥当ではありません

所有の意思をもって占有することを「自主占有」と言います。反対に、所有の意思のない占有を「他主占有」と言います。

自主占有は推定されるので、取得時効を否定する側が、他主占有であることを主張・立証する必要がありますBについての他主占有事情が証明された場合には、Bの所有の意思は認められません。

選択肢3. Aが所有する丙土地(以下「丙」という。)を無権利者であるBがCに売却し、Cが所有権を取得したものと信じて丙の占有を開始した場合、Aから本権の訴えがないときは、Cは、丙を耕作することによって得た収穫物を取得することができる。

妥当です

善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得する権利を有します(民法189条1項)。また、善意の占有者が本権の訴えにおいて敗訴したときは、その訴えの提起の時から悪意の占有者とみなされるため(民法189条2項)、Aから本権の訴えがあり、Cが敗訴したときは、その訴えの提起の時から「悪意の占有者」とみなされます。

選択肢4. Aが所有する動産丁(以下「丁」という。)を保管することをBに寄託し、これに基づいてBが丁を占有していたところ、丁をCに盗取された場合、Bは、占有回収の訴えにより、Cに対して丁の返還を請求することができる。

妥当です

占有者は、占有の訴えを提起することができます(民法197条)。この「占有者」には他主占有も含まれますので、受寄者Bも占有回収の訴えを提起することができます。

選択肢5. Aが所有する動産戊(以下「戊」という。)を保管することをBに寄託し、これをBに引き渡した後、Aは戊をCに譲渡した場合、Aが、Bに対して以後Cの所有物として戊を占有するよう指示し、Cが、これを承諾したときは、戊についてAからCへの引渡しが認められる。

妥当です

代理人によって占有をする場合において、本人がその代理人に対して以後第三者のためにその物を占有することを命じ、その第三者がこれを承諾したときは、その第三者は、占有権を取得します(民法184条)。

「指図による占有移転」は第三者の承諾によって成立します。

まとめ

占有権の譲渡に関しては、問題文の「指図による占有移転」のほかに3つの方法がありますので、整理しておきましょう。

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