行政書士の過去問
令和4年度
法令等 問31

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問題

行政書士試験 令和4年度 法令等 問31 (訂正依頼・報告はこちら)

債務不履行を理由とする契約の解除に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
  • 債務者が債務の全部について履行を拒絶する意思を明確に示したとしても、債権者は、相当の期間を定めて履行の催告をし、その期間内に履行がない場合でなければ、契約を解除することができない。
  • 特定物の売買契約において、契約締結後に目的物が不可抗力によって滅失した場合、買主は、履行不能を理由として契約を解除することができない。
  • 建物賃貸借契約において、賃借人の用法違反が著しい背信行為にあたり、契約関係の継続が困難となるに至った場合であっても、賃貸人は相当の期間を定めて賃借人に利用態様を改めるよう催告をし、その期間が経過しても賃借人が態度を改めようとしない場合でなければ、賃貸人は、当該契約を解除することができない。
  • 売買契約に基づいて目的物が引き渡された後に契約が解除された場合、買主が売主に対して負うべき原状回復義務には、目的物の返還に加えて、それまでに生じた目的物に関する使用利益の返還も含まれるが、当該契約が他人物売買であったときは、買主は売主に対して使用利益の返還義務を負わない。
  • 売買契約において、買主が代金の一部の支払を遅滞した場合、売主が相当の期間を定めてその支払の催告をし、その期間内に買主が代金を完済しなかったとしても、その時点における代金額の不足が軽微であるときは、売主の売買契約の解除が制限されることがある。

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この過去問の解説 (3件)

01

契約の解除は、契約当事者の一方の意思表示によって、契約の効力をさかのぼって消滅させることです。この問題は、解除をするための要件や可能なケースについての問題です。条文の規定や判例の知識があれば解けます。

選択肢1. 債務者が債務の全部について履行を拒絶する意思を明確に示したとしても、債権者は、相当の期間を定めて履行の催告をし、その期間内に履行がない場合でなければ、契約を解除することができない。

妥当ではありません

債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したときは、債権者は、催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができます(民法542条1項2号)。

よって、選択肢は妥当ではありません。

選択肢2. 特定物の売買契約において、契約締結後に目的物が不可抗力によって滅失した場合、買主は、履行不能を理由として契約を解除することができない。

妥当ではありません

契約締結後に目的物が不可抗力によって滅失した場合、売主は、特定物の引渡しができなくなるので「履行不能」になります。

債権者は、不可抗力で滅失した目的物の履行不能を理由として契約を解除することができます。(民法542条1項1号)。

よって、選択肢は妥当ではありません。

選択肢3. 建物賃貸借契約において、賃借人の用法違反が著しい背信行為にあたり、契約関係の継続が困難となるに至った場合であっても、賃貸人は相当の期間を定めて賃借人に利用態様を改めるよう催告をし、その期間が経過しても賃借人が態度を改めようとしない場合でなければ、賃貸人は、当該契約を解除することができない。

妥当ではありません

<判例:最判昭27.4.25>

賃貸借は、当事者相互の信頼関係を基礎とする継続的契約であるから、賃貸借の継続中に、当事者の一方に、その信頼関係を裏切って、賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為のあった場合には、相手方は、賃貸借を将来に向って、解除することができるものと解しなければならない、そうして、この場合には民法541条所定の催告は、これを必要としないものと解すべきである。

よって、妥当ではありません。

選択肢4. 売買契約に基づいて目的物が引き渡された後に契約が解除された場合、買主が売主に対して負うべき原状回復義務には、目的物の返還に加えて、それまでに生じた目的物に関する使用利益の返還も含まれるが、当該契約が他人物売買であったときは、買主は売主に対して使用利益の返還義務を負わない。

妥当ではありません

前半部分の「原状回復義務」については妥当な記述です。後半の「他人物売買」についてが妥当ではありません。

<判例:最判昭51.2.13>

売買契約が解除された場合に、目的物の引渡を受けていた買主は、原状回復義務の内容として、解除までの間目的物を使用したことによる利益を売主に返還すべき義務を負うものであり、この理は、他人の権利の売買契約において、売主が目的物の所有権を取得して買主に移転することができず、契約が解除された場合についても同様であると解すべきである。

つまり、他人物売買であっても、買主は売主に対して使用利益の返還義務を負います。

選択肢5. 売買契約において、買主が代金の一部の支払を遅滞した場合、売主が相当の期間を定めてその支払の催告をし、その期間内に買主が代金を完済しなかったとしても、その時点における代金額の不足が軽微であるときは、売主の売買契約の解除が制限されることがある。

妥当です

当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない(民法541条)。

よって、「代金額の不足」が「契約及び取引上の社会通念に照らして軽微」であるときは契約解除の制限があり得るので妥当です。

まとめ

民法改正(2020年4月施行)で契約の解除に関する部分が改正されているので、それ以前から試験対策をしている方は注意が必要です。解除要件から「債務者の帰責性」が削除されたことと、軽微な債務不履行の場合に解除ができないことです。整理しておきましょう。

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02

解除とは、契約成立後に生じた理由について、契約の効力をさかのぼって消滅させる一方的な意思表示です。

選択肢1. 債務者が債務の全部について履行を拒絶する意思を明確に示したとしても、債権者は、相当の期間を定めて履行の催告をし、その期間内に履行がない場合でなければ、契約を解除することができない。

妥当ではありません。

民法542条及び同条1項2号には、「次に掲げる場合には、債権者は前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる」「債務者がその責務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき」とあります。

よって、問題文中の「相当の期間を定めて履行の催促」は必要なく、直ちに契約を解除することができます。

選択肢2. 特定物の売買契約において、契約締結後に目的物が不可抗力によって滅失した場合、買主は、履行不能を理由として契約を解除することができない。

妥当ではありません。

民法542条及び同条1項1号には、「次に掲げる場合には、債権者は前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる」「債務の全部の履行が不能であるとき」とあります。

よって、問題文中の目的物が滅失した場合、買主は、履行不能を理由として契約を解除することができます。

選択肢3. 建物賃貸借契約において、賃借人の用法違反が著しい背信行為にあたり、契約関係の継続が困難となるに至った場合であっても、賃貸人は相当の期間を定めて賃借人に利用態様を改めるよう催告をし、その期間が経過しても賃借人が態度を改めようとしない場合でなければ、賃貸人は、当該契約を解除することができない。

妥当ではありません。

最判昭和27年4月25日:家屋明渡請求において、判例では「賃貸借は当事者相互の信頼関係を基礎とする継続的契約であるから、賃貸借の継続中に、当事者の一方に、その義務に違反し信頼関係を裏切って、賃貸借関係を著しく困難ならしめるような不信行為にあった場合には、相手方は、民法541条所定の催告を要せず、賃貸借を将来に向かって解除することができるものと解すべきである」としています。

よって、賃借人の用法違反による著しい背信行為は信頼関係を裏切る行為となり、催告なく契約の解除をすることができます。

選択肢4. 売買契約に基づいて目的物が引き渡された後に契約が解除された場合、買主が売主に対して負うべき原状回復義務には、目的物の返還に加えて、それまでに生じた目的物に関する使用利益の返還も含まれるが、当該契約が他人物売買であったときは、買主は売主に対して使用利益の返還義務を負わない。

妥当ではありません。

民法545条3項には、「第1項本文の場合において、金銭以外の物を返還するときは、その受領の時以後に生じた果実をも返還しなければならない」とあります。

また、最判昭和51年2月13日:損害賠償請求事件では、中古自動車の他人物売買に関して「民法561条の規定により契約が解除された場合についても同様であると解すべきである」と解されています。

よって、他人物売買であっても、民法545条が適用され使用利益の返還義務を負います。

選択肢5. 売買契約において、買主が代金の一部の支払を遅滞した場合、売主が相当の期間を定めてその支払の催告をし、その期間内に買主が代金を完済しなかったとしても、その時点における代金額の不足が軽微であるときは、売主の売買契約の解除が制限されることがある。

妥当です。

民法541条ただし書きには、「その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない」としています。

よって、売り主の売買契約の解除は制限されることがあります。

まとめ

2020年民法改正で、契約の解除についても改変がありました。

解除要件から、債務者の帰責性削除、催告解除要件の明確化、無催告解除の要件整備などです。

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03

この問題のポイントは、民法541条、542条1項1号と2号、判例最判昭27.4.25、最判昭51.2.13の理解です。

まず民法541条は当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでないとされています。

民法542条1項1号は債務の全部の履行が不能であるとき、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができるとされ、民法542条1項2号は債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができるとされています。

最判昭27.4.25は賃貸借契約の当時者の一方に著しい不信行為があつた場合の契約の解除と催告ができるかが争点で、結論として賃貸借は当時者相互の信頼関係を基礎とする継続的契約であるから、賃貸借の継続中に、当事者の一方に、その義務に違反し信頼関係を裏切つて、賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為のあつた場合には、相手方は、民法第五四一条所定の催告を要せず、賃貸借を将来に向つて解除することができるものと解すべきであるとされています。

最後に最判昭51.2.13は売買契約が民法五六一条により解除された場合に目的物の引渡を受けていた買主に使用利益返還義務があるかどうかが争点で、結論として売買契約に基づき目的物の引渡を受けていた買主は、民法五六一条により右契約を解除した場合でも、原状回復義務の内容として、解除までの間目的物を使用したことによる利益を売主に返還しなければならないとされています。

 

以上の点をおさえて、解説をみていきましょう。

選択肢1. 債務者が債務の全部について履行を拒絶する意思を明確に示したとしても、債権者は、相当の期間を定めて履行の催告をし、その期間内に履行がない場合でなければ、契約を解除することができない。

解説の冒頭より、債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができるとされています。

よって、債務者が債務の全部について履行を拒絶する意思を明確に示した場合、債権者は、相当の期間を定めて履行の催告をしなくとも、契約を解除することができるとなります。

選択肢2. 特定物の売買契約において、契約締結後に目的物が不可抗力によって滅失した場合、買主は、履行不能を理由として契約を解除することができない。

解説の冒頭より、債務の全部の履行が不能であるとき、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができるとされています。

よって、特定物の売買契約において、契約締結後に目的物が不可抗力によって滅失した場合、買主は、履行不能を理由として契約を解除することができるとなります。

選択肢3. 建物賃貸借契約において、賃借人の用法違反が著しい背信行為にあたり、契約関係の継続が困難となるに至った場合であっても、賃貸人は相当の期間を定めて賃借人に利用態様を改めるよう催告をし、その期間が経過しても賃借人が態度を改めようとしない場合でなければ、賃貸人は、当該契約を解除することができない。

解説の冒頭より、賃貸借は当時者相互の信頼関係を基礎とする継続的契約であるから、賃貸借の継続中に、当事者の一方に、その義務に違反し信頼関係を裏切つて、賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為のあつた場合には、相手方は、民法第五四一条所定の催告を要せず、賃貸借を将来に向つて解除することができるものとされています。

よって、建物賃貸借契約において、賃借人の用法違反が著しい背信行為にあたり、契約関係の継続が困難となるに至った場合、賃貸人は相当の期間を定めて賃借人に利用態様を改めるよう催告をしなくても、賃貸人は、当該契約を解除することができるとなります。

選択肢4. 売買契約に基づいて目的物が引き渡された後に契約が解除された場合、買主が売主に対して負うべき原状回復義務には、目的物の返還に加えて、それまでに生じた目的物に関する使用利益の返還も含まれるが、当該契約が他人物売買であったときは、買主は売主に対して使用利益の返還義務を負わない。

解説の冒頭より、売買契約に基づき目的物の引渡を受けていた買主は、民法五六一条により右契約を解除した場合でも、原状回復義務の内容として、解除までの間目的物を使用したことによる利益を売主に返還しなければならないとされています。

よって、売買契約に基づいて目的物が引き渡された後に契約が解除された場合、買主が売主に対して負うべき原状回復義務には、目的物の返還に加えて、それまでに生じた目的物に関する使用利益の返還も含まれ、当該契約が他人物売買であったときも、買主は売主に対して使用利益の返還義務を負うとなります。

選択肢5. 売買契約において、買主が代金の一部の支払を遅滞した場合、売主が相当の期間を定めてその支払の催告をし、その期間内に買主が代金を完済しなかったとしても、その時点における代金額の不足が軽微であるときは、売主の売買契約の解除が制限されることがある。

解説の冒頭より、当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでないとされています。

よって、売買契約において、買主が代金の一部の支払を遅滞した場合、売主が相当の期間を定めてその支払の催告をし、その期間内に買主が代金を完済しなかったとしても、その時点における代金額の不足が軽微であるときは、売主の売買契約の解除が制限されることがあるとなります。

まとめ

この問題で出てきた判例は過去にも出題実績があるので、もう一度判例を見直してみる必要があると考えられます。

また、条文知識を問う問題は必ず出てくるので、条文素読もやった方が良いでしょう。

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