行政書士 過去問
令和6年度
問17 (法令等 問17)
問題文
処分取消訴訟における訴えの利益の消滅に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当なものはどれか。
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問題
行政書士試験 令和6年度 問17(法令等 問17) (訂正依頼・報告はこちら)
処分取消訴訟における訴えの利益の消滅に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当なものはどれか。
- 公務員に対する免職処分の取消訴訟における訴えの利益は、免職処分を受けた公務員が公職の選挙に立候補した後は、給料請求権等の回復可能性があるか否かにかかわらず、消滅する。
- 保安林指定解除処分の取消訴訟における訴えの利益は、原告適格の基礎とされた個別具体的な利益侵害状況が代替施設の設置によって解消するに至った場合には、消滅する。
- 公文書非公開決定処分の取消訴訟における訴えの利益は、公開請求の対象である公文書が当該取消訴訟において書証として提出された場合には、消滅する。
- 運転免許停止処分の取消訴訟における訴えの利益は、免許停止期間が経過した場合であっても、取消判決により原告の名誉・感情・信用等の回復可能性がある場合には、消滅しない。
- 市立保育所廃止条例を制定する行為の取消訴訟における訴えの利益は、当該保育所で保育を受けていた原告ら児童の保育の実施期間が満了した場合であっても、当該条例が廃止されない限り、消滅しない。
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この過去問の解説 (2件)
01
本問は、処分取消訴訟の訴えの利益が、その基礎となる事実の消滅により、消滅するかしないかという点に関する判例知識を問う問題です。
概ね、その処分等を取消すと原告の「法律上」の地位がどうなるのかを考えれば、答えは出せます。
妥当ではありません。
公職の選挙に立候補した場合、一定の公務員は届出の日に公務員の職を辞したものとみなされます(公職選挙法第90条)。すると、免職処分を取り消して当該処分により喪失した公務員の地位を回復する必要はなくなります。
しかし、免職処分は単なる辞職とは違う不利益があります(免職の日から辞職とみなされる届出の日までの間の給料がもらえないとか退職金が出ないとか)。
言い換えれば、免職処分を取り消せばもらえるお金が増えます。
つまり、免職処分の取消しの意義は従前の地位を回復することだけではありません。
したがって、公職の選挙に立候補したとしても、それだけで取消の訴えの利益がなくなるわけではありません。
最判昭和40年4月28日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
「公務員免職の行政処分は、それが取り消されない限り、免職処分の効力を保有し、当該公務員は、違法な免職処分さえなければ公務員として有するはずであつた給料請求権その他の権利、利益につき裁判所に救済を求めることができなくなるのであるから、本件免職処分の効力を排除する判決を求めることは、右の権利、利益を回復するための必要な手段であると認められる。」
「上告人が郵政省の職員たる地位を回復するに由なくなつた現在においても、特段の事情の認められない本件において、上告人の叙上のごとき権利、利益が害されたままになつているという不利益状態の存在する余地がある以上、上告人は、なおかつ、本件訴訟を追行する利益を有するものと認めるのが相当である。」
余談ですが、今は郵政省はありませんし、郵便職員は公務員ではありませんね。
妥当です。よってこの肢が正解です。
保安林がなぜ存在するかと言えば、災害等の防止のためです。
しかし、別の方法で災害等が防止できるようになれば、その保安林が保安林である必要はなくなります。すると、保安林指定解除の時点ではまだ「別の方法」がなかったとしても、その後に「別の方法」が執られれば、保安林指定解除の取消しをする必要はなくなりますから、訴えの利益は消滅します。
言い換えれば、保安林指定解除を取り消しても何も変わらないということです。
最判昭和57年9月9日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
「いわゆる代替施設の設置によつて右の洪水や渇水の危険が解消され、その防止上からは本件保安林の存続の必要性がなくなつたと認められるに至つたときは、もはや乙と表示のある上告人らにおいて右指定解除処分の取消しを求める訴えの利益は失われる」
妥当ではありません。
不開示決定にかかる文書を書証として提出したとしても、当該書証の閲覧謄写(謄写とはコピーのことです)等が可能になるわけではありませんから、不開示決定を取り消す利益はあります。
最判平成14年2月28日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
「本件条例5条所定の公開請求権者は,本件条例に基づき公文書の公開を請求して,所定の手続により請求に係る公文書を閲覧し,又は写しの交付を受けることを求める法律上の利益を有するというべきであるから,請求に係る公文書の非公開決定の取消訴訟において当該公文書が書証として提出されたとしても,当該公文書の非公開決定の取消しを求める訴えの利益は消滅するものではない」
妥当ではありません。
免停処分は、免停期間が明ければそれで元通りになるわけではありません。
免停期間が明けたのちも免停処分の事実は前歴として累積点数の計算上、一定の法律上の効力が残ります。したがって、前歴としての法律上の効力が残る限り、取消しの利益があります。
最判昭和55年11月25日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
「本件原処分の日から一年を経過した日の翌日以降、被上告人が本件原処分を理由に道路交通法上不利益を受ける虞がなくなつたことはもとより、他に本件原処分を理由に被上告人を不利益に取り扱いうることを認めた法令の規定はないから、行政事件訴訟法九条の規定の適用上、被上告人は、本件原処分及び本件裁決の取消によつて回復すべき法律上の利益を有しない」
「取消判決により原告の名誉・感情・信用等の回復可能性がある場合」については、単なる事実上の利益であり法律上の利益ではないので訴えの利益はありません。取消しの利益は、取消しが法律上の効力にかかわる場合に限定されてます。
同判例「被上告人には、本件原処分の記載のある免許証を所持することにより警察官に本件原処分の存した事実を覚知され、名誉、感情、信用等を損なう可能性……の存在が認められるとしても、それは本件原処分がもたらす事実上の効果にすぎないものであり、これをもつて被上告人が本件裁決取消の訴によって回復すべき法律上の利益を有することの根拠とするのは相当でない」
なお、優良運転者である旨の記載のない一般運転者としての免許の交付を受けた更新処分について、取消しの利益を認めた最高裁判例(最判平成21年2月27日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan)があります。
妥当ではありません。
取り消しても、年齢的にもはや当該保育所に通うことができないのですから、訴えの利益はありません。
つまり、取り消しても何も変わらないということです。
最判平成21年11月26日裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
「現時点においては,上告人らに係る保育の実施期間がすべて満了していることが明らかであるから,本件改正条例の制定行為の取消しを求める訴えの利益は失われた」
ただし、本判例は、そもそも条例による保育所の廃止が抗告訴訟の対象になるのかという点が主要な争点であり、原審は否定したところ本件判例は認めたところが重要です。
同判例
「条例の制定は,普通地方公共団体の議会が行う立法作用に属するから,一般的には,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるものでないことはいうまでもないが,本件改正条例……の制定行為は,行政庁の処分と実質的に同視し得るものということができる。
また,……当事者訴訟ないし民事訴訟を提起し,勝訴判決や保全命令を得たとしても,これらは訴訟の当事者である当該児童又はその保護者と当該市町村との間でのみ効力を生ずるにすぎないから,これらを受けた市町村としては当該保育所を存続させるかどうかについての実際の対応に困難を来すことにもなり,処分の取消判決や執行停止の決定に第三者効(行政事件訴訟法32条)が認められている取消訴訟において当該条例の制定行為の適法性を争い得るとすることには合理性がある。
以上によれば,本件改正条例の制定行為は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解するのが相当」
ざっくり言うと、
条例は原則として行政処分ではないから抗告訴訟の対象とはならない。
しかし、本件条例の場合は、一部の人のみに対して行政庁の処分なく直接的に法的地位のはく奪という結果を生じさせるので、実質的に行政庁の処分と同視できる。
同時に、当事者訴訟又は民事訴訟では適切な解決ができず、第三者効のある取消訴訟で争う合理性(必要性)がある。
ということです。
なお、条例が原因により生じた損害等を理由に損害賠償請求訴訟(国家賠償請求訴訟)を提起することができるのはまた別論です。
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02
取消訴訟における訴えの利益
取消訴訟において訴訟要件の一つとなる「訴えの利益」があるか否かが問われています。
つまり、訴えにより行政行為の取消を求める法律上の利益があるか否かが問題となります。
訴えの利益には
1,処分について取消を求めて原告として提訴する資格である「原告適格」(行政事件訴訟法9条1項)
2,現に処分を取り消してもらう必要性である「狭義の訴えの利益」
とがあります。
×
たとえ免職処分後に公選の立候補者となり復職の可能性がなくなっても、免職処分の取消を求めることで免職処分から立候補までの給与請求権を行使する可能性が残されているため、これを主張するための訴えの利益が認められます(最判40・4・28)。
〇
代替施設の設置により水害の危険性はなくなっており、保安林指定を回復すべき法律上の利益は消滅しているため、狭義の訴えの利益は失われます(最判昭57・9・9)。
×
公文書非公開決定の取り消しを求める取消訴訟において、たとえ目的の公文書が書証として提出されることにより公開されたとしても、公開条例が公文書の公開及び写しの交付を受ける権利を固有の権利として認めている以上、狭義の訴えの利益は消滅しません。(最判平14・2・28)
×
運転免許停止処分により損なわれた名誉・感情・信用等は本件処分により生じた「事実上の」利益であり、「法律上の利益」ではありません。
回復すべき「法律上の利益」がない以上、狭義の訴えの利益は消滅します(最判昭55・11・25)。
×
条例の制定改廃は本来は取消訴訟の対象である処分とは認められませんが、保育所を廃止する条例は直接住民に対して保育が受けられなくなるという効果を生じさせるため取消訴訟の対象になりえます。
しかし原告らの保育の実施期間が過ぎていればもう回復すべき法律上の利益がなくなっているため、狭義の訴えの利益は消滅します。(最判平21・11・16)
原状回復が不可能な場合、処分から長い期間が経過して事情の変化があった場合、代替措置が取られた場合等には狭義の訴えの利益が認められません。
判例から具体的にケースごとの回答ができるように学習しましょう。
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