行政書士 過去問
令和6年度
問23 (法令等 問23)

このページは閲覧用ページです。
履歴を残すには、 「新しく出題する(ここをクリック)」 をご利用ください。

問題

行政書士試験 令和6年度 問23(法令等 問23) (訂正依頼・報告はこちら)

住民監査請求および住民訴訟に関する次の記述のうち、地方自治法の定めに照らし、妥当でないものはどれか。
  • 住民監査請求は、普通地方公共団体の住民が当該普通地方公共団体の監査委員に対して行う。
  • 住民訴訟は、あらかじめ、地方自治法に基づく住民監査請求をしていなければ、適法に提起することができない。
  • 住民訴訟で争うことができる事項は、住民監査請求の対象となるものに限定される。
  • 住民訴訟において原告住民がすることができる請求は、地方自治法が列挙するものに限定される。
  • 損害賠償の請求をすることを普通地方公共団体の執行機関に対して求める住民訴訟において、原告住民の請求を認容する判決が確定した場合は、当該原告住民に対して、当該損害賠償請求に係る賠償金が支払われることになる。

次の問題へ

正解!素晴らしいです

残念...

この過去問の解説 (2件)

01

住民監査請求と住民訴訟

住民監査請求と住民訴訟の要件と効果について問う問題です。

住民監査請求は長その他の職員が違法・不当な公金の支出等があると認めるときに地方公共団体の損害を補填するために認められる監査請求です。(地方自治法242条)

住民訴訟は行政事件訴訟法の民衆訴訟に分類される争訟形態で提起には根拠法が必要です。また根拠法に定められた者のみが提起できます。(地方自治法242条の2)

選択肢1. 住民監査請求は、普通地方公共団体の住民が当該普通地方公共団体の監査委員に対して行う。

記載の通りです。(地方自治法242条1項)

 

選択肢2. 住民訴訟は、あらかじめ、地方自治法に基づく住民監査請求をしていなければ、適法に提起することができない。

住民訴訟は住民監査請求の請求人のみが提起できます。(地方自治法242条の2 1項)

選択肢3. 住民訴訟で争うことができる事項は、住民監査請求の対象となるものに限定される。

「(地方自治法242条)第1項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき」争うことができます。(地方自治法242条の2 1項)

選択肢4. 住民訴訟において原告住民がすることができる請求は、地方自治法が列挙するものに限定される。

地方自治法242条の2 第1項各号に定められた請求のみ可能となります。

(行為の差し止めの請求、行為の取消し又は無効確認の請求、事実の違法確認の請求、賠償請求)

選択肢5. 損害賠償の請求をすることを普通地方公共団体の執行機関に対して求める住民訴訟において、原告住民の請求を認容する判決が確定した場合は、当該原告住民に対して、当該損害賠償請求に係る賠償金が支払われることになる。

×

「損害賠償又は不当利得返還の請求を命ずる判決が確定した場合においては、普通地方公共団体の長は、当該判決が確定した日から60日以内の日を期限として、当該請求に係る損害賠償金又は不当利得の返還金の支払を請求しなければならない。」(地方自治法242条の3 第1項)

地方公共団体が被告に請求して地方公共団体に支払われるのであって、原告住民に支払われるのではありません。

 

まとめ

住民監査請求および住民訴訟について整理しておきましょう。

 

住民監査請求(違法・不当な公金の支出等の事由必要) 地方自治法242条

・住民監査請求できるのはその地方公共団体の住民のみ(外国人可)

・直接監査請求(75条)とは異なり1人でも可能(署名等不要)

→通常の監査請求は日本国民であるその地方公共団体の住民のみ。外国人不可。

 

住民訴訟  地方自治法242条の2,242条の3

・住民監査請求をした者のみ提起可(住民監査請求前置主義 地方自治法242条の2 1項)

・出訴期間制限あり。原則として監査の結果通知から30日以内(地方自治法242条の2 2項1号)

→請求の日から60日以内に監査が行われない場合、請求の日から60日経過した日からさらに30日以内(同3号)

 

参考になった数3

02

本問は、住民監査請求と住民訴訟の基本的な条文知識を問うものです。
地方自治法第242条及び第242条の2を知っているかどうかだけで勝負が決まりますが、二つの肢が関連しているものもありますし、ほぼ常識と理屈で絞れますから、実際に正誤の判断に迷うことは少ないと思います。

選択肢1. 住民監査請求は、普通地方公共団体の住民が当該普通地方公共団体の監査委員に対して行う。

妥当です。

 

条文通り、住民が監査請求を行う相手は監査委員です。

 

地方自治法第242条第1項「普通地方公共団体の住民は、……監査委員に対し、監査を求め、当該行為を防止し、若しくは是正し、若しくは当該怠る事実を改め、又は当該行為若しくは怠る事実によつて当該普通地方公共団体の被つた損害を補塡するために必要な措置を講ずべきことを請求することができる。」

 

監査委員が存在することを知っていれば、常識で判断できます。

 


なお、住民監査請求の請求適格は、「住民」であることであり、「住民」とは、「区域内に住所を有する者」です。

同法第10条第1項「市町村の区域内に住所を有する者は、当該市町村及びこれを包括する都道府県の住民とする。」

住民であれば、国籍、年齢等は問いません。また、法人でも構いません。

 

ちなみに「①事務の監査請求」に関しては、国籍条項があります(同法第12条第2項)。
そのほかに国籍条項があるのは、②地方選挙(同法第11条)③条例の制定改廃請求(同法第12条第1項)④議会解散請求(同法第13条第1項)⑤解職請求(リコール)(同条第2項及び第3項)があります。
選挙以外の請求を「直接請求(制度)」と呼びます。

平たく言うと、自治権に直接かかわる事項は日本国民に限るということです。

選択肢2. 住民訴訟は、あらかじめ、地方自治法に基づく住民監査請求をしていなければ、適法に提起することができない。

妥当です。

 

条文通り、住民訴訟の前に住民監査請求を行う必要があります(監査請求前置主義)。

 

地方自治法第242条の2第1項柱書「普通地方公共団体の住民は、前条第一項の規定による請求をした場合において、……裁判所に対し、……訴えをもつて次に掲げる請求をすることができる。」

 

「請求した場合において」訴訟ができます。

監査請求前置主義は憶えておくべきだという話です。

選択肢3. 住民訴訟で争うことができる事項は、住民監査請求の対象となるものに限定される。

妥当です。

 

条文通り、住民監査請求の対象となる事実についてのみ住民訴訟が可能です。

 

地方自治法第242条の2第1項柱書「普通地方公共団体の住民は、……裁判所に対し、同条第一項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき、訴えをもつて次に掲げる請求をすることができる。」

 

そもそも、他の肢にもある通り、住民訴訟が住民監査請求を前提として提起できる(監査前置主義)のですから、その内容が住民監査請求の対象となるものであるのは理の当然です。

選択肢4. 住民訴訟において原告住民がすることができる請求は、地方自治法が列挙するものに限定される。

妥当です。

 

住民訴訟で可能な請求(*)は、限定されています。

 

地方自治法第242条の2第1項「普通地方公共団体の住民は、……裁判所に対し、……訴えをもつて次に掲げる請求をすることができる。

一 当該執行機関又は職員に対する当該行為の全部又は一部の差止めの請求
二 行政処分たる当該行為の取消し又は無効確認の請求
三 当該執行機関又は職員に対する当該怠る事実の違法確認の請求
四 当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求。ただし、当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方が第243条の2の8第3項の規定による賠償の命令の対象となる者である場合には、当該賠償の命令をすることを求める請求」

 


(*)請求
これは簡単に言うと、原告が、最終的な結論として裁判所に出してもらいたい判決のことです。言い換えれば判決主文に書いてもらいたいことです。
一方、住民監査請求及び住民訴訟で問題にする「事実」というのは、あくまでも「請求」を根拠づける「事実」(請求原因事実)です。

住民監査請求の対象となる一定の違法又は不当な行為という「事実」を理由に住民訴訟を起こすのですが、住民訴訟の目的は当該「事実」が法律的に根拠づける「請求」を裁判所に認めさせることです。
その請求内容が法律により限定されています。

選択肢5. 損害賠償の請求をすることを普通地方公共団体の執行機関に対して求める住民訴訟において、原告住民の請求を認容する判決が確定した場合は、当該原告住民に対して、当該損害賠償請求に係る賠償金が支払われることになる。

妥当ではありません。よってこの肢が正解です。

 

これは地方自治法第242条の2第1項第4号訴訟の話ですが、当たり前ですね。

 

そもそも4号訴訟の請求内容は、損害賠償を支払うべき者に「賠償請求しろ」又は「賠償命令を出せ」というものであり、当該4号訴訟の原告に対して損害賠償を「支払え」ではありません。普通地方公共団体の執行機関等が損害賠償請求等を行うという義務を果たしていないから義務を果たせという内容の訴訟なのです。

ある意味、行政事件訴訟法の「義務付け訴訟」と似たようなものです(ただし、義務付け訴訟は原告自身の利益のための主観訴訟であるのに対して住民訴訟は原告の利益のためではない客観訴訟です)。

 

ですから、請求認容判決が出れば、まずは当該普通地方公共団体の長が賠償請求等を行うだけです。
同法第242条の2第1項第4号本文の賠償請求については、

 

同法第242条の3第1項「前条第1項第4号本文の規定による訴訟について、損害賠償又は不当利得返還の請求を命ずる判決が確定した場合においては、普通地方公共団体の長は、当該判決が確定した日から六十日以内の日を期限として、当該請求に係る損害賠償金又は不当利得の返還金の支払を請求しなければならない。」

 

になり、同法第242条の2第1項第4号ただし書の賠償命令については同法第243条の2の8第4項になります。

 

その後、請求した相手が支払わなければ、今度は、当該普通地方公共団体が訴訟を提起することになります。

同法第242条の2第1項第4号本文の賠償請求については、

 

同法第242条の3条第2項「前項に規定する場合において、当該判決が確定した日から六十日以内に当該請求に係る損害賠償金又は不当利得による返還金が支払われないときは、当該普通地方公共団体は、当該損害賠償又は不当利得返還の請求を目的とする訴訟を提起しなければならない。」

 

になり、同法第242条の2第1項第4号ただし書の賠償命令については同法第243条の2の8第5項になります。

 

そして、この請求又は訴訟は普通地方公共団体が当事者であり、普通地方公共団体が自らの損害賠償請求権を行使しているだけです。ですから、その認容判決が出た場合に、賠償金等を受け取るのは当然、当該普通地方公共団体です。元になった住民訴訟の原告ではありません。
住民訴訟はそもそも客観訴訟であり、原告自身の利益のための訴訟ではなく、特に4号訴訟の「請求」内容は、普通地方公共団体の機関等に一定の作為を求めるものであることを理解していれば判ります。

 


なお、住民訴訟の原告が自らに対する損害賠償を求めるならば、それは相手と請求原因によって通常の損害賠償請求訴訟か又は国家賠償請求訴訟になります。

参考になった数1