管理業務主任者 過去問
令和5年度(2023年)
問39
問題文
マンションの管理費の滞納に関する次の記述のうち、民法及び区分所有法によれば、最も不適切なものはどれか。
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問題
管理業務主任者試験 令和5年度(2023年) 問39 (訂正依頼・報告はこちら)
マンションの管理費の滞納に関する次の記述のうち、民法及び区分所有法によれば、最も不適切なものはどれか。
- 管理組合は、管理費が滞納されている場合、管理規約に遅延損害金の定めがないときでも、遅延損害金を請求することができる。
- 賃借人が賃貸借契約により管理費を管理組合に支払っていた場合でも、当該賃借人が管理費の支払いを滞納したときは、当該管理組合は、賃貸人である区分所有者に滞納管理費を請求することができる。
- 専有部分の売買契約によって、滞納されていた管理費の支払義務は区分所有権を取得した買主に承継されるが、売主自身の支払義務が消滅するわけではない。
- 競売手続によってマンションの区分所有権を取得した場合には、買受人は、前区分所有者の滞納管理費の支払義務を承継しない。
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この過去問の解説 (2件)
01
区分所有権に関する管理費は、所有権が移転しても消滅するわけではないことがポイントです。
適切
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができます(民法415条1項)。
したがって、債権者である管理組合は、規約に遅延損害金の定めがないときでも、遅延損害金を請求することができます。
適切
管理費は賃貸人である区分所有者が負担するものです。
したがって、賃借人管理費の支払いを滞納したときは、当該管理組合は、賃貸人である区分所有者に滞納管理費を請求することができます。
適切
管理費債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができます(区分所有法8条)。
これによって売主自身の支払い義務が消滅するわけではありません。
不適切
管理費債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができます(区分所有法8条)。
競売によってマンションの区分所有権を取得した者も特定承継人にあたり、前区分所有者の滞納管理費の支払義務を承継します。
本問題を通して、所有権が移転しても管理費の債権が消滅するわけではないことを理解しましょう。
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02
本問は、滞納管理費にまつわる権利義務に関する基本的な条文知識を問う問題です。
特に、管理費を少しでも確実に回収するために特定承継(*)があった場合に、前所有者と新所有者の「両方に対して」滞納管理費の請求ができることを規定した建物の区分所有等に関する法律(以下、区分所有法)第8条の規定は、知らないのは恥というくらいの重要な条文です。
管理業務主任者はもちろん不動産関係の仕事をしようというのならこの程度はたしなみの一つと言っていいくらいに重要な基本的知識です。
しっかり憶えておきましょう。
(*)特定承継
被承継人から「一部の」権利義務のみを引き継ぐことです。典型的には売買契約などで誰かから何か物を買った場合です。この場合、その買った物に対する所有権という特定の権利のみを引き継いでいるということで「特定」承継と言います。
包括承継の反対概念です。包括承継とは、被承継人の「すべての」権利義務を引き継ぐことを言います(もちろん、属人的な権利義務など引き継"げ"ないものもあります)。典型的には相続、法人合併などです。
「最も不適切」ではありません。
遅延損害金の定めがないとしても、民法の規定による遅延損害金(債務の履行遅滞を理由とする損害賠償のことです)の請求はできます。
金銭債務では、債務不履行の場合、法定利率又は約定利率のいずれか大きい方に従った利息分が損害となります(逆に実際にはそれを超える損害があったとしても法律上は損害とは認められません)。
遅延損害金の定めがないということは、つまり、債務不履行が生じた場合に損害額の算定に使用する約定利率がないということであり、法定利率によって計算することになります。
民法第419条第1項「金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による」
ちなみに法定利率は2025年度は3%です。
なお、「定める」とは、これが損害の算定方法であってこれ以外の方法では算定しないという意味です。ですから、「それを超える損害」は認められないのです。
「最も不適切」ではありません。
管理費の支払い義務を負うのは、あくまでも区分所有者です。
区分所有法第19条「各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する。」
賃貸人が管理組合に直接支払っていたとしても、それは単に区分所有者との間の賃貸借契約に定めた特約に基づく一種の第三者弁済に過ぎず、区分所有者と管理組合の間の法律関係にはまったく影響しません。
したがって、滞納があれば、管理組合は区分所有者に対して当然に管理費の支払いを請求できます。
むしろ、管理組合が賃貸人に対して請求する法的根拠の方がありません。
例えば三面契約により、管理組合、区分所有者、賃借人を当事者として管理費を賃借人が管理組合に支払う義務を負う契約でもあれば別ですが、普通はありません。
三者の法律関係は、管理組合と区分所有者との間の区分所有法及び管理規約による法律関係、区分所有者(賃貸人)と賃借人との間の賃貸借契約に基づく法律関係が基本であり、一定の限度で賃借人にも区分所有法及び規約等に基づいて管理組合に対する法的義務が発生しますが、管理費等の支払い義務はそのうちに入りません。
区分所有法第6条「区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。
(第2項略)
3 第2項の規定は、区分所有者以外の専有部分の占有者(以下「占有者」という。)に準用する。
(第4項略)
」
管理費の滞納がこの区分所有法第6条第1項に定める「共同の利益に反する行為」と認定された裁判例はあります。
しかしながら、区分所有法第6条第3項により賃借人もまた共同利益背反行為をしてはならないということと区分所有者が他の区分所有者(≒管理組合)に対して負う何らかの法的義務が賃借人にもあるかどうかとは別問題です。
区分所有者は管理費を支払う義務を負うのでその義務を果たさないのは共同利益背反行為に当たるというだけで、端からその義務がない賃借人は、管理費を支払わなくても共同利益背反行為にはなりません。
区分所有法第7条「区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について(以下略)」
ここに定める「債権」の一つが管理費等ですが、この規定は占有者である賃借人に対しては準用されていません。管理費等は占有者は負担しないことが前提になっているからです。
裁判例でも、管理費等の支払い義務者は区分所有者であって、第三者との間に負担の合意がない限り、区分所有者以外の者が管理費等を負担することはあり得ないとしたものがあります。
ちなみに、賃貸借契約で賃借人が区分所有者に代わって支払うことになっている管理費を滞納した場合には、区分所有者との賃貸借契約について債務不履行となります。
なお、標準管理規約(単棟型)に占有者は区分所有者と同一の義務を負う旨の規定があります。
標準管理規約(単棟型)第5条第2項「占有者は、対象物件の使用方法につき、区分所有者がこの規約及び総会の決議に基づいて負う義務と同一の義務を負う。」
この規定は、「使用法につき」となっていて管理費等の支払いを含んでいません。
賃借人には管理費等の支払い義務が管理組合との関係において存在しないことを前提にしているのです。
「最も不適切」ではありません。
その通りです。
専有部分の譲渡により区分所有権が移転しても元の所有者である売主の滞納管理費の支払義務はなくなりません。
区分所有法第8条「前条第1項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。」
区分所有法第7条第1項「区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、(以下略)」
「特定承継人に対して"も"」と書いてあります。
そもそも一般論としては、所有権の移転があってもその所有権に関して元の所有者に生じた債権債務は新所有者に当然には移転しません。
所有権の移転はあくまでも所有権の移転だけです。
つまり、債務不履行を行った債務者である前所有者に対して請求できるのは当然の話なのです。
区分所有法第8条の規定は、本来なら当然には移転はもちろん新たに取得することもないはずの債務を新所有者に「も」課す特殊な規定なのです。
この結果として、前所有者と新所有者の負担する滞納管理費債務(所有権移転以前に生じたものに限る)は、不真正連帯債務の関係になります。
区分所有建物の管理費債権等は、区分所有建物所有者全員の利益のために必要なものであり、その確保は重要です。
そこでその債務の担保力を高めるために元の所有者と新所有者の両方に対して請求ができることになっています。
余談ですが、国土交通省が2025年の時点で、正直不動産という漫画とコラボをやっています。この正直不動産という漫画に、この肢の設定と同じエピソードがありますが、前所有者の滞納管理費の支払義務が新所有者に「移転する」、つまり、売却により、前所有者には滞納管理費の支払義務がなくなると読める話の展開になっています。これは現実の法制度とは異なります。
正直不動産は個人的に面白い漫画だと思いますが、しょせんはフィクションです。話の展開上現実の制度とは異なることが書いてあることもありますから、間違っても鵜呑みにしてはいけません。
「最も不適切」です。よってこの肢が正解です。
区分所有建物の特定承継人には、被承継人の負担していた滞納管理費を支払う義務があります。
区分所有法第8条「前条第1項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。」
この義務は、特定承継の理由は関係ありません。
したがって、通常の売買に限らず、競売による場合であっても買受人は同条の特定承継人であることに変わりはなく、滞納管理費の支払い義務を負います。
管理費(及び修繕積立金)を確実に確保するために、法律上、特定承継人と被承継人の両方に滞納管理費の支払い義務を課すことで債権の効力を強化するようになっているということは絶対に憶えておきましょう。
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