問題
国家賠償法1条1項の性質については( ア )説と( イ )説が存在する。両説を区別する実益は、加害公務員又は加害行為が特定できない場合や加害公務員に( ウ )がない場合に、( ア )説では国家賠償責任が生じ得ないが( イ )説では生じ得る点に求められていた。しかし、最一小判昭和57年4月1日民集36巻4号519頁は、( ア )説か( イ )説かを明示することなく、「国又は公共団体の公務員による一連の職務上の行為の過程において他人に被害を生ぜしめた場合において、それが具体的にどの公務員のどのような違法行為によるものであるかを特定することができなくても、右の一連の行為のうちのいずれかに行為者の故意又は過失による違法行為があったのでなければ右の被害が生ずることはなかったであろうと認められ、かつ、それがどの行為であるにせよこれによる被害につき行為者の属する国又は公共団体が法律上賠償の責任を負うべき関係が存在するときは、国又は公共団体は損害賠償責任を免れることができない」と判示している。さらに、公務員の過失を( エ )過失と捉える裁判例が支配的となっており、個々の公務員の( ウ )を問題にする必要はないと思われる。したがって、( ア )説、( イ )説は、解釈論上の道具概念としての意義をほとんど失っているといってよい。
(最三小判令和2年7月14日民集74巻4号1305頁、宇賀克也裁判官補足意見)