社会保険労務士の過去問
第50回(平成30年度)
労働基準法及び労働安全衛生法 問6
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問題
社労士試験 第50回(平成30年度) 択一式 労働基準法及び労働安全衛生法 問6 (訂正依頼・報告はこちら)
労働基準法に定める賃金等に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
- 派遣先の使用者が、派遣中の労働者本人に対して、派遣元の使用者からの賃金を手渡すことだけであれば、労働基準法第24条第1項のいわゆる賃金直接払の原則に違反しない。
- 使用者が労働者の同意を得て労働者の退職金債権に対してする相殺は、当該同意が「労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは」、労働基準法第24条第1項のいわゆる賃金全額払の原則に違反するものとはいえないとするのが、最高裁判所の判例である。
- 労働基準法では、年俸制をとる労働者についても、賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならないが、各月の支払いを一定額とする( 各月で等分して支払う )ことは求められていない。
- ストライキの場合における家族手当の削減が就業規則( 賃金規則 )や社員賃金規則細部取扱の規定に定められ異議なく行われてきている場合に、「ストライキ期間中の賃金削減の対象となる部分の存否及びその部分と賃金削減の対象とならない部分の区別は、当該労働協約等の定め又は労働慣行の趣旨に照らし個別的に判断するのを相当」とし、家族手当の削減が労働慣行として成立していると判断できる以上、当該家族手当の削減は違法ではないとするのが、最高裁判所の判例である。
- 労働安全衛生法第66条による健康診断の結果、私傷病のため医師の証明に基づいて使用者が労働者に休業を命じた場合、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。
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この過去問の解説 (3件)
01
1:正
労働者の代理人や弁護士、賃金債権の譲受人などに賃金を支払うことは直接払いの原則に反します。
ただし、派遣先の使用者が「派遣元の使用者からの賃金を手渡す」こと自体は、違反行為ではありません。
2:正
「労働者の自由な意思」に基づく退職金債権の放棄に対して使用者がそれを相殺することは、賃金全額払の原則に違反しません。
3:正
年俸制の場合でも賃金は毎月一回以上、一定の期日を定めて支払う必要があります。
ただし、毎月の支払額を一定額にすることまでは求められていません。
4:正
各種手当がストライキによる賃金削減の対象となるか否かは「個別的に判断」し、家族手当の削減が労働慣行として成立している場合は違反性はないという判例です。
5:誤
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合は、「平均賃金の100分の60以上」の休業手当を労働者に支払う必要があります。
設問のケースは「私傷病」による休業なので、この場合は使用者側に休業手当の支払い義務は生じません。
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02
1:正
設問のケースは「賃金直接払の原則」の例外です。賃金は直接本人に渡すことが原則ですが、派遣先の使用者が派遣元の使用者からの賃金を手渡すこと自体は労働基準法第24条第1項には違反しません。派遣先が派遣元から地理的に遠く離れている場合などを想起すれば良いかもしれません。
2:正
設問のとおりです。原則は「賃金全額払い=相殺禁止」ですが、設問の同意がある場合に限り賃金全額払の原則に違反しません。設問にある判例とは、シンガー・ソーイング・メシーン・カムパニー事件(最二小判昭48.1.19)です。この他、労働者の職務懈怠や不法行為を原因とする債権であっても労働者の同意のない相殺が賃金全額払の原則に反している旨の判例は、関西精機事件(最二小判昭31.11.2 )や日本勧業経済会事件(最大判昭36.5.31)を参照下さい。
3:正
設問のとおりです。賃金支払5原則に「一定期日払い」はありますが、設問のような一定額の支払いを求める規定はありません。残業代や社会保険料の増減などを考えれば容易に正解できる肢です。
4:正
三菱重工業長崎造船所事件(最二小判 1981年9月18日)。
まず「ストライキ中は賃金不支給=ノーワーク・ノーペイの原則」を思い浮かべれば、ストライキ中の家族手当削減も違法とは言えないような気がしますよね。読んだことのない判例でも、深呼吸して自分の知識をフル回転させましょう。
判例では、家族手当は労働の対象ではないのでノーワーク・ノーペイの原則になじまない、と述べています。但し、当該家族手当不支給が、就業規則や労働協約に明記され、労使慣行に根づいていることから違法ではないと判断しています。労使慣行として根づく=ルールが周知されている。就業規則は「制定する」だけでは足りず、労働者に「周知」して初めて有効に成立します。
5 .:誤
私傷病が原因であれば、事業主が休業を命じても、設問の休業補償の必要はありません。使用者の責めに帰すべき事由により労働者を休業させた場合は平均賃金の100分の60以上を休業手当として(労働基準法26条)、業務上の傷病により休業する労働者には平均賃金の100分の60を休業補償として(労働基準法76条)、それぞれ支払う必要があります。
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03
解説は以下のとおりです。
【正誤】正しい記述です。
【根拠条文等】労働基準法第24条1項,昭和61年6月6日基発333号
【ポイント・考え方】
派遣先の使用者が、派遣元の使用者からの賃金を手渡すだけであれば、派遣先の使用者は、労働基準法第24条における「使者」に該当する点を理解しておきましょう。
【学習・実務でのワンポイント】
現在は多くの場合が、賃金を現金手渡しではなく、金融機関等への振り込みになるかと思いますので、本条文のような場面が実際にあるかというと、少ないかと思います。
ですので、本条文に関しては、賃金を手渡す人・条件等を読み取れるようにしておけばよいと筆者は考えます。
【正誤】正しい記述です。
【根拠条文等】労働基準法24条1項,最高裁判例平成2年11月26日(日新製鋼事件)
【ポイント・考え方】
賃金・退職金等の債権に対し、別の債務があることによる相殺については、「労働者の自由な意思によること」「その合理的な理由が客観的に存在すること」が成り立つ場合には、該当条文の違反にはならず有効となる点を理解しておきましょう。
逆に、当事者同士では自由な意思であっても、第三者から客観的に判断できない場合は、このような相殺は本条文に違反することになると理解しておくとよいでしょう。
【学習・実務でのワンポイント】
本設問文に限らず、条件の適用可否の判断ポイントとして、「その条件が客観的に判断できる」ことが重要な要件となるので、理解しておくとよいでしょう。
【正誤】正しい記述です。
【根拠条文等】労働基準法第24条2項
【ポイント・考え方】
設問文のとおりそのまま理解しておきましょう。
月ごとに日数が異なる点からも、設問文のとおりで特に問題はないと判断できるかと思います。
【学習・実務でのワンポイント】
年俸制における賃金の支払い方法・条件(賞与との関連性・バランス等)については、一度確認しておくとよいでしょう。
【正誤】正しい記述です。
【根拠条文等】労働基準法24条1項,最高裁判例昭和56年9月18日(三菱重工業長崎造船所事件)
【ポイント・考え方】
設問文の場合は、「規定に定められ」「異議なく行われてきている」「労働慣行として成立していると判断できる」等の文言から、違法ではないという判例があてはまると判断することが可能だと筆者は考えます。
【学習・実務でのワンポイント】
このような判例にかかる設問文については、特に学習が至っていない場合でも、一般的・常識的な判断力や推測から正答を導く(正誤を判断する)ことが可能だと筆者は考えています。
【正誤】誤った記述です。
【根拠条文等】労働基準法26条,昭和23年10月21日基発1529号,昭和63年3月14日基発150号
【ポイント・考え方】
設問文の場合は、私傷病により一時的に労働能力を喪失しているとみられることになり、記載のような休業手当を支払わなくても差し支えないことになるため、誤りとなります。
【学習・実務でのワンポイント】
労働基準法第26条で定める休業手当の支給には以下の条件を満たす必要があります。
・会社都合の休業状態にあること
・従業員本人に労働意欲と労働能力があること
・休業日が休日ではないこと
これを理解しておくとよいでしょう。
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