社会保険労務士の過去問
第54回(令和4年度)
労働者災害補償保険法 問1

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問題

社労士試験 第54回(令和4年度) 択一式 労働者災害補償保険法 問1 (訂正依頼・報告はこちら)

「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準(令和3年9月14日付け基発0914第1号)」に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
  • 発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められない場合には、これに近い労働時間が認められたとしても、業務と発症との関連性が強いと評価することはできない。
  • 心理的負荷を伴う業務については、精神障害の業務起因性の判断に際して、負荷の程度を評価する視点により検討、評価がなされるが、脳・心臓疾患の業務起因性の判断に際しては、同視点による検討、評価の対象外とされている。
  • 短期間の過重業務については、発症直前から前日までの間に特に過度の長時間労働が認められる場合や、発症前おおむね1週間継続して深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長時間労働が認められる場合に、業務と発症との関連性が強いと評価できるとされている。
  • 急激な血圧変動や血管収縮等を引き起こすことが医学的にみて妥当と認められる「異常な出来事」と発症との関連性については、発症直前から1週間前までの間が評価期間とされている。
  • 業務の過重性の検討、評価に当たり、2以上の事業の業務による「長期間の過重業務」については、異なる事業における労働時間の通算がなされるのに対して、「短期間の過重業務」については労働時間の通算はなされない。

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この過去問の解説 (3件)

01

いわゆる重労働・激務による心身への影響に関する設問になります。

実例がとても多岐にわたる中で、判断基準が示されていることもあり、多くの例にふれることで、対象となるか否かについて、正誤の判断が可能になっていくでしょう。それでは問題を見ていきましょう。

選択肢1. 発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められない場合には、これに近い労働時間が認められたとしても、業務と発症との関連性が強いと評価することはできない。

本設問文の場合にも、業務と発症との関連性が「強い」と評価されることがあります。

本設問文の時間外労働の水準には至らないが、これに近い時間外労働が認められる場合には、そのような時間外労働に加えて一定の労働時間以外の負荷(勤務時間の不規則性など)が認められるときには、業務と発症との関連性が「強い」と評価できるとされています。

労働者保護の観点から、基準に近い事情にあり、他の条件とあわせて鑑みた場合に、保護すべきと判断される場合は十分ありえる、と意識しておくとよいでしょう。

選択肢2. 心理的負荷を伴う業務については、精神障害の業務起因性の判断に際して、負荷の程度を評価する視点により検討、評価がなされるが、脳・心臓疾患の業務起因性の判断に際しては、同視点による検討、評価の対象外とされている。

心理的負荷を伴う業務については、脳・心臓疾患の業務起因性の判断に際しても、負荷の程度を評価する視点により検討、評価がなされます。

選択肢3. 短期間の過重業務については、発症直前から前日までの間に特に過度の長時間労働が認められる場合や、発症前おおむね1週間継続して深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長時間労働が認められる場合に、業務と発症との関連性が強いと評価できるとされている。

本設問文のとおりです。

本設問文が労働者保護のスタンスが強いと判断できれば、正しい記述であると判断が可能と考えます。

選択肢4. 急激な血圧変動や血管収縮等を引き起こすことが医学的にみて妥当と認められる「異常な出来事」と発症との関連性については、発症直前から1週間前までの間が評価期間とされている。

発症直前から「1週間前」までではなく、「前日」までの間が評価期間とされています

本設問文のような「異常な出来事」と発症との関連性については、通常、負荷を受けてから24時間以内に症状が出現するとされています。

「異常な出来事」とは、以下のようなものをいいます。

極度の緊張、興奮、恐怖、驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす事態

・急激で著しい身体的負荷を強いられる事態

・急激で著しい作業環境の変化 など

選択肢5. 業務の過重性の検討、評価に当たり、2以上の事業の業務による「長期間の過重業務」については、異なる事業における労働時間の通算がなされるのに対して、「短期間の過重業務」については労働時間の通算はなされない。

2以上の事業の業務による「短期間の過重業務」についても、業務の過重性の検討、評価に当たっては、異なる事業における労働時間の通算がなされます。

最近では、複数の業務を掛け持ちする場合も増えてきているので、このような労働時間の通算よる業務の過重性の評価は実世界でも大事になります。

まとめ

「労働者保護」の観点から各設問文を見ていくことで、正誤の判断ができるようになっていくでしょう。

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02

法改正事項からの出題(令3.9.14基発0914第1号)ですが、脳・心臓疾患の認定基準に心理的負荷も評価基準に加えられたことを覚えていれば、周辺の知識と経験より判断できそうな問です。

選択肢1. 発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められない場合には、これに近い労働時間が認められたとしても、業務と発症との関連性が強いと評価することはできない。

誤:法改正事項からの出題です。令3.9.14基発0914第1号

別紙1労働時間以外の負荷要因の評価に当たっての留意事項

労働時間以外の負荷要因の評価に当たっての留意事項及び旧認定基準からの改正の趣旨は、次のとおりである。

なお、負荷要因の評価に当たっては、労働時間も含め、各負荷要因について全体を総合的に評価することが適切であり、ある就労実態について評価を行う際には、各負荷要因において示された検討の視点についてそれぞれ検討し、評価することが必要であるが、これは同一の実態について二重に評価する趣旨ではないことはこれまでと同様である。続いて1勤務時間の不規則性、2事業場外における移動を伴う業務、3心理的負荷を伴う業務、4身体的負荷を伴う業務、5作業環境が挙げられています。

https://www.mhlw.go.jp/content/000832179.pdf

・・・これに近い労働時間が認められたとしても、業務と発症との関連性が強いと評価することはできない。

選択肢2. 心理的負荷を伴う業務については、精神障害の業務起因性の判断に際して、負荷の程度を評価する視点により検討、評価がなされるが、脳・心臓疾患の業務起因性の判断に際しては、同視点による検討、評価の対象外とされている。

誤:法改正事項からの出題です。令3.9.14基発0914第1号

脳・心臓疾患の業務起因性の判断に際しても日常的に心理負荷を伴う業務又は心理的負荷を伴う具体的な出来事等について負荷の程度を評価する視点により検討し、評価することとされています。

https://www.mhlw.go.jp/content/000832179.pdf

① 長時間労働と脳・心臓疾患の発症等との間に有意性を認めた疫学調査では、長時間労働を「週55時間以上の労働時間」又は「1日11時間以上の労働時間」として調査・解析しており、これが1か月継続した状態としてはおおむね65時間を超える時間外労働の水準が想定されたこと、②支給決定事例において、労働時間に加えて一定の労働時間以外の負荷要因を考慮して認定した事例についてみると、1か月当たりの時間外労働は、おおむね65時間から70時間以上のものが多かったこと、そして、③このような時間外労働に加えて、労働時間以外の負荷要因で一定の強さのものが認められるときには、全体として、労働時間のみで業務と発症との関連性が強いと認められる水準と同等の過重負荷と評価し得る場合があることが掲記されている。

脳・心臓疾患の業務起因性の判断に際しては、同視点による検討、評価の対象外とされている。

選択肢3. 短期間の過重業務については、発症直前から前日までの間に特に過度の長時間労働が認められる場合や、発症前おおむね1週間継続して深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長時間労働が認められる場合に、業務と発症との関連性が強いと評価できるとされている。

正:脳・心臓疾患の認定基準により、短期間の加重業務については発症に近接した時期(発症前概ね1週間)において特に過重な業務に就労したことがあります。本肢の・・・深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長時間労働が認められる場・・・はこれに相当すると考えられます。平13.12.12基発1063、令2.8.21基発0821第3号

選択肢4. 急激な血圧変動や血管収縮等を引き起こすことが医学的にみて妥当と認められる「異常な出来事」と発症との関連性については、発症直前から1週間前までの間が評価期間とされている。

誤:1週間前ではなく、前日(24時間以内)です。異常な出来事は発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に明確にしうる異常な出来事に遭遇したこととあります。

平13.12.12基発1063、令2.8.21基発0821第3号

急激な血圧変動や血管収縮等を引き起こすことが医学的にみて妥当と認められる「異常な出来事」と発症との関連性については、発症直前から1週間前までの間が評価期間とされている。

選択肢5. 業務の過重性の検討、評価に当たり、2以上の事業の業務による「長期間の過重業務」については、異なる事業における労働時間の通算がなされるのに対して、「短期間の過重業務」については労働時間の通算はなされない。

誤:法改正事項からの出題です。令3.9.14基発0914第1号

2以上の事業による短期間の過重業務についても、異なる事業場における労働時間を通算して評価します。未知の選択肢と思いますが、過重負荷の評価に当たり、2以上の事業の業務による労働時間が通算されないのは合理的ではないと推測できます。

https://www.mhlw.go.jp/content/000832179.pdf

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03

この問題は、労働安全衛生法に基づく「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準(令和3年9月14日付け基発0914第1号)」に関する記述の正誤を問うものです。

具体的には、業務とこれらの疾患の発症との関連性をどのように評価するかが問題になっています。

選択肢1. 発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められない場合には、これに近い労働時間が認められたとしても、業務と発症との関連性が強いと評価することはできない。

誤り

解説:時間外労働の水準が規定の基準に達しない場合でも、その他の要因を考慮して業務と発症の関連性が「強い」と評価される可能性があります。

選択肢2. 心理的負荷を伴う業務については、精神障害の業務起因性の判断に際して、負荷の程度を評価する視点により検討、評価がなされるが、脳・心臓疾患の業務起因性の判断に際しては、同視点による検討、評価の対象外とされている。

誤り

解説:心理的負荷を伴う業務は、脳血管疾患や虚血性心疾患の業務起因性の判断においても、負荷の程度を評価する対象とされています。

選択肢3. 短期間の過重業務については、発症直前から前日までの間に特に過度の長時間労働が認められる場合や、発症前おおむね1週間継続して深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長時間労働が認められる場合に、業務と発症との関連性が強いと評価できるとされている。

正しい

解説:短期間の過重業務については、発症直前の過度の長時間労働や深夜時間帯の長時間労働などが認められる場合に、業務と発症との関連性が「強い」と評価されます。

選択肢4. 急激な血圧変動や血管収縮等を引き起こすことが医学的にみて妥当と認められる「異常な出来事」と発症との関連性については、発症直前から1週間前までの間が評価期間とされている。

誤り

解説:「異常な出来事」と発症との関連性の評価期間は、発症直前から前日までです。

1週間前までの期間ではありません。

選択肢5. 業務の過重性の検討、評価に当たり、2以上の事業の業務による「長期間の過重業務」については、異なる事業における労働時間の通算がなされるのに対して、「短期間の過重業務」については労働時間の通算はなされない。

誤り

解説:2以上の事業による「短期間の過重業務」についても、異なる事業における労働時間の通算が行われます。

まとめ

労働者の健康保護を目的としたこの認定基準は、長時間労働や心理的、身体的負荷の程度を含む複数の要因を総合的に評価することを求めています。

業務と健康障害との関連性を評価する際には、単に労働時間だけでなく、その内容や状況、労働者の健康状態などを総合的に考慮することが重要です。

また、異なる事業場での労働も評価に影響を与えるため、全体的な労働環境と負荷の実態を正確に把握することが求められます。

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