司法書士 過去問
令和5年度
問1 (午前の部 問1)

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問題

司法書士試験 令和5年度 問1(午前の部 問1) (訂正依頼・報告はこちら)

社会権に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし誤っているものの組合せはどれか。

ア  障害福祉年金支給対象者から在留外国人を除外することは、立法府の裁量の範囲に属する。
イ  憲法第25条は、直接個々の国民に対して具体的権利を与えたものではない。
ウ  憲法第25条に規定する「健康で文化的な最低限度の生活」の具体的内容は、その時々における文化の発達の程度、経済的・社会的条件、一般的な国民の生活の状況等との相関関係において判断されるべきものである。
エ  公務員は、憲法第28条に規定する「勤労者」に当たらず、労働基本権の保障を受けない。
オ  憲法第26条第2項後段に規定する「義務教育」の無償の範囲には、授業料だけでなく、教科書を購入する費用を無償とすることも含まれる。
(参考)
憲法
第25条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
,国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
第26条 (略)
,すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。
第28条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。
  • アイ
  • アウ
  • イエ
  • ウオ
  • エオ

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この過去問の解説 (3件)

01

憲法(社会権)に関する問題です。どの選択肢も有名な判例からの出題なので、比較的簡単に解ける問題です。

選択肢5. エオ

(ア) 最高裁平成元年3月2日判決(塩見訴訟)では「国は、特別の条約が存在しない限り、限られた財源下で福祉的給付を行うにあたって、自国民を在留外国人より優先して扱うことも許されるので、障害福祉年金の支給対象者から在留外国人を除外することは、立法府の裁量の範囲に属する」と判断しているので、本肢は正しいです。

(イ) 最高裁昭和42年5月24日判決(朝日訴訟)では、「憲法25条の規定は、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営みえるように国政を運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり、直接個々の国民に対して具体的権利を与えたものでない」と規定しているため、本肢は正しいです。

(ウ)最高裁昭和57年7月7日判決(堀木訴訟)では、「健康で文化的な最低限度の生活とは、きわめて抽象的・相対的な概念であり、その具体的な内容は、その時々における文化の発達の程度、経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断・決定されるべきものである」と判断しているので、本肢は正しいです。

(エ)最高裁昭和41年10月26日判決(全逓東京中郵事件)では、「憲法第28条における勤労者とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準じる収入によって生活する者をいい、公務員も勤労者にあたり、当該基本権の保障を受ける」と判断しているため、本肢は誤りです。

(オ)最高裁判決昭和39年2月26日判決(教科書費国庫負担請求事件)では「(憲法第26条第2項後段の意味は)子女の保護者に対してその子女に普通教育を受けさせるについて、その対価を徴収しないことを定めたものであり、教育提供に対する対価は授業料を意味するから、「無償」は授業料の無償をいう」と判断しています。本肢は、教科書購入費用まで無償であるとしているので、誤りです。

まとめ

この問題では、過去問で問われたことのない新しい論点からは出題されていないので、過去問を丁寧に学習していれば、5つの選択肢すべてについて、正確に正誤が判断できると思います。

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02

社会権の各論点ですが、肢アに関しては、人権享有主体の問題になるので、総論的な論点からの派生となっていす。憲法はその性質上、明文が少ない分、抽象的な表現を取っているので、主に判例を理解しておく必要があります。社会権の場合は特に、その権利がどのような性質なのか(単なるプログラム規定なのか、法律が出来て、初めて権利を主張出来る抽象的権利なのか、憲法の明文で直接、請求出来る具体的権利なのか)を判例を通じて押さえておく必要があります。

選択肢5. エオ

ア 本肢の論点は、外国人の人権がどこまで認められるのか?という人権享有主体の問題です。

人権はそもそも、人が人である以上、無条件で認められるのが原則ですが、それはあくまで、日本国籍を持った、特別な社会的地位にいない(公務員などではない)、生身の人間の場合でかつ、人権同士の衝突といった、内在的な問題がない場合です。そのため、外国人や法人など、一定の場合、人権の制限が許容される場合があります。学説上は人権性質論が有力説です。人権の性質に応じて、外国人等に認められなくても、違憲にはならないという考え方です。では、どういった性質であれば、制限が認められるかというと、判例は、最判H1.3.2のように、理由が財源になっている場合です。社会保障など、一定の給付が必要な場合は、国の財源が有限である以上、内国民を優先した法律の規定があったとしても、それは憲法上、違憲にはならないという主張です。よって、立法の裁量と言えますから、本肢は正解となります。

 

イ 25条の法的性質の論点です。25条は単に、規範的な宣言をしているにとどまっていると考える、プログラム規定説、25条に基づいた立法があって、初めて具体的な権利行使が出来るとする、抽象的権利説、25条を直接、根拠に権利行使が出来る、直接説があります。判例(最昭判42.24)では、本肢と同趣旨の「憲法第25条は、直接個々の国民に対して具体的権利を与えたものではない」とした、プログラム規定説と採用していると考えられるため、本肢は正解となります。

 

ウ 25条の法的性質である、裁判規範性の論点です。25条を直接の根拠として、裁判の法源となれるのかどうかです。判例(最判昭57.7.7)では、「健康で文化的な最低限度の生活とは、きわめて抽象的・相対的な概念であり、その具体的な内容は、その時々における文化の発達の程度、経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断・決定されるべきものである」とあり、25条を直接、法源にすることは出来ないと判示していますので、本肢は正解となります。

 

エ 公務員は、労働権に関しては一定の制約がありますが、労働者には該当します。判例(最判昭41.10.26)によると、「憲法第28条における勤労者とは...略...公務員も勤労者にあたり」としているので、本肢は不正解となります。公務員は多様な人権の中で、労働権だけの制約があるくらいなので、一般には人権享有主体の問題に含まれていないようですが、外国人や法人同様に、その性質上、一定の制約があることに変りはありません。よって、本肢は不正解となります。

 

オ 判例(最判昭39.2.26)によると、「無償」は授業料が無償であることを意味し、教科書など、授業料以外にかかる費用までは含まないと考えられます。よって、本肢は不正解となります。

まとめ

解法のポイント

人権享有主体と25条の法的性質を問う論点です。有名判例の論点ばかりですから、基本知識の整理・確認で十分、対応出来ます。なお、憲法に限りませんが、試験の場合、明文があれば、条文が正解、無い場合は最高裁判例が変更にならない限り、近時の著名判例が正解と考えてください。問題文に判例の趣旨に照らしとあるのは、通常は近時の最高裁判例のことです。

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03

社会権についての判例の立場を問う問題です。

いずれも代表的な判例であり、典型的な論点さえ確認してあれば正誤にたどり着けると思います。

選択肢5. エオ

ア)正しい。

 最高裁平成元年3月2日判決において、「社会保障上の施策において在留外国人をどのように処遇するかについては、国は、特別の条約の存しない限り・・・その政治的判断によりこれを決定することができるのであり、その限られた財源の下で福祉的給付を行うに当たり、自国民を在留外国人より優先的に扱うことも、許される」と判示されています。

そして、同判例の中で「障害福祉年金の支給対象者から在留外国人を除外することは、立法府の裁量の範囲に属する」とありますので、本選択肢は妥当です。


 

(イ)正しい

最高裁昭和42年5月24日判決において、「憲法25条1項はすべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり、直接個々の国民に具体的権利を賦与したものではない」と判示されており、本選択肢は妥当です。

 

上記判決の通り、判例は生存権の性質に関してプログラム規定説に立つものとされています。この他、生存権について法的権利性を肯定する抽象的権利説(具体的な法律を基に訴訟提起可)と具体的権利説(憲法25条を根拠に直接訴訟提起可)という考え方があります。


 

(ウ)正しい

最高裁昭和57年7月7日判決において、生存権に関して「健康で文化的な最低限度の生活なるものは、きわめて抽象的・相対的な概念であつて、その具体的内容は、その時々における文化の発達の程度、経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものである」と述べられており、本選択肢は妥当です。

 

この判例では、上記の論旨に続いて、具体的な立法の場面では国の財政的事情を無視することはできないこと、高度な政治的判断が必要とされることが示され、結論として、「具体的な立法措置については立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない事柄である」と判示されています。この結論部分については記憶に残っている方が多いかと思います。


 

(エ)誤り

最高裁昭和41年10月26日判決によると、「労働基本権は、たんに私企業の労働者だけについて保障されるのではなく、公共企業体の職員はもとよりのこと、国家公務員やを地方公務員も、憲法二八条にいう勤労者にほかならない以上、原則的には、その保障を受けるべきものと解される」とありますので、本選択肢は誤りです。

 

上記判例では、続けて「『公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない』とする憲法一五条を根拠として、公務員に対して右の労働基本権をすべて否定するようなことは許されない。ただ、公務員またはこれに準ずる者については、後に述べるように、その担当する職務の内容に応じて、私企業における労働者と異なる制約を内包しているにとどまる」と述べられており、公務員の労働基本権は肯定されているものの、一定の制限を受ける場合があることが示されています。


 

(オ)誤り

最高裁判決昭和39年2月26日判決では、「憲法二六条二項後段の『義務教育は、これを無償とする。』という意義は、国が義務教育を提供するにつき有償としないこと、換言すれば・・・その対価を徴収しないことを定めたものであり、・・・対価とは授業料を意味するものと認められるから、同条項の無償とは授業料不徴収の意味と解するのが相当である」そして、「憲法の義務教育は無償とするとの規定は、授業料のほかに、教科書、学用品その他教育に必要な一切の費用まで無償としなければならないことを定めたものと解することはできない」と判示されています。

したがって、本選択肢は誤りです。


 


 

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