司法書士の過去問
令和5年度
午前の部 問2

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問題

令和5年度 司法書士試験 午前の部 問2 (訂正依頼・報告はこちら)

違憲審査権に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものの組合せはどれか。

ア  表現の自由を規制する法律の規定は、一般の国民が当該規定から具体的場合に当該表現が規制の対象となるかどうかの判断が可能となるような基準を読みとることができない場合であっても、当該規定を限定して解釈することによって規制の対象となるものとそうでないものとを区別することができるときには、違憲無効であるとの評価を免れることができる。
イ  最高裁判所によりある法律が違憲無効であると判断された場合には、その法律は、直ちに効力を失う。
ウ  条約は、国家間の合意であるという性質に照らし、裁判所による違憲審査権の対象とならない。
エ  被告人に対する没収の裁判が第三者の所有物を対象とするものであっても、当該被告人は、当該第三者に対して何ら告知、弁解、防禦の機会が与えられなかったことを理由に当該没収の裁判が違憲であることを主張することができる。
オ  違憲審査権は、最高裁判所のみならず下級裁判所も有する。
  • アウ
  • アエ
  • イウ
  • イオ
  • エオ

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この過去問の解説 (2件)

01

憲法(違憲立法審査権)に関する問題です。(オ)が正しいことは、すぐにわかるので、正解は(イ)(オ)か(エ)(オ)に絞られます。(イ)も、憲法の基本的な知識で誤りであると判別できます。よって、(エ)(オ)が正解となります。

選択肢5. エオ

(ア)最高裁昭和59年12月12日判例(札幌税関検査事件)では、表現の自由を規制する法律の規定は、解釈により、規制の対象となるものとそうでないものが区別されるなどの場合であって、一般国民の理解において、具体的場合に当該表現物が規制の対象となるかどうかの判断が可能となるような基準が読みとることができるときには、当該規定を限定して、違憲無効であることの評価を免れることができる、と判断しています。よって、本肢は誤りです。

(イ)我が国の違憲立法審査制度は、違憲判断に関して個別的効力説を採用しています。個別的効力説を前提とすれば、違憲判断は当該事件限りのものであって、たとえ最高裁判所の違憲判断であっても、違憲とされた規定を一般的に無効とする効力はありません。従って、本肢は誤りです。

(ウ)条約も、その内容が一見きわめて明白に違憲無効であると認めらるときは、違憲立法審査権の対象となるります。従って、本肢は誤りです。

(エ)最高裁昭和37年11月28日判決(第三者所有物没収事件)では、第三者の所有物を没収する場合において、その没収に関して当該所有者に対し、何ら告知、弁解、防御の機会を与えることなく、その所有権を奪うことは、著しく不合理であって、憲法の容認しえないところであると言わなければならない。そして、没収の言い渡しを受けた被告人は、たとえ第三者の所有に関する場合であっても、当該第三者に対して何ら告知、弁解、防御の機会を与えられなかったことを理由に、当該没収の裁判が違憲であることを主張できる、と判断しています。従って、本肢は正しいです。

(オ)下級裁判所も違憲立法審査権を有するので、本肢は正しいです。

まとめ

この問題では、(ア)と(エ)が、少し難しい選択肢でした。しかし、(ア)と(エ)が分からなくても、(イ)が誤りで(オ)が正しいと正確に判断できれば、正答が導けます。

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02

違憲審査権の論点です。わが国では憲法判断を専門の憲法裁判所で判断するのではなく、通常の訴訟において、憲法判断が必要な個別の事件に付随的に判断する方式を採用しています。よって、本当に必要な時にだけ、憲法判断はするといった手法が取られる場合があります。こういった手法を合憲限定解釈と言います。

選択肢5. エオ

ア 表現の自由は民主主義の成立の過程において、不可欠な権利であるため、基本的人権の中でも、特に重要な権利と言えますが、判例(最判昭59.12.12)では、一般人をもって、規制の対象が明確に判断出来る場合は違憲とはならないとする、合憲限定解釈によって、憲法判断を避けることが出来るとしています。本肢は一般の国民が当該規定から具体的場合に当該表現が規制の対象となるかどうかの判断が可能となるような基準を読みとることができないとしているので、不正解となります。

 

イ 設問の通りであれば、裁判所が消極的立法をすることと同じことになってしまい、三権分立の趣旨に反することになります。また、違憲審査で法律が違憲無効と判示されたとしても、絶対的無効ではなく、その事件限りの相対的無効と考えられています。よって、最高裁によって、法律が違憲無効となった場合でも、当然に無効とはならず、その後の立法府の判断となります。よって、本肢は不正解となります。

 

ウ 判例(最判昭34.12.16)によると、日米安保条約は高度な政治性を有するもので、原則、司法権が及ばないとしながらも、一見極めて明白に違憲無効であると認められる場合は、司法権が及ぶと判示しているので、条約も76条の違憲審査の対象になると考えられます。よって、本肢は不正解となります。

 

エ 31条の論点です。ここでは、2つの論点があります。一つは第三者の所有物を没収する場合、

当該第三者にも31条の保障が及ぶかどうか。もう一つは、対象が第三者の所有物であっても、被告人が 当該第三者に対して何ら告知、弁解、防御の機会を与えられなかったことを理由に、当該没収の裁判が違憲であることを主張できるどうかです。判例(最判昭37.11.28)では、第三者にも31条の保障が及ぶこと、その第三者に31条の権限が与えられなかったことを理由に被告人が裁判の違憲性を主張できると判示していますから、本肢は正解となります。

 

オ 下級裁判所にも違憲審査権が認められるのかが論点です。81条には「最高裁判所は」と書かれているため、明文上、最高裁判所にしか、違憲審査権は存在しないかのように思えますが、判例(最大判昭25.2.1)では、「憲法81条は最高裁判所が違憲審査権を有する終審裁判所であることを明らかにしたものであって、下級裁判所が違憲審査権を有することを否定したものではない」判示しているので、下級裁判所も違憲審査権があると考えられます。よって、本肢は正解となります。

まとめ

解法のポイント

違憲審査権の基本論点ばかりです。過去問を繰り返すこと、代表的な判例の判旨を暗記しておくことで十分、対処可能です。暗記するときは、条文とその趣旨、論点を把握した上で、判例のポイントをつかんでおくと、効率が良いでしょう。

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