賃貸不動産経営管理士の過去問
令和5年度(2023年)
問12

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この過去問の解説 (2件)

01

この問題は、建物の構造と耐震性に関する法律とその改正の歴史と現状の法規制の内容の理解を問うものです。関係する法律は、建築基準法や同法施行令、耐震改修促進法になります。他にも品確法(住宅品質確保促進法)等もあり、それぞれの規制や仕組みを整理しておくことは、実務では重要になります。

 

耐震基準は、建築する建物に対して、建築基準法や建築基準法施行令などの法令によって国が定めた「最低限満たすべき地震の耐性性能に関する基準」のことをいいます。地震が多い日本では、建物の安全性を確保するために重要な役割を果たします。法律で規定される建物の構造、特に耐震性に関する技術基準は、過去の地震被害を教訓として段階的に改訂され、強化されてきました。

 

建築に関する法律は、1920年に最初の法律「市街地建築物法」が施行されました。当初は、防火と衛の規定が主な目的で、耐震に関する規定はほとんどありませんでした。その後、1923年に関東大震災が起こったことにより、翌年に市街地建築物法が改正され、耐震基準が追加されたのがはじまりです。その後、1950年(昭和25年)に「市街地建築物法」は廃止され、代わりに建築基準法制定されました。
建築基準法において現在までに耐震基準は2度改訂されました。これらの改訂も震災によって基準の見直しがあったことに特徴があります(下図の通り)。

 

 

また、耐震に関する法律には、「建築物の耐震改修の促進に関する法律」(通称:耐震改修促進法)があり、平成7年(1995年)に制定され、最新の改正は令和5年(2023年)に行われ、令和6年(2024年)4月1日から施行されています。この法律は、既存建築物の耐震性向上を促進し、地震災害から国民の生命、身体及び財産を保護することを目的としており、1995年の阪神・淡路大震災を契機として制定され、その後も大規模地震の発生や防災意識の高まりを受けて、何度も改正が行われてきました。これらの法律や基準の変遷を正確に理解することは、賃貸不動産の管理において非常に重要です。特に、耐震診断や耐震改修の義務化については、その対象となる建物の種類や規模を正確に把握する必要があります。管理業者は、共同住宅である賃貸住宅において適切に対応する必要があります。


(参考文献)
〇建築基準法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC0000000201_20240619_506AC0000000053
〇建築基準法施行令
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325CO0000000338
〇建築物の耐震改修の促進に関する法律(以下、「耐震改修促進法」と称します)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=407AC0000000123_20240401_505AC0000000058
〇住宅の品質確保の促進等に関する法律
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=411AC0000000081_20240401_505AC0000000063

選択肢1. 1968 年の十勝沖地震の被害を踏まえ、1971 年に鉄筋コンクリート造の柱のせん断設計法を変更する等の建築基準法施行令改正があった。

【適切です】

この選択肢は、「1971年に建築基準法施行令の改正は、1968年十勝沖地震を受けての改正である」ことがポイントです。

 

1971年の建築基準法施行令の改正は、旧耐震基準の中で行われたもので、1968年の十勝沖地震の被害を受けて改正されました。この改正の特徴は、建物の耐震性能向上のため、鉄筋コンクリート造の柱のせん断設計法の変更です。

 

したがって、この選択肢は適切です。

選択肢2. 1978 年の宮城県沖地震の被害を踏まえ、1981 年に建築基準法の耐震基準が改正され、この法改正の内容に基づく設計法が、いわゆる新耐震設計法である。

【適切です】
この選択肢「1981年の建築基準法の改正は、1978年宮城県沖地震を受けての大幅改正された」ことがポイントです。

 

1978年の宮城県沖地震の教訓を踏まえ、1981年に建築基準法の耐震基準が大幅に改正されました。この改正後の技術基準を「新耐震基準」と言います。これにより、1981年5月以前に建築された建物を「旧耐震基準」、1981年6月以降の基準で建築された建物のことを「新耐震基準」という表現で区別するようになりました。この改正によって導入された設計法が「新耐震設計法」と呼ばれ、現在の耐震基準の基礎となっています。

 

したがって、この選択肢は適切です。

選択肢3. 2013 年に建築物の耐震改修の促進に関する法律が改正され、一部の建物について耐震診断が義務付けられた。

【適切です】

この選択肢は「2013年の耐震改修促進法の改正により、耐震診断が義務付けられた」ことがポイントです。

 

2013年に「建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)」が改正され、地震による被害を最小限に抑えるため、一定規模以上の建築物について耐震診断が義務付けられました。また、耐震性に係る表示制度の創設もこの改正で行われました。

 

したがって、この選択肢は適切です。

選択肢4. 共同住宅である賃貸住宅においても、耐震診断と耐震改修を行うことが義務付けられている。

【不適切です】

この選択肢は、「一定の規模や用途の共同住宅の賃貸住宅は、耐震診断が義務付けられ、耐震改修は努力義務である」ことがポイントです。

 

特定既存耐震不適格建築物である階数3以上かつ1,000㎡以上の共同住宅(耐震改修促進法施行令第6条第2項第3号)の所有者は、耐震診断の実施と、その結果に基づき地震に対する安全性の向上が必要と認められる場合は、耐震改修を行う努力義務を負います(耐震改修促進法第14条)。

 

したがって、この選択肢は不適切です。

 

なお、特定既存耐震不適格建築物とは、既存の耐震基準に適合しない建築物のうち、多数の人が利用する一定規模以上の建築物や、危険物貯蔵施設などが該当します。 なお、特定既存耐震不適格建築物の中でも、病院、劇場、百貨店など不特定多数の人が利用する施設や、小学校、老人ホームなど避難時に特別な配慮が必要な人が利用する施設など、地震に対する安全性の向上が特に必要とされる特定既存耐震不適格建築物については、所管行政庁が所有者に対し、耐震診断や耐震改修について必要な指示を行うことができます(同法第15条第2項)。 所有者は、正当な理由なくこの指示に従わない場合、その旨が公表される可能性があります(同法同条第3項)。

まとめ

建物の構造に関する法規制の変遷を理解することは、賃貸不動産の管理において非常に重要です。

 

特に以下の点に注意が必要です。
1)耐震基準は過去の地震被害を教訓に段階的に強化されてきた。
2)1981年の新耐震設計法の導入は、現代の耐震基準の基礎となる重要な転換点であった。
3)2000年の耐震基準は、1995年の阪神淡路大震災での教訓から、地盤調査の実施・接合部の金物使用・耐力壁バランスなど規制が強化され、構造計算プログラムによる構造計算書の作成が一般化されました。
4)2013年の耐震改修促進法の改正により、一部の建築物に耐震診断が義務付けられたが、全ての賃貸住宅が対象ではない。

 

これらの知識は、管理する建物の安全性評価や、必要に応じた耐震改修の提案などに活用できます。また、入居者に対して建物の安全性を説明する際にも役立ちます。
 

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02

建物の耐震に関するルールを確認しておきましょう。

選択肢1. 1968 年の十勝沖地震の被害を踏まえ、1971 年に鉄筋コンクリート造の柱のせん断設計法を変更する等の建築基準法施行令改正があった。

【適切】

選択肢の通り、1968年の十勝沖地震の被害を踏まえ、1971年に鉄筋コンクリート造の柱のせん断設計法を変更する等の建築基準法施行令改正が行われました。

選択肢2. 1978 年の宮城県沖地震の被害を踏まえ、1981 年に建築基準法の耐震基準が改正され、この法改正の内容に基づく設計法が、いわゆる新耐震設計法である。

【適切】

選択肢の通り、1978年の宮城県沖地震の被害を踏まえ、1981年に建築基準法の耐震基準が改正さました。

この法改正の内容に基づく設計法が、いわゆる新耐震設計法です。

 

選択肢3. 2013 年に建築物の耐震改修の促進に関する法律が改正され、一部の建物について耐震診断が義務付けられた。

【適切】

選択肢の通り、2013年に建築物の耐震改修の促進に関する法律が改正され、一部の建物について耐震診断が義務付けられました。

選択肢4. 共同住宅である賃貸住宅においても、耐震診断と耐震改修を行うことが義務付けられている。

【不適切】

特定既存耐震不適格建築物に該当する、共同住宅である賃貸住宅は、1981年5月31日以前に新築工事に着手し、かつ「3階以上かつ1000平方メートル以上」の規模を要する建物に限られ、耐震診断の実施が義務付けられていますが、耐震改修は努力義務であるため、義務付けられてはいません。

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