賃貸不動産経営管理士の過去問
令和5年度(2023年)
問19
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問題
賃貸不動産経営管理士試験 令和5年度(2023年) 問19 (訂正依頼・報告はこちら)
賃借人が賃料債務を免れる場合に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
- 賃貸借契約で定められた賃料の支払時期から 10 年が経過すれば、特段の手続きを要することなく、賃借人は賃料債務を免れる。
- 賃貸借契約で賃料の支払方法が持参払いと定められている場合で、賃貸人が賃料の増額を主張して賃料の受領を拒否しているときは、賃借人が従前の賃料額を賃貸人宅に持参し、賃貸人が受け取れる状況にすれば、賃貸人に受領を拒否された場合でも、賃借人は賃料債務を免れる。
- 賃貸借契約で賃料の支払方法が口座振込と定められている場合で、賃借人が賃貸人宅に賃料を持参したにもかかわらず、賃貸人が受領を拒否したときは、賃料を供託することが可能であり、供託により、賃借人は賃料債務を免れる。
- 賃貸借契約期間中であっても、賃貸人が、敷金の一部を賃借人の賃料債務に充当したときは、賃借人の承諾の有無にかかわらず、賃借人は、その分の賃料債務を免れる。
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この過去問の解説 (2件)
01
この問題は、賃借人が賃料債務を免れる場合についての理解を問うもので、民法の「債権の消滅」に関する知識と借地借家法に関する知識を問うものです。
賃料債務は賃借人の基本的な義務ですが、特定の状況下では債務を免れる可能性があります。この問題では、時効、持参払い、口座振込、敷金充当といった様々な状況における賃料債務の扱いについて理解しているかが問われています。
特に重要なのは、賃料の支払方法(持参払いや口座振込)と、賃貸人の受領拒否時の対応、供託の可能性、そして敷金の取り扱いについての知識です。これらの状況下で、賃借人がどのような行動をとれば賃料債務を免れるのか、または免れないのかを正確に理解することが求められています。
(参考文献)
〇【過去問解説】令和5(2023)年度 第19問 賃貸不動産経営管理士試験
https://chintaikanrishi-siken.com/kakomon/2023/19.html
〇民法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089
【不適切です】
この選択肢は、「時効は5年で完成し、賃借人が時効を援用しなければ賃料債務を免れられない」ことがポイントです。
民法上の時効期間は、2020年4月1日に改正され、現在の時効期間は次の通りです。
・債権者が権利を行使できることを知った時から5年間
・権利を行使できる時から10年間
これらのうち、いずれか早く経過した時点で時効が完成します(民法第166条第1項第1号)。賃料債権は支払期限が経過すれば当然に発生しますから、ここでは「債権者が権利を行使することができることを知った時」と「権利を行使することができる時」は一致します。このため、賃料の支払に関する時効は、5年間になります。
ただし、時効が完成しても債権が自動的に消滅するのでなく、賃借人が時効を援用して、はじめて債務を消滅させることができます(民法145条)。なお、時効が完成しても、その後で賃借人が支払い猶予を申し出たような場合には、時効の援用ができなくなるとされています。
このため、時効が完成する前に債権回収を図る必要があります。
債権回収の手続きは、
(1)催告する
催告を行うことによって、その時から6カ月が経過するまで時効の完成が猶予されます(民法第150条第1項)
(2)債務の承認を得る
賃借人が債務の存在を認めた場合、債務の承認による時効の更新(民法第152条第1項)により、承認の時から5年が経過するまでは時効は完成しません。
(3)支払督促や訴訟を起こす(民法第169条第1項)
賃借人が債務の存在を認めない場合、支払督促や裁判上の請求を行うと完成猶予の効果が発生し、その手続きが終了するまで消滅時効は完成しません(民法第147条第1項)。なお、訴訟で勝訴判決が確定すれば、判決確定の時から10年間の消滅時効が新たに発生します(民法第169条)。
以上の事から、時効は5年で完成します。また、賃借人が時効を援用する手続きを行わなければ賃料支払の債務を免れることはできません。なお、賃貸人が債権回収の手続きを行うことで、時効の完成を遅らせることがあります。
したがって、この選択肢は不適切な記述です。
(参考文献)
〇民法145条(時効の援用)
時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
〇民法147条(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)
次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 裁判上の請求
二 支払督促
三 民事訴訟法第二百七十五条第一項の和解又は民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)若しくは家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)による調停
四 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
2 前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。
〇民法第150条(催告による時効の完成猶予)
催告があったときは、その時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
2 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。
〇民法152条(承認による時効の更新)
時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。
2 前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。
〇民法第169条(判決で確定した権利の消滅時効)
確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については、十年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、十年とする。
2 前項の規定は、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない。
【不適切です】
この選択肢は、「賃借人の「弁済の提供」のみでは、賃料債務を免れられない」ことがポイントです。
まず、賃借人は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足ります(借地借家法第32条第2項)。
次に、賃料の支払方法が持参払いと定められている場合において、賃借人が従前の賃料額を賃貸人宅に持参し、賃貸人が受け取れる状態を「弁済の提供」といいます。しかし、「弁済の提供」のみでは、賃料債務が消滅するわけではなく、免れることができるのは「履行遅延の責任」であり、履行遅延によって生じた損害について、遅延した側が相手方に賠償する義務から免れるに過ぎません(民法第492条)。つまり、「弁済の提供」のみでは、賃借人は賃料債務を免れられません。
今回のケースの様に、賃借人は賃料値上げ請求に応じず、賃借人が相当と認める額の賃料を「弁済の提供」しようとした時に、賃貸人が「受領拒否した場合、「受領拒否」を供託原因とする弁済供託をすることにより,賃料債務を消滅させることができます(民法第492条第1項第1号)。 ただし、訴訟の結果,賃料の値上げが相当とされた場合には,供託した額との差額を貸主に支払わなければならず(民法第703条)、供託することによって争いが解決するわけではありません。
なお、供託した者は,遅滞なく,債権者に供託の通知をしなければなりません(民法第495条第3項)
したがって、この選択肢は不適切な記述です。
なお、賃貸人は、何も言わずに供託金の払戻し(還付)を受けると、明渡し請求を撤回したとみなされる恐れがあります。供託の払戻しを受けて使用損害金に充当するという趣旨の通告書を賃借人に対して送付しておくと、その心配なく払戻しを受けることができます。つまり、賃貸人としては、賃料を供託されたときは、速やかに払戻しを受け、また、賃借人との間で、再度供託されないような関係にもっていくように努力すべきです。
(参考文献)
〇借地借家法第32条(借賃増減請求権)
建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
2建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
3建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた建物の借賃の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。
〇民法第492条(弁済の提供の効果)
債務者は、弁済の提供の時から、債務を履行しないことによって生ずべき責任を免れる。〇民法第494条(供託)
弁済者は、次に掲げる場合には、債権者のために弁済の目的物を供託することができる。この場合においては、弁済者が供託をした時に、その債権は、消滅する。
一 弁済の提供をした場合において、債権者がその受領を拒んだとき。
二 債権者が弁済を受領することができないとき。
2 弁済者が債権者を確知することができないときも、前項と同様とする。ただし、弁済者に過失があるときは、この限りでない。
〇民法第495条(供託の方法)
前条の規定による供託は、債務の履行地の供託所にしなければならない。
2 供託所について法令に特別の定めがない場合には、裁判所は、弁済者の請求により、供託所の指定及び供託物の保管者の選任をしなければならない。
3 前条の規定により供託をした者は、遅滞なく、債権者に供託の通知をしなければならない。
第703条(不当利得の返還義務)
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
【不適切です】
この選択肢は、「弁済をすべき場所の定めがある場合は、それに従わなければならず、別の方法での履行の提供では、供託原因にならない」ことがポイントです。
賃貸借契約で賃料の支払方法が口座振込と定められている場合、賃借人は契約条件に従って支払わなければなりません(民法第484条第1項)。賃貸人宅への持参は契約違反であり、適切な弁済の提供とはなりません(民法第492条)。したがって、賃貸人が受領を拒否しても、それは供託の要件を満たさず(民法第494条第1項第1号)、賃借人は賃料債務を免れることはできません。適切な弁済の提供(この場合は口座振込)がなされ、それでも賃貸人が受領を拒否した場合に初めて供託が可能となります。
したがって、この選択肢は不適切な記述です。
(参考文献)
〇民法第484条(弁済の場所及び時間)
弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない。
2 法令又は慣習により取引時間の定めがあるときは、その取引時間内に限り、弁済をし、又は弁済の請求をすることができる。
〇民法第494条(供託)
弁済者は、次に掲げる場合には、債権者のために弁済の目的物を供託することができる。この場合においては、弁済者が供託をした時に、その債権は、消滅する。
一 弁済の提供をした場合において、債権者がその受領を拒んだとき。
二 債権者が弁済を受領することができないとき。
2 弁済者が債権者を確知することができないときも、前項と同様とする。ただし、弁済者に過失があるときは、この限りでない。
【適切です】
この選択肢は、「①敷金は賃借人の債務不履行に対する担保であり、賃貸人は賃借人の承諾なしに滞納賃料に充当できる。②賃借人は充当請求権を持たず、敷金返還は契約終了後である。」ことがポイントです。
まず、敷金は、賃借人に契約不履行等の事情が生じ、賃貸人が賃借人に対して金銭支払請求をした場合に、賃借人支払い義務の不履行に対する担保です。敷金が賃貸人に対する担保の対象は、賃料,管理費,更新料(不払い)、原状回復義務、損害賠償責任などです。このため、賃貸借契約期間中に、賃貸人が敷金の一部を賃借人の賃料債務に充当するケースは、賃借人が賃料の支払いを怠った場合です(民法622条の2)。いつでも自由に賃貸人が敷金の一部を賃借人の賃料債務に充当することができるわけではないことに注意が必要です。
これを踏まえて、設問のケースでは、賃借人の承諾の有無にかかわらず、賃貸人は敷金から滞納賃料を充当することができます。敷金の性格上、敷金の残額を賃借人に返還する義務はありません。ただし、賃借人は、賃貸人に対し、敷金を債務の弁済に充てるよう請求することはできません(民法622条の2第2項後段)。これは、賃借人が賃貸借契約期間中に敷金の返還を求めることができないためです。
したがって、この選択肢は適切な記述です。
なお、『敷金契約』は、法律的には『賃貸借契約』といわれ別々の契約ですが、『敷金契約』は独立の意義を有するものではなく、『敷金契約』は『賃貸借契約』に『付随従属』するものです(最高裁昭和48年2月2日)。また、敷金返還のタイミングは、明渡時に、敷金返還義務と明渡義務の同時履行ではなく(最高裁昭和48年2月2日)、明渡義務が先履行(最高裁昭和49年9月2日)です。この点も実務において注意しましょう。
(参考文献)
〇民法第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
第六百十二条 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
2 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。
〇民法第622条の2(使用貸借の規定の準用)第四款 敷金
賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
一 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。
二 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。
2 賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。
賃料債務が免れる場合について、以下のポイントを理解しておくことが重要です。
・賃料債務の消滅時効は5年ですが、消滅時効の完成によって賃料債務が消滅したとしても、賃借人は時効の援用をしなければ、賃料を支払う義務は消滅しません。
・賃貸人が受領拒否している場合、賃借人が適切に履行の提供しても、賃料債務からは免れられず、免れられるのは履行遅延の責任のみです。
・支払方法が口座振込の場合、賃借人は契約通りの方法で支払わなければなりません。
・敷金は、契約終了時に精算するものです。賃借人からの賃料債務に充当する請求はできません。また、敷金は、賃借人の支払い義務の不履行に対する担保であるため、賃貸人の一方的な充当は認められません。
これらの点を正確に理解することで、賃貸借契約における賃料債務の扱いについて適切な判断ができるようになります。また、実務においても、賃借人と賃貸人の権利義務関係を適切に把握し、トラブルを防ぐことができるでしょう。
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02
どのような場合に賃借人が賃料債務を免れるのかを確認しておきましょう。
【誤】
当事者が援用しなければ時効の効果は発生しません。
【誤】
この選択肢のような場合に、賃借人が賃料債務を免れる方法として、供託があります。
【誤】
賃料の支払方法が口座振込と定められているので、その方法で賃料を支払う必要があります。
この場合、たとえ受領を拒否されたとしても供託することはできません。
【正】
賃貸人が、敷金の一部を賃借人の賃料債務に充当するときは、賃借人の承諾は必要ありません。
賃借人は、その分の賃料債務を免れます。
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