賃貸不動産経営管理士の過去問
令和5年度(2023年)
問20
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問題
賃貸不動産経営管理士試験 令和5年度(2023年) 問20 (訂正依頼・報告はこちら)
敷金の取扱いに関する次の記述のうち、適切なものはどれか。
- 敷金は、賃貸借契約上賃借人が負うべき債務の担保として交付されるものであるが、賃貸借契約は継続しつつ、敷金契約を合意解約して敷金の返還をすることができる。
- 敷金は、賃貸借契約上賃借人が負うべき債務の担保として交付されるものであるから、賃貸借契約締結と同時に、または締結前に交付しなければならない。
- 賃貸借契約が終了したにもかかわらず賃借人の明渡しが遅延したことにより発生する賃料相当使用損害金は、賃貸借契約が終了した後に発生する債務であるため、敷金から差し引くことはできない。
- 敷金は、賃借人の債務を具体的に特定し、その債務に敷金を充当する旨の意思表示をしない限り、賃貸人はその全額を返還しなければならない。
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この過去問の解説 (2件)
01
この問題は、敷金に関する基本的な法律知識として、敷金の性質と取扱いに関する理解を問うものです。
敷金とは、賃貸借契約において、賃貸借契約上賃借人が負うべき債務の担保として交付されるものであり、賃借人が賃貸人に交付する金銭のことです。
敷金は、賃貸借契約に付随する重要な要素ですが、その法的性質や返還のタイミング、充当の方法などについては、判例や借地借家法、民法などの法律で定められた原則があります。特に、敷金契約の独立性、敷金の交付時期、敷金から控除できる債務の範囲、賃貸借終了後の債務への充当、そして敷金の返還義務やその範囲については、トラブルになりやすいので注意が必要です。
この問題では、これらの点について正しい知識を整理しておくべきです。
【適切です】
この選択肢は、「敷金契約は賃貸借契約と別々の契約である」ことがポイントです。
敷金契約は、法律的には『賃貸借契約』と別々の契約です(最高裁昭和53年12月22日)。このため、賃貸借契約を継続したまま、当事者間の合意により敷金契約のみを解約し、敷金を返還することは可能です。
したがって、この選択肢は適切な記述です。
ただし、『敷金契約』は独立の意義を有するものではなく、『敷金契約』は『賃貸借契約』に『付随従属』するものです(最高裁昭和48年2月2日)。
(参考文献)
〇最高裁昭和48年2月2日(判決要旨)
1 家屋賃貸借における敷金は,賃貸借終了後家屋明渡義務履行までに生ずる賃料相当額の損害金債権その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得する一切の債権を担保するものであり,敷金返還請求権は,賃貸借終了後家屋明渡完了の時においてそれまでに生じた右被担保債権を控除しなお残額がある場合に,その残額につき具体的に発生するものと解すべきである。
2 家屋の賃貸借終了後明渡前にその所有権が他に移転された場合には,敷金に関する権利義務の関係は,旧所有者と新所有者との合意のみによっては,新所有者に承継されない。
3 家屋の賃貸借終了後であっても,その明渡前においては,敷金返還請求権を転付命令の対象とすることはできない。
〇最高裁昭和53年12月22日(判決要旨)
土地賃貸借における敷金契約は,賃借人又は第三者が賃貸人に交付した敷金をもって,賃料債務,賃貸借終了後土地明渡義務履行までに生ずる賃料相当の損害金債務,その他賃貸借契約により賃借人が賃貸人に対して負担することとなる一切の債務を担保することを目的とするものであって,賃貸借に従たる契約ではあるが,賃貸借とは別個の契約である。そして,賃借権が旧賃借人から新賃借人に移転され賃借人がこれを承諾したことにより旧賃借人が賃貸借関係から離脱した場合においては,敷金交付者が,賃貸人との間で敷金をもって新賃借人の債務不履行の担保とすることを約し,又は新賃借人に対して敷金返還請求権を譲渡するなど特段の事情のない限り,右敷金をもって将来新賃借人が新たに負担することとなる債務についてまでこれを担保しなければならないものと解することは,敷金交付者にその予期に反して不利益を被らせる結果となって相当でなく,敷金に関する敷金交付者の権利義務関係は新賃借人に承継されるものではないと解すべきである。なお,右のように敷金交付者が敷金をもって新賃借人の債務不履行の担保とすることを約し,又は敷金返還請求権を譲渡したときであっても,それ以前に敷金返還請求権が国税の徴収のため国税徴収法に基づいてすでに差し押さえられている場合には,右合意又は譲渡の効力をもって右差押をした国に対抗することはできない。
【不適切です】
この選択肢は、「敷金の交付の時期は、当事者間の合意で任意に設定できる」ことがポイントです。
敷金は賃貸借契約締結時に交付されるのが一般的ですが、法律上は敷金の交付時期について厳密な規定はなく、必ずしも契約締結と同時または締結前に交付しなければならないわけではありません。これは、敷金契約は、法律的には『賃貸借契約』と別々の契約であり、自由契約の原則に基づき契約ごとに当事者間で合意があれば、交付の時期は任意に設定できます。つまり、当事者間の合意により、契約締結後に敷金を交付することも可能です。
したがって、この選択肢は不適切な記述です。
【不適切です】
この選択肢は、「賃貸人から賃借人への敷金の返還は、賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたときである」ことがポイントです。
賃借人の敷金返還請求権は、賃貸借契約が終了し、かつ、明渡しが完了したときです。つまり、明渡しまでに生じる一切の債務が敷金によって担保されます。このため、賃貸借契約終了後の明渡し遅延による損害金も、敷金から控除可能な債務に含まれます。
したがって、この選択肢は不適切な記述です。
(参考文献)
〇民法622条の2
敷金
第六百二十二条の二 賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
一 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。
二 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。
2 賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。
【不適切です】
この選択肢は、「賃貸人は、賃借人の債務を具体的に特定し、その債務に敷金が当然に充当されるので、敷金からの控除の意思表示をする必要はない」ことがポイントです。
賃貸人は、賃借人の債務を具体的に特定し、その債務に敷金が当然に充当されるものです。
ですから、敷金からの控除の意思表示をしなくても、法律上当然に敷金から賃借人の債務を控除する権利を有します。なお、賃貸借終了後、明渡完了の時においてそれまでに生じた被担保債権を控除しなお残額がある場合に,その残額を賃借人に返還しなければなりません。
したがって、この選択肢は不適切な記述です。
ただし、法的要件というよりも実務上のポイントとして、控除する債務の内容と金額は明確にした方が、トラブルを防ぐことができます。
敷金の取り扱いについては、次を正確に理解することが重要です。
・敷金契約は賃貸借契約に付随しますが、独立した契約としての性質も持ち、合意により解約可能です。
・敷金の交付時期に厳密な法的制限はなく、契約締結後でも可能です。
・敷金は賃貸借契約終了後の債務(明渡し遅延による損害金など)にも充当可能です。
・賃貸人は法律上当然に敷金から賃借人の債務を控除する権利を有します。このため敷金からの控除の意思表示をする必要はあります。
これらの点を踏まえ、敷金の法的性質と実務上の取り扱いを正確に理解し、適切な管理を行うことが重要です。
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02
敷金の取扱いについて確認しておきましょう。
【適切】
敷金契約は賃貸借契約とは個別の契約であり、賃貸借契約は継続しつつ、敷金契約を合意解約して敷金の返還をすることができます。
【不適切】
敷金契約は、必ずしも賃貸借契約締結と同時に、または締結前に交付しなければならないということはありません。
【不適切】
賃借人の明渡しが遅延したことにより発生する賃料相当使用損害金についても、敷金から差し引くことができます。
【不適切】
賃借人の債務を特定する必要はありますが、その債務に敷金を充当する旨の意思表示をする必要はありません。
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