社会保険労務士の過去問
第54回(令和4年度)
厚生年金保険法 問8

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問題

社労士試験 第54回(令和4年度) 択一式 厚生年金保険法 問8 (訂正依頼・報告はこちら)

厚生年金保険法の在職老齢年金に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
  • 在職老齢年金の支給停止額を計算する際に用いる総報酬月額相当額は、在職中に標準報酬月額や標準賞与額が変更されることがあっても、変更されない。
  • 在職老齢年金は、総報酬月額相当額と基本月額との合計額が支給停止調整額を超える場合、年金額の一部又は全部が支給停止される仕組みであるが、適用事業所に使用される70歳以上の者に対しては、この在職老齢年金の仕組みが適用されない。
  • 在職中の被保険者が65歳になり老齢基礎年金の受給権が発生した場合において、老齢基礎年金は在職老齢年金の支給停止額を計算する際に支給停止の対象とはならないが、経過的加算額については在職老齢年金の支給停止の対象となる。
  • 60歳以降も在職している被保険者が、60歳台前半の老齢厚生年金の受給権者であって被保険者である場合で、雇用保険法に基づく高年齢雇用継続基本給付金の支給を受けることができるときは、その間、60歳台前半の老齢厚生年金は全額支給停止となる。
  • 在職老齢年金について、支給停止額を計算する際に使用される支給停止調整額は、一定額ではなく、年度ごとに改定される場合がある。

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この過去問の解説 (3件)

01

 在職老齢年金制度(老齢を事由とする年金の受給権がありかつ厚生年金保険の被保険者となる場合に、年金の一部または全部が支給停止となる制度)は、実生活でも今後高齢で働く場合に重要な事項となりますので、しくみ・算定方法など、ぜひ理解しておきましょう。

 また基準・算定方法は、さらなる高齢化社会になることをふまえ、適宜変わりうるので、改正情報にも留意しておくようにしましょう。

選択肢1. 在職老齢年金の支給停止額を計算する際に用いる総報酬月額相当額は、在職中に標準報酬月額や標準賞与額が変更されることがあっても、変更されない。

 誤った記述です。

 在職中に標準報酬月額や標準賞与額が変更になった場合、都度支給停止額が見直されるものである点を理解しておきましょう。

選択肢2. 在職老齢年金は、総報酬月額相当額と基本月額との合計額が支給停止調整額を超える場合、年金額の一部又は全部が支給停止される仕組みであるが、適用事業所に使用される70歳以上の者に対しては、この在職老齢年金の仕組みが適用されない。

 誤った記述です。

 在職老齢年金制度については、年齢に関係なく適用される(簡単に言うと、70歳以上であっても収入が多い人は、年金額の一部または全額が支給停止される)点を、理解しておきましょう。

選択肢3. 在職中の被保険者が65歳になり老齢基礎年金の受給権が発生した場合において、老齢基礎年金は在職老齢年金の支給停止額を計算する際に支給停止の対象とはならないが、経過的加算額については在職老齢年金の支給停止の対象となる。

 誤った記述です。

 経過的加算額は、60歳以降に受ける特別支給の老齢厚生年金が、65歳以降において定額部分が老齢基礎年金に、報酬比例部分が老齢厚生年金に切り替えられた場合の、定額部分−老齢基礎年金(差額)の部分になります。

 このため、経過的加算額は実態としては老齢厚生年金にあたるため、在職老齢年金の支給停止の対象となりません。

選択肢4. 60歳以降も在職している被保険者が、60歳台前半の老齢厚生年金の受給権者であって被保険者である場合で、雇用保険法に基づく高年齢雇用継続基本給付金の支給を受けることができるときは、その間、60歳台前半の老齢厚生年金は全額支給停止となる。

 誤った記述です。

 全額支給停止ではなく、一部支給停止(支給停止額は年金額・給付金額によりさまざま)となります。

 (細かい計算式までは暗記する必要はないと筆者は考えています)

 高年齢雇用継続基本給付金の支給を受けることができるときに、一律全額支給停止になるのであれば、働こうとする人が減ってしまうであろうことを推察できれば、本設問文は誤りであろうと判断することが可能と考えます。

選択肢5. 在職老齢年金について、支給停止額を計算する際に使用される支給停止調整額は、一定額ではなく、年度ごとに改定される場合がある。

 正しい記述です。

 基本的に、年金額は物価の変動に応じて毎年変わりうるものであるため、支給停止額(支給停止調整額)についても、改定される「場合がある」点を理解しておきましょう。

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02

正解肢は基本事項からの出題で特定できます。他の選択肢は在職老齢年金の細かな規定で正誤判断に迷いそうな内容も含まれていますが、正解肢の正誤を判断して特定したい問題です。

選択肢1. 在職老齢年金の支給停止額を計算する際に用いる総報酬月額相当額は、在職中に標準報酬月額や標準賞与額が変更されることがあっても、変更されない。

誤:総報酬月額相当額に関する問です。総報酬月額相当額が改定される場合には改定される月から新たな支給停止額が再計算され、当該改定が行われた月から年金額が改定されます(法46条1項、5項)。「・・・在職中に標準報酬月額や標準賞与額が変更されることがあっても、変更されない

(支給停止)

第四十六条 老齢厚生年金の受給権者が被保険者(前月以前の月に属する日から引き続き当該被保険者の資格を有する者に限る。)である日(中略)が属する月において、その者の標準報酬月額とその月以前の一年間の標準賞与額の総額を十二で除して得た額とを合算して得た額(中略)については、その者の標準報酬月額に相当する額とその月以前の一年間の標準賞与額及び標準賞与額に相当する額の総額を十二で除して得た額とを合算して得た額とする。以下「総報酬月額相当額」という。)及び老齢厚生年金の額(第四十四条第一項に規定する加給年金額及び第四十四条の三第四項に規定する加算額を除く。以下この項において同じ。)を十二で除して得た額(以下この項において「基本月額」という。)との合計額が支給停止調整額を超えるときは、その月の分の当該老齢厚生年金について、総報酬月額相当額と基本月額との合計額から支給停止調整額を控除して得た額の二分の一に相当する額に十二を乗じて得た額(以下この項において「支給停止基準額」という。)に相当する部分の支給を停止する。

選択肢2. 在職老齢年金は、総報酬月額相当額と基本月額との合計額が支給停止調整額を超える場合、年金額の一部又は全部が支給停止される仕組みであるが、適用事業所に使用される70歳以上の者に対しては、この在職老齢年金の仕組みが適用されない。

誤:在職老齢年金の対象に関する問です。被保険者である受給権者、国会議員又は地方協団体の議会の議員である受給権者、70歳以上の使用される者である受給権者が対象です。「・・・適用事業所に使用される70歳以上の者に対しては、この在職老齢年金の仕組みが適用されない・・・」

(支給停止)

第四十六条 老齢厚生年金の受給権者が被保険者(中略)又は七十歳以上の使用される者(前月以前の月に属する日から引き続き当該適用事業所において第二十七条の厚生労働省令で定める要件に該当する者に限る。)である日が属する月において、・・・

選択肢3. 在職中の被保険者が65歳になり老齢基礎年金の受給権が発生した場合において、老齢基礎年金は在職老齢年金の支給停止額を計算する際に支給停止の対象とはならないが、経過的加算額については在職老齢年金の支給停止の対象となる。

誤:在職老齢年金により支給停止となる額に関する問です(昭60法附則62条1項)。支給停止基準額>=老齢厚生年金の額の場合、老齢厚生年金の額の全額(加給年金額を含み、繰下げ加算額及び経過的加算額を除きます)を支給停止します。基本月額には報酬比例部分のみが対象となり、老齢基礎年金は含みません。経過的加算は老齢基礎年金の切り捨て部分のため老齢基礎年金と同じ扱いとなります。

「・・・老齢基礎年金は在職老齢年金の支給停止額を計算する際に支給停止の対象とはならないが、経過的加算額については在職老齢年金の支給停止の対象となる

選択肢4. 60歳以降も在職している被保険者が、60歳台前半の老齢厚生年金の受給権者であって被保険者である場合で、雇用保険法に基づく高年齢雇用継続基本給付金の支給を受けることができるときは、その間、60歳台前半の老齢厚生年金は全額支給停止となる。

誤:特別支給の老齢厚生年金と高年齢雇用継続給付の調整からの出題です(法附則11条の6第1項)。本肢では「その間、60歳台前半の老齢厚生年金は全額支給停止となる」とありますが、全額支給停止となるわけではなく、受給権者の標準報酬月額がみなし賃金日額に30を乗じて得た額の61%未満であるときは標準報酬月額の100分の6に相当する額の年金を支給停止します。

選択肢5. 在職老齢年金について、支給停止額を計算する際に使用される支給停止調整額は、一定額ではなく、年度ごとに改定される場合がある。

正:支給停止調整額=48万円*物価変動率*実質賃金変動率(名目賃金変動率)により改定され、端数処理について5000円未満は切り捨てます。

(支給停止)

第四十六条(中略)

3 第一項の支給停止調整額は、四十八万円とする。ただし、四十八万円に平成十七年度以後の各年度の物価変動率に第四十三条の二第一項第二号に掲げる率を乗じて得た率をそれぞれ乗じて得た額(その額に五千円未満の端数が生じたときは、これを切り捨て、五千円以上一万円未満の端数が生じたときは、これを一万円に切り上げるものとする。以下この項において同じ。)が四十八万円(この項の規定による支給停止調整額の改定の措置が講ぜられたときは、直近の当該措置により改定した額)を超え、又は下るに至つた場合においては、当該年度の四月以後の支給停止調整額を当該乗じて得た額に改定する。

4前項ただし書の規定による支給停止調整額の改定の措置は、政令で定める。

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03

この問題で覚えておくポイントは在職老齢年金の「減額などの支給停止の条件」になります。

選択肢1. 在職老齢年金の支給停止額を計算する際に用いる総報酬月額相当額は、在職中に標準報酬月額や標準賞与額が変更されることがあっても、変更されない。

(×)

総報酬月額相当額は、(その月の標準報酬月額)+(その月以前1年間の標準賞与額の合計)÷12 で計算されますので、標準報酬月額や標準賞与額が変更されると変更になります。

選択肢2. 在職老齢年金は、総報酬月額相当額と基本月額との合計額が支給停止調整額を超える場合、年金額の一部又は全部が支給停止される仕組みであるが、適用事業所に使用される70歳以上の者に対しては、この在職老齢年金の仕組みが適用されない。

(×)

適用事業所に使用される70歳以上の者に対しても、在職老齢年金の仕組みは適用されます。

選択肢3. 在職中の被保険者が65歳になり老齢基礎年金の受給権が発生した場合において、老齢基礎年金は在職老齢年金の支給停止額を計算する際に支給停止の対象とはならないが、経過的加算額については在職老齢年金の支給停止の対象となる。

(×)

支給停止の対象となるのは、加給年金額です。繰下げ加算額及び経過的加算額は支給停止されません。老齢基礎年金も同様に支給停止されません。

選択肢4. 60歳以降も在職している被保険者が、60歳台前半の老齢厚生年金の受給権者であって被保険者である場合で、雇用保険法に基づく高年齢雇用継続基本給付金の支給を受けることができるときは、その間、60歳台前半の老齢厚生年金は全額支給停止となる。

(×)

高年齢雇用継続基本給付金の支給を受けることができるときは、その間、60歳台前半の老齢厚生年金は一定の調整をおこないます。全額が支給停止するのではありません。

選択肢5. 在職老齢年金について、支給停止額を計算する際に使用される支給停止調整額は、一定額ではなく、年度ごとに改定される場合がある。

(〇)

在職老齢年金について、支給停止額を計算する際に使用される支給停止調整額は、⼀定額ではなく、年度ごとに改定される場合があります。

まとめ

65歳未満の在職老齢年金(低在老)と65歳以後の在職老齢年金(高在老)の違いも覚えましょう。

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