正解は2。
ア:正
裁判所は、当事者の主張していない事実を判決の基礎としてはなりません(弁論主義の第1テーゼ)。これが主要事実について妥当することに争いはなく、所有権に基づく土地の明渡請求訴訟において、「原告が被告に対して当該土地の使用を許した事実」は被告による土地の占有が正当な権原に基づくことを基礎づける事実ですので、(被告が主張すべきである抗弁にあたる)主要事実にあたります。したがって、この事実を判決の基礎とするためには当事者からの主張が必要です。
もっとも、この原則は、裁判所を拘束するものであって、当事者相互の関係を規律したものではないため、ある事実がいずれかの当事者から主張されていれば、他方の当事者が自己の利益に援用しなくとも、裁判所はこの事実を判決の基礎とすることができます(主張共通の原則)。
設例では、原告が被告に対して当該土地の使用を許した事実を原告自身が主張しているのですから、裁判所は、当該事実を判決の基礎とすることができます。
よって、正しい記述です。
イ:誤
仲裁の合意の存在は、抗弁事項であり、これについては被告から主張があったときのみ裁判所は考慮します。したがって、被告が、仲裁合意の存在を主張していないときは、裁判所は訴えを却下することができません。
よって、誤った記述です。
ウ:誤
抗弁の中には、法律効果の発生・障害・消滅・阻止がもたらされるために、それを基礎づける主要事実の主張だけでは足りず、権利を行使するとの意思表示も必要とされるものがあります(権利抗弁)。同時履行の抗弁権は、権利抗弁の1つですので、権利者である被告による権利を行使するとの意思表示が必要とされます。
よって、誤った記述です。
エ:正
判例は、民法418条による過失相殺は、債権者の過失を基礎づける事実の主張がされている場合には、債務者の主張がなくても、裁判所が職権ですることができるとしています(最判昭和43年12月24日民集22巻13号3454頁)。民法418条による過失相殺は権利抗弁ではないのです。
よって、正しい記述です。
オ:誤
判例は、「被相続人の右財産所有が争われているときは同人が生前その財産の所有権を取得した事実」および「自己が被相続人の死亡により同人の遺産を相続した事実」を主張立証すれば足り、「その後被相続人の死亡時まで同人につき右財産の所有権喪失の原因となるような事実はなかったこと、及び被相続人の特段の処分行為により右財産が相続財産の範囲から逸出した事実」もなかつたことは「相続人による財産の承継取得を争う者において抗弁としてこれを主張立証すべきもの」としています。そして、「土地の死因贈与を受けたとの事実」は抗弁であるから、証拠から認められるとしても、当事者が主張していないにもかかわらず、裁判の基礎とすることは弁論主義に反するとしています(最判昭和55年2月7日民集34巻2号123頁)。
土地の所有権の移転の登記手続請求において、原告としては、自己に所有権が現在あることを主張立証する必要があります(請求原因の一部です)。A→B→原告という権利移転の経過を主張し、自己に所有権があることを基礎づけるのです。
これに対して、この権利の移転の過程のいずれかにおいて、各譲渡人に所有権を喪失する原因となる事実があれば、原告への所有権の移転は生じていないことになります。このような事実の主張は、(権利移転という法律効果のレベルではなく)権利移転の原因行為をしたという事実のレベルでは両立するため抗弁事実にあたり、被告が主張立証すべき事実です。
「BからCへの死因贈与があったこと」は、Bから原告への相続による所有権の取得という効果を阻害し、相続の原因事実である被相続人の死亡という事実と両立しますので、抗弁にあたり、主要事実にあたります。そのため、このような事実は、当事者からの主張がない限り、たとえ証拠から認定することができても裁判の基礎としてはなりません(弁論主義の第1テーゼ)。
よって、誤った記述です。