司法書士の過去問
平成26年度
午前の部 問31

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問題

平成26年度 司法書士試験 午前の部 問31 (訂正依頼・報告はこちら)

次の二つの見解は、会社法第355条に規定する取締役の忠実義務に関するものである。

第1説  取締役の忠実義務は、取締役の善管注意義務を敷えんし、かつ、一層明確にしたにとどまり、通常の委任関係に伴う善管注意義務と別個の義務ではない。
第2説  取締役の忠実義務は、会社と取締役との間に認められる信認関係に由来し、取締役は会社に最大の誠実を尽くすべきであるとする特殊な義務であり、取締役の善管注意義務とは別個の異質な義務である。


次のアからオまでの記述のうち「この見解」が第1説を指すものの組合せとして最も適切なものは、後記1から5までのうち、どれか。

ア  この見解によれば、取締役の忠実義務は、取締役の判断が公正かつ誠実にされるために、取締役が会社以外の利益により動かされることを防ぐ趣旨の義務であるとされる。

イ  この見解に対しては、我が国の私法体系が過失責任を原則とすることを理由に、適切でないとの批判がされる。

ウ  この見解によれば、会社法第355条の意義は、委任関係に伴う善管注意義務を取締役について強行規定とする点にあるとされる。

エ  この見解によれば、取締役が忠実義務に違反した場合に、会社は、当該取締役に対し会社が受けた損害だけでなく、当該取締役が得た利得の全部の返還を請求することができるとされる。

オ  この見解は、取締役が忠実義務に違反したか否かについて、行為当時の状況に照らし合理的な情報収集、調査、検討等がされたか、その状況や取締役に要求される能力水準に照らし不合理な判断がされなかったか等を基準に判断されるべきであるとの考え方と親和的である。


(参考)
会社法
第355条 取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。
  • アエ
  • アオ
  • イウ
  • イエ
  • ウオ

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この過去問の解説 (3件)

01

正解は 5 です。

第1説を指すのはウとオなので、5が正解となります。

各選択肢の解説は、以下のとおりです。

ア. 本選択肢は、会社法上の忠実義務を、取締役が会社以外の利益により動かされることを防ぐ趣旨の義務であると定義しています。従って、取締役の忠実義務を善管注意義務の一部と捉える1説には該当しません。

イ. 仮に、会社法上の忠実義務を、善管注意義務の一部と捉えると、我が国の過失責任を原則とする私法体系から適切でないという批判がなされることはありません。従って、我が国の過失責任を原則とする私法体系から適切でないという批判がなされる本選択肢は、第1説には該当しません。

ウ. 会社法355条の意義が、委任関係に伴う善管注意義務を取締役について強行規定とする点にあるとすれば、会社法上の注意義務を善管注意義務の一部とする考え方に整合するので、本選択肢は第1説に該当します。

エ. 取締役が忠実義務に違反した場合し、会社が損害を被った場合、取締役の忠実義務が、善管注意義務の一部だとすると、会社が回復できる損害の範囲は、取締役は会社が実際に被った損害額に限定されますが、取締役の忠実義務が、善管注意義務とは別個の義務だとすると、その範囲は、取締役が得た利益の全額に及びます。従って、本選択肢は第1説には該当しません。

オ. 判例では、善管注意義務違反又は忠実義務違反の有無の判断に当たっては、取締役によって当該行為がなされた当時における会社の状況及び会社を取り巻く社会、経済、文化等の情勢下において、当該会社の属する業界における通常の経営者の有すべき知見及び経験を基準として、前提としての事実の認識に不注意な誤りがなかったか否か及びその事実に基づく選択決定に不合理がなかったかという観点から、当該行為をすることが著しく不合理と評価されるか否かによる、としています(東京地裁平成16年9月28日判決)。上記の判例で確立された原則を「経営判断の原則」といいますが、取締役の忠実義務を善管注意義務の一部と考える見解には、この「経営判断の原則」が適用されますが、取締役の忠実義務を善管注意義務とは別個独立のものであると考える見解では、この原則は適用されません。従って、本選択肢は第1説に該当します。



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02

正解 5

ア 第1説および第2説を指す
いずれの説をとっても、忠実義務の内容として、取締役は会社以外の利益により動かされてはならないという義務を負うものと解されます。

イ 第1説を指すものでない
善管注意義務では、義務を負う者の過失の有無が問題となるため、過失責任の原則と親和的であり、これを理由に批判がされることはありません。

ウ 第1説を指す
会社法355条の意義を、委任関係に伴う善管注意義務を取締役について強行規定とする点にあると捉えると、忠実義務は、善管注意義務と同質のものと考えることになります。

エ 第1説を指すものでない
忠実義務を善管注意義務と同質のものと考えると、取締役が忠実義務に違反した場合、会社は、当該取締役に対し会社が受けた損害を請求できるにとどまります。
これに対し、忠実義務を善管注意義務とは異質のものと考えると、当該取締役が得た利得の全部の返還を請求できることになります。

オ 第1説を指す
判例(東京地判平成16年9月28日)は、「取締役の業務についての善管注意義務違反又は忠実義務違反の有無の判断に当たっては、取締役によって当該行為がなされた当時における会社の状況及び会社を取り巻く社会、経済、文化等の情勢の下において、当該会社の属する業界における通常の経営者の有すべき知見及び経験を基準として、前提としての事実の認識に不注意な誤りがなかったか否か及びその事実に基づく行為の選択決定に不合理がなかったか否かという観点から、当該行為をすることが著しく不合理と評価されるか否かによる。」としています。
以上のような原則を「経営判断の原則」といい、同原則は、善管注意義務違反を判断するにあたり適用される原則です。

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03

ア誤
第2説は忠実義務と善管注意義務を異質のものとしている。よって忠実義務は取締役が会社以外の利益により動かされることを目的としている。

イ誤
第2説は忠実義務を故意過失を要件としない結果責任であるとしている。

ウ正
第1説です。忠実義務と善管注意義務を同質のものと捉えて忠実義務は善管注意義務の強行規定であるとしています。

エ誤
第2説が異質説です。したがって、損害回復範囲が現実に被った損害である善管注意義務とは異なります。

オ正
第1説です。善管注意義務に経営判断法則が適用されます。したがって同質説である場合は忠実義務にも法則が適用されます。





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