司法書士の過去問
平成28年度
午前の部 問26

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問題

平成28年度 司法書士試験 午前の部 問26 (訂正依頼・報告はこちら)

国家的法益に対する罪に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。


ア  Aは、美術館から絵画10点を一人で盗み出して自宅に保管していたところ、警察がAを犯人として疑っていることを知り、自宅を捜索されることを恐れて、その絵画を全て切り刻んでトイレに流した。この場合、Aには、証拠隠滅罪が成立する。

イ  Aは、殺人事件の被疑者としてBに対する逮捕状が発付されていることを知りながら、Bから懇願されたため、Bを自宅に3か月間かくまった。この場合、Aには、犯人蔵匿罪は成立しない。

ウ  Aは、友人Bが自動車を運転中に人身事故を起こしたにもかかわらず逃走したことを知り、Bの身代わりとなろうと考え、自ら警察署に出頭し、自己が犯人であると警察官に申告した。この場合、Aには、犯人隠避罪が成立する。

エ  Aは、被告人Bによる傷害事件の公判で証言した際、実際は目撃などしていないのに、Bの犯行状況を想像して証言したが、その後、他の証拠により、Aの証言どおりの事実であることが明らかとなった。この場合、Aには、偽証罪は成立しない。

オ  Aは、友人Bが犯した殺人事件について、その目撃者Cが警察に協力すれば、Bが逮捕されてしまうと考え、それを阻止するため、Cに現金を与えて国外に渡航させ、国外で5年間生活させた。この場合、Aには、証拠隠滅罪が成立する。
  • アウ
  • アエ
  • イエ
  • イオ
  • ウオ

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この過去問の解説 (3件)

01

ウとオが正しい肢ですので、5が正解です。

ア. 証拠隠滅罪は他人の証拠を隠滅した場合に成立します。Aが自己の証拠を隠滅しても証拠隠滅罪は成立しません。

イ. 正確な法定刑を認識していなくとも犯人蔵匿罪が成立する、との判例があります。AはBが殺人事件を起こしたことを知っているので犯人蔵匿罪が成立します。

ウ. 身代わりになることも「隠避」にあたるとする判例があります。
よって犯人隠避罪が成立します。

エ. 虚偽の陳述とは「記憶に反する陳述」を指します。Aは目撃していないにも関わらず証言していますので偽証罪が成立します。

オ. 参考人も他人の刑事事件に関する証拠であるとする判例があります。Cに現金を与え国外に渡航させることは証拠隠滅にあたります。

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02

正解は 5 です。

正しい選択肢はウ及びオなので、5が正解となります。

各選択肢の解説は、以下のとおりです。

ア. 刑法104条は、証拠隠滅罪の客体として、他人の刑事事件に関する証拠としており、 自己の刑事事件に関する証拠を隠滅しても、証拠隠滅罪は成立しません。従って、本選択肢は誤りです。

イ. 判例は、刑法103条は、司法に関する国権の作用を妨害する者を処罰しようとするものであるから、罪を犯したるものには、犯罪の嫌疑によって捜査中の者も含むと解釈しなくては、立法の目的を達しえない、としています。(最高裁昭和24年8月9日判決)。従って、逮捕状が発せられたものをかくまった場合でも、犯人隠匿罪が成立するので、本選択肢は誤りです。

ウ. 判例では、隠匿とは、蔵匿以外の官憲の発見・逮捕を防ぐべき一切の行為をいう、としています。(最高裁平成35年7月18日決定)。従って、本選択肢は正しいです。

エ. 判例は、偽証罪(刑法169条)における虚偽の陳述とは、証人の記憶に反する供述をいう、としています。(大審院大正3年4月29日判決)。従って、本選択肢は誤りです。

オ. 判例は、刑法104条の証拠隠滅罪は、犯罪に対する司法権の発動を阻害する行為を禁止しようとする法意にでているのであるから、捜査段階における参考人にすぎない者も右法条にいわゆる他人の刑事被告事件に関する証票たる妨げになく、これを隠匿すれば証憑隠滅が成立する者と解すべきである、としています。(最高裁昭和36年8月17日判決)。従って、本選択肢は正しいです。

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03

正解は5です。国家的法益に対する罪は、国家の存立に対する罪(内乱罪など)、国家の作用に対する罪(公務執行妨害罪、犯人隠避罪、犯人蔵匿罪、証拠隠滅罪、偽証罪など)があります。

ア…誤りです。証拠隠滅罪(刑法104条)の要件には、他人の刑事事件に対しての行為であること、があります。本問のAが絵画をトイレに流した行為は、自己の窃盗罪に関する証拠を滅失させようと試みたものであるので、証拠隠滅罪にはなりません。

イ…誤りです。犯人蔵匿罪(刑法103条)の「罪を犯した者」とは、犯罪の嫌疑を受けて捜査中または訴追中の者、と解されています(最判昭24・8・9)。よって、刑事裁判などで真犯人と確定していなくても、被疑者として捜査中であるBを匿ったAは犯人蔵匿罪にあたります。

ウ…正しいです。犯人蔵匿罪と犯人隠避罪(刑法103条)の違いについて、犯人の「蔵匿」とは、罪を犯した者に対し、官憲からの隠れ家を提供することを言い、隠避とは、蔵匿以外の方法で、官憲による発見・逮捕を免れさせることを言う、とされています(大判昭5・9・18)。また、罪を犯した者の身代わりを立てることは隠避に当たるとされています(最判平元・5・1)。本問のAは自分が犯人Bの身代わりになろうとしていますので、犯人隠避罪が成立します。

エ…誤りです。偽証罪における「虚偽の陳述」とは、証人が自身の記憶に基づかない陳述をすること(主観説)とされています(大判大3・4・29)。客観的に事実と整合しているかどうかではありません。よってAは偽証罪になります。

オ…正しいです。証拠隠滅罪(刑法104条)における「隠滅」は、他人の刑事事件において、証拠を蔵匿・滅失させる行為や、証拠の価値を減少・滅失させる行為一切も含まれます。また、捜査段階における参考人も、「証拠」に含まれます(最判昭36・8・17)。本問のAは、Bの刑事事件の目撃者(参考人)Cを匿ったとみなすことができ、証拠隠滅罪が成立します(H6過去問)。

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